第8章・2:レインが世界を平和にするまで(3)

レイン、貪欲

「「「「はっ!!ほっ!はあああっ!!」」」」

「「「「「「ぐっ……はあっ!」」」」」」


 肌色の茂みから増え、地下深くの生産施設で増え、日常生活でも増え続け、毎日何倍もその数を増やしながらじっくりと世界を覆い尽くし続けるレイン・シュドー。しかし、彼女たちの増殖はそれだけに留まらず、自身の体を鈍らせずより高みを目指すために毎日行う鍛錬の中でも次々に新しい自分自身を生み出し続けていた。

 一方のレインが自身の剣を漆黒のオーラで強化し、対するレインを防御のために出した剣ごと真っ二つにすれば、切り裂かれた方はすぐに飛び散った肉片やバラバラに千切れたビキニ衣装、血の如く吹き出たオーラの塊から再生し、元の何十倍もの数のレイン・シュドーとなり反撃を行う――どんな攻撃を受けても決して命を落とさず、何をされても自信を増やすという欲望を具現化する事が出来るようになったレインは、より実戦に近い鍛錬を行うようになっていた。数万人単位で始まったレイン・シュドー同士の戦いは、あっという間に闘技場の中を何億、いや何兆人ものビキニ衣装の美女が埋め尽くす空間へと変え果ててしまったのである。


 当然、そうなればレイン・シュドー同士の間隔はあっという間に狭まってしまい、体を動かす事もままならなくなってしまう。たとえ空間を魔術で歪めて広げたとしても、その場所もすぐ新たなビキニ衣装の美女によって覆い尽くされてしまう、と読み合った結果、レインたちは膠着状態に陥ってしまった。


「「「「「「ぐうっ……せま……いっ!!」」」」」」」


 まさにそれは、魔物軍師ゴンノーに挑んだ時に当時敵対する存在だったダミーレインとの戦いの末、欲望のまま増えてしまい身動きが取れなくなった状態そのままであった。その時はどうすれば良いか分からず、解決策を見出すまでに時間を費やしてしまった彼女たちだったが――。


「「「「「「でも……いいよね……レインっ……♪」」」」」」

「「「「「「そうね……レイン……ふふ♪」」」」」」


 ――一度体験した状況を忘れてしまうような人間ほど、彼女たちは愚かではなかった。それに、自分の命を奪い合う状況ながらもこれはあくまで『鍛錬』。レインには、四方八方から自分の体に迫る別の自分の肉体――腰に髪の毛、太ももに腹、そしてたわわな胸に柔らかな尻の感触をたっぷり味わい、つい口から嬉しさがこぼれてしまうほどの余裕があったのだ。

 そして、危うく緊張感が解けそうになった顔を必死に左右に振って邪念を払った後、レインは一斉に行動を起こした。




「「「「「「「「「「ふんっ!!」」



 闘技場がある地下空間の中に彼女の気合がこもった声が響き渡った直後、そこを数限りなく埋め尽くしていたはずのビキニ衣装の美女たちはあっという間にその姿を消した。もっともっと自分を増やしたい、と言う彼女を支える根源的な欲望に敢えて蓋をし、大量に現れ続けたレイン・シュドーたちを1人に集約させる――既に彼女たちは、自分自身の数も思い通りに調節することが出来るようになっていた。


 そして、鍛錬を始めた時の数である数万人に戻った純白のビキニ衣装の剣士たちは、再び目の前にいる1人の自分を前に自信に満ちた笑みを浮かべた後、戦いを仕切りなおしたいという合図を兼ねてウインクを返した。勇ましさと可愛さを併せ持つ自分の表情を前に一瞬頬が赤くなったレインだが、すぐに体勢を立て直し――。



「「「「それじゃいくわよ、レイン!」」」」

「「「「了解、レイン!」」」」」



 ――互いの剣と魔術をぶつけ合う死闘が再び始まった。


 当然ながら、レインたちの中には常にもっと自分を増やし続けたいという欲望が常に宿っていた。真剣に相手と向かい合わなければ文字通り命を落としてしまう鍛錬の中でも、目の前にいるレインの攻撃をもっと受けて自分を大量に再生したいという思いがよぎってしまう事もあった。だが、そのような欲望に溺れて一番悲しむのは自分自身であるのを彼女は嫌と言うほど重んじていた。レイン・シュドーは常に美しく格好良く麗しい存在でないといけない、それを何よりも望んでいるのはレイン・シュドー本人。だからこそ、彼女は目の前の自分の命を奪うほどの気迫で鍛錬を行い続けていたのである。


 それに、増殖したいのなら鍛錬以外の場所でも簡単に行うことが出来た。例えば――。


~~~~~~~~~~~~


「ふふ、お疲れ様、レイン♪」こちらこそお疲れ様、レイン♪」ふふ、レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」…



 ――鍛錬をたっぷり行い、体中から熱気が漂う自分自身で覆い尽くされた闘技場の更衣室が、その代表的な場所である。


 周りを覆い尽くす健康的な肌の美女が見せる素敵な笑顔は勿論、そこに漂う熱気に混ざるレイン・シュドーの香りが、どんどん新たな自分自身をレインが魔術の力で創り出す要因となった。まるで我慢していた分を解き放つかのように、地平線が見えるほどにまで拡張したはずの部屋の中は、天井も含めあらゆる場所がビキニ衣装の美女であっという間に覆われてしまったのである。

 再び四方八方から自分の肉体が埋め尽くす状態になってしまったが、今回はどのレインも満面の明るい笑みに満ち溢れていた。鍛錬の時とは異なり、今回は一切我慢せず自分自身でこの場所を思いっきり覆い尽くしたい、心地よい香りを充満させたいという願いを優先していたからである。


「あぁん……レインの香り……♪」いつ嗅いでも良い匂い……♪」本当ね……」あぁん、つい吸い込んじゃう……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」あぁん……♪」…


 そして、思う存分自分の肉体と芳香を味わった彼女たちが更衣室から出た時には、鍛錬の時よりもさらに多い数千兆人ものビキニ衣装の美女の大群衆となっていた。だが、そんな彼女たちを出迎え、今日の奮闘ぶりを思う存分に祝福したのは、その数をさらに超えながら地下空間を果てしなく覆い尽くす、別のレイン・シュドーの大群であった。


「お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」お疲れ様ー♪」…


 本日何度目になるだろうか、四方八方から自分の豊かな胸や麗しい唇、滑らかな太もも、そして柔らかい尻の感触をたっぷりと味わいながら、耳元に次々と凛々しくも愛らしい祝福の言葉を受け、落ち着いたはずのレインたちの健康的な肌は再びほんのりと赤く火照っていったのだった。


~~~~~~~~~~~~


 思う存分運動し、思う存分自分の欲望を満たし、そして思いっきり自分自身の数を増やしまくる有意義な一日を過ごした後に食べるご飯ほど美味しいものはない――魔王と言う存在の囚われの身になってから長い時が経つ中で、レイン・シュドーが見つけた幸せの1つを、彼女は今日も思う存分堪能していた。次々に魔術の力で無から創造する食べ物を思う存分口にほおばり、熱々のスープに苦戦する様子を互いに笑いながら漆黒のオーラの力で少し冷ました後に思いっきり飲み干し、大きな壺の中に無限に用意した美味しい水をたっぷりと頂きながら、レインは夕食と言う憩いの時間も美味しく味わっていたのである。前後左右で美味しそうにご飯を食べる自分自身と言う最高の具材を目に焼き付ける事も、勿論忘れずに行っていた。


 そんな中、レインたちは互いに記憶を統一しつつある話題で盛り上がり始めていた。


「「「そっか、もうそんな段階なのね……」」」

「「「「「最近はゆっくりとしたペースだから……」」」」」

「「「「「「もう少し後になるかと思ったわ……」」」」」」」


 純白のビキニ衣装の美女に占領されず、愚かさと哀れさを日々生み出し続けている存在――『人間』が暮らしている町や村の数が、ついに残り7つにまで減少したのだ。ここに至るまで本当に長い道のりだった、とつい感慨にふけりそうになった彼女たちであったが、同時にもう1つ重要な要素がこの数に含まれている事に気づいた。

 現在残る7つの町や村のうち、周りを草原や森、川が包む内陸部にあるのは大きな町1つと小さな村5つ。一方、どこまでも広がる大海原の傍に残されていたのは、資源に恵まれ比較的裕福だった大きな町1つのみ。つまりこの海岸沿いの町を占領すれば、愚かな人間たちから『海』を完全に手に入れることが出来るのだ。


「「「間違いなく大きな進歩ね、レイン……」」」

「「「「どこまでも広がる海を、レインで満ち溢れさせるなんて事もできる……♪」」」」

「「「「「考えただけでもワクワクするわね……ふふ♪」」」」」」


 明るい未来を思い浮かべながら一斉に笑みをこぼすレインたちは、ふとある事を思い出していた。以前その町に偵察に訪れた際、人々の間に奇妙な空気が流れていた記憶を、彼女たちは揃って共有していたのだ。それは諦めや悲しみなど他の町や村で感じ続けていたものに加え、非常にピリピリした緊張感、一歩間違えると町全体が血みどろの戦いになりかねなさそうな空気に満ち溢れていたのだ。

 その時はまだ海岸沿いにある別の町や村を征服することを念頭に置いていたため、詳細な調査はしていなかったが、日々居場所が無くなり続けている以上、あそこの人々の間に何らかの動きがあるはずだ、とレインは考えた。かつて彼女が訪れた時に彼らが手掛けていたも、もしかしたら使われるかもしれない。

 今こそ、その状況を利用してあの町を完全に掌に収める時だ、彼女たちの思いは一致した。



「「「「そうと決まれば……ね♪」」」」

「「「「「「うん♪」」」」」」

 


 そして、世界の果ての地下空間を埋め尽くしながら夕食を食べ終えたレインたちは、一斉にここから遥か遠い場所――既に自身が征服した海岸沿いの町でくつろいでいた別のレインたちに自らの思念を送った。自分たちが思いついた楽しい計画を、すべてのレイン・シュドー内で共有しあうために……。

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