レイン、行列
自分をどこまでも増やしたい、別の自分のそばにずっといたい、世界を自分自身で埋め尽くしたい――レイン・シュドーにとって、それは願望や欲望であると同時に目標でもあった。魔術の力を駆使して純白のビキニ衣装の美女を増やしても、様々な物体をむっちりとした肉体美を露にする存在に変えても、愚かな人間たちを世界で最も美しき存在に変貌させてもなお、彼女は新たな『レイン・シュドー』を生み出す術を追い求め続けていた。
今までの彼女――ダミーレインと言う脅威やゴンノーと言う厄介な存在を前に様々な対策を練り続けていた時は、あくまでそれは自分の目標であり、願望や欲望の面は二の次だ、と思い続けていた。勿論後者も重要であることはしっかりと認識していたが、そちらに呑み込まれ過ぎてしまうと、全てをダミーに託し怠惰の一途をたどり続けた愚かな人間と同格になってしまうという危惧があったからである。しかし、完全には満足出来ない結果になったとは言え、何とか危機を乗り越えることができたレインたちは、少しづつそのタガを解き始めていた。
それを示す光景が――。
「ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」…
――世界の果ての地下、どこまでも広がる空間の中繰り広げられていた。
魔王が破壊しそこなった、もしくは敢えて完全に殲滅させず残していた欠片を利用し、レイン・シュドーはダミーレインの生産施設を自らの思い通りに復旧させた。無数にぶら下がる卵や木の実を思わせる透明な球体の中で絶え間なく自分自身を生産し、新たな仲間に加えるためである。勿論、そこから生まれる存在は過去のような心を持たない存在ではなく、時に冷静、時に大胆に立ち回る世界で最も凛々しく清らかな存在、レイン・シュドーと同一の心を持つ存在であった。しかし、彼女たちは同じ心や同じ肉体を持つとは言え、元から存在するレイン・シュドーとはほんの僅かの違いが存在する、別個の存在でもあるのだ――その違いを判別できるのはレイン、ダミーレイン、そして魔王ぐらいしかいないのだが。
これを活かし、彼女たちは考えを完全に読み取る事ができない相手と共に鍛錬を重ねることで、魔王を倒す手立てを見つけようとしていた。これが、ダミーを復活させるために全ての彼女が同意した大きな目的だった。
だが、同時に彼女は言葉に出さずとももう1つの大いなる思いを認識しあっていた。
新たな形で生まれ続けるビキニ衣装の美女が自分たちと同じ存在であり続けるなんて、どれだけ幸せな事なのだろうか、と。
その結果が、通路を何千何万列にも埋め尽くしながら、地上を目指して歩き続ける大量のビキニ衣装の美女であった。
「「「ふふふ……レイン♪」」」
「「「どうしたの、レイン♪」」」
大きく揺れる胸の感触をビキニ越しに背中で味わい、大胆に露出した健康的な肌の触り心地をあちこちで確かめ合い、更にあとからあとから聞こえ続ける無尽蔵な自分の微笑み声が聞こえる――私たちは本当に良い時間を味わっているのかもしれない、とレインたちは別のレインたちに語った。勿論、わざわざ声に出さなくてもすべてのレイン・シュドー――正確にはこの生産施設から絶え間なく誕生し続けているダミーレインたちはその喜びを内外双方から堪能し続けていた。それでも敢えて言葉にして伝えられると、さらにその嬉しさが倍増してしまうものである。
「「「本当よね、レイン♪」」」
「「「「いつもの事だけど、こうやって振り返ると……♪」」」」
「「「「「幸せな光景よねー♪」」」」」
わざわざ振り向かなくても、後ろに下がらなくても、四方八方あらゆる場所にレイン・シュドーが存在する――この嬉しさを改めて感じた彼女たちの笑い声は、さらに楽しさを増していった。そして、それに呼応するかのように、どこまでも横に広がる列の両側にそびえたつ巨大な『壁』も、波打つように動き出した。いや、それは壁ではなく、何万何億、いやそれ以上の数にも膨れ上がっていそうなほど大量の球体――半日ごとに新たなダミーレインを生産し続ける物体が数限りなく並び続ける光景であった。
今や、ダミーレインの生産速度も生産量は、トーリスやゴンノーの欲望によって支配されていた頃とは比べ物にならないほど格段に上がっていた。朝昼晩関係なく稼働し続ける球体の中には、内部を満たす液体の中でレインの基になる肉塊が自然に現れ、あっという間に顔や手足、そしてあらゆる命を超越しようとしている彼女の体の一部であるビキニ衣装が構成され、そして卵から孵るかのように外の世界へ飛び出し続けていた。それが日々絶え間なく続いているのである。
しかも、どれだけ性能が向上しようとも、彼女たちは決して満足することはなかった。魔王を倒すための鍛錬には数限りない人員が必要、それにレインと言う存在は増え続けることに価値がある、だからもっともっと生産施設をより良い形に更新したい――その願望を抱くよう、レインはこの場所を復活させる際にある細工を施していた。ダミーを無尽蔵に創るこの施設そのものに、自分と同じ思いを移植したのである。
その結果が、レインの楽しみに呼応するかのように波打つ無数の球体であり――。
「「「「「「あぁん、レイン♪」」」」」」」
「「「「「「「「あ、ごめんごめん♪」」」」」」」」」」
「「「「「「「あはは、また増えちゃったみたいね♪」」」」」」」」
――レインたちの体を心地よい圧迫感で包み込もうとする、新たに加わった数千列のダミーレインの大群であった。
生産施設そのものの意思を代弁するかのように、レインたちは再び楽しそうな笑みをこぼしながら、長い通路を歩き続けた。地下のあらゆる場所に自分の声を響かせながら。
本当のことを言ってしまえば、ダミーレインたちは別にこの長い空間をわざわざ歩き続ける必要は全くなかった。生産された後、直接地上に広がる荒野へ瞬間移動し、そこからレインたちが待つ場所へ向かうという手段もあった。だが、彼女たちは敢えてそのような効率的な行動をとらなかった。愚かな人間たちならば、すぐ手っ取り早く事態を解決しようと動き出してしまいそうだが、レインたちはじっくりと自分たちのビキニ衣装や肌の感触、美しい外見、そして清らかでかわいらしい声を地下空間でたっぷり満喫した後、地上へ向かうという手段を取ったのである。
魔王を倒すためにコツコツと鍛錬を積み重ねるのと同様、『忙しい時でも回り道をするのは大事』――それがレインの心境だった。
「「「「ふふ、そろそろ着くわね♪」」」」
しかし、列の前方にいるレインたちが嬉しそうな顔を崩さない通り、故郷である地下空間を離れても、彼女たちにはまだまだ楽しめる場が待っていた。絶え間なく外へ飛び立つのも面白いが、大勢の自分たちとぎっしり詰め合いながら一斉に目的地へ瞬間移動するのもまた爽快である、とレインたちは考えていたのである。
そして、床から眩く暖かな光が放たれている場所に立った数万人のレインの姿は、一瞬でこの地下空間から消え去った。自分たちが生まれた最大の目的、魔王を倒すための鍛錬をたくさんの自分たちと一緒に行うべく――。
「「あ、レイン♪」おーい、レイン♪」そろそろ行くわよー♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」…
――地上を埋め尽くしながら自分たちを待っていた、数京人の純白のビキニ衣装の美女、ダミーレインの元へ向かうために……。
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