第8章・1:レインが世界を平和にするまで(2)

レイン、改築

「ん……んっ……」


 今日もレイン・シュドーは、空に明るく輝く太陽の光を受けてゆっくりと目を覚ました。

 光を反射するかのように真っ白に輝く布団と同じように、彼女が着こむ純白のビキニ衣装もまた美しく輝いていた。それに包まれる自らのたわわな胸に視線を映し、その柔らかく気持ちよい心地で自分自身がここにいると言う嬉しさを感じとった彼女は、大胆に露出する健康な肌を布団の中から露わにしながらベッドを後にした。


 そして、ドアが閉じる音がした瞬間――。



「ん……んっ……」



 ――レイン・シュドーが、太陽の光を受けて目を覚ましたのである。決して先程のレインが戻った訳ではない。まるで元からそこにいたかのように、ベッドの中に新たな彼女が姿を現したのだ。そして彼女もまた自らの胸の柔らかさを笑顔で感じ、程良く筋肉が備わった腕を伸ばして眠気を吹き飛ばした後、先程自分が取った行動と同じようにベッドを後にし、ドアを勢いよく閉じた。

 だがその直後、またもや新たなレイン・シュドーが、ベッドの中に姿を現した。健康的な肌も、美しい長い黒髪も、全身を包むビキニ衣装も、何もかも先程のレインと全く同じ、3人目の彼女であった。


「ん……んっ……」


 それ以降も、レインは次々にベッドの中から現れ続けた。1人のレインがドアを閉めればそれを合図にしたかのように新たなレインがベッドの中に現れ、そのレインも去ればまた新しいレインが出現し、そのレインも――何度も何度も同じ行動を続けた後、すっかり地上から離れた太陽の光を受けて目を覚ましたのレインは、この辺で大丈夫か、と独り言を呟き、これ以上自分が現れる事が無いようベッドにかけられた魔術の効力を抑えた。本当は無限に自分が出て欲しかった彼女だが、あまりに溢れ続けると夜通し『朝』の自分が現れてしまうと言う妙な状況になってしまう。あの魔王でも難しいと語っていた時間を操る魔術を、自分は概念すら全く知らないし分からないと言う現実を改めて思い知らされた彼女は、今日もまた1つ強く逞しく、そして美しくなろうと決意した。


 そして、ゆっくりとベッドから起き上がり、ドアをゆっくりと閉じた彼女は、その決意と共に階段を降り――。



「あ、おはようレイン!」



 ――朝食の準備を終え、自分が来るのを待っていた数百人の自分に、明るい笑顔で挨拶を行った。


「おはようレイン♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」…


~~~~~~~~~~


 ゴンノーやダミーレインとの決戦に辛くも勝利したレインたちの勢いは、今や誰にも止められない程にまで膨れ上がっていた。確かにそれ以前から何億何兆もの数にまで増え続けており、魔王の介入によって形勢が左右され続けたあの戦いの結末は彼女たちにとって完全に満足できるものでは無かったが、それでもレイン・シュドーによる征服活動を止める力を人間たちが完全に失った事は彼女にとって非常に大きな成果となったのは間違いなかった。魔術を使える数少ない人間たちも、漆黒のオーラと光のオーラを自在に使いこなす事が出来る今のレインたちからすれば飯を食う片手間に新たなレインに変え、その輪に加えてしまうほどのレベルだったのである。

 レインたちがにこやかに食事を終えたこの町も、一昨日に彼女たちが征服を終えたばかりの場所であった。


「ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」ごちそうさまー♪」…



 栄養豊かな様々な食材を無から創造し、それを美味しく頂く間も、レインはその数を増やし続けた。隣に新しいレインを出し一緒にパンを食べ合いたい、ビキニ衣装の美女がご飯を好き嫌いなく食べている様子を眺めていたい、レイン・シュドーと言う存在が増えると言う光景そのものを目に焼き付けたい――食用と共に湧き続ける様々な欲望を見たすうち、百数十人だった彼女の集団は数千、数万人にまで膨れ上がってしまった。


 しかし、これも今の彼女たちにとっては完全に日常の光景だった。一昨日までこの場所に暮らしていた人間たちならば、人数が増えるごとに空間が狭くなり、その処理に四苦八苦していたかもしれないが、今のレインはそう言った概念すら薄れようとしていた。得意の魔術の力を駆使すれば、家の中に広がる空間を思う存分限りなく広げる事が可能なのである。今や彼女は、魔術そのものを意識せずとも『広げたい』と言う欲望を思い描いただけで丁度良い程にまで空間をゆがめるレベルにまで達していた。


 そして、彼女が広げ続けている空間は、この家の中のみに留まらなかった。

 そろそろ出掛けようか、と言う1人のレインの意見に全員が賛同した後、大量に現れたドアを潜って一斉に外に飛び出したレイン・シュドーを迎えたのは――。



「あ、レイン!」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」…


 

 ――似たような形の建物から次々と姿を現す、何千何万、いや何億何兆にも達しそうな数の純白のビキニ衣装の美女たちをもってしてもまだ余裕があるほどに歪められた、この町そのものだったのである。


 厄介な敵との戦いが終わり、再び一方的な勝利を何度も収め続けるようになってから、レインは自分たちが征服し終わった町や村の改装を本格的に行い始めた。それ以前から空間を歪めると言う作業は日常の一端として行い続けていたが、ここ最近は建物そのものを自分たちの思い通りに作り替えたり、新たに通りや並木道を創り出したり、よりレイン・シュドーが住み良い町へと作り替え始めたのである。どれも、広大な世界を完全に手中に収めた後の事を考えての試行錯誤であった。


 当然、その中には成功例もあれば失敗例もあった。


「「「「うーん……」」」」


 純白のビキニ衣装の美女で埋め尽くされた町と言う天国のような光景を五感全てで感じながら光悦に浸りつつ、その気持ちごと空に舞い上がったレインたちは、昨日早速再構築を行った町の様子を見た途端に複雑な表情へと変わった。昨日はレインたちの数が多いのだから道は広い方が良いだろう、と考え、人間たちが行った設計に逆張りを行うかの如く無秩序に道幅を広げた。だが一夜明け、冷静にその様子を見てみると、どうにも不格好なものだったのである。特に、微妙に幅が違う2つの道が、レイン・シュドーが湧き続けている家を挟んだ両側にあると言うのは納得いかなかった。

 この町に入る事が出来るのは、たった1人の例外を除けばレイン・シュドーだけ。彼女がイマイチだと思えば、その案件はすぐに『イマイチ』と言う結論に至ってしまうのだ。


「「「他の場所のレインもやっぱり変だって考えてたみたいだし……」」」

「「「「何本か細い道を間に挟めば見栄えが良くなるかな?」」」」

「「「「「うーん……そうね、早速やってみようか」」」」」


 同じ思考判断を下した他のレインたちがその場所から離れた後、空に浮かんだ何千人ものレインは掌に漆黒のオーラを創り出し、町を貫くように通る2つの大きな道に挟まれた何十何百もの家をそのオーラで包み込んだ。その直後、まるでレイン・シュドーが分裂するかのように『家』の形が歪み、あっという間に8倍もの数に分裂してしまったのである。そして、それらの家の間には、レインが思い描いた通りの細い道が生まれていた。

 これなら他の場所と同じようにバランスが取れて見栄えが良くなる、と自負し、安心した直後――。


「おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」おーい♪」…


 ――家の中にそのまま残っていた事で数を8倍に増やしてしまったレイン・シュドー達が、笑顔で周りの空間に浮かぶレインたちに手を振り始めた。それを見た彼女たちは、ほんの少しだけ苦笑いをしつつ、直後に嬉しさを前面に押し出しながらその自分たちに挨拶を返した。自分まで増やす事になったのは計画していなかったと言う僅かながらの反省と、敢えてそれを望んだ甲斐があった、と言う故意犯としての感情が、彼女の中に入り混じっていたのかもしれない。



 今や世界の7分の6が、レイン・シュドーと彼女に付随する命しか存在しない空間に変貌しきっていた。


~~~~~~~~~~


「「「ところで、レイン……?」」」

「「「「ん、どうしたのレイン?」」」」



 町の改築も一段落し、ビキニ衣装の美女たちと過ごす和みの時間を満喫していた時、一部のレインたちを発端に彼女たちの心がある疑問で包まれ始めた。あの日――ダミーレインとの決戦の日に変わったのは、ダミーレインと言う自分と互角に戦う事が出来る存在が生産施設ごと壊滅したと言う事だけでは無かった。もう1つ、レインにとって非常に重要な存在の行動にも、大きな変化が生じていたのである。



「「……『魔王』、まだ現れないよね……」」

「「「「うん……」」」」



 レイン・シュドーに残された最後にして最大の壁、全ての事象を思い通りに操る無敵に等しい存在であるはずの魔王が、忽然と姿を消していたのだ……。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る