レイン、決戦(4)

 魔王とゴンノー、どちらがこの世界の派遣を握るか。その重要な局面の中、前線で敵対する相手と戦う事となったレイン・シュドーは、どちらの勢力とも決死の覚悟を決めていた。例え相手が自分自身と全く同じ瞳を持ち、ほとんど変わりの無い姿形を有し、胸の膨らみの大きさまで同一だとしても、ここで勝たなければ自分達の未来は潰えてしまう、と言う熱い思いを秘め、彼女は戦いに挑んだのである。


 だが、その戦場は次第に形を変え――。


「「「あぁんっ……!」」」

「「「「もうどいてよ偽者……!」」」」

「「「「「偽者はそっちでしょう!!」」」」」

「「「「「「いやあっ、また増えた!!!」」」」」」


 ――純白のビキニ衣装のみを纏う無数の女体がどこまでも埋め尽くし、中から気持ちよさ混じりの悲鳴や喘ぎ声が漏れ続けるという異様な光景と化していた。


 その事態に気づいた時には、どちらのレインも身動きを取る事がやっとの状態になっていた。わざと騙し討ちをさせる、自発的に動くなどありとあらゆる手段を用いて自分の数をどんどん増やすという行為を、レインたちはずっと相手より有利になるため、数で相手を蹴散らすためだと確信し、その心に基づいて次々にビキニ衣装の美女を創造し続けていた。だが、その根本的な心の要素は非常に単純なもの、ただ単にレイン・シュドーと言う世界で最も美しく麗しく、世界を平和に導くことが出来るただ1つの存在を無限に増やしたい、と言う欲望だけであった。そんな自分の心に何度も何度も言い訳をし続けた結果、彼女たちは自分が戦う以前の状況に陥っている事に気づくのに若干の時間を費やすことになったのである。


 そしてその『若干の時間』のせいで、同じ思考判断を有するレインの大群は、揃って自分の肉体に埋もれる羽目になってしまった。美しい顔は前後左右から胸や太股など別の自分の肉体にぎゅう詰めにされ、胸は敵か味方かも分からないレインの肉体によって押し潰され、体は背後から身動きが取れないままのレインの足に挟まれる格好となり、さらに自分の足も他所のレインの体に塞がれ――。

 


「ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」ううんっ……!」ああんっ……!」…



 ――あっという間に身動きを妨げられる状態となってしまった。

 しかも愚かな人間とは一線を画した存在になっていた彼女たちは、自分の肉体が前後左右上下から何千何万と迫ってこようと決してその重さで潰される事無く、その豊かな胸やむっちりした太股など健康的な肉体を維持し続けていた。それが今回は仇となり、ますますまわりの自分のせいで身動きを封じられてしまったのである。


 剣を使おうにも肝心の腕が封じられているレインも多数現れ、何とか手足を僅かながら動かせる余裕がある彼女達も、周りの自分自身に剣術や魔術を当てればさらに状況が悪化してしまう事を知っていた。現にあまりの苦しさに周りのレインを退けようとしてつい傍のレインを魔術で攻撃した彼女の目の前で、その傷口から溢れ出したオーラが新たなレイン・シュドーに変貌してしまうと言う状況が繰り広げられてしまったのだから。

 しかも厄介な事に、敵味方問わず戦いがほぼ中断させられる状況になってもなお、レインの心の中に溢れ出す欲望は抑えられずそのまま維持され続けていた。確かにこのような状況で四方八方から自分自身の悲鳴や喘ぎ声が響き渡る状況では、どのレインが自分の仲間なのかそれとも敵なのか、それを判断するだけでも非常に困難な状況である。しかし、それ故に周りから次々に押し寄せてくる自分自身の肉体――胸、太股、肩、腕、唇、髪、そして純白のビキニ衣装の感触を、まさしのレインのものであると感じてしまう心が生まれてしまったのである。この状況から抜け出したいという願望と、緊張感溢れる戦いを終わらせてこの無限の『極楽』に酔いしれたいという堕落の間で、全てのレインは葛藤していた。だがそれを嘲笑っていたのもまた彼女自身だった。


「「「「あぁん、また増えた!」」」」

「「「「「こ、これ以上増えたらもうだれが誰だか……!!」」」」」

「「「「「「何を言ってるの!貴方たちに増えて貰われると困る……あ、あぁんそこは!」」」」」」

「「「「「「「そ、その言葉、こっちも……むっ……や、やめてよ!」」」」」」」」」


 レイン・シュドーをこれ以上増やしてしまうと戦いどころではなくなるという思いを裏切るかのように、自分をもっと増やさないと、と言う使命や強い意志の皮を被った無限の欲望が、さらに彼女の数を増やし続けていた。無限に続いているであろう世界の果ての荒野のどこに自分がいるのか、この巨大な塊の果てはどこにあるのか、それすら判別できないような状況に陥ろうとしていたのである。彼女の周りに広がるのは、世界で最も美しく麗しい、次々とその深さを増し続ける肉の海のみだった。



「あぁんっ……!」ひぃっ……!」あ、あああんっ……!」むぐうっ……!」あぁんっ……!」ひぃっ……!」あ、あああんっ……!」むぐうっ……!」あぁんっ……!」ひぃっ……!」あ、あああんっ……!」むぐうっ……!」あぁんっ……!」ひぃっ……!」あ、あああんっ……!」むぐうっ……!」あぁんっ……!」ひぃっ……!」あ、あああんっ……!」むぐうっ……!」あぁんっ……!」ひぃっ……!」あ、あああんっ……!」むぐうっ……!」あぁんっ……!」ひぃっ……!」あ、あああんっ……!」むぐうっ……!」あぁんっ……!」ひぃっ……!」あ、あああんっ……!」むぐうっ……!」あぁんっ……!」ひぃっ……!」あ、あああんっ……!」むぐうっ……!」あぁんっ……!」ひぃっ……!」あ、あああんっ……!」むぐうっ……!」あぁんっ……!」ひぃっ……!」あ、あああんっ……!」むぐうっ……!」あぁんっ……!」ひぃっ……!」あ、あああんっ……!」むぐうっ……!」あぁんっ……!」ひぃっ……!」あ、あああんっ……!」むぐうっ……!」あぁんっ……!」ひぃっ……!」むぐうっ……!」あぁんっ……!」ひぃっ……!」あ、あああんっ……!」むぐうっ……!」あぁんっ……!」ひぃっ……!」あ、あああんっ……!」むぐうっ……!」あぁんっ……!」ひぃっ……!」あ、あああんっ……!」むぐうっ……!」あぁんっ……!」ひぃっ……!」あ、あああんっ……!」むぐうっ……!」あぁんっ……!」ひぃっ……!」あ、あああんっ……!」むぐうっ……!」あぁんっ……!」ひぃっ……!」あ、あああんっ……!」むぐうっ……!」あぁんっ……!」ひぃっ……!」あ、あああんっ……!」むぐうっ……!」あぁんっ……!」ひぃっ……!」あ、あああんっ……!」むぐうっ……!」あぁんっ……!」ひぃっ……!」あ、あああんっ……!」むぐうっ……!」あぁんっ……!」ひぃっ……!」あ、あああんっ……!」むぐうっ……!」あぁんっ……!」ひぃっ……!」…



 自分自身でも制御できないまま、美しきレインが永遠に増え続ける中に溺れていく――彼女がそのような天国のような地獄を経験したのは、今回が初めてではなかった。魔王サイドのレイン・シュドーを形作り、ゴンノーサイドのレイン・シュドーに埋め込まれたである、彼女の攻撃や防御、増殖の要となっている光のオーラを習得する過程で、彼女は自分の中にあるもっと増えたい、無限に増殖したい、世界を自分で埋め尽くしたい、と言う欲望が光によるを超えた結果、彼女の本拠地の全てを健康的な肉体がぎっしりと埋め尽くす肉詰めの空間へと変えてしまったのである。

 しかも今回は、彼女が与り知らぬもう1つの意志を持つ別の彼女まで、自分の欲望と相手への敵意ゆえにどんどん増え続けているという状況にあった。例えどちらかが止めようとも、相手はさらに増え続け自分達をますます押し潰してしまうだろう。そして自分が最も大好きな別の自分は、その心や形を変えてしまう――そんな喪失感からの恐怖と言う、覚悟とは真逆の心まで出てしまうほどに、レイン・シュドーは自滅の一途を辿ろうとしていた。



「いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」いやぁぁぁっ!」もう止めてええええ!」…


 

 だが、その状況の中で――。




「「「「「……止める……!?」」」」」」



 ――完全に欲望の中に沈みかけていたレイン・シュドーは全員揃って、ようやくある事に気がついた。

 自分自身のそのものを無限に増やし続けると言う状況だからこそ起きたこの状況を打破するためには、何よりも自分自身の増殖を止めないといけない。だが、湧き上がるもっともっと『自分』を増やしたいという欲望に抗うことも出来ないし、なによりそれを封じてしまえば周りを埋め尽くしているであろう敵に勝てる見込みが一気に減ってしまう。それならば、この2つを両立する方法を取るしかない、と。

 自分の数を増やす事無く新たな自分自身を増やす――言葉にすると矛盾極まりない内容だが、既にその答えはこれまで数え切れないほどレイン・シュドーが見ていた、当たり前すぎて選択肢からも薄れ掛けているほどのものだった。今回も敢えて真剣勝負で挑み、ゴンノーや人間達の鼻をへし折るためにその方法はギリギリまで封じておくつもりだった。しかしこうなった以上、レイン・シュドーが出来るのは、周りの別の『自分』を、自分と全く同じ存在――全ての考え、全ての思いが寸分違わぬまま同一であるレイン・シュドーへ変える事しかなかったのである。


 だが、それに気づいたのはこの無限の肉の海を構成する『全て』のレインであった。



「「「「「……!!」」」」」

「「「「「……!!」」」」」


 嬉しさと辛さが入り混じる喘ぎ声や悲鳴は一瞬で静まり返り、全てのレインが僅かな窮屈さと途轍もない快楽に懸命に抗いながら、自らの集中力を高め始めた。目を瞑り、じっと心の奥底に精神を集中させるレインも現れるほどだった。こうでもしないと、回りで同じような仕草を取る『敵』である自分自身に打ち勝つための術を取る事が出来ないからである。全く同じ思考判断を取るという非常に厄介な相手に先手を取るのは、百戦錬磨のレインにとってもなかなか難しい作業であった――どのレインが本当に百戦錬磨なのかと言う区別すら出来ない状況ならば。


 しかし、数え切れないほどの同じ要素を持つ2種類のレイン・シュドーにも、たった1つだけだが、非常に大きな違いがあった。互いに思いを通じ合うことが出来ない完全なる敵同士だからこそ、相手の動きを奥底まで読み取るという、レインが日常的に行っては心の底から快楽を味わっている行為は取れなかった。だからこそ、その奥の部分で何を考えているのか、何で構成されているのか、それをほぼ完璧に読み取る事は不可能だったのかもしれない。



 そして、この奥底にある心は、決戦の中で乱入したゴンノーに奪い取られた『要素』の中には含まれていなかった。




「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「……えっ!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

「「はっ!!」」


 

 だからこそ、本物のレイン・シュドーは先手を取る事が出来たのかもしれない。

 自分自身の数をわざと、と言う手段で……。

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