レイン、決戦(3)

『これはこれは魔王……ようこそいらっしゃいました♪』

の出迎え、ご苦労であった、ゴンノー」


 人間とは全く違う、まるでトカゲの頭蓋骨のような頭から生気が奪われそうな気持ち悪い笑い声を漏らしつつ声をかける魔物の迎えの言葉に対し、銀色の表情が見えない仮面を介して率ない返事をするもう1人の魔物――この世界に存在する全ての者が与り知らぬ異空間の中で、もう1つの戦いが始まろうとしていた。

 2人の周りには、前後左右上下問わずあらゆる場所で純白のビキニ衣装のみを身に付けた美女たちが、目の前の相手を打ち砕かんとする決死の表情を見せながら、どす黒いオーラやそれを打ち消すような眩いオーラを放ち、隙を見ては剣を駆使してその体を貫こうとしていた。この世界の命運をかけた決戦が今まさに行われているのである。だが、互いが持つ無限のが懸命に戦い続けている状況には一切目もくれず、それぞれの出方を警戒するかのようにじっと見つめ合い続けた――トカゲ頭を持つ魔物ゴンノーの瞳は人間の者とは全く違い感情がほとんど読み取れず、仮面をかぶる魔王に至っては瞳すら見えなかったのだが。


『貴方までわざわざやって来るとは思いませんでしたよぉ、本当に♪』

「貴様が呼んだのだろう。わざわざためにな」


 あくまでも慇懃無礼な言動を保とうとする裏切者の魔物であるゴンノーを、魔王はいつでも消し去ることが出来る力を有しているはずであった。少しでも本気を出せば、辺り一面に広がる無限のビキニ衣装の美女もろとも世界の全てを消し去る事もあり得ない話ではない。だが、魔王は敢えてそのような方法を取る事無く、互いに湧き上がり続けているであろう敵意を言葉に乗せながらゴンノーと対峙し続けていた。まるでわざわざ力を出さずとも倒せる、とでも言わんかのように。


 そして、その意図はゴンノーの方もしっかり理解しているようであった。


『……ほう、何も手出しをしませんねぇ……?』

「……ふん」


 相変わらず、貴方は全ての命を見下し、思いのままにしようとしているようだ、と告げるゴンノーの口調は、どこか自虐的なものでもあった。2人の周りで戦い続けているレイン・シュドーも、ここから遠くはなれたごく僅かな土地で懸命に祈り続けているであろう人類も、全ての命運は結局この両者の掌の上でしかないのだ。そんな者たちが真に世界を手中に収めるための雌雄を決するためには、もう少し時間が必要だ、と互いに無言で確認しあうかのように、両者の顔は周りを埋め尽くす自らの無限の手札たちの方を向いた。


 ゴンノーと魔王が退治し続けている間にも、両者がしている状態となっているレイン・シュドーの数は一向に減る気配が無かった。ダミーレインにレイン・シュドーと全く同じ思考判断、全く同じ能力を植えつけた結果、互いに攻撃も防御も拮抗し合い、相手が剣を振りかざせばほっそりとしながらも筋肉と魔力に満ちた腕で防ぎ、漆黒のオーラを放てば光のオーラで無効化するという戦いが続いていたのである。そして数限りない戦いの中で、レインたちの中にわざと攻撃を受け付ける者が現れ始めた。その理由は1つ――。


『……ふふぅ、良い眺めですねぇ♪』

「……ふん」


 ――同じ思考判断を持ちながらもその根本が全く異なっているはずの敵対する自分自身よりも優位に立つため、レイン・シュドーの数をさらに増やすためである。

 相手が放った光のオーラをわざと腹に受け、そこから鮮血のようで全く違う色を纏いながら流出するオーラをそのまま固め、僅かな時間で新たなレイン・シュドーを創造する。切れ味をより高めた敵対する自分自身の剣に滅多刺しにされる事で、その破片の全てを美しく戦う新たなレインへと変える。相手が放った光のオーラに分解される振りをしつつ、粒子のようになった幾つものを再び新たな自分として蘇らせる――ありとあらゆる手段を使い、彼女たちは憎き存在よりも一歩先に進むため、戦場を彩る黒、肌色、そして白の3色をより濃くしていったのである。


 目の前で次々と純白のビキニ衣装の美女が鋭い目つきのままその数を増大させる――傍から見れば異様な光景であるが、それはあくまで愚かな人間達の常識。彼らを陰で操るゴンノーは、自分達の周りで繰り広げられている状況に惚れ惚れするように瞳を輝かせる一方、魔王は対照的にその極楽のような光景に対して無関心のような言葉を吐いた。いや、それどころかまるで周りの光景に呆れ果てているような感情を露にしているようであった。


 自分自身が期待していた流れから、大きく外れたかのように。



「おやぁ、魔王?ご機嫌斜めのようですねぇ?」



 かつての常識が、無機質な銀色の仮面から珍しく自身の思いを滲み出している様子を、ゴンノーは嘲り笑った。あれだけ信用しきっていた存在がこのような手段に出てしまうと言う事は、やはり『本物』のレインは未だに不完全極まりない、自分の欲望に悪い意味で忠実な存在なのだろう、と。当然、そのような挑発に魔王が乗るはずも無く一切の返答は無かったのだが、その様子を見てもなおゴンノーは満足そうにトカゲの頭蓋骨のような頭を歪ませていた。相手をしているのが『本物』のレイン・シュドーである事をわざわざ認めた上でこのような揚げ足を取る発言をすることが出来たという事実に満足するかのようであった。


 そして、恍惚の表情と呆れの感情が入り混じる両者の周りから――。


「……」

「おやおや♪」



 ――と言う概念が次第に消えようとしていた。

 これこそ、魔王が苛立ちを見せた大きな要因だった。


 確かに相手のレイン・シュドーよりも数が多ければより立ち回りが有利となり、同じように優位に立ちたいと願い続けている敵の精神を揺さぶる効果もある。だが、それに加えてレインたちにとって自分自身が増え続けるという事は、すなわち自分の中にある欲求を満たすという事でもあった。全く同じ自分と言う強大な敵を相手にしても決して怯む事無く立ち向かい、勝利を手に入れようと邁進し、純白のビキニ衣装と言う大胆な格好のままそのたわわな胸を揺らし続ける、世界で最も美しく麗しく逞しい存在がもっともっとこの場所に増え続ければどれだけ励みになるだろうか――世界の命運を決する戦いの中でも、レイン・シュドーの持つ根本的な欲望は抑えられる事無く、むしろ増幅されていたのである。


 ただ、問題はそこからだった。以前の戦いのように、自分をもっともっと増やしたいという願いを持つビキニ衣装の美女が一歩の勢力にしかない場合、戦いの結果はすぐに分かるようになっていた。戦闘が始まる前よりも数を減らすどころか倍増、いや何十、何百倍にも増えた彼女達の笑顔の勝利だ。しかし、今回は魔王の勢力もゴンノーの勢力も、どちらも『レイン・シュドー』だった。増殖を望み続けるという要素を兼ね備えた両者が、相手に勝つためと言う名目を勝手に心の中に打ち立て、自らの欲望に飲み込まれ始めた場合、一体どうなるのだろうか――。

 

 

「いやぁ、これはこれは……面白いですねぇ♪」

「同感だ、馬鹿馬鹿しいにも程がある」



 ――片や最高の光景、片や軽蔑する光景と捉え方は全く違うが、魔王もゴンノーも滑稽な光景であると言う思いは同じだった。両者はまるで自分達の手札がぎっしり詰まった空間を観察するかのように異空間の中を歩き回りながら、辺りを埋め尽くす美女のを見続けていた。



「あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」あぁん……っ!」あぁんっ!」ぐっ……!」いやぁっ……!」…



 敵味方の区別すら薄れ始めているような、全く同じ悲鳴や喘ぎ声を上げながら、自分の体に押し潰されようとする欲望まみれの存在が、世界の果てを埋め尽くしていくと言う奇妙な光景を……。

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