レイン、密接

 どす黒い人間の心以外の全てを浄化する『光のオーラ』を逆に利用し、自分を浄化させた上でその数を無限に増やしてしまう――長い時間をかけ、魔王の言葉の真理をついに掴みきったレイン・シュドーであったが、その後も魔王直々の鍛錬は続いた。彼女を最後まで信頼していた盟友ライラ・ハリーナの姿を模した魔王が何億人にも増えながら『闘技場』を思わせる空間の回りを埋め尽くし、レインに向けて次々に『光のオーラ』を放つというものである。


 だが、あの日以降、この鍛錬に対するレインの心は大きく変わった。

 

「「「「それじゃ、お願い♪」」」」


 あの日まで、真剣ながらも憂鬱や不安の感情が宿り、どうしても後ろ向きな気分になりがちだった彼女たちから、そのような気持ちはほぼ消え去った。あまりにも唐突で衝撃的な形で心理をつかみ取ってしまった形であるものの、『成功』した事に対する嬉しさはそれに勝るものだったのである。

 とは言え、まだレインたちは完全にこの力――『光のオーラ』を自在に利用してしまう方法を習得した訳ではなかった。


「あぁぁん!!」」」」」」」」」あぁぁん!!」」」」」」」」」あぁぁん!!」」」」」」」」」あぁぁん!!」」」」」」」」」あぁぁん!!」」」」」」」」」あぁぁん!!」」」」」」」」」あぁぁん!!」」」」」」」」」あぁぁん!!」」」」」」」」」あぁぁん!!」」」」」」」」」あぁぁん!!」」」」」」」」」あぁぁん!!」」」」」」」」」あぁぁん!!」」」」」」」」」あぁぁん!!」」」」」」」」」あぁぁん!!」」」」」」」」」あぁぁん!!」」」」」」」」」あぁぁん!!」」」」」」」」」あぁぁん!!」」」」」」」」」…


 今回鍛錬を受けていたレインの数は、最初1000000人だった。これまで行っていた鍛錬よりも数を更に多くすることでその目的――光のオーラを受けた後にどれだけ自分自身の『増殖』を抑えることが出来るか――をはっきりさせるためであった。しかし、今回もそれに耐え切ることは出来ず、あっという間に彼女の体は次々に分裂増殖を始めてしまった。

 最初に受けた時とは異なり、自分の心の奥底へ向けて集中力を高め、自分を増やしたいと言う快楽を抑えつける事でその欲が外部に溢れ出すという事態は減っていたものの、それでも大量に分裂増殖をしてしまったのはまだ『光のオーラ』を完全には利用しきっていない事の現れであった。そんなに愚かで哀れな欲望に苛まれたいのか、とライラの声色を借りた魔王からの嫌味を、レインは受け入れるしかなかった。


「「「「「「「「たはは……また増えちゃった……」」」」」」」」」


 『闘技場』のある空間を抜けて元の地下空間にたどり着いたレインの数は、1024000000人にまで増えていた。後から後から次々に現れるビキニ衣装の美女たちの顔は、自分が増えた嬉しさとそれを素直に喜べない苦しさが入り混じった苦笑いとなっていた。しかし、それ以上に彼女にとって嬉しがってよいのか悪いのか分からない事態が起きていた。


「「「「「「「あぁん、レイン♪」」」」」」」

「「「「もう、レインったら♪」」」」

「「「「「ごめんごめん、レイン♪」」」」」


 これまでも、各地の町や村がダミーレインに奪還される日々の中でレイン・シュドーが住むべき空間は少しづつ減少していた。空間を歪めれば幾らでも自分たちの居場所は増やせるのだが、そこに住むレインの数は、多数のレインプラントが立ち並ぶ森や日々の鍛錬の中で限りなく増え続けていた。そしてそれに加えて、光のオーラを利用する仕上げの鍛錬によって彼女の数は爆発的に増加した。しかもレインたちは情け容赦ない魔王とは異なり、自分と同じ姿形をした世界で最も美しく麗しい存在を消し去るという行為を拒み続けた。

 その結果が、四方八方が純白のビキニ衣装の美女で埋め尽くされた地下空間であった。


 勿論、空中を舞ったり柱にもたれかかったり互いに談笑したり暇を潰している他のレインたちも、時間を見つけては得意とする漆黒のオーラで地下空間を広げ続けていた。以前無尽蔵に増える体を制御できなくなった時のものは全て魔王によって無かった事にされていたため、その都度広げ続ける必要が生じていたのだ。だが、自分の肉体があちこちで触れあい、心地良い健康的な肌や柔らかいたわわな胸を体いっぱいに味わう感覚を前に、レインはついついその手を止めてしまうのであった。


「「「「また狭くなっちゃったわね……」」」」

「「「「「仕方ないわよレイン、これだけ私が気持ちよいんだから」」」」」

「「「「「「「欲望に駆られすぎるのも良くないけど、禁じすぎるのも良くない、って事よね……」」」」」」」


 この心地良くもどこか堅苦しい日々を終わらせるには、もっともっと鍛錬や努力を重ねて、地上に蠢く人間たちを自分たちが『浄化』させ、世界を平和に導く以外に道は無い――無数のビキニ衣装に包まれた空間を眺めながら、美女たちは改めて決意を固めた。

 そして、大量のレインの中から1000000人がその奥深くへと移動を始めた。以前は彼女自身の精神が疲労すると言う理由から1日に魔王直々の鍛錬を行うレインは1000人のみだったが、今はそのような疲労はほとんど無くなっていた事や、むしろ自分がどんどん増えていくという理由から、魔王や彼女の都合が合う限り次々と鍛錬を行うようになっていた。自分が増える事を素直に慶ぶことが出来ないのは苦しかったが、臆する事無く彼女が続々と『光のオーラ』を利用するために努力を重ね続けていた事もあり、以前よりも習得するペースが早くなってきたように彼女たちは感じていた。



 ただ、それでも『光のオーラ』は手強かった。魔王の配下となったために捨てる事となった人間の一員だった頃に持っていた光のオーラへの耐性をもう一度手に入れ、その上で人間よりも遥かに強い力を身につけると言う事もあり、レインたちも十分覚悟していた。しかし、今回の鍛錬もまた――。


「ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」ただいまー」…


 ――十分に結果を出す事ができなかった。

 鍛錬に向かった1000000人のレインが、4096000000人に増えて戻ってきたからである。


「「「「おかえりー……あぁん、レイン♪」」」」

「「「あ、ごめんごめん♪」」」

「「もう、レインったら♪」」

「「「えへへ♪」」」


「レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪…


 そして、彼女の体が密着しあう時間も、また増えたのであった……。

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