レイン、快眠

 日々世界平和のために尽力し続けるレイン・シュドーは、何か嬉しい事があると皆で集まって宴を開くようにしていた。日々自分の数を増やしたり、純白のビキニ衣装に身を包んだ女剣士と言葉を交わしたり、美しい髪やたわわな胸の感触を味わったりするのも嬉しさを表す表現であったが、それとは別に何か大きな転機や進歩が見られたときは、抑え込むのが難しいほどの嬉しさをたっぷりと皆で発散させるのが恒例になっていたのである。

 ただ、ずっと敗北や失敗、停滞を重ね続ける日々が続いた事もあり、今回は本当に久しぶりの宴となった。


「かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」かんぱーい!」…


 漆黒のオーラを使って無から創造した飲み物を一斉に飲み交わしながら、レイン・シュドーは地下空間の中で大いに盛り上がった。元から地下空間にいた彼女たちばかりではなく、あの時無限に増え続けた自分自身に巻き込まれずに済んだ遠くの町や村のレイン・シュドーも、同じ記憶や経験を共有した上でたっぷりとその輪に加わっていた。とは言え、その数は以前よりも遥かに激減していた。ダミーレインの侵攻により、レインが占領していた町や村の数は両方の手の指を使えば数えきってしまうほどにまでなっていたのである。

 だが、それでも彼女たちの満面の笑顔には希望が宿っていた。


「「「本当に今日は有意義な日よねー、レイン!」」」

「「「「「そうよねー、レイン!これでたっぷり人間たちを……!!」」」」」

「「「「「「「「それに、可哀想なダミーたちも救える!」」」」」」」」」」


 もう最高の気分だ、と言う声が無数に重なり、地下に響き渡った。そしてその声は次第に大きくなっていった。美味しい食べ物や飲み物を創造し、それを思う存分食べ尽くしている傍らで、レインたちは自らの喜びを具現化するかのごとく次々に新しいレイン・シュドーを創造していたからである。勿論今回は漆黒のオーラを利用しているため、彼女たちの思うがまま自在に自分を増やし続ける事が出来た。

 ただ、これからは『光のオーラ』を使ってもっと楽しく、もっと大量に自分自身を増やすことが出来るかもしれない、とレインたちは期待していた。魔王が放ったオーラにどれほどの威力があったのかは分からないが、全身を包んだ光だけで1000人が何百桁にまで膨れ上がったのならば、この力を自分の物にすればさらに凄まじい事が起きるかもしれない、と。


「「「ま、でもそれは、ね♪」」」

「「「「うんうん、私たちの努力次第だもん♪」」」」


「頑張ろうね、レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」…


 互いに自分を励まし合いながら、明日以降の鍛錬に向けてレインたちは気合を高めあった。

 今後もしばらくはライラ・ハリーナに変身した魔王により四方八方から光のオーラを浴びせられる状態が続くのだが、人数はこれまでの1000人から1000000人と一気に増大する事が決まっていた。今までの鍛錬とは異なり、レインの数を『増やさない』事が目的だと言う魔王からの説明を、レインたちも大いに納得していた。

 その時、ずっと前に魔王が話していた事を彼女たちはふと思い出した。あの日――人類に対して最後の宣戦布告を仕掛けるのを兼ねて、力の勇者フレム・ダンガクをレイン・シュドーを生み出し続ける肉塊へと変えた日である。あの時、無尽蔵に肉塊から現れるのを楽しんでいたレインたちを一喝するかのように魔王は稲妻のような漆黒のオーラを放ち、その動きを止めてしまったのである。そして魔王は、文句を言ってしまったレインたちに冷たくこう言ったのである。


 今の段階で快楽に溺れるがまま増えてしまえば、自分たちの目的は永遠に達成できない、と。


「「「「あれって、こういう事だったのかもしれないわね……」」」」

「「「「「「理性が無いまま増えちゃうと、碌な事が無いって事よね……」」」」」」

「「「快楽に溺れる、か……」」」


 レイン・シュドーが盛り上がっている今この時も、地上では次々に新たなダミーレインが創りだされ、欲望のまま突き進む人間たちの元へ次々に届けられている。彼女に全てを任せたいと言う欲、彼女を神として崇めたいと言う欲、そして彼女の美しい肉体をもっともっと増やしたいと言う欲――人間たちはそれをただ暴走させるだけの存在に成り果てようとしている、とレインは思った。そして、自分は決してそのような存在にならない、と改めて誓った。


 この世界を平和にするのは、今この場にいる『レイン・シュドー』そのもの以外に無い事を、改めて確かめ合うかのように。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 長かった1日が終わり、疲れをたっぷり風呂で癒す事ができたレイン・シュドーは、そのまま眠りに就く事に決めた。あまりにもたくさんの事が起こりすぎた今は、ベッドの中でのんびりと安息の時間を過ごすのが最適である、と考えたのだ。漆黒のオーラの力を使えば短時間で疲れを取る事が出来るが、それ以上にレインたちは自分たちの心身を落ち着かせる方法を知っていた。


「うふふ、レイン……♪」

「ふふ、レイン……♪」


 1つのベッドの中でもう1人の自分と見合いながら、一緒に眠る事である。


 暖かい毛布と心地良いベッドに包まれる純白のビキニ衣装は、何者にも変え難いほど美しいものであった。勿論、それを着こなす健康的な肌の持ち主もまた、世界で最も麗しく美しい存在だった。 

 いつか、この存在が世界を理性を持ったまま埋め尽くす日が訪れるだろう、いや絶対に訪れさせてみせる――声に出さなくとも、2人のレインの思いは全く一緒であった。そして、その気持ちを笑顔で確かめ合いながら、レイン・シュドーは静かに目を閉じた。



「おやすみ、レイン……♪」

「おやすみ、レイン……♪」



 その日の夢の内容を、次の朝目覚めたレインたちはしっかりと覚えていた。そして、彼女たちは非常に心地の良い目覚めを迎えることができた。

 延々と思うがまま、世界のあらゆる場所を暖かい光を浴びながら無尽蔵に増やし続け、やがて空の遥か彼方までレイン・シュドーで覆うことが出来た夢を見れば、当然かもしれない……。

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