レイン、増殖

 確かに、レイン・シュドーにとっての最高の快楽は『レイン・シュドーが増える事』であるのは間違い無かった。たわわな胸や滑らかな腰つきを純白のビキニ衣装で包み、健康的な肌を露にしながら勇ましさや優しさ、そして美しさを存分に見せ付ける美女が世界を覆いつくし、全てを平和に導くという事が彼女の最終目標でもあった。自分自身が数限りなく増殖するのは、この上なく幸せな事であった。


 ただ、それはあくまで自分たちが想定する範囲内でのものだった。自分自身の意志でどんどん自分を増やし、あらゆる場所を覆い尽くしていくという快感を味わいたい、というのがまず行動の前提にあった。だからこそ、自分の意志と全く関係ない形でどんどん自分自身が増え続け、数の制御すらままならないという状況は――。


「きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」きゃあああああ!!」…


 ――現在のレイン・シュドーにとっては、混乱と恐怖の元でしかなかったのかもしれない。


「いやぁぁぁぁ!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 光のオーラを全身に受け、消滅したかと思った自分自身の身体が何もしないのに突然元に戻るという不可解な体験をした直後、1000人のレインの身体は突如その数を増やし始めた。身体全体に震えが生じるとともに、まるで分裂するかのように新しいレインが自分の傍に現れるのである。勿論その姿も記憶も全く本人と変わらず、純白のビキニ衣装に包まれたたわわな胸の柔らかさも全く同一であった。しかし、その心地良さを感じる余裕は、レインたちには全く無かった。次々に分裂増殖していく頻度が増えていくのを、レインたちは止める事が出来ないのである。

 一度でも悲鳴を上げれば、あっという間にその声が何百何千倍にも増幅され、さらにその悲鳴の主の身体も次々に増えていく――普段なら空中を舞ったり空間を歪ませて広げたりして無限に増える自分を支えるだけの余裕を生み出していた彼女たちであったが、今はその対処法を練る時間すら与えられていなかった。何万何億、いや何兆何京とあっという間に増え続けていく中、どれだけ空間を広げてもあっという間にそこはレインたちに埋め尽くされえてしまうからである。


「れ、レイン……!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

「どうなってるの……!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 幸い身体全体を漆黒のオーラに包み込む形で防御を固めていたため、行き場が無くなったレインの肉体がどれだけ折り重なろうとも彼女たち自身には何ら外傷は無かった。しかし幸いだったのはそれだけであった。次々に増え続けている彼女たちは、今時分たちがどれくらいの数になったかすら把握しきれないまま、互いに体を密接に重ねあわざるを得ない状況になっていたからである。


「あぁん!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

「む、むぅ……!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 肌の滑らかさや唇の柔らかさを味わう暇も無いまま、レインたちの数は増え続けた。最早今までずっと鍛錬を行っていた闘技場の壁がどこにあるのかすら分からないほどであった。だが、次第に彼女たちはそれよりもっと大変な事が起き始めている事を察知し始めた。この闘技場が存在する空間は、普段彼女たちが暮らしていた地下空間や地上の町や村とは異なり、魔術の力を駆使して全体を歪ませて広げると言う行為に対して一定の『限界』が組み込まれていたのである。その証拠に、外側で次々に増え続けていたレインたちは、何も無かったはずの空や大地のような場所に、ひびのようなものが現れ始めているのをその目でしっかりと目撃したのだ。

 この緊急事態は、すぐさま他のレインたちにも伝わった。だが――。


「でも……!」」」」」」」」

「どうすれば良いの……!?」」」」」」」」」」」」」」」」

「な、何とか止めないと……あぁん、レイン!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

「ごめん、止められない……あぁぁぁ!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 ――最早何桁にまで増えたか分からない彼女たちがどれだけ懸命に自分を押さえ込もうとしても、それを嘲笑うかのように彼女の体は無限に分裂し、その数を倍々に増していった。そして健康的な肉体が四方八方から迫り、最早動く隙間も無いほどにまで彼女の数が増えたその時であった。


 今まで彼女たちが一度も聞いた事の無い、歪みと捻れ、そしてひび割れが混ざったような不可解な音が、レインの耳に響いた。それが意味するのは、ずっと彼女たちが光のオーラに対する鍛錬を繰り返してきた『闘技場』が崩壊し、外の空間――魔王が築いた地下空間との垣根が無くなった事を意味していた。そして――。


「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「きゃああああああ!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「いやああああああ!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 ――何十何百桁にまで増大したレイン・シュドーの大群が、一瞬で地下空間を埋め尽くした。


 突如なだれ込んできた自分自身の肉の海に仰天したレインたちは、あっという間に自分の増殖を制御できなくなったレインの流れに巻き込まれた。瞬時に全身を漆黒のオーラで包みこんでいたのが幸いし、彼女たちもまた無傷であったものの、一体何が起きたのか困惑してばかりであった。そんな別の自分を見た大量のレインたちは、慌てて四方八方から先程までの記憶を共有しあったのだが、それが事態を悪化させた。この肉の海が、光のオーラによる鍛錬の結果である事を認識した瞬間――。


「な、なにこれえええええ!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 ――地下空間にいたレイン・シュドーの体までもが、突如として分裂増殖を始めてしまったのである。

 止める方法も一切分からないまま、彼女たちは自分の体を重ねあいながらその数を無限に増やし続けていた。先程までの空間とは異なり、こちらはレインによって自在に空間を歪ませて無限にその長さを伸ばす事が出来る地下空間なのだが、それでも彼女の分裂する速さは空間を作り出す速さに追いつこうとしていた。どれだけ大量に伸ばしても、瞬時に押し寄せたレインの体でその場所は埋もれてしまうのだ。

 無数の自分たちの体の感覚を味わう暇も無いまま、制御できずに自分が無限に増えていく――次第にレインたちは、悔しい気分になってきた。自分をもっと増やしたい、もっと世界を埋め尽くしたいと願いながら懸命に努力を続けていたのに、いざ自分が無限に分裂増殖し、しかも自分でその数を抑えきれない状態になったとたんに、焦燥感と恐怖に満ちていた自分を、情けなく感じてしまったのである。だがいくら心の中でその思いに耐えても、無数に増え続けていく自分を止める事は出来なかった。どれだけ地下空間が広げても、地上の何億何兆倍もの広さを確保しても、自分の数を『止める』と言う目的には全く意味を成さなかったのだ。


 そして、とうとうレイン達が恐れていた事態が起きた。

 一部のレイン・シュドーが、肌いっぱいに『本物』の陽の光――地下空間では絶対に感じる事のできない心地を感じてしまったのである。


「きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」きゃああああ!」……


 あっという間に溢れ出したレイン・シュドーが、延々と広がる『世界の果て』を次々に呑み込んでいった。巻き込まれたレインたちもまた記憶を共有した瞬間に分裂増殖を始め、巨大な流れの一部に成り果てていった。しかも、その間にも地下空間や『闘技場』のあった場所からも無尽蔵にレインが溢れ続け、最早その流れはどうあがいても止められない状況であった。

 自分の純白のビキニ衣装も健康的な肉体も、このようになってしまえば無意味に等しかった。自分自身でその感触を味わうだけの余裕が無ければ、どのような美しい存在でもその価値はなくなってしまう事を、レインは悔しそうな表情と共に痛感していた。そしてその苦悩する心も際限なく増え続け、最早上下左右どれがどれやら分からない状態になっていた。下手すれば人間の世界も自分たちが呑み込んでしまったかもしれない。そんなのは絶対に嫌だ、苦痛のままで支配する事に意味なんて全く無い、でも自分たちではもうどうしようもない――。



「た……たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」たすけてえええ!!!」…






 ――何百、何千桁にも及ぶかもしれない、純白のビキニ衣装の美女が轟かせる悲鳴が音とも知れる振動となり、彼女たちの柔らかい胸を含む全身を恐怖と絶望で震わせた、次の瞬間だった。

 突然、彼女たちの体が眩い光に包まれ――。



「「「「「「「「「……え……?」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「……へ……?」」」」」」」」」」



 ――何事も無かったかのように、ごく普通に『世界の果て』にある町の中に、数兆人のレイン・シュドーとして立っていたのである。

 再び起きた突然の出来事に馴染めないレインたちは、本当に自分たちが大地の上に立っているのかすら判別できず、足を震わせたり空に浮かび上がったりしていたが、次第にここは正真正銘、自分たちの本拠地であると言う事を認識していた。そして、先程までこの一帯を包み込んでいた無数の自分たちが跡形も無く消え去り、ごくありふれた普段通りの数に戻っていた事も、しっかり確認できたのである。

 先程まで鍛錬を行っていた者や地下空間に佇んでいた者、そしてこの町の中でのんびりしていた者――誰がどのレイン・シュドーかは、記憶も経験も共有していたために一切判別が出来なかったが、それでも自分たちが何事も無かったと言う事実に、彼女たちは一旦安堵した。そしてその上で、ここまでに起きたあの不可解な出来事は一体なんだったのか、と互いに悩みあった。


「「「……何が、どうなってるの……?」」」

「「「「レイン……私、全然分からない……」」」」

「「「「「私も……同じレイン・シュドーだし……」」」」」


 記憶も経験も同じである事を喜ぶだけの余裕は、まだレインたちに戻っていなかった。そして、この状況を話し合いで解決するだけの力も、まだ彼女たちには無かった。全ての真相を知るためには――。



「……全く、手間をかかせおって……」

「「「「「「「「「「……魔王!!」」」」」」」」」」」」」」」



 ――彼女の力を遥かに凌ぐ存在からの教えが必要だった……。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る