レイン、装飾

「「「「「へー、人間たちが……」」」」」」

「「「「「『レイン・シュドー』を崇めてる……」」」」」

「「「「「「「「「「「「「「「そうなのよ、レイン……」」」」」」」」」」」」」」」


 純白のビキニ衣装の女剣士、レイン・シュドーによって征服されたかつての村の一角に、何万人もの彼女がぎっしりと集まっていた。彼女たちの協力者であり現在の主人的な存在である魔王に呼ばれた自分たちが戻ってきたのだ。

 村の中で留守番をしていた数万人のレインたちは、ビキニ1枚のみに包まれた大きな胸を揺らしながら魔王からの報告をじっくりと、そして楽しそうに聞いていた。人間たちの中に、勇者に頼るのではなく自分たちで魔物を何とかやり過ごそうとする動きが出始めていたのである。ただしそれは、かつてのように自分たちも勇者と共に立ち上がろう、と言う前向きなものではなく、巨大な外壁を作って町を覆い、自分たちだけ生き残ろうとするあまりにも後ろ向きで愚かな動きであった。

 そしてもう1つ、それとは別の、さらに愚かな動きが人間たちに起きていた。一部の町や村で、レイン・シュドーそのものを尊いものとして祭り上げて、自分たちを守ってもらおうと言う、宗教のようなものが出来始めていたのである。


 その様子が気になった数万人のレインは、魔王からその話を聞いていた数千人の自分たちと記憶を統一してもらう事にした。言葉にして説明してもらうよりも、見たり聞いたりした記憶をそのまま共有した方がより鮮明に理解できるからである。何より、自分たちを祭り上げていると言う事実に、彼女たちは皆惹かれたのだ。

 そして、記憶を含めて一切の区別が無くなったレインたち全員は、一斉に複雑な表情を浮かべていた。


「「「「まぁ、このビキニアーマーをあちこちに飾ってくれるのは嬉しいわね、レイン……」」」」

「「「「そうよね、何だかんだで私の事を覚えてくれたし……」」」」


 ただ、それでもやはり彼女たちは、自分たちを祭る人間たちを赦す事は出来なかった。彼らはレインに頼りっぱなしで、一切事態を解決しようと動き出していなかったのだ。やはり今の世界の人間は愚かで汚らわしく、そしてかわいそうな存在である、とレインたちは改めて認識した。

 とは言え彼らがどれだけ前向きに動き出そうとも、自分たちの前には無力である事もレインはしっかり承知していたが。


 そんな中、レインたちは1つの考えに至ろうとしていた。

 いくら人間を蔑み続ける彼女でも、完全に相手を馬鹿にしてはやがて足元をすくわれてしまう事を理解していた。そのような事をしては、昔自分たちが退治してきた魔物と全く同じ末路を辿ってしまうからである。そして今回も、彼女は人間たちの行為の中にも1つだけ、大きな価値を見出していた。

 レイン・シュドーを祭るため、彼らは町や村のあちこちに、レインに纏わる様々なものを作り飾り続けていた。レイン・シュドーの実力と勇敢さを示す純白のビキニ衣装を全ての建物の前に飾ったり、木彫りの手作りのレイン人形を製作してお守りにしたり、果ては自らビキニ衣装を着たり髪型をレインのものにする事で、最強の勇者の力を手に入れようとしたり――それはまさしく、人間たちが自分の手で町や村をレイン一色に染める行為であったのだ。


「……ねえ、レイン♪」ふふ、レイン♪」私も同じ事を考えてたわ♪」ねー♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」うふふ♪」レイン♪」…


 あのような町並みを、自分たちもぜひ創り上げたい。いや、レイン・シュドーで溢れかえる町や村は人間たちには決して似合わない光景であり、レイン・シュドーだけが住む場所でなければ絶対に成り立たないものだ。彼女たちはそう自負し、やがて一斉に嬉しそうな声をあげ始めた。

 そして、数万人のレインは一斉に頷きを交わした後、『模様替え』をするために散らばり始めた。自分たちが住むこの場所を、自分自身が最も愛する存在でもっと濃く染め上げるために。


~~~~~~~~~~~~


「「出来たー!!」やったわ、レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」…


 レイン・シュドーの優れた魔術や人海戦術によって、模様替えは彼女の予想よりもかなり早く終わってしまった。

 事務的な仕事ではなく、大好きなことを思いっきりすることができると言う快楽感も理由だったのかもしれない。


「良い眺めね、レイン♪」「うんうん♪」「やっぱり私たちにそ、ふさわしいわね♪」


 その言葉に、彼女は皆嬉しそうに同意の頷きをした。

 それまで、レインたちが住む『町』のような場所の建物は皆どこか殺風景だった。程よく整った建物が空間がある限り延々と並ぶと言う光景はレインたちにとっては何らおかしな事は無かったのだが、飾り気が一切無く、何も考えずに歩いてしまうとつい道に迷いそうなほどに単調なものであった。

 だが今は違う。レインたちが住む建物の外壁に、彼女を描いた壁画に設置されたのだ。あまりこういった芸術への興味が薄かった彼女たちでも、自分を思いっきり描くとなれば話は別。魔術の力を利用して、自分自身の姿をそのまま壁に写し、まるで壁の中に別の自分がいるかのように本物と同一の壁画を無尽蔵に創り上げる事が出来たのである。

 純白のビキニ衣装に包まれた大きな胸や健康的な体を強調するかのように、壁画のレインは腕を背中に回して笑顔で経ち続けていた。それがどこまでも延々と続く光景は、まるで道の左右に大量のレインが立っているようにも見えた。彼女たちにとっては、まさに最高の光景である。


「うふふ、いいわね……」「本当よね、どこへ行っても左右にレインがいるんだもん♪」「最高の町並みね♪」


 そして、彼女の壁画が描かれた大量の建物の傍には、レイン・シュドーが毎日着用している純白のビキニ衣装――正確には『ビキニアーマー』とも呼ばれる彼女の強さと艶やかさを示す衣装が、合計数百万着も飾られていた。外の世界の人間たちは、この衣装をレイン・シュドーだと崇め、神聖な気持ちで触ったりしていたが、彼女たち本人は自分たちの快楽を満たすために、頬ずりをしたり手で触ったりしながら満面の笑みを浮かべていた。

 傍から見れば変態かもしれないが、その『傍から見ていた』存在もまた、レイン・シュドーの大群であった。今やこの場所は、隅々まで純白のビキニ衣装の女剣士に埋め尽くされてしまったのである。


 だが、彼女たちはまだその様子に完全には満足していなかった。まだまだ自分をもっと増やし、この町を最高の場所にする余裕がたっぷりあると判断したのだ。

 数万人のレインたちは笑顔を交わした後、一斉に漆黒のオーラを纏い空に舞い上がった。そして皆で同時に同じ魔術を全体に打ち込もうとした直前、彼女たちは突然怪訝そうな表情になった。地上では見れば心地よく触れば気持ちよいと最高の構図だったはずの、あちこちの建物に飾られているレイン・シュドーのビキニ衣装だが、いざ空から見あげるとそこまで良いものと思えなくなってしまったからである。



「な、なんだか洗濯物を干してるみたいね、レイン……」

「ちょっと、センス悪かったかな……」

「も、もう少し配置を見直してみる?」

「でも今考えても良い感じにはなりそうに無いし……」



 そもそも、ビキニアーマーをセンス無く飾る事こそが人間の愚かさの象徴なのだろう、とレインは考えを改め、全てを彼らのせいにする事にした。自分たちが住むのに心地よい場所を作るにも鍛錬が必要である、という事を嫌でも彼女は自覚せざるを得なかったようである。

 しばらく考えた末、数万人で空に浮かび続けるレインは、打ち込もうとした魔術の標的を、あちこちで風に吹かれてたなびく洗濯物――いや、飾るために用意していた自分たちの純白のビキニ衣装へと向けた。そして、数百万着の衣装が一斉に漆黒のオーラに包まれ――。



「うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」…

 


 ――その持ち主である数百万人のレイン・シュドーへと姿を変えた。勿論、記憶も嗜好も全てこの場所にいるレインと全く同じである。



「……まあ、今回はいいか♪」「そうよね、レイン♪」「また今度もあるし♪」「焦らないでいきましょう♪」


 今回彼女たちが行おうとしていたのは、壁に描かれたレインの絵を、毎日次々に実体化する一種の工場のようなものにさせると言うものであった。建物も道も、あらゆる場所が毎日レイン・シュドーでいっぱいの環境を作ろうとしていたのである。ただ、今回はそれとは別の形で道や建物が数百万人の自分自身でぎゅう詰めになってしまった。

 仕方ない、今回はお預けにしよう、と互いに言い合うレインたちだが、その顔に残念そうな表情は現れていなかった。結果は違えど、この場所を自分で埋め尽くしたい、という彼女の目標は、見事に達成されたからである。


「あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」…


 今日もレインはまた1歩、永遠の平和に近づけたのかもしれない。

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