レイン、帰還

「あぁん♪」あははは、ちょっとレイン♪」くすぐったいよ、レイン♪」あ、ごめんごめん♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」あははは♪」…


 レインたちによって空間を何度も歪まされた結果、全方向に地平線が見えるまでに広がった地下の闘技場。その地平線の向こうにある休憩所兼脱衣所もまた、大量のレイン・シュドーが純白のビキニ衣装を一斉に新品のものに着替える事が出来るほどの巨大さに膨れ上がっていた。

 今日もその中は、鍛錬を終えてまた1つ強くなった数千万人の彼女の大群でごった返していた。健康的な肌からは汗が滝のように流れ、体から湧き上がる煙が空間を覆いつくしていた。まるでサウナのような状況だが、彼女は自分自身の火照った体に存分と触れ合えるこの時間をとても楽しんでいた。ビキニ衣装を脱いだ状態でも、新しいものを着用した状態でも、たっぷりと露出した自らの肌の心地を味わう事が出来たからである。


 そして衣装を新しいものに着替えると、レインの手元には先程の脱ぎたてのビキニ衣装があった。これまでなら自らの魔術で瞬時に洗濯を行い、次に着替えるときに備えておいたのだが、今のレインたちは違った。もっともっと自らの実力を上げるため、積極的に高度な魔術を使うようになっていたのである。そして幸いにも、その『高度な魔術』というのは彼女が一番大好きなものであった。

 そもそも、魔王の持つ黒いオーラを用いて容易く行える「無」から「有」を生み出すというものは、常識を覆す、と言う意味でかなり高度な技である。汗まみれになった服を元の状態に戻すことに比べても、かなりの力を必要とするのだ。だが、そちらの方の魔術を事前に習得し、それを好んで使うレインにとってそういった常識的な感覚は全く無かった。ビキニ衣装をそのまま放置しておくよりは、その持ち主――レイン・シュドーを新しく創造するほうが、彼女にとって非常に好ましいものだったからだ。


「えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」えいっ♪」…


 まだ湯気が残る休憩所兼脱衣所の中で、レインは一斉に手に握ったビキニ衣装を放り投げた。そして空中に浮かんだ大胆な普段着に、彼女は一斉に両手でオーラを送り込んだ。その瞬間、純白のビキニ衣装は漆黒の黒い球に包まれ――。


「あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」…


 ――あっという間に、新しいレイン・シュドーへと姿を変えた。

 これもまた、今日の鍛錬の1つである。今の彼女には、生物無生物問わず、あらゆるものを自分自身に変える力が備わっているのだ。


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「うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」…


 地下の闘技場へと続く巨大な穴の中から、次々にレインたちが飛び出してきた。数百万人で入った時よりも何十倍も数を増やしながら満足げな笑顔で溢れ出る彼女の様子は、まるで洞窟から沸き立つ人間の煙のようだった。それも、満面の笑み、健康的な体、大きな胸、そして純白のビキニ衣装に包まれたとても美しいものとして。


 そんな露出度が高い外見のレインたちの前に、漆黒の衣装で全身を包んだ存在、『魔王』が現れた。


「……どうやら、今日も鍛錬を行ったようだな」

「勿論よ、魔王」「世界を平和にするのが目的だからね」「ここでぐうたらしている訳にはいかないのよ」「ねー」


 レインたちは、自分たちの努力が報われ続けている事を実感していた。

 彼女はこれまで一度も町や村の制覇に失敗する事はなかった。魔王の指示の元、与えられた様々な条件や方法をこなし、今まで鍛錬で得てきた様々な魔術や剣術――今のところ剣術が必要となる機会は全く無いのだが――を駆使しながら、自分たちの領土を増やし続けてきたのである。ここにいるレインたちの多くも、その新たな自分たちの楽園の中で生まれた存在である。

 世界を自分たちで覆いつくし、愚かな人間たちを平和な世界へ導くために、明日も鍛錬を続けるつもりだ。力強く、自信満々に言うレインたちを、魔王はじっと見つめていた。そして、無表情の仮面を被ったまま、魔王はいつもの通りせせら笑うような鼻息を漏らし、姿を消した。


「「「「「「……?」」」」」」」


 相変わらず、彼女たちは魔王が何を考えているか、一体どういう意図で自分たちをここまで鍛え上げようとしているのか、掴む事が出来なかった。あの魔王の無表情の仮面を破る実力を手に入れなければ、レイン・シュドーが魔王の本意を知る事は出来ないのだ。

 今の状態ではどう足掻いても仕方ない、と諦めた彼女たちは、明日はもっと厳しい鍛錬を積もう、と決め、この場で解散する事にした。



「じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」じゃあねー♪」…


 その顔は普段の通り笑顔だった。

 だが、心の中にはほんの少しだけ、『不安』が現れていた。


 このままの日々が、いつまで続くのだろうか。魔王の仮面を剥がせる日は、本当に来るのだろうか、と……。

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