女勇者、救済

「お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」お待たせ、レイン♪」……


 大広間にやって来た4500人のレイン・シュドーを待っていたのは――。


「お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」お帰り、レイン♪」……


 ――4500人のレイン・シュドーだった。


 魔王の根城にある大広間は、あっという間に9000人もの美女の集団によって埋め尽くされた。全員とも、黒のポニーテールに健康的な肌、大きな胸、整った腰や尻、そして純白のビキニ衣装――外見は勿論、記憶も感情も、あらゆる物が全て同一のレイン・シュドーの大群である。

 大胆な衣装の彼女たちは次々に自分に抱きついたりじゃれあったりして胸や肌に自分の感触を確かめあい、互いに笑顔を見せ合い続けた。こうやってたくさんの自分自身とふれあう事が、レインにとって何よりの幸せだからである。


 ただ――。


「あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは……あ……」あ……」あ……」あ……」あ……」あ……」あ……」あ……」


「……おい」


 ――レインがここに集まったのは、自分にいちゃつくためでは決して無い。冷酷な魔王の声が響いた途端、レインは一斉に魔王に自分の無礼を詫びた。調子に乗るな、と言われても、仕方ない事をやってしまったからである。


 そして改めて、9000人のレイン・シュドーは真剣な面持ちで魔王の話を聞くことになった。一体何故ここに自分たちを集めたのか、一体何を行うのだろうか。期待半分、不安半分であったレインの耳に飛び込んできたのは、長らく待ちに待った言葉であった。

 もう間もなく、魔王はこの地下空間の外に広がる広大な世界――地上に向けて、再び侵攻を開始する、というのだ。そしてそれは同時に、レインの目指す真の平和な世界を創り出す第一歩が踏み出されることを意味していた。


 当然レインたちの頭には薔薇色の平和な未来が浮かび、あっという間に顔がほころび始めたのだが、それを見据えたように魔王は忠告した。いきなり大胆な行動に出ると、やがて地上を支配する人間たちからの反撃が行われる可能性が十分にある。現に『魔物』と言う大胆な形の侵攻に出たことで、レインたちのような勇者が現れた訳だ。そこで今回はじっくりと外部の状況を調査し、戦力をさらに増強させ、準備を重ねた上で侵攻を行う必要がある、と魔王は告げた。

 勿論、その意見にレインは大いに賛成した。準備が大切だという事は、勇者になってからこの地下空間に来るまでずっと痛感し、そしてそのありがたみを現在はたっぷりと堪能しているからである。ただ、『戦力の増強』と言う事については、揃って疑問視した。


「だって、今日には私の数は10000人になるんだよ?」「それでも足りないの?」「大丈夫なんじゃない?」


 しかし、魔王はレインの大群を指差しながら言った。10000人でも足りない、そう感じているのは、自分ではなく、レイン・シュドーではないか、と。


「え……あっ!」「そ、そうね……」「言われてみると……」「えへへ……」


 100人程度ではまだまだ足りない。1000人でも余裕がありすぎる。10000人に増えても、もっともっとレイン・シュドーが欲しい。純白のビキニ衣装に包まれた、無敵の剣と魔術の腕を持つ美女がもっともっと、この世界を覆い尽くしてしまうほど欲しい!だからまだまだ増えたい、自分をさらに増やしたい――魔王の指摘通り、この場にいるレイン・シュドーには、自分の辺りを埋め尽くすビキニ姿の美女をもっともっと増やし続けたい、と言う欲望があった。この地下空間で魔王の虜になり、初めて別の自分自身と戯れたときから、ずっとその願いは変わらないままだったのである。


 

 こうして魔王の考えに納得が出来たレインは、9000もの声で一斉に尋ねた。自分たちは何をすれば良いか、と。それこそが、今回この場にレインを集めた最大の目的であった。


「こ……これって……」「……何なの?」


 魔王が見せたのは、透明な小瓶の中にぎっしりと詰まっている、小さな白い球体状の何かであった。前方は勿論、遠くにいるレインも魔術を用いてその中身を確認し、この謎の物体の正体を尋ねた。だが、魔王はその問いに対しての返答はせず、代わりに全く予想外の言葉を返した。


「……この中に入っている薬を一錠、ライラ・ハリーナの母に飲ませてこい」



 その言葉に、9000人のレイン全員が目を見開きながら驚いた。


 ライラ・ハリーナ――3人の仲間に見限られ、孤独な戦いを強いられる事になったレイン・シュドーに最後まで味方しながらも、霧の立ち込める山で、人間によって命を奪われた浄化の勇者。その『尊い犠牲』を称えられて作られた大きな墓には今や誰も訪れず、肝っ玉母さんであった彼女の母はやせ細り、日々を嘆いて暮らすだけになっている。思い出せば出すほど悲しく、そして空しい光景であった。


 もはや何のために生きているのかすら分からないライラの母に、訳の分からない薬を飲ませる事は出来ない。そう突っぱねようとしたレインだが、すぐにそれは不可能である事を認識した。体を一瞬のうちに走った電撃は、いくら9000人、そして10000人に増えようとも、レインの力で魔王に逆らう事など不可能である事を否応無しに示したのだ。


 だが、衝撃で地面に膝を突いてしまったレインたちに対して、魔王は再び意外なことを口にした。



 この薬を使えば、ライラの母は絶望から救われる。それでもこの薬を拒否するのか、と。



 甘い言葉を使って相手を誘惑し、物事を思い通りに進める。人間たちにとっての絶対悪とも言える魔王らしい提案を、レインたちが拒否するはずは無かった。大事な存在を救えるなら、魔物に魂を――いや、彼女の場合は既に自分自身が『魔物』のような存在になっていたのだが。


 ともかく、事が決まれば即実行、今すぐに地上に向かうよう魔王はレインに命令した。以前、レインにせがまれて彼女を地上に送ったときと同じように、今回も魔王が地上での行動を支援してくれると言う。いくら魔術を鍛えたとしてもまだまだ魔王の力には及ばないからである。


「あくまで念のためだ。これは地上への宣戦布告ではないからな」

「そうね、了解」「ばれたら厄介だからね……」「それに、確か私のオーラって……」


「そうだ、ライラの母は『光のオーラ』を持っている……」


 魔物に対して絶対的な効力を持つ『光のオーラ』は、魔王の持つ凄まじい力の源である漆黒のオーラに対しても最強の特効薬となる。もしあの時、レイン・シュドーがライラ・ハリーナと共に魔王に挑んでいたら、立ちえ魔王が勝利したとしても、戦う力を失っていたであろう。

 だが、この光のオーラには決定的な弱点があった。魔物を浄化し、苦しむ動植物を癒す安らぎの光でも、人間のどす黒い心を浄化する事は不可能なのである。レインたちを裏切った3人の勇者が送り込んだ刺客相手にライラが手も足も出ず、無残に命を奪われたのはこれが一番の要因であった。


 一応、レイン・シュドーは元々人間である。だが、魔王と共に暮らす中で彼女も漆黒のオーラを操る力を身につけていた。だからこそ、用心のために魔王の力を借りて再び地上に向かうことにしたのだ。




「言っておくが、ライラの母を巻き込むことを躊躇しても、もう……」


「心配は無いわ」「お母さんを救えるんでしょ?」「だったら、むしろ大歓迎よ」



 腐りきった偽りの平和の世界から、自分の大事な理解者を救えることが出来るなら本望だ。9000人のレインの強い意志は、完全に1つとなっていた。

 そして、9000人を代表し、魔王に一番近い位置に立っていたレイン・シュドーが、地上へ向かう事にした。全員とも同じ姿形に同じ考えを持つがゆえに、一切言葉を交わさずとも、どの自分が一番ふさわしいかをすぐに決める事ができたようである。無表情の仮面で顔を隠す魔王も、すぐに事が決まっていく様を、どこか心地よさそうに眺めているようだった。



「……では、行くぞ」

「了解よ、魔王」



 大広間の奥へ魔王と共に進むレイン・シュドーに、8999人のレイン・シュドーはその姿が見えなくなるまで手を振り続けた。大事な存在を絶対に救い出すように、と言う願いを込めて……。

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