女勇者、栽培

「おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」おめでとう、レイン!」……


 その日のレイン・シュドーの夕食は、新たな段階へと進んだ自分への歓迎の宴になっていた。


 剣の腕を磨き、努力の結晶でもある爽やかな汗を流し続けた800人のレインは、自らに課した高度な段階の魔術を見事に実現させ、自らの手で新しい自分自身を創造してみせた200人、そして彼女の手によって新たに誕生した100人のレインに祝福の嵐を浴びせ続けていた。


「レイン♪」あぁん♪」レイン♪」あぁん♪」レイン♪」あぁん♪」レイン♪」あぁん♪」レイン♪」あぁん♪」レイン♪」あぁん♪」レイン♪」あぁん♪」レイン♪」あぁん♪」レイン♪」あぁん♪」レイン♪」あぁん♪」レイン♪」あぁん♪」レイン♪」あぁん♪」レイン♪」あぁん♪」レイン♪」あぁん♪」レイン♪」あぁん♪」レイン♪」あぁん♪」レイン♪」あぁん♪」レイン♪」あぁん♪」レイン♪」あぁん♪」……


 魔王に記憶を共有させて貰うのは、目の前にある豪華な食事を食べた後。全く同じ記憶を一緒に共有し合うのも楽しいが、こうやって互いに記憶や感情のずれを楽しむと言うのも悪くは無い、と彼女は考えていた。とは言え、この場に集まっていた1100人ものレイン・シュドーの記憶の差は、今日の鍛錬が『剣術』か『魔術』かの違いだけであった。

 そして、その僅かしかない記憶の差は、新たに創造された100人のレイン・シュドーも同様だった。



「ところで……」「どっちのレイン?」「どっちが、新しいレインなの?」


『剣術』を磨いた800人のレインの疑問に、『魔術』側の300人のレインは答える事ができなかった。新しく生まれた100人も、それを生み出した200人も、記憶も外見も全く同じであり、誰が誰だか分からなかったのである。純白のビキニ衣装も、茶色の靴も、そして背中に背負った剣の輝きも、一切の違いは見られなかったのだ。


「えー……」どっちだっけ……」うーん……」うーん……」うーん……」うーん……」うーん……」うーん……」うーん……」うーん……」うーん……」うーん……」うーん……」うーん……」うーん……」うーん……」うーん……」うーん……」うーん……」うーん……」うーん……」うーん……」うーん……」うーん……」うーん……」うーん……」うーん……」うーん……」……



 しかし、彼女たちにとって違いが無い事は幸せな事であった。どんな生まれ方であれ、周りにいるのは自分と全く同じ1099人の自分。自らの体内の力を上げ、次々に実力を上げ続ける自分が大勢いると言う世界を、彼女は望んでいたのである。それ以前に、当の300人の彼女も、誰がどういう過程で生まれてきたのかを一切判別していなかったのだ。


 結局、1100人のレイン・シュドーは、同じ自分同士で酒池肉林の宴を続ける事を決めたのであった――。


「あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」あはははは♪」……


~~~~~~~~~~


「……ふん」


 純白のビキニ衣装とそこから覗く健康的な素肌で戯れ続ける、同じ姿形の美女の大群から離れ、魔王は地下に広がる巨大な根城の奥の方へと進んでいた。


 自分自身の創造と言う比較的高度な魔術をぶっつけ本番で成功したレイン・シュドーを、魔王は予想以上の出来であったと正直に伝えた。協力者である彼女を、魔王はしっかりと褒めたのである。

 

 ただ、あくまで彼女は、『魔王』の力に抗い、そしていつかは打ち勝とうと努力を重ねる存在。利用するだけしても、いつかは力をつけた彼女たちに逆襲される可能性もある。だが、魔王はそれでもレインをより強く、そしてより多くするために様々な手法を使い続けていた。時には彼女の願いすらも叶えた事もある。

 一体何故魔王はそこまでレイン・シュドーにこだわるのか、その真意は相変わらず無表情の仮面の下に隠されたままであった。



 さて、そんな魔王が訪れたのは、魔王自身の漆黒のオーラで生み出した地下の根城の中でも、ひときわ大きな空間だった。

 例えレインが力をつけてきたとしても、まだまだ魔王には手も足も出ない状況である。自由に空間を捻じ曲げ、小さな空間を地平線が見えるほどに広げてしまう事など、魔王にとっては朝飯前なのだ。そして、自らの思い通りに新たな命を生み出す事もまた同様であった。


 レイン・シュドーの魔術の腕は、今や新たな自分を無から創造するにまでに至っている。最早こちらからわざわざ彼女の数を増やすという必要はなくなっている。新たな段階に移行するときが、ようやく訪れたようだ――そう考えたかどうかは定かではないが、魔王はレインたちに内緒で密かに準備を進めていた。


 それは、この大きな空間の地面に太い根を無数に生やし、遥か彼方の天井にまで届きそうなほどに成長した、不気味なほどに大きく成長した一本の巨木であった。

 地面から天井まで一直線に伸びる途轍もなく太い幹からは、非常に頑丈な枝が傘のように何千、何万も別れ、さらにそこからは数え切れないほどの葉が異様に生い茂っている。魔王が創り出した仮初の太陽の光を浴び、ここまで大きくなったのである。


 そして、魔王はじっと、その枝の下の部分を眺めた。どの枝にも何百、何千と大量の『実』が垂れ下がっていたのである。どれも硬い殻に包まれ、眩いほどの純白――レイン・シュドーのビキニ衣装と同じ色をしていた。

 やがてそれらの実を見渡した魔王は、掌の上に小さなポットを取り出した。まるで紅茶を沸かすような形状だが、その中に入っていたのは紅茶でも緑茶でもなく、怪しげに白く光る謎の液体であった。そしてこれを、魔王はおもむろに巨木の根の部分へと流し始めた。


 巨木に変化が起きたのは、その直後だった。



「……ふっ……」


 魔王が見上げる中で、無数に垂れ下がっていた実の一部が急に大きく膨張し始めた。どんどん大きくなる実の重みに耐え切れず、次々に枝がしなり、地面についてしまいそうなほどにまでなっていた。ただ、どの枝も非常に頑丈かつしなやかだったので、実が魔王の背丈にまで巨大化しても、一切折れることは無かったようだ。

 そして、純白の殻に守られていた巨大な実が、少しづつ透け始めた。


 内部の構造は、どの実も全く同じだった。液体に満ちた空間の中に、1人の人間のようなものが浮いていたのである。健康的な肌に長い黒髪、大きな胸に細い腰つき、魅惑の腹に綺麗な尻、そして全く同じ髪型を持つその体は、白い靴下に茶色の靴、そして純白のビキニのみで覆われていた。

 そう、これらの実の中に入っているのは、全て『レイン・シュドー』と同じ姿形をした女性たちだったのである。その数、およそ1000人……。

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