女勇者、創造

「はあっ!」ほっ!」ふぅん!」はあっ!」はあっ!」ほっ!」ふぅん!」はあっ!」はあっ!」ほっ!」ふぅん!」はあっ!」はあっ!」ほっ!」ふぅん!」はあっ!」はあっ!」ほっ!」ふぅん!」はあっ!」はあっ!」ほっ!」ふぅん!」はあっ!」はあっ!」ほっ!」ふぅん!」はあっ!」はあっ!」ほっ!」ふぅん!」はあっ!」はあっ!」ほっ!」ふぅん!」はあっ!」はあっ!」ほっ!」ふぅん!」はあっ!」はあっ!」ほっ!」ふぅん!」はあっ!」はあっ!」ほっ!」ふぅん!」はあっ!」はあっ!」ほっ!」ふぅん!」はあっ!」はあっ!」ほっ!」ふぅん!」はあっ!」はあっ!」ほっ!」ふぅん!」はあっ!」……


 400人対400人――純白のビキニ衣装のみに包まれた身体を大胆かつしなやかに動かしながら、800人のレインは大量の自分自身を相手に剣の腕を磨き続けていた。


 400の赤と400の青――二つの輝きを見せる双方の剣は、相手側のレインの剣を断ちきらんとする勢いでぶつかり合い、一歩も引かない戦いを繰り広げている。その動きは、1人で魔王に立ち向かった結果、完全に敗北を喫したあの時とは比べ物にならないほどであった。


「くっ、早い!」「レイン、上よ!」「おぉっと!」

「レインがこんなに素早くなってるなんて……!」「流石レインね」「そう言う貴方も」「レインだけどね!」


 相手側や味方の自分自身を褒めつつも、彼女は真剣勝負を続けていた。今までずっとビキニ衣装から覗く体に傷一つつかなかったほどの実力でも、まだまだ魔王には一切敵わない。だからこそ、目の前にいる存在――魔王によって体中に傷を負ってしまった自分自身を超える事、そして自分に打ち勝つ事が、自らの腕を上げる最善の方法である、とレインは感じていたのである。


「はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」はああっ!」……



 レイン・シュドーは、日々高みを目指し続けていた。


~~~~~~~~~~


 それは剣術だけではなく、魔術の鍛錬においても同様であった。


 仲間に裏切られるまではずっと『魔術』を仲間任せにし続けていた彼女は、一時期自分は魔力を使えない、だから剣の腕でカバーする、とまで考えていた。だが、それは自らが勝手に創り出した心の壁であり、実際は予想以上の魔術の腕を有していたと言う事を、魔王との暮らしの中でレインは知ることが出来た。

 最初の頃は巨大な食べ物やゴミの山を生み出してしまったり、変な場所に攻撃を出してしまうなど失敗も多かったのだが、毎日しっかりと鍛錬を続けた結果、今や漆黒のオーラを自在に操り、様々な事象を思いのままに操る段階にまで至ろうとしていた。何も無い場所に新しいものを繰り出す事など、彼女には既に当たり前の事になっていたのだ。


「はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」はっ!」……


 200人のレイン・シュドーが同時に気合を込めれば、目の前には彼女が出したいと望んでいた宝石の山が現れるまでになっていた。『無』から『有』を生み出すと言う、並大抵の魔術師でも実現できない事が、今の彼女には可能となっていた。だが、そう言う貴金属に目が眩む地上の愚かな人間とは違い、レインは一切これらに興味を示さなかった。それに今回の鍛錬の目的は、高価な宝石を無尽蔵に出す事ではないのだ。


 再び気合を溜めると「宝石」は彼女の目の前から消え、何も無い空間に戻った。そして、200人の彼女の周りは一斉に緊張感に包まれ始めた。


「さ、準備運動は終わりね」「そうだね、いよいよ……」「真剣にやらないと……」「ぶっつけ本番だし、ね……」


 ビキニ姿の体を動かし、健康的な褐色の肉体の力を抜きながら、200人のレインは思い思いに心の準備を進め、それらが終わった後、魔王に自信満々に告げた。



「じゃ、『魔王』」「しっかりと見ていてね」「私の成果を」

「ふん」



 相変わらずの冷たい返事だったが、今回はちゃんとした理由があった。今から彼女が行おうとしている行為に、魔王は否定的だったからである。


 確かに、今のレイン・シュドーの魔術の腕なら、自らの気合を込めれば何でも創造できるようになっている。剣の輝きを変えたり、高価な宝石も簡単に出せる。最近は自らの食料も、自分自身の魔術の力で創造するようになっていた。だが、それでもまだ『魔王』の域には全く及んでいない。魔王の持つ力は、命すら呆気なく創り出してしまうのだ。魔物のような仮初のものばかりではなく、ここにいる200人のレインのような普通の生き物と全く変わらない存在も、魔王は簡単に創造してしまうのである。


 そして、今回レイン・シュドーが挑もうとしていたのは、まさしくそれであった。


「はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」はっ……!」……


 2人1組になったレインはそれぞれ自分と向き合い、互いの中央にある空間に手をかざしながら、意識を集中し始めた。気合をいれ、歯を食いしばる中で、漆黒のオーラが少しづつ彼女の手から放出され、やがて100本の巨大な黒い柱になった。


 ここからが本番である。今まで何度も魔王が行っていた方法、そして毎回見ていたその光景を、200人のレインは一斉に頭の中で思い描き、それを実現しようとより意識を集中した。


「くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」くっ……!」……


 だが、今回彼女たちが創造しようとしているものは、頭の中にイメージを思い描くだけではなく、それを創りだしたいという願望や集中力を限界まで高めないと完成しないもの。オーラの色がどす黒くなるのと併せるかのように額や顔からは次々と汗が流れ始め、純白のビキニ衣装や褐色の肌も汗で覆われ始めていた。

 歯軋りをし、目を瞑りながら、レインは辛い時間を耐え続けた。彼女は決して諦めなかった。『世界平和』と言う未来のため、魔王を超えると言う目標のため、彼女は必死になって黒いオーラの柱に力を込め続けたのである。


「あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」あぁっ……!」……



 そして黒い柱は、彼女の努力に応えるかのように少しづつ形を変え始めた。天井まで伸びそうなほど大きくなった100本の柱は次第に小さくなり、レイン・シュドーと同じくらいの背丈になった。やがてその中央付近に一つのくびれが生まれたことをきっかけに、黒い柱は少しづつ何かの形を成し始めた。胸にあたる部分は大きく膨らみ、腹の部分は細く、腰回りはしなやかに、そして服装は――レイン・シュドーが頭で思い描いたように、柱は人間、それも女性の形になっていった。目を一斉に見開いた200人の彼女は、いよいよ最後の仕上げを行う段階に入った事を察した。目の前にある100本の黒い柱――いや、100人の女性の姿を模した物体に、命を吹き込むのだ。


「はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」……



 その瞬間、目の前の黒い柱から凄まじい光が放たれた。200人のレインはその眩さに驚き、全員尻もちをついてしまった。


「は、はぁ……」びっくりした……?」だ、大丈夫……かな?」さぁ……」


 ビキニ衣装に包まれた形の良い尻を一斉に抑えながら、200人の彼女は不安そうな声を上げた。もしかしたら失敗したのではないか、と言う不安が心の中に生まれてしまったのだ。

 だが、その様子をじっと眺めていた魔王から出たのは、どこか感心したような声だった。


「ほぅ……」


 その短い言葉を放ったとき、魔王がどういう顔をしていたのかは、仮面の下にあるため分からなかった。だが確かなのは、あの時レインを否定していた魔王の考えが、見事に覆されたと言う事である。

 何故なら、200人のレインを驚かせた光が収まった時、そこに佇み微笑んでいたのは――。


「うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」

「うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」

「うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」

「うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」


 ――大胆に露出した健康的な肌に黒く長いポニーテール、背中には大きな剣を背負い、服装は純白の大胆なビキニ衣装一枚のみ――200人のレイン・シュドーの魔術によって新たに生み出された、100人のレイン・シュドーだったのだから……。

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