第2話 ようこそ、異国人
・・・不思議なものね。こうして文章を書き続けているともう何十年も前の事なのに、まるで昨日の事のように鮮明に思い出せるわ。・・・おじいちゃん。貴方は必死に私を助けようとしてくれたのに、私は銃弾に倒れた貴方に駆け寄ることすら出来なかった。恐怖で、足がすくんで動かなかったの。・・・もっと、色々な話をしたかったわ。おじいちゃんったら、いつも黙ってばかりでちっともお喋りしてくれないんですもの。それでも、私は黙って寄り添ってくれた貴方の事が大好きだった。・・・もう少しで、私も貴方の元へ行ける。その時は、沢山お話しましょうね。・・・あっ、でもこんなおばあちゃんの姿じゃ、私がヴァイオレットだっていうこと、分からないかしら?・・・どうせなら、死んだらもう1度少女の姿に戻って、お空の上を駆け回ってみたいものね・・・。
・・・そうそう、それでね。奴隷船に放り込まれてからの意識は朦朧としていて、あまり思い出せないのよ。気がついたら、私は商品として奴隷市場に立たされていたの・・・・。
奴隷船に放り込まれてから、一体どれほどの時間が経ったのか。船の中は薄暗くて、日の光すら届かない。僅かなカンテラの光だけが辺りを照らしている。口にしたのは、僅かな水と硬いパンのみ。何時の間にか、空腹感は無くなっていた。「少しでも妙な動きをしてみろ。その時は直ぐに甲板に連れ出して、そこで貴様等の頭に銃弾をブチこんでやるからな。海に放り出して欲しくなかったら、精々大人しくしていることだ。」と、常に銃を手にした見張りの兵士に監視されており心の休まる時など一瞬も無かった。早い話、逆らったら銃で撃たれて、そのまま海へ落とされるということだ。・・・1人も、逆らう者はいなかった。皆、諦めきった顔で黙ったまま兵に従っている。生きているのにも関わらず、青ざめた死人のような顔をしていた。斯く言う私も、きっと鏡を見ればそんな顔をしているのだろう。起きては眠り、起きては眠る。そんなことを何回も繰り返している内に、何時の間にか波に揺られている感覚がパッタリとなくなっているのに気がついた。どうやら、やっと目的地に着いたらしい。「目的地に到着した。さぁ、立て!」数人の兵がドンドンッ!と足音も荒く入ってきて、ぐい、腕を掴まれて立たされる。私も含め、他の人たちも一緒に鎖で繋がれたまま無理やり外へと連れ出された。久しぶりに歩いたせいで、足がよろよろとおぼつかない。周りの人たちも皆そうみたいで、危なげにふらふらとしながらやっと歩いているようだった。「・・・っ!!」外に出た途端、眩しい太陽の光が目に差し込んできてあまりもの眩しさに、目が眩んだ。(ここは・・・。)時間が経つと、段々目が慣れてきて少しずつ周りが見えてきた。(何処なの・・・?)沢山の船、荷台や馬車がそこら中に停まっており、商人らしき格好をした人々が行き交っている。あちこちから、威勢の良い声が聞こえてくる。そして、好奇の目をこちらに向けてくる人たち。(・・・っ。)思わず、顔を逸らす。気味の悪い視線。・・・居心地が悪い。「いいか。貴様等はこれからまず風呂に入ってもらう。その後は食事だ。・・・こちらとしても商品価値が下がるのは困るからな。これから新しいご主人様に買われるんだ、身なりくらいは最低限整えてもらうぞ。・・・ハハハ、これが最後の晩餐になるかもな?」・・・何が面白いのか、笑いながら小馬鹿にした顔で一番先頭を歩いている兵が私達の方を振り返ってそんな事を言った。どうやら彼らにとって私たちは「人間」ではなく「商品」らしい。(・・・奴隷。・・・きっと死ぬまでこき使われるんだ。ボロ雑巾のように・・・。)こんな事なら、あの時おじいちゃんと一緒に死んでいればよかった。・・・おじいちゃんには、申し訳ないけど。(もう私の大切な人は何処にも居ない・・・。死んだら、きっとあの世でお父さんとお母さん、おじいちゃんに会える。)なんて、素敵な事だろうか。今の私に生きている理由など何処にもない。(死んでしまいたい。・・・死にたい・・・。死にたい・・・。誰か、誰か・・・。)
私を助けて。
場所:収容所
兵に連れてこられたのは、大きな薄暗い建物だった。入口にあった看板をちら、と見やると「収容所」という文字が目に入ってきた。中に入ると、数人の女性が待ち構えていた。「今から2時間後にコイツ等は奴隷市場へ連れて行く。お前たちはコイツ等を風呂に入れさせ、怪我をしている奴の治療を済ませておけ。食事を与え終わったら、裏口へ全員連れてこい。分かったな。」「はい。承知致しました。皆様のお食事のご用意は既に済ませております。どうぞこちらへ。」兵士の人たちは女の人に連れられて、何処か別室へと連れられていった。残った数人の女性が機械的な声で「皆さんはこちらへ。湯を用意しております。ついて来て下さい。」と言うと、くるりと方向を変えてゆっくりと歩き出した。(・・・?今の声、作り物のような感じが・・・。)見た目は、人間そのものだ。でも、随分と無機質な声だったように感じる。感情が一切無いような・・・。「妙な気を起こさないで下さいね。もし脱走を図った場合、即刻処刑を実行致します。」・・・ほら、やっぱり。まるでお人形が喋ってるみたいだわ。抑揚が無い・・・本当にこの人たち、人間なのかしら・・・。
浴場に着くとあっという間にその女の人たちに服を脱がせられ、ばしゃばしゃとお湯をかけられた。傷口が、しみる。久しぶりの風呂だというのに、感慨に浸る間もなくあっという間に浴場から出され、乱暴に大きな白いタオルで全身を拭かれた。オマケに濃厚な花の香りがする香水まで仕上げと言わんばかりに全身余すことなくシュッ、シュッ、シュッとかけられて、何だか気分は最悪だ。(この女の人たち、見た目の割に力が強い。・・・逆らえない・・・。)皆、無表情でたんたんと作業をしているため何を考えているのかは全く分からないが、やっぱり人間離れしている人たちだと思った。右腕に巻いてあった薄汚い包帯も真っ白な新しいものへと変えてもらい、塗り薬も塗ってもらった。傷口も塞がっていたと思う。「・・・・・。」包帯を変えてもらっている間、じっと目の前の女の人を見つめていたけれど見れば見るほど「違和感」を感じる。(この人たちは、ここの女中のような存在なのかしら。・・それにしても、綺麗な人。・・・綺麗過ぎて、逆に不気味なくらいな・・・。)そう。違和感を感じたのは声だけではなく、その見た目だ。皆非常に整った顔をしていた。・・・薄ら寒いものを感じる程の、だ。それに皆何処か顔つきが似ているような・・・。姉妹と言われても納得してしまいそう。・・・この「違和感」の正体は後に判明する事になる。
食事は、パンに野菜のスープにチーズ、リンゴやブドウなどの果物が出てきた。久しぶりのまともな食事に、他の人たちは皆飢えた獣のように一心不乱でかぶりついている。・・・はっきり言って食欲は無い。(・・・食事なんかして、一体何になるの?)さっきの、最後の晩餐だと嘲り笑った兵の顔が頭に蘇る。「・・・・・。」(食事なんてしたところで・・・、意味無いじゃない。私は早く死にたいのよ。)・・・この時の私は恐ろしい現実を突きつけられて、すっかりと生きる気力を無くし、ただただ死にたいとばかり願っていた。早く死んだ両親とおじいちゃんの元へ逝きたいー。それしか考えられなくなっていたのだ。「・・・・。」全く食事に手をつけない私に違和感を感じたのか、ギロリ、と先程の女性の内の1人が睨みつけてきた。・・・分かっているわ、「食べろ」といいたいのね。・・・仕方無く、目の前にあったスープを口につける。(・・・美味しい・・・のか不味いのか・・・、よく分からない・・。)
・・・結局、殆どそれきり何も口にしないまま私は収容所を後にした。その後間もなく、一体何処に連れていかれるのかも分からないまま、乱暴に広場に停まっていた馬車に放り込まれる。(暗い・・・狭い・・・。怖い・・・。)結局、私は死にたいと願いながら何処かでまだ生きたいと願っている。・・・さっきだって、もし逃げようとしたならば直ぐに銃で撃たれて死んでいたはずだ。死にたいなら、そうすればよかったのだ。(でも、血塗れで倒れたおじいちゃんを、嫌でも思い出す。)苦痛に歪んだあの顔。痛くて痛くて苦しみながら、私も死ぬのだろうかー・・・。・・・嫌だ、怖い。(もう自分が分からない。生きたいのか、死にたいのか。)数日前までは、おじいちゃんと一緒に貧しいけれど、至って平和な日々を過ごしていたのだ。なのに、何でこんな事に。(・・・私が、何をしたというのかしら。)きっと、この場にいる誰もがそう思っているはずだ。・・・。・・・・・・。・・・・・・。・・・・・・・。
場所:奴隷市場
目の前には、高そうなスーツやドレスを身にまとった如何にもお金持ちそうな老若男女の人たち。私は見世物小屋の動物のように好奇の目に晒され、鎖に手足を繋がれたまま薄暗い広場に立たされていた。「さぁ、紳士淑女の皆様!長らくお待たせ致しました!今日はここより最北の地、スノーデン王国より参りました雪の民がお見えですよ!どうです、この真っ白な肌!珍しい髪色や瞳の色をした者も多数おりますよ!」司会らしき怪しげな格好をした男が耳に纏わりつくような声で挨拶をすると、あちこちから歓声が聞こえてきた。「さぁ、まずはこの者から!出身はスノーデン王国のキルシュ地方、18歳です!それでは、まずは200リールから始めさせてもらいます!さぁ、どんどん手を挙げてくださいませね!」1歩前に進み出てきたのは綺麗な金色の髪をした女の人だった。顔は俯いていて、どんな顔をしているのかは分からない。次から次へと、手が挙がる。・・・目の前の光景が、信じられない。人間に、値段をつける。好奇に満ちた目、目、目。吐き気が、する。「おっ、2000万リール出ました!他の方、いませんか?10数えますのでその時間でもし他の方が居ませんでしたら今の方が落札という形をとらせていただきます!・・・10,9,8,7,6,5・・・・もう皆様、よろしいですか?・・・4,3,2,1・・・・・・0!・・・おめでとうございます!先ほど挙手なさった紫色のスーツをお召しになった男性の方!どうぞ、こちらへ!これから手続きを致しますので、係の者の指示に従ってくださいませ!」上等な濃い紫色のスーツを着た40代くらいに見える男性が周りに会釈をしながら、前へと進み出てきてそのままこれまた怪しげな格好をした男の人に何処かへと消えていった。そして、例の綺麗な金色の髪をした女の人もゆっくりと歩きさっていく。・・・・。(人が、私の、目の前で「商品」として売られた・・・。あの人、これからどうなってしまうのだろうか・・・。)頭が、ぼうっとする。「さぁさぁ、次はこちら!21歳の働き盛りのスノーデン王国、フィリア地方出身の青年です!まずは300リールから始めさせてもらいます!皆様、どうぞ手を挙げてくださいませ!」次から次へと、手が挙がり、落札した人々が何処か誇らしげな顔で前へと進み出る。あちこちから歓声や拍手があがる。そして、俯いて売られた人たちが1人、1人、と退場していく・・・。私は・・・、「さぁ、これで最後でございますよ!スノーデン王国のフィリア地方出身の15歳の少女です!見てください、この瞳!まるで宝石のように綺麗なアメジスト色の瞳をしているでしょう?まずは500リールで始めさせてもらいます!さぁ、皆様どうぞご挙手を!」・・・私に、値段が次々へとつけられていく。・・・それを、何処か他人事のように見つめる。・・・私を買いたいなんてもの好きな人もいるのね。この瞳の色が、そんな珍しいの?でも、きっと失望するのよ。私は可愛くもなければ美人でも無いし、愛想も無いし、のろまで愚図なのよ。どうせ直ぐに飽きて、買ったことをきっと後悔するわ。・・・いいえ、絶対に後悔するわ。「3500万リール出ました!・・・他の方、居ませんか?・・・おめでとうございます!さぁ、どうぞ前に!」・・・終わったのかしら?ゆっくりと顔を上げると、豪華な真っ赤なドレスを着た、まだ20代くらいに見える女性がお付らしき黒いスーツを着た男の人と一緒に前に出てきた。(・・・この人が、私を買ったの?)その女性は優雅な仕草で皆の前で会釈すると、ちら、と私を見つめて妖艶に微笑んだ。「・・・・っ・・・。」綺麗な人だけど・・・、きっとこんな所に来ている時点でまともな人では無いはず。・・・身なりも振る舞いも、お金持ちだということが分かる。私とは、生きている世界が違う人だ。「さぁ、お前もこっちへ来い。手続きを済ませる。決して無礼な事をしないように。分かったな。」「・・・はい・・・。」私も今までの人と同じように係りの人に連れられ、広場から離れる。少し歩くと黒い天幕に覆われた小さなテントのようなものが幾つか軒を連ねており、その内の1つに入れと指示をされた。恐る恐る中に入ると、中には丸いテーブルを囲うようにイスが4つ置いてあり、宝石をジャラジャラと付けた商人らしき男と先程の赤いドレスの女性と黒いスーツの男性が座っていた。「おお、お前か!今丁度手続きが終わったところだ。さぁ、新しいご主人様にご挨拶なさい。こちら、貴族の令嬢であられるマルグリット・ブルノー様だ。そして隣に居られるのが、マルグリット様の専属執事であられるクレマン殿だ。さぁ、名前を言って。」「は、初めまして・・・・。ヴァイオレット、と申します。・・・・・よろしくお願いいたします、え、えっと、ブルノー様、クレマン様・・・。」「あらあら、目の前で見ると一層可愛いわね!よろしくね、ヴァイオレット。それから、あたくしの事は気軽にマルグリットと呼んで頂戴。クレマンの事も、呼び捨てでいいわよ。」「はい。初めまして、ヴァイオレット嬢。私の事はクレマン、とお呼び下さい。」マルグリット・・・様は人が良さそうな笑みを浮かべ、クレマン・・・さんは礼儀正しくペコリ、とお辞儀をした。・・・何だか、想像していたのと違う・・・・。「おやおや、随分とお気に入りのようで。・・・はい、これで取引が終了致しました。お気をつけてお帰りくださいませ。」「えぇ、また来るわ。さぁ、ヴァイオレット。こちらへいらして。これからあたくしのお屋敷へ行きますわよ。・・・ふふふ、そんな不安げな顔をしないで頂戴。貴女に危害を加える気は更々ありませんの。・・・・ただ、あたくしは貴女とお友達になりたいだけですのよ。」・・・お友達?私と?この人は何を言っているの・・・?マルグリット様に手を優しく引かれ、奴隷市場を後にする。ちら、と後ろを振り向くとまだ深々とお辞儀をしたままの姿勢でさっきの商人の男の人がテントの前に立っていた。(・・・奴隷市場・・・。本当にこんな所があったのね・・・。)こんな所、無くなればいいのに。俯いた顔で他の人の元へ売られていったまだ若い男の人、女の人・・・、まだ小さな子供もいたように思う。・・・・・・少し歩くと、立派な馬車が何台も停まっている場所へとたどり着いた。「これが、あたくしの馬車ですわよ。クレマン、運転をよろしくね。さぁ、ヴァイオレットはあたくしの隣に。疲れたでしょう、お屋敷に着くまで寝ていても構いませんことよ。帰ったら、ご飯に致しましょう?・・・あと貴女にピッタリのお洋服もこさえないといけませんわね。ふふふ、どんなドレスが似合うかしら・・・。」その中でも特に立派な大きな2頭の黒い毛並みの馬に繋がれた豪華な装飾が施された馬車へ案内された。・・・絵本に出てきたお姫様の馬車みたい・・・。中も、正に絢爛豪華という言葉がピッタリな内装になっていた。「クレマン、出して頂戴。ヴァイオレット、少し揺れるから気をつけて下さいませね。」「かしこまりました。では、出立致します。」パシン!と馬を鞭で打った音が響いた後、静かに馬車が進み出す。「・・・ところで、ヴァイオレット。あたくし1つ気になった事があるのだけれど、その右腕に巻かれた包帯は一体どうしたんですの?お怪我を?」「あ、・・・は、はい。その・・・、私の村は帝国軍に焼かれて・・・・・、その時に逃げようとしたら腕を銃で撃たれてしまって・・・。」「まぁ、本当ですの!?こんな可愛らしい女の子に銃を向けるなんて、信じられませんわ!何て野蛮な輩なのでしょう!・・・そう、村を焼かれて・・・。そしてそのまま奴隷船でここまで連れてこられたんですのね。野蛮な帝国軍の輩が如何にもやりそうな事ですわ。」「あの、・・・一体此処は何処なのでしょうか?あと、今日は何月の、何日なんでしょう・・・。それに、私の村は一体・・・。」・・・ずっと、聞きたかった事。他にも、わけのわからないことだらけだ。頭の中がパンクしそう。「落ち着いて。・・・まず、ここは機械都市:グリギット・ギアですわ。ご存知でして?貴女はスノーデン王国出身でしたわね?そこから船で1ヶ月程かかりますわね。飛空船でしたら、3日程で到着しますわ。そして今日は12の月の5日ですわね。・・・貴女のいた故郷は・・・、もし街の名前を教えてくださるのでしたら、あたくしのほうで調べてみますわ。ただ、あまり期待はなさらない方が貴女のためですわね。・・・ここまで、大丈夫かしら?」「グリギット・ギア・・・?・・・えっと・・・、世界の中でも特に文明が発達していて、商人たちが作り上げてきたという大国・・・と聞いたことがあります・・・。」「そう、その通りですわ。・・・戦争で自動人形(オートマタ)をいち早く導入した事で有名なんですのよ。現在は帝国とは同盟関係にありますわね。」「オート、マタ・・・?」聞きなれない単語だ。「あら、ご存知無いかしら。動く人形のことですわ。見た目は人間そっくりなんですのよ。でも人間よりも頑丈で、疲れ知らずですし食事も睡眠も必要ありませんから、戦争の道具として重宝してますの。それ以外にも、色んな所で活躍していますわね。・・・その顔、もう見たことがあるのかしら?」きっとあの女の人たちは、オートマタだったんだ・・・!本物の人形だというのなら、納得出来る。「あと、私が船に乗ったのは確か11の月の29日だったと思うのですが・・・。先程私の国からは1ヶ月かかると・・・。」「帝国の作り上げた船は風の精霊の加護を受けていると聞きましたわ。恐らく通常の船よりも遥かに早く航海が可能ですわね。・・・あたくしも細かい事は分かりませんが、兎に角「凄く早くはしれる船」だったという事でしょう。」・・・。・・・段々、今の自分が置かれている状況が分かってきた。・・・でも、分かった所でこれからどうすればいいのだろう?・・・・逃げる?といっても、今の私に帰る所なんてない。お金も無い。逃げた所で、路頭に迷って飢え死にするのが目に見えている。(別にもう死んでもいいけれど・・・、せめて私の村がどうなったのかは知りたい・・・。)もしかしたら、皆死んでしまったかもしれない。それでも、・・・真実を知りたい。(・・・あぁ、帰りたい。)何も、無いところだけれど。あの雪に覆われた大地と、静かで大きな海をもう1度だけ見たい。・・・それで、あの青い屋根の家に帰ったら、暖かい暖炉の前にロッキングチェアに揺られながらおじいちゃんが座っていて、それから・・、
「・・・ヴァイオレット。貴女に今必要なものは休息よ。・・・安心して、貴女にあたくしの奴隷になって欲しいんじゃ無いんですのよ。家事や雑用は全て屋敷の召使たちにやらせますわ。貴女は、あたくしの大事な客人ですのよ。・・・そうそう、つい昨日のことなんですけれどね。貴女と似たような境遇の男の子を客人として迎えたばかりなんですの。・・・ふふふ、きっと仲良くなれると思いますわ。・・・眠いのでしょう?お屋敷に着いたら、起こしてさしあげますから少しお眠りになったら?」・・・確かに、眠い。今更疲れが、どっと押し寄せてきた。(・・・この人たちがどんな人なのかも分からないのに、信用しちゃいけないのに・・・。)そんな人たちの前で呑気に寝るなんて。本当なら駄目なんだろうけれど、眠気が襲いかかってくる。「お休み、ヴァイオレット。」優しげな声を最後に、私はゆっくりと瞼を閉じた。
場所:???
?「おい、あいつは一体何処に行ったんだ?姿が見えないが。」
?「おかしいねぇ、そろそろ帰ってきてもいいはずなんだけど・・・。」
?「全く、何処で道草をくっているんだ。あれ程寄り道はするなと言ったのに、学習しないやつだな。」
?「どうするんだい?あの子はちょいとばかし能天気な所があるからねぇ。面倒事に巻き込まれてなきゃいいけど。」
?「ただの馬鹿だろ、あいつは。・・・はぁ。あんな拾い物するんじゃなかった。・・・気が進まないが、仕方ない。・・・探すか。」
?「行き先は1番街だったね?・・・よし、使い魔を飛ばして少し偵察してみるか。お前たち、出番だよ。」
?「1番街・・・。貴族共の屋敷だらけの所か。俺はあまり好かないな。」
?「あたしもさ。どうも金持ちの連中ってのは気に食わないよ。近頃じゃアイツ等、奴隷市場に通っているそうじゃないか。あー、嫌だね。悪趣味にも程があるってもんさ。」
?「如何にも金持ちの道楽、というかんじだな。・・・さて、情報が集まり次第出発するぞ。・・・何だか、面倒事の予感がする。」
?「あんたの勘はよく当たるからねぇ。あたしもしっかり準備しとかないと。」
?「あぁ。頼んだ。・・・この予感が杞憂である事を願うばかりだな。」
(続く)
登場人物その2
マルグリット・ブルノー 女性 168cm 26歳 髪:茶色 瞳:深緑色
名門貴族:ブルノー家の長女。父親は巨大な貿易会社を運営しており、世界中を飛び回っている為家の留守を任されている。好奇心旺盛でお喋り好きな女性。自分のブランドを持っており、主にドレスをオーダーメイドしている。ヴァイオレットの綺麗なアメジスト色の瞳に惹かれて彼女を奴隷市場で高値で落札した。優しく真摯にヴァイオレットに接するが・・・?
クレマン 男性 180cm 36歳 髪:黒色 瞳:茶色
マルグリットの専属執事。寡黙で礼儀正しい性格。何でもそつなくこなす。マルグリットの為ならばどんな事でもやり抜く信念を持っている。
キーワード
機械都市:グリギット・ギア
著しく文明が発達し、全世界中でも常に最先端をいっている大国。商人や職人たちが作り上げてきた国。貿易も盛んである。ヴァルフレア帝国とは同盟関係にある。自動人形(オートマタ)を戦争で活用した一番最初の国として有名。
大国だが貧富の差が問題となっている。
1~6番街が存在し、1番街は上流階級が暮らす豪華なお屋敷だらけの街で一部の限られた人間しか住めず、王宮に一番近い。2番街は主に中流階級の者が住み、3番街には下流階級~庶民レベルの者たちが住んでいる。4番街は主に商人や職人が住み着き、そこらじゅうに様々なお店が立ち並んており街まるごとがマーケットのような場所。5番街は主に人間以外の種族が暮らしており、独自の生活網を作りあげている。6番街は完全にスラム街と化しており、そこら中にホームレスや乞食、泥棒が潜んでいるため近づかないほうが身の為である。
自動人形(オートマタ)
その名の通り、動く人形。心臓部分に、動力源である「魔石」が組み込まれている。この「魔石」が抜き取られたり、破壊されると強制的にスリープモードに入り動けなくなる。コミニケーションをとることが可能。大きく分けて3つのタイプが存在している。
戦闘タイプ:戦闘に特化したオートマタ。主に戦争や街の警護役で使用される。コミニケーション能力は低めで、限られた言語しかインプットされておらず一番「人形らしい人形。」最も個体数が多いタイプ。
サポートタイプ:人間の補助に特化したオートマタ。病院や飲食店で使用される。一部販売もしており、金持ちの貴族が使用人変わりとして購入する場合もある。コミニケーション能力が高く、様々な知識がインプットされている。
万能タイプ:上記2つのタイプを合わせたオートマタ。性能が1番高い。が、その分制作費がかかる為個体数は少ない。最も人間に近く、判別が難しい。
奴隷市場
その名の通り、人間を商品として売買している闇マーケット。勿論世界的には禁止されているが中々無くならないのが事実。帝国は戦争を仕掛けたその国ごとに制圧する度に若い男女を中心に拐い、ここで売りさばいている。この儲け分は帝国の軍事費に一部入っている。主に帝国の同盟国の各港にひっそりと存在しており、売られてきた者達は労働力として貴族の家に買われていく場合が多い。定期的にオークションが開催されており、活気に満ちている。
収容所
戦争で敵国から捕獲した捕虜を閉じ込めておく施設。ここに収容されたが最後、2度と日の光は拝めない。拷問室や処刑部屋も存在している。女性型のオートマタが徘徊しており、収容人の世話や監視を行っている。新たな奴隷を手に入れた場合、価値を少しでも上げるため身なりを整えさせるために浴場と食事部屋を開放する場合もある。
スノーデン王国
ヴァイオレットの出身国。北に位置する高い雪山に覆われた難攻不落の王国と言われているが、最近は徐々に帝国に侵略されてきている。非常に寒く、ほぼ1年中雪が降っている。国民の特徴として、白い肌と色素の薄い髪色等が挙げられる。他の国々からは「雪の民」と呼ばれている。王都より西側がキルシュ地方、東側がフィリア地方と呼ばれている。
✖✖✖の日記 藤城まい香 @meia_22148
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