エア・コンプレックス・コンダクター
私は、『エア・コンディショナー』。エアコンと略して呼ばれ、室内の気温を下げたり風を送り込んだりして人間に快適な空間を提供するあれだ。何でそのエアコンが喋っているかと言うと、私が特別製のエアコンだからだ。実は私はある魔法使いが作った魔法のエアコンなのである。
その魔法使いは悩んでいた。快適さを求める人の欲は、あって良い物だと思う。ただ、どうも自然環境だけでなく、作った道具、ひいては人間自らをも粗末に扱ってしまっているように思っていたのだ。そこで私を開発しようと研究を始めた。
その魔法使いが注目したのは『ヒートアイランド現象』と呼ばれるもの。ヒートアイランドとは、都市部の気温が周りの地域に比べて高くなること。原因として考えられているものは、地表を人工物で覆っていること、高層ビルが密集していること、様々な排熱が多く行われている、などである。
だが、その魔法使いの考える原因は『暑い時期に人が外に出なくなったため』というものだった。
熱中症という言葉が多く使われるようになってから、魔法使いは更に考えた。
生き延びる為とは言え、道具に頼り過ぎるのは良くない。もしも電力が全てストップするような事態になった時、暑さに耐えられない体であったなら全滅してしまうのではないか、と。
その二つの考えを合わせて作られたのが私と言うわけだ。
私の機能はどんなものかと言うと、リモコンの設定温度に部屋の温度を調整し、風を送り空気を回す。そこまでは普通のエアコンと変わらない。私が他と違うのは、設定温度の表示はそのままに、徐々に温度を上げていくというものだ。そして室外機についているセンサーと連動して、人が外に出たくなる状況を作り出す。詳しくは開発元のDD社の企業秘密に該当するので話せないが、大まかに言うと自然の風を感じると気分が良くなる魔法を作ったということだ。当然、各種の法令に引っかかる。仕組みがばれたら大変なので、私と同じタイプのエアコンを使用している方は内密に願います。
ある時、ちょっとした自然の神秘を魔法使いは見つけた。
物体が動けば周りに充満している空気が動く。わずかでも風が起こる。それが合わさって自然の一部となる。人も動けば同じようになるだろう。人は体を動かし、口と鼻から呼吸する。皮膚でも呼吸をしている。言葉を発する際には舌が動き、肺を使い、横隔膜や腹筋を動かす。座っていても立っていても、基本的に地面に向かって引っ張られ、その反対の力でその場にいる。そしてそれらの力が周囲の環境と連動している。
つまりその結果として気温や気圧の変化が起こり、風や雨などの気象にも影響が出ているのではないか、と魔法使いは見たわけだ。
そして、その研究はまだ続いている。未だ解明されないものを私は聞いた。
もしも、
人の生み出すエネルギーが膨大であり、自然がその使い方を解らないとしたら?
人が動かさなければならないものを自然が肩代わりできないので、熱というもので集積しているとしたら?
『人に外に出て欲しい。好い気分で外に居て欲しい。』と、都市部の環境が求めているとしたら?
田舎に行った都市部の人々が良い顔をしているものだから、このままにしておく方が良いんじゃないかと全体で思っているとしたら?
まあ、それは魔法使いの今後に期待するしかない。私は人がいないと成長できないからね。
(終わり)
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