ペルセウス・シェル
風祭繍
ペルセウス・シェル
20XX年、アフリカ大陸の某国に軌道エレベータを建設するプロジェクトが始まった。
建造する資材、その強度、それを調達する資金、テロへの警戒、未踏の領域故の右往左往など不安材料は盛りだくさんだったが、プロジェクトが動き出すと、全てが驚くほどスムーズに進んだ。その理由は、Luca Magnelctri という研究者が開発した新素材、ペルセウス・シェルというものに起因する。このペルセウス・シェルを生成するためには、三つの要素を入力し組み込む必要がある。それぞれは、さらに二つに分かれているため、全部で六つの入力が必要となる。それらが入力され生成が完了すると、ペルセウス・シェルは必要とされる場所に埋め込まれることになる。不思議なことに、こうすると何故か作業が上手くいくのだ。現場の職員によると、作業どころか、建設現場周囲の土地、住民、自然の環境など、全てが味方になったかのように感じるらしい。
ペルセウス・シェルに関しては全てがブラックボックスとなっており、仕組みは明かされず、研究者たちも謎が解明できていない。そして開発者のLuca Magnelctri という人物の正体も謎に包まれている。事業に関わる者達には、ペルセウス・シェルの生成キットが送られてくる。キットと共に生成方法とそれについての若干の説明を記した文書が配布されるため、それを記しておく。
ペルセウス・シェルの生成方法を以下に記す。
(ただし、これが全てと思わないこと)
1) デザイン
最初の入力要素はデザインと呼称する。
(気に入らなければ好きな名前を付けて構わない)
ペルセウス・シェルを埋め込む場所での作業工程において、最良の結果と、最悪の結果を事細かにイメージし、それをワールドパラメータ変換プログラムに乗せ入力すること。
2) クエスト
二番目の入力要素は、クエストと呼称する。
ペルセウス・シェルを埋め込む場所での作業工程において、困難な事態と、それを突破する作業従事者を事細かにイメージし、キャラクターパラメータ変換プログラムに乗せ入力すること。
3) ベース
三番目の入力要素はベースと呼称する。
ペルセウス・シェルを埋め込む場所での作業工程において、十分間作業した場合と、十分間何もしなかった場合の状態を感情を込めてイメージし、リワードパラメータ変換プログラムに乗せ入力すること。
(※)予定や状況の変化に応じて、何度も生成してみることをお勧めする。上手くいかない場合も、継続しつつ生成を繰り返し、変化を持たせてみると良い。
4) 考察 (ここから先は、生成と運用に関係の無い話が続く。)
私は、遺伝子についていくつか疑問を持っていた。DNAというものだけでは、生命の情報を伝えることが出来ないのではないかと常々考えていた。そこで一つ思ったのだが、遺伝子の役割は、最も好ましいものだけではなく、最も嫌うものも伝えるのではないかということだ。そこで想像した。世界を救う英雄と、世界を破滅に追いやる魔王の存在を。
同じように模倣子と呼ばれるものにも疑問を持っていた。語り伝えられる何かによって人の心は形作られる。だが、どうしてもそこから反発し、それらを破滅に追いやるようなものも出てくる。つまり、語り伝えられる何かには、最も理想とする何かと、最も嫌悪する何かが含まれており、そのバランスが個人によって異なり、様々な人格や性格が生まれるのではないかと。そこで想像した。英雄が正義を成すプロセスと、悪に堕ちるプロセスを。
そして、もう一つ何かがあるように思っていた。世界を描き、英雄が成長する。その繰り返しを促す何か。一日を振り返り、体と心を休める家のようなもの。旅の途中ではベースと言ったところだろうか。最終目的に到達するまでに、己の歩みと、周囲の反応、そしてこれからどうするか、と考え、歩む。それを維持するもの。
そんなことを考えているうちに、またイメージが湧いてきた。人間が生きた過程には、その人間がしたこと、しなかったこと、好ましいと思ったもの、好ましくないと思ったもの、その全てが含まれているのだと。それらが対を成し、絡まり合う。まるで二重螺旋のようだと思った。
もしも、この地球に存在する生命が、地球という星の遺伝子の役割を担っているとしたらどうか。DNAから作られたタンパク質が生命の細胞を作るように、人類が地球環境と共に作り出す人工物が星の体を作っているとは言えないか。人類が地球から飛び出しそうとする力は、別の星に地球という星の遺伝子を刻もうとする力ではないのか。
宇宙空間に存在するブラックホールは、あらゆるものを吸い込む。もしも、その重力に見合った質量をあつめ、星を生み出そうとしているとしたらどうか。新たに生み出される星に向けて、星の遺伝子を送り込む、星同士の生き残り競争でもあったとしたらどうか。
私は、宇宙に関する知識には疎いので、後半はただの想像だ。だが、ブラックホールのことを調べているうちに、また一つ想像した。ブラックホールから光は脱出することはできない。一般相対性理論によれば、この宇宙で物質は光速を超えることは無い。もしも、我々が住むこの宇宙が、巨大なブラックホールの内部だとしたら、なんて考えた。だからといって、どうなるのかは解らない。とにかく、良い仕事を期待します。ありがとうございました。
Luca Magnelctri
(了)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます