『二文銭の小赤』

 赤いヘアピンで髪をとめ、赤いヘアゴムで髪を結う。

 そして、予備の赤いヘアゴムを手首に付け、金魚すくいをする時は必ず五十円玉二枚で遊ぶ私を、人は『二文銭の小赤』と呼んだ。


 ちなみに、私が赤い金魚しかすくわないことから『赤備え』と呼ぶ人もいる。


 まあ、つまり……私はこと金魚すくいに関してはそれほどに強く、そして有名だったのだ。


 金魚とはすくうもの。


 観賞魚である金魚を『観る』ものではなく『すくう』ものと信じる私は、心のどこかで求めていた。

 自分にもすくえるかわからない金魚って奴を……。


 そして、私はその店に出会った。


 ―― 救えません ―—


 寒いギャグなのか、その金魚すくいの屋台にはそんな看板が立てかけられていた。

 お祭りの屋台の金魚は弱って短命になる。

 そういう意味では『救えない金魚』というのはすごく納得できた。

 しかし、私にはその看板が『金魚を掬わせない』という挑戦状にしか見えなかったのだ。


 ふんっとほくそ笑み、私はポケットから二枚の五十円硬貨を取り出した。

 そして、店番をするがたいの良い親父にこう言ったのだ。


「そこの金魚、少しばかし『すくわせて』もらおうか」


 と。

 すると、親父はにやりと歯を見せて笑った。

 そして、彼は低くしわがれた声を発しながら、丁寧に接客してみせたのだ。


「ええ、どうぞ。『遊んでいって』ください」


 そして、この後私は知ったのだ。

 そう、敗北の味って奴を――

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