『赤備え』あるいは『二文銭の小赤』

奈名瀬

敗北の味

 ポイが、破られた!

 ポイが破れた瞬間、私は勝負に敗れたことを知った。


 それは、本当に一瞬のことだった。

 私が一匹の小赤を薄い紙の上にすくいあげた瞬間、彼奴は動き出したのだ!


 生きるため、逃げねばならない!


 逃走という行動のための激しい闘争心を感じた。

 それは確かな殺意そのものだ!


 小赤は小さな尾びれを鋭く動かし、地面を砕き割るようにも私のポイを突き破った。

 そして、穴の空いたポイから水の張られた水槽の中へ、悠々と逃げ延びたのである。


 小さな体を揺らし、涼しげに水の中を泳ぐ小赤。

 ゆらゆらと漂う赤い背中……この光景を見せつけられた時、私は敗北感に打ち震えた。


 なぜ、こんなことになったのか……私は、二枚の五十円玉を握りしめ、店の前に立った時のことを思い返した。

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