第7話 一難去ってまた一難

「青い空、白い雲、見渡す限り続く紺碧の海、そして───」

「───昨日とはうってかわってストップ高なテンションの千歳にドン引きする女子2名。」

「いやそこで綺麗にオチをつけないでよ‼しかも何か自虐入ってるし⁉」

そう、俺達は海へと行こうとしていた。

「良いじゃない。どうせ続く言葉は下らないんだから。」

「………因みに何と続くのですか?」

エミリア様の発言は、俺をフォローすると同時に俺の心に王手をかけた。

「うぅ。」

「………どうしたのですか?言わないのですか?」

「こういう所で躊躇してるんじゃないわよ。エミリア様。このポンコツに代わって申し上げますと、───」

凄くわざとらしく間を空ける初瀬。

「………?」

「『───純白の砂浜!…………は無いみたいだね…。この湊には。船専用だわ。』……だと思いますよ。」

俺の声真似をする初瀬。予想に関してはぐうの音も出ないわ。

「その表情からするに、図星ね。」

「………初瀬様がおっしゃった通り、本当に下らないですね。」

「ぐはっ‼」

エミリア様、トドメを刺さないで下さいよ……トホホ。 しかも真顔で。


俺がトボトボと2人の後を追いかけていると、

「ほら千歳、もうすぐ着くわよ。前を見なさい。これもあんたの夢を達成する為の一環なんだから、シャキッとしなさいよ。」

「う、うん。」

何故いきなり俺の野望第1話参照がここで復活しているのか。

俺にもいまいちわかってない。

「つか、何でいきなり俺の夢がここで出てくるの?」

「あぁ、そういえばあの時正気が戻ってなかったわね。」

「………ご説明しましょう。ええとですね─────」

どうやら時は昨晩にさかのぼるらしい。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「それはな、千歳の好きな事を目の前にちらつかせるのじゃ。」

「成る程、それが一番手っ取り早そうですね。」

「………具体的な案はありますか?お父様。」

顔をニヤッとさせる国王。この表情を見たエミリアは更に詳しく聞こうとしたが。

「いや、わからんのじゃ。」

持ち上げておいていきなり落とす国王。

「………言っておいて無いって…。何か思い付かなかったのですか?」

「だから、それを初瀬に聞こうと思ってのぅ…。何か思い付かないかのぅ。初瀬よ、お主は千歳の幼なじみじゃろう?」

「え、えぇ。あいつの趣味なら……海軍趣味を筆頭に色々あり、その全てを私は把握していますけど、この世界では…少し難しいですね。」

「………食べ物とかはどうでしょうか?」

しばらく黙って考え、口を開いたが、

「いや、それは無理じゃろうな。今のこの様子を見る限りのぅ。」

それをすぐに国王に否定される。

「シクシク………、どうしたんですか?皆揃ってこっちを見て…シクシク………。」

エミリアも初瀬も国王につられて千歳を見たが…。、

「無理じゃな。」

「無理ですね。」

「………ですね。」

口を閉じて食べているにも関わらず′′シクシク′′という声を絶えさせないという器用な真似をする姿を見て諦めた。

「済みません、アイデアを出してくださったのに、私が形にする事が出来ず…。」

「いやいや、初瀬よ。ワシは当てがないとは一言も言っとらんぞ?」

と、再び持ち上げる国王。

「え⁉」

「………本当ですか?」

「ついのぅ、ワシの発言で一喜一憂する人の反応を見るのが面白くてのぅ。」

「………お父様、趣味が悪いです。」

「まぁ良いではないか。これ位。それより、当てが何か聞きたくないのかのぅ?」

「いえ、教えて下さい。」

無意識のうちに身を乗り出している初瀬。

それに気が付いて、顔を赤らめながら慌てて元に戻る。

「以前千歳が言っておったカイグンとやらはよく分からぬが、天箱てんそうと同じように大きな水溜まりの上を動くのじゃろう?丁度今朝から他の大陸から天箱てんそうの商人が来ておるのじゃ。それを見せてやればちょっとは良くなるのじゃないかのぅ?」

国王の言葉を聞き、目を見開く初瀬。

「それなら確実にまともに戻ると思います!では、早速明日連れて言っても宜しいですか?」

「わかったのじゃ。明日朝迄に紹介状をしたためておこう。」

「陛下、ありがとうございます‼」

「どうじゃ、エミリア。お主も行くか?」

「………えぇ、お父様。」



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「………という訳なのです。」

とっても分かりやすい。

「ありがとうございます、エミリア様。」

「じゃ、行くわよ。時間もおしてるしね。」

初瀬は急かす様に持っているスクールバッグを俺の足へぶつけ、すたすたと歩いて行く。

「おい、初瀬。何でスクバなんか持ってんの?」

「陛下に戴いた紹介状よ。さすがにそのまま持って行ったりしないわ。」

「そうだな。」

奪われたりしたらどうなることやら。考えるだけで怖い。

ちょっと急ごうか。




急ぐといっても、

そもそも港(?)とラウィニウム城は目と鼻の先だから、徒歩30分位だ。

すぐ着いたわ。


城下町兼港町に着いて目についたのは、沢山の屋台。通りの端に隙間が無い程並んでいる。

お祭り騒ぎだね。

「………半年に一度しか来ない天箱てんそうの商人がやって来ているのです。珍しい物を沢山持って来るので、この様な騒ぎにならない方がおかしいでしょう。と言うか、私がこれまでお城から眺めていた時は必ずこんな感じでしたよ。」

こそっと耳打ちして教えて下さるエミリア様。大変ありがとうございます。


「とりあえず、今回の目的を最初に済ませましょうか。もうこいつの調子からしていらない感じもするけどね…。」

「いえ、行かせて下さい初瀬様‼」

「都合の良い時だけへりくだるわね……。よくあるけど。」

良いじゃないか。でもないと途中で中止とか言われても困るし。

「まぁ、陛下が書いてくださった紹介状を無駄にする訳にはいかないしね。エミリア様、行きましょう?」

「………えぇ。天箱てんそうはいつもこちらに泊まっていますの。」

エミリア様がおっしゃった方向は、更に混雑していた。歩けるのだろうか?


「………行きましょう。」

エミリア様の促しに応じて歩いて行こうとした途端、

「いてぇっ‼何だよ⁉」

初瀬に荒々しく肩を組まれた。…親父臭ぇ。

でも、表情は真面目そのものだ。

「ねぇ、千歳。貴方、その格好で行くつもり?」

「その格好って…ジャージの上下じゃやっぱ不味い?制服は洗濯してもらっている最中だから仕方なくこれなんだけど…。」

一応行く前にミレーナさんに確認をとってみたんだけど、にっこり笑顔で大丈夫ですって太鼓判もらっているんだよね。…それでも不味かったかなぁ?


「まぁ良いわ、私が何とかしてあげるわ。」

え?良いの?てか予想済み?初瀬が今凄く

尽くすタイプの妻ですっ♪

って雰囲気出してんだけど‼こんなに優しい奴だっけ?

いやそんな事より‼

「ありがとうございます初瀬様‼」

まずは礼儀でしょう。親切にしてくれる人に対しては。


「いえ、良いのよ。千歳の為だし。」

これがデレ到来なのか?普段からこいつはヤンデレ気味だとは思っていたけど!

刹那、初瀬がニヤッと嗤った様な気がした。


多分気のせいだよね、うん。

「じゃ、時間が勿体無いわ。早速行動に移すわよ。」

「そだな。」

言った途端、

強い衝撃が後頭部を襲い、意識が途絶えた。

























「………こんな方法で良かったんですか?新たなトラウマの種になりかねませんか?」

「大丈夫ですよ、エミリア様。こいつ、昔から散々無理矢理着せられてますし。昨日みたいにはなりませんよ。それに、エミリア様だって御覧になられたかったのでしょう?」

「………それはそうですけど。ちょっと面白そうですけど。まぁ、初瀬様が大丈夫って言うなら大丈夫なのでしょう。」

「ありがとうございます。それでは、少々お待ち下さいね、エミリア様。」

「………えぇ。楽しみにしてますね。」

「という訳よ。ミレーナ、着替えの場所は確保したわね?」

「ははっ、たった今完了致しました!」

「大儀であったわね。すぐに着替えさせましょう。運んでくれる?この大荷物ちとせ。」

「はっ、初瀬様の御心のままに。」

「宜しく頼むわね!じゃ、行くわよ。」

「………そんなに日が経って無いのに、ずいぶんミレーナ使いが手馴れてますね。」











「うーん、いてててて。」

「あ、起きた?いきなり木材が飛んできて、不幸なことに千歳にぶつかって気を失っちゃったから、大急ぎで宿の部屋を借りたんだけど。大丈夫かしら?」

そういう事だったのか。タイミングが悪過ぎでしょ。

「どれ位気絶してた?」

「うーんと30分位?運ぶのに苦労したわよ。」

「それはすまん。」

173㎝55㎏の男子高校生1人を運ぶのはきついでしょう。そりゃ。

「謝るなりお礼を言うなりは、エミリア様に言って欲しいわ。魔術で手伝って下さったから、ずいぶん楽に出来たわ。」

そうだったのか。

「エミリア様、ありがとうございます。」

「………え、えぇ。お気になさらないで。」

若干エミリア様の笑顔がひきつっている気がする。営業スマイルっぽい感じもするし。


「時間が勿体無いし、……ってうん?」

何か股下辺りが涼しい気がする。 それに合わせて、初瀬とエミリア様が笑いを堪えてるし。何でだ?

何だか服が固い感じがするけど…。

「何か服が固く感じるけど…。」

そのまま声を出して聞いてみた。

「あぁ、ごめんね。気絶している間に着替えさせたわよ。」

顔を赤くさせているエミリア様。ちょっと恥ずかしい。初瀬には何度も見られてるし、気にしない。

「ぇ、マジ?」

「マジよ。これもエミリア様の魔術で補助していただいたわ。」

「あ、これもエミリア様ありがとうございます。それとすみません。お手を患わせてしまい。」

「………き、気にしてまぜんよ。」

さっきからエミリア様の様子がおかしいね。何でだろ?


…それより、股下が涼しいのが気になる。

右手を伸ばして探ってみた。

………………何か厚い布がある。手にとってみた。すると──


「………ちょっ。」

「はしたないわよ。」

2人は顔を再び赤く染め、堪えている笑いが大きくなる。

何なんだ?本当に‼


勢い良く起き上がり、右手をどけると──、





──そこは、スカートだった。

「はああああああああああああああああ⁉」

途端に笑いを堪えている姿から一変、大爆笑する2人。そういう事だったのか…。


「ねぇ、初瀬?これどういう事⁉ねぇ‼」

「見ての通りよ。寝ている間に着替えを済ませてあげたわよ。」

「そっちじゃねぇよ‼何でうちの高校の女子の制服なんだよ⁉」

そう、ただ女装させるだけでは飽きたらず、あろうことか高校の制服なのである。

「こんな事もあろうかと、今年の誕生日用に買っておいたわよ。渡しそびれてたけど、ごめんね!」

何で『ごめんね!』の所だけ可愛く言うんだろうか?憎らしい。

「今更かよ‼3ヶ月も前だぞ…。で、何で俺にぴったりなの?」

こいつなら俺の正確な体格を知っていかねない。しかも俺以上に。

「私が千歳の身長体重を始めチェストとかに至るまで知らないサイズがあるとでも思っているのかしら?」

ですよねぇ~。そうだと思ってました。

「あ、これも言い忘れてたから言っておくけど、適当に23㎝×23㎝位のタオルハンカチ2枚×2で盛ってるからね。」

うん?どーゆー事?

俺が疑問符だらけの顔で初瀬に問うと、

奴は無言で胸の辺りを指した。


下を向くと……


……普通に偽乳が作られていた。

しかも違和感がねぇ…。


初瀬暇人の所業に絶望していると、当人が耳元で囁いた。

「安心しなさいよ。落ちない様に私のお下がりを着けてるから。Cなんていう2年位前の物を保管してた私に感謝しなさいよ。」

どこに感謝する余地があるのか。呆れるばかりだよ。

そう考えていたら、一旦離れたと思った初瀬が再び耳元で囁いた。

「そのお下がりとか、この為に買ってきた男性用レディースパンツとかは、今後の女装に活かしてもらう為にあげるけど、───それをオカズにしたりしないようにしなさい。」

怖っ‼超怖っ‼

で、でもこいつ相手にそ、そういう気なんて起こんないんだからねっ‼

だけど、こんな事も考えていたら殺されそうになるから、表情には出さない。絶、対に。


「どうでしょうか?エミリア様。」

「………えぇ。とってもお似合いですよ。このブレザー、って言いましたっけ?と、短いスカートが見事に調和してますね。リボンも可愛らしいですし。」

「憎らしい事に、この様にロングヘアーのウィッグをつけると、私より女子っぽいんですよ。この極度な女顔が‼」

逆恨みされた。そんな事知らんがな。ってか矢鱈と髪の毛が鬱陶しいと思っていたらそういう事だったウィッグをつけていたのな。

「………そんな事無いですよ。初瀬様の方が女性らしさが出てますし。」

そうでなければ困る。あ、でも個人的には…いや、やめとこ。これ以上考えると何か初瀬に殺されそうだよ。


エミリア様の発言に対し、初瀬は凹んでいた。

「エミリア様に言われると、立つ瀬が無いんですけど…。」

「………何かおっしゃいました?」

あまりに小声だったから聞き取れなかったのは俺も同じだ。

「い、いえ、なにも。そ、そんなことよりも、千歳が目覚めた事ですし、行きましょう⁉エミリア様‼」

何か焦ってない?

「………焦ってませんか?」

「気のせいですよ。さ、行くわよ‼千歳!」

「ちょっと待てぃ‼俺にこのままで行けと⁉」

「そうよ。あんたはうざったい事に、下手しなくてもそこら辺の女子よりちょっと声が高いし、女顔だし、ウエストとか細いから、ウィッグとか着けた今男子と間違える奴はいないわよ。エミリア様はどう思われますか?」

「………私も男性だと言われなければ気付かないかと。あ、いえ、千歳様?千歳様が決して男性らしい要素が無い訳ではないですよ。た、例えば………ええと………し、身長とかですか?」

「俺、元の国でも平均位なんですけど…。」

「………そ、そうなんですか?」

「えぇ。千歳が言っている事は事実ですエミリア様。つまりよ‼千歳は背が高い女の子(ハァト)で通じちゃうのよ‼」

「あぁぁぁぁああ‼言っちゃった、今言ってはならない事言っちゃったよ⁉」

女顔なのちょっとコンプレックスなのに…。

続く初瀬から言われた内容が、

「それに、もうミレーナに千歳のジャージ上下は持って帰ってもらったしね。」

俺を諦めさせるのには十分だった。

てか俺を気絶させた犯人はあいつミレーナさんかよ…、多分。


俺はこの姿で行く他無いのか…。

「仕方ない。行きますか。」

「ね、エミリア様。こいつある程度諦めたらノリノリでしてくれるでしょう?」

「………その通りでしたね。」

「初瀬に何でもかんでも見通されてたのかよ。今更だけども。」

「そもそもだけど、男女比1:2より0:3の方が自然でしょ?天箱てんそうの商人達も男子より女子の方が聞き分け良さそうだし。」

建前はもっと早く言うべきなのでは?、と思わざる得ないよ。




宿を出て3人で歩いていると、妙に視線が突き刺さってくる感じがする。聞いてみたら、

「………日常茶飯事ですよ。」

「気にしない方が良いわよ。」

という答えが返ってきた。

恐らくこういう視線には慣れっこなんだろう。俺は一生慣れたくないけどね。


視線と引き換え?と言うべきなのか、心なしか俺達の通り道が不自然に空いている気がする。多分女子が通りづらいと配慮してくれているのだろう。男が混じっていてすみません。


おかげですんなり通れたから、5分位で敷物の上に沢山品物を並べている天箱てんそう商人の下へとついた。

「あの…すみません。」

「なんだい姉ちゃん達。俺達に何か用かい?姉ちゃん達位の美人揃いだったら、俺達が売ってる商品安くしとくぜ。」

海にいる為か、黒く日焼けして潮の香りが漂うゴツいおっちゃん達の1人に声をかけた。

「あはは…あ、ありがとうございます。今回は、買い物じゃなくて、見学をさせていただけませんか?」

「そいつぁちょっと難しいかもな。俺達も仕事で来てるからな、姉ちゃん達の遊びにゃ付き合ってられねぇな。」

「あ、一応おれ…私達紹介状をもらっているんですけど…ねぇ、あれ出してくれる?」

「わかったわ。……はい、これなんですけど…。」

「……なんだいこれ………っておい!これ本物かよ…良いぜ姉ちゃん達。ついた来な。特別にどこだって案内してやるし、どんな質問でも答えてやらぁ。」

こうして、天箱てんそう見学ツアーが始まった。


天箱てんそうに乗船してすぐに、

「早速だが、ここが姉ちゃん達の国向けの品や姉ちゃん達の国から買った品を置いて保管する所だ。後、下にも品置き場はあるぞ。」

指し示されたのは、木造の甲板。

数多の荷物が積まれている。

だけど、荷物の集まりのど真ん中位に

高くて、太い一本の柱があった。

明らかにマストだけど、

一応聞いておこう。その方が疑われずに済みそうだし。

「あの柱ってなんですか?」

「お、ちょっと説明を忘れてたな。すまんすまん。それはマストってもんだ。俺達はな、風の神様の主であるアイオロス様に、世の中の珍しい品を毎年献上して、風で商売の品を速く運べる様にさせてもらってんだ。」

「へぇー。そうなんですか。風が強すぎて折れたりしませんよね?」

「ははっ、それは考え過ぎだぜ姉ちゃんよぉ。何せ、このマストを取っ付けたのはアイオロス様だしなぁ。折れはせんよ。」

何かすっごい面白そうな話を聞けた。

「じゃ、紹介する所はまだまだあるから、次にいくぜ。」

「分かりました。」


「荷物が多いから、縁から身を乗り出して誤って天箱てんそうから落ちてくれるなよ。」

「分かりました。気を付けます。」

そう言われても、こちらが身を乗り出さないと通れない程に荷物は積まれている。

「…っ、おっとっと。危なかったぁ~。って、ぇ?」

バランスを崩してしまったせいで上半身を乗り出してしまったんだけど…。

それで見えた下には、何か船体が出っ張ってた。

しかも、そこから更に三段階でオールが突き出ていた。


これ三段櫂船なの?

「おい、姉ちゃん言った先から身を乗り出すなよ…まぁ好奇心旺盛なのはとっても良い事だぜ。ん?また何か質問かい?」

「はい。マストがあるのに漕ぐ必要があるのかなって…思いまして。」

「あぁ、それはなぁ、昔は使っていたらしいんだが、アイオロス様がマストをつけて以来要らなくなってそれっきりだ。取っ払おうにも皆方法がわかんねぇし、もし壊したらアイオロス様に顔向けできねぇってことでほおっておいているんだ。」

成る程ね。要らないけど、外せないから、ね。

尚、

本物の三段櫂船は、

通常は帆を張って風で航海し、

戦闘時は170人もの漕ぎ手がオールでこいで移動し、敵の船の横っ腹へと突っ込んで艦首に備えた衝角で大穴を開けるかオールを破壊して、最終的には横付けして30人位の戦闘員が乗り込み、近接戦闘で圧倒したという。

有名なのはサラミスの海戦だ。

「そうなんですか?あ、後一つお聞きしたいんですけど、ここでの商売ってとっても儲かっている様に見えるんですけど、どうしてもっと頻繁に来ないんですか?」

「あぁ、商売自体の話かい…それはな、売れ行きをその時その時できちんと把握して、商品ごとの利益率が最高効率になるときを推測し…」

「そんな事じゃないんですよ。」

「そんな事じゃない?だと?」

そう、俺が聞きたい事とはちょっと違う。

「今日こうして貴方に話し掛ける迄に通った道のりには何十という商人がいました。それは貴方の方でもわかっていられますでしょう。けど、こんな感じだと月に一度とかもっと頻繁でもこの天箱てんそういっぱいに品を積んでも売り捌けると思うんですよ。そっちの方が利益も高くなるはずですよね。それも承知の上で、なお半年に一度しか来られないって事は、利益以外にここ来れない理由がありますよね。それは何ですか?」

一つ一つ丁寧に反論とか茶々を入れられてもこっちの意見が満足に言えないだろうから、一気に捲し立てた。

天箱てんそう商人のおっちゃんも鳩が豆鉄砲を食らうどころか豆マシンガンで顔中が穴だらけにされた様な感じだよ。


やがて、おっちゃんは少し顔をしかめると観念したかのように口を開いた。

「………姉ちゃん良くわかったな。こいつぁちょっと話したくなかったんだが……まぁ気付かれちまったもんはしゃあねぇしなぁ…良いぜ。こいつも喋っちまおうな。良いか?耳をかっぽじって聞けよ?」

「何でギャルゲーの男友達みたいな喋り方するんですか?」

あの好感度とか、女子について教えてくれるあれね。

「ぎゃ、ぎゃるげー?」

「すみません。こっちの話です。続けて下さい。」

「ぉ、おう。えっとな、実はな、姉ちゃんは半年に一度って言ってるけど、俺達は一年に一度しか来てないんだわ。」

…………へ?

「じゃ、じゃあ…ここラウィニウムに来る商人って二組しかいないって…事ですか?」

「そうだ。正確には、ラウィニウムがあるこの大陸に、だけどな。」

魔王軍に攻められている13ヵ国のうち、ここが最大であるって言うのもこの交易のおかげかもしれないね。

「この大陸の他の12ヵ国はどう何ですか?」

「あぁ、昔先代が調べたみたいなんだがな、この大陸の国14ヵ国のうち、4ヵ国は内陸部に位置していて天箱こいつで行けない。で残る10ヵ国のうち、2ヵ国は港があるけど、荒廃しすぎて15年以上の修理が必要だし、港町が寂れ過ぎて復活は望めない状態。残ったうちの5ヵ国はそもそも港を作るのに適した海岸が無い崖だらけ。で、1ヵ国は戦争で交易に割く余裕はなし。後、ここ以外の後一つの国は、港町に適した海岸が沢山あるって言うか…適した海岸しかないんだけど、交易どころか調査が6割位済んだ時点で先代を見つけて、近付かない様に脅したらしい。よって、この大陸で交易できるのはここ、ユリウス王国だけって訳だ。」

「……」

現実的に滅茶苦茶厳しいのが良くわかったよ。恵まれてるって事も。

「話が逸れたな。戻すぞ。俺達がこうしてたった一隻で、しかも他の商人と合わせて半年に一度しか来れない理由はな、─────」

わざと一度置いて、はっきりと何かを言おうとするおっちゃん。

「───アイオロス様との契約でな、この天箱てんそうにマストをつけてもらったり、風で速く移動できたり、さらに天箱てんそうが永久に壊れなかったりっていう、商売に関する事を援助してもらった代わりに、毎年始めに世界中の珍品を集めて献上する儀式をやったりするんだけどな、それともう1つ、天箱てんそうが通る所と頻度をアイオロス様が制限を掛けているんだ。」

?

「ど、どういうことですか?」

「まんまの意味だ。例えば、ここに来る迄だったら、南にいくら進んだら、西南西にいくら進む、とかな。そして、年に二度だけ通って良いってな。もう1つのここに来る商人は知り合いなんだが、お互いに邪魔しちゃあかん、ってことで取り決めて半年に一度交互にって決めてあるんだわ。」

神様との契約って、正直供物だけかと思ってたよ。制限かけられたりするんだね。


「あ、そうそう。この契約に違反した奴が一度いてな、そいつは港町を出てからついぞ帰って来なかったらしいな。で、半年後に、残骸が漂って帰ってきたらしい。それを知った俺達の先祖とかは、慌てて契約の儀式を追加でしたそうだ。」

今軽ーくホラーな事を言われた気がする。


「そ、そういえば、魔物が襲って来たりしないんですか?」

「それも含めての契約だから、大丈夫だぜ。…最も違反したらどうかわかんねぇけどな。」

顔を真っ青にし、顎を小刻みに震わせるおっちゃん。

それを見てると、思わず顔が青くなってる気がする位笑えないや。

「まぁ、安心しな。こんな所で襲われる心配はねぇからなぁ。」

ガハハと豪快に笑うおっちゃん。


もし襲われたら、

この天箱てんそうを姿形通りオールで動かして衝角をぶつけるのかしら?

サラミスの海戦頃の海軍なんて

軍用船であろうとなかろうと

平時は海上輸送

戦時は戦闘

で使われてたし。


「じゃ、姉ちゃん達。中の案内するぞ。」

そうやって入って行った先には、

ここにも荷物しかなかった。

どんだけ買ってんだよ。

「まぁ姉ちゃんにはさっき言ったけど、アイオロス様のおかげで漕ぎ手が要らないから、品を敷き詰めて置いてるんだ。もっと下もこんな感じだな。」

え?まじで?

「どうやって生活するんですか?」

「それも見たい?…しゃあねぇな、漢の住むとこだぞ?臭くても文句言うなよ?つか絶対滅茶苦茶臭い。良いのか?」

「はい、大丈夫です!」

なんせ中身は男だしね。

「すみません、私はここで待ってます。」

「………私もそうさせていただきます。」

「そうか、わかった。……………しかし、あんな所に行きたいって…物好きもいたもんだなぁ…。」

物好きで悪かったな。


「じゃ、着いたぜ。俺達10人は一番下のここで生活してんだ。料理は皆で交代だな。わざわざ料理人を連れて来るのもあれだし、そもそも全員料理ができるからな。見ての通り、厨房もそんなに広くないだろう?」

確かに、食卓とキッチンが一体になっているのもあってそんなに広くは感じない。

だけど、日本の一般家庭の2倍位だから十分広い気がするよ。


「寝るのは、この隣の部屋だ。勿論だがベッドだぞ。」

ちょっと覗かせてもらった。

二段ベッドが五つ、きちんとありました、はい。。

臭いがちょっときつかったから、

早めにお暇させてもらった。



途中でエミリア様と初瀬に合流して、港に戻った。

天箱てんそうから出た時、外では日が真上にあった。どうも正午位みたいね。

「案内して下さったり、色々教えて下さり、ありがとうございました。」

「はは、いいってことよ。俺も姉ちゃん達みたいな美人揃いが見れて良かったぜ。これから帰るのかい?」

「はい。」

「じゃあ、気をつけてな。あ、そうそう。俺達は、後15日位はこの港にいるからまた何かあったら来いよ!」

「はい。ありがとうございます‼」



おっちゃんと別れて、相変わらず混雑した商人の集まりを、彼らのご厚意により無理矢理空けた道を通ってすぐ、

「ねぇ、これからの予定ってあんの?」

質問をぶつけてみた。俺は予定を知らないし、仕方ないでしょ。

「………ええとですね。お父様よりいくらかお金を戴いておりますので、これから街の見学だそうです。後、お父様によると『それで美味しい屋台の飯でも食って楽しんで来ると良いのじゃ。』だそうです。」

そう言いながら、お金が入っているであろう小袋を見せてくれた。

外から見る限り、常識的なお金の量だったよ。

こういう時の王様とかって、

極度の親バカで大金をしれっと渡してきかねないからね。気をつけなきゃ。

「………一応確認してみて下さい。」

と、言いつつ渡してくれた。どれどれ?

「うへっ!」

案の定、親バカで大金が入ってた。

以前第1話参照みたいにきちんとテンプレを守ってるよ……。どんだけお約束に忠実なんだ?あの陛下は。


この国の通貨は、

単位が王家の名字で、ユリウスという。

ミレーナさんに教わった所、

1ユリウスで青銅貨1枚

10ユリウスで黄銅貨1枚

100ユリウスで白銅貨1枚

1000ユリウスで赤銅貨1枚

10000ユリウスで銀貨1枚

1000000ユリウスで白金貨1枚

10000000ユリウスで金貨1枚

だそうだ。1ユリウス=1円で換算するのもちょっとあれだけど、個人的に一千万円相当の硬貨は要らないと思う。

後矢鱈と銅の合金多いな⁉

前教えてもらった時に見たんだけど、

青銅貨は、白銀色しているけど、時間が経つと、あの銅鐸とかみたいな色に変わりだすから、すぐに分かる。

黄銅貨は五円玉と、白銅貨は百円玉とそれぞれ同じ色をしてるから迷わない。

赤銅貨は、青みがかった黒だし迷わない。

問題は白金貨と銀貨だけど、

どっちかって言うと白金貨の方が安物っぽい光り方をしてるから、すぐに見分けがついた。


で、今回小袋に入っていたのは金貨30枚。

日本円に換算して、恐らく3億円相当。

お昼のご飯代として娘に持たせるもんじゃない。

ほら、今こうして初瀬まで顔をしかめてるよ。

「…エミリア様。この小袋を今すぐしまって下さい。絶対に盗られない様な所へすぐに‼」

「………どうしたんですか?急に。」

「どうしたもこうしたもこんな大金お昼ご飯代に使えません‼どこに行ったって換金できませんよこの金貨‼」

現にちらっと屋台を見た限りだと、屋台はどれもこれも

1つ10ユリウスとか50ユリウスとかそれ位だよ。

日本の屋台だと100円500円位が普通だから、それを考えると、今エミリア様が渡されているお金は30億円位かもしれない。

「………そんなにですか。仕方ないですね。そうなら、どうしますか?」

「帰る他ありませんね、エミリア様。」

初瀬の言う通りだね。

「………そうですね。」

「では、また帰りも道案内をお願いしても宜しいでしょうか?エミリア様。」

「………」

エミリア様がいきなり押し黙った。しかもなんか下を向いてるし、手がプルプル震えてるけど⁉

「え、エミリア様⁉ど、どうなされました⁉」

「………ぁ…ぃ……ん…ぇす。」

「へ?」

「………ですから、帰り道の先導が出来ないんです‼」

ええ⁉まじで⁉

「そ、それは本当ですか⁉エミリア様⁉」

「………えぇ。そうよ。今まで城から出たのなんて今日を除けばパレードで馬車から民衆に向けて笑顔で手を降った位ですの。今日も行きはこのように紙に書いてある通りにしかしてませんのよ。ほら。」

そうやって見せてくれた紙には、確かに行き方が文章で書かれていた。

「じゃ、じゃあ…この紙に書いているのとは逆に行動すれば…」

「………残念ですが、屋台巡りの為に好き勝手動いてますので、今どこかわかりませんわ。」

「じゃ、じゃあ…ここって城下町じゃあないですか、お城が見える…………見えませんね。周りの建物が大きすぎますね。」

万事休す。

The・中世ヨーロッパっていうテンプレな街並みだけど、そこら中3,4階建て、所によっては5,6階建てだから全く見えないよ。…トホホ。


こうして迷子になった俺達三人であった。




────一時間経過────

「………見つかりませんね。」

「そうですね。」

「もうちょっと頑張って探そうよ…。」

城は見つけられていない。



────二時間経過────

「まだ見つかりませんね。」

「そうだね。」

「………気が遠くなりそうですね。」

まだ見つかっていなかった。



────三時間経過────

まだ城が見つけられない俺達はゾンビの行進と化していた。

「まだ見つからないね。」

「………そうですね。いい加減足が疲れましたわ。」

「ああ、もう嫌‼休憩しましょ‼」

ちょっと初瀬が発狂しかけてるよ。


「………賛成しますね。」

「同じ休憩するなら、あそこの噴水の所にしない?」

「そうね。」

「………そうですね。」

意見がまとまり、止まっていた足を再び動かす。


立ち位置的に、俺が最後尾で歩きだす。

といっても、カタツムリとどっこいどっこいだけど。


「⁉」

噴水迄後30mって所で、俺はいきなり口を手で塞がれた。

暴れようにも、塞ぐのと同時に喉元にナイフが突き付けられていて出来ない。

…………疲れきってるっていうのもあるけど。



そのまま路地裏に俺は引き摺りこまれた。






3分後、

「着いた!…って千歳がいないわね。」

「………なんか手紙で、トイレに行くって書いてますよ。」

「え?どこですか?」

「………えっとすくば、でしたっけ?にそっと置かれてましたよ。」

「え?そうなんですか?なんか怪しいけど、とりあえず待ってみましょうか。」






一方、路地裏に引き摺られた千歳はというと、


「へいへい、上玉を持って来たぜぃ。」

「おぉ、よくやったねぇよくやったねぇ。あんたにしてはよくやったねぇ。どうやったんだねぇ?」

「へいへい、こいつなんか疲れきってるから、むしろ簡単だったぜぃ。」

「むごむご!」

「へいへい、うるさいぜぃ。」

「まあまあ、じゃあ早速連中を集めるかねぇ。今日みたいな上玉だとねぇ、あいつらも大喜びだよねぇ。─おおぃ、集まるんだねぇ‼上玉が引っ掛かったねぇ‼」

「「「「「「「しゃぁぁああああああああああああああ‼」」」」」」」

へいへいぜぃぜぃうるさい男に、ねぇねぇキモい語尾をつける輩の下へと連行されて行ったと思ったら、俺は更にどうせこれまた気持ち悪いこいつらの手下(偏見)どもに曝された。


しかも、その数およそ30。


あ、やっと自由に話せる様になったよ。



「ね、ねぇ。これどういう事?」

「語るに及ばずねぇ‼お前らねぇ、好きにしておしまいねぇ‼」

「「「「「「「おぉおおおおおおおおおお‼」」」」」」」


路地裏の場所という場所を塞がれた。

路地裏と言っても、建物の裏側であるせいか、幅は10m位と比較的広いから、あっさり囲まれた。


「じゃ、俺から行くぜよ‼」

連中の一人ががいきなり駆け出そうとしてきた。


襲われても困るから、慌てて炎剣を出した。

後、左手にはあの羽扇っぽいのも。


周りがざわつき出した。

駆け出そうとしていた奴も、急停止して周りと相談しだす。

「お、おい。……見たか?あれ。」

「いつ詠唱したんだ?早すぎだろ⁉」

「あ、あれって…上級魔術のファイアーソードだよな?初めて見たからわかんねえけどよ‼」

「って事は相当の手練れの魔術師に手を出したのかよ…やべぇぞ‼」


「な、情けないねぇ‼ほほほほ、ほら、やっておしまいねぇ‼」

ねぇねぇ野郎が喚き散らすけど、声が震えてるから、誰も動かない。



そこで、俺は─

「ねぇ、あなたたちは私を襲う気なの?」

コスプレを続けてるせいだろう。無意識に一人称が私になってたし。


「そそそそ、そうだぜ‼それ以外にな、なな、何があるってんだ‼」

「ば、馬鹿っ‼お前ますます生き残れなくなったじゃねぇか‼」

どうやら、俺を完全に女って思ってるね。

仕方ないか。…はぁ、今ばかりは初瀬を憎むよ。全く‼



「お前らは、女って思ってるみたいだけど、

わた…俺は男だからな?」

「「「「「「「?」」」」」」」

目が点になってる連中。

誰も信じちゃいないね。


「例えば、この髪の毛。地毛じゃ無いからすぐに取れる。…ほら。」

「「「「「「「⁉」」」」」」」

ウィッグを取ったら、衝撃のあまり連中の顎が大きく開いていた。


「他にもさ、ここの胸なんて………布を詰めただけで、本物ではないよ…………ほら。」

「「「「「「「ふぉぉぉおおおおおおおおおおおおお‼」」」」」」」

見せないけど、男としてのモノはついてるし。出したら公衆猥褻罪……ってここ異世界だし、あるかわかんないや。


「わかった?じゃあね。道を空けてくれる?帰りたいから。…あ、後、女の子を拐って襲うのは良くないよ⁉」

「ま、待ってくれ‼」

道に戻ろうとしたら、呼び止められた。

…ん?誰かと思えばねぇねぇ野郎じゃん。


「何?俺は早く戻りたいんだけど。」

「俺達一団、ラウィニウム愚連隊を貴方様の部下にして下さい‼…いや、奴隷でもいい‼異論は無いな⁉お前らぁ‼」

「「「「「「「おう‼」」」」」」」

いきなり土下座しだすラウィニウム愚連隊の連中。

「何でだよ⁉だいたいあのキモいねぇなんていう語尾はどうした⁉」

あまりにもご都合主義な展開すぎて思わず突っ込んだ。余計な事も。

「貴方様にお仕えするにあたり、邪魔と思い、たった今現在を持ちまして捨て去りましたっ、サーッ‼」

怖っ‼

「いきなり意味わかんねぇよ‼」

「上様が女装を止めて外し出したその姿、その時のお姿が神々しく、今まで女はおもちゃだと思っていた我々の穢れた心に、そう貴方様に比べて葛以下でしかない存在である我々の心にっ、崇高な目的をもたらせて下さいましたっ‼ですからお仕えするするのです‼違ぇねぇな、てめぇらぁ⁉」

「「「「「「「その通りですっ、サーッ‼」」」」」」」

くどいっ‼

そして邪魔だっ‼

しかもなんか呼び方が上様になってるし‼

足止めの為に足を引っ張ろうとして、ふくらはぎに触れた途端鼻血だすな‼気持ち悪い‼


「どけ‼俺は帰るんだ‼後お前らは配下になんかしねぇぞ‼」

「我々は、上様が部下にして下さる迄、この道を通しませんっ、サーッ‼大義の為に‼」

今度は完全に前も後ろも塞がれた。


炎剣とか出してもびくともしないし。

何より、目がぎらついてる。すっごく怖い。

時間が経つにつれ、どんどん道が塞がっていってる。



その時、

俺の中で、

何かが壊れた。




「…………あぁもぅいいよ。配下にしてやるよ。あ、でも給料とかは払わないぞ。」

「「「「「「「しゃあああぁぁぁあああああああああああああああああ‼配下になれただけで十分ですっ、サーッ‼」」」」」」」

俺はラウィニウム愚連隊を配下とすることにした。


「じゃあ、とりあえず、噴水の所迄案内して。」

「お安い御用ですっ、サーッ‼おい、おめぇらぁ‼ボケッとしてねぇで護衛しろやぁ‼」

「「「「「「「サーッ‼」」」」」」」

はぁ、もういいよ。






「千歳、遅いわね。」

「………そうですね。」

「何かあったのかしら?…ってあれは?」

初瀬の指す先には、

むさ苦しい男の集団が大移動をしていた。

そして、その中心に紅一点な存在があった。


「ごめん、困らせて。」

「全くどこのトイレなんて行ってたのよ⁉」

「え?言って無いよ?ねぇ、どういう事?」

「手紙が残ってたのよ…って、こいつらは?」

「ラウィニウム愚連隊。俺さっきこいつらに女と間違えられて拉致られて犯されそうになったから、男って言ってウィッグとか少し外して納得したと思ったら、こうなった。」

「…あ、すみません。それ俺が書きました…。」

元・へぃへぃ野郎が手を挙げた。

「全く、困るじゃない‼全くどうしてくれるのよ‼私達の時間が勿体無いじゃない‼」

「………まぁまぁ、初瀬様。こうして帰って来てくれた事ですし、良しとしませんか?」

「…上様、どうかお許しを‼申し訳ございません‼」

へぃへぃ野郎が涙目で懇願してくる。

これ以上何か起こされても堪らないし、適当に罰を与えますか。

「…………連帯責任な。お前らみたいなのがこの街にこれ以上のさばってたら気持ち悪いから、この街の裏まで、治安をもっと良くしろ。お前らだけで十分だわ。こんなん。あ、後、城迄案内して。」

「「「「「「「サーッ‼わかりましたっ、サーッ‼」」」」」」」

「千歳の言う通りね。」

「………この街にこんなのもいたんですね。」


女子二人に気味悪がれながらも、

俺の迷子は解消された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る