第6話 人生楽無なきゃ苦はあるさ

「いてててて……。って…………………………………………………ここは?」

思わずテルマエ・□マエみたいに言っちゃったけど、ここは────

「治療院⁉あ、そっか。」

たった今、水蒸気爆発で自爆したのを思い出したよ。

ミスや想定外が重なったとはいえ情けない…。

ん?ポケットからバイブレーションが。あれ?おかしいな。スマホの電源は切ったのに。あれ?何これ?気持ち悪いっ!どんどん上にバイブレーションが移動してきてる。えっ、えっ?まさか…これゴキブリ?だったら

「嫌だぁ~‼」

「うるさいわね。どんな日でも。全く。」

隣のベッドから初瀬の声がすると同時に、俺の体の上を這いずり廻るゴキブリ(暫定)の動きが止まった。


ちょっとほっとした俺。

「はいはい。それはすみませんね、初瀬さんや。」

「この零どころかマイナスに振り切ってる誠意の無さ。」

失礼な、こうしてきちんと誠意を込めて謝意を示しているのに(棒)。


「もう良いわ。埒が明かないし。その代わり、私の質問に答えてもらうわね。何をしたら私が放ったウォータージェットを受けて、何もなかったかのように平然としてられたのよ?」

あぁ、それか。

「その様子じゃ、気付いて無いな。あのウォータージェットな、バケツで水をかけられたのと変わらない威力だったぞ。」

スピードとかの見た目は神父さんのと全く変わらなかった。これらの2つの事実から導き出される答えは1つ。


──見かけ倒し。だ。──

と、格好付けてみたは良いが、初瀬の魔術に威力が伴っていないという事は、俺の魔術もまた然りという訳なので正直ちょっと笑えない。


ぁ、これも聞いてみよっと。

「もしかして…あの水の鞭って全力で放ってた?」

「そうよ。それがどうかしたの?……ってまさかあれは不意を突かれたから、水剣を取り落としただけで、あれも全然ダメージを与えてないの⁉」

珍しく初瀬が声を荒げた&話し方が幼くなった。

「いや、あれは結構痛かったよ?むしろ鞭で打たれたところから出血しなかったから、それが初瀬の手加減かと思ってたけど…。」

「えぇ、そうよ。あれは全力で放ったわよ。最後に自爆で相討ちなったとはいえ、私みたいな雑魚なんて歯牙にもかけないのでしょうね……。」

「ちょっと待てィッ‼自虐が飛躍し過ぎだ。初瀬のウォータージェットは確かに威力がなかったよ?けどさ、それを言ったら俺がやっても同じ結果になったと思うよ。だいたい、何で同じ変形させただけの鞭とハイ○ロポンプの威力に差が出来てるのさ?」

「あっ、それもそうね!」

すぐさま機嫌を直す初瀬。でもとっても演技くせぇ。

「そんな事より、何故かしら?」

「わかってたらさっさと教えてるよ……やっぱわからん。」

うん、わからん。何にも思い付かん。

うーん。うーん。うーん。うーん。うーん。うーん。うーん。うーん。うーん。うーん。

「うーん。うーん。うーん。うーん。うーん。うーん。うーん。うーん。うーん。」

「うるさいわね‼いつもにまして粘着性が高いわよ⁉」

しまった!俺とした事が…声に出してしまったようだ。


「千歳に初瀬よ、入るぞ。」

そこへヴィットリオ陛下がやって来た。

「おはようございます、陛下。このような寝ている体勢で拝謁する事をお許しください。」

「そんなにかしこまらんで良いぞ、初瀬。それより、千歳よ。何か昨日初瀬に突っ込んで行って初瀬もろとも自爆したそうじゃな。一体どんな魔術をルッツァスコが教えたのかと思っておったら、奴は教えておらん、千歳は初級魔術を変形させて中級上級の魔術にする術をいきなり作り出したからそんな感じで今回もしたんじゃろう、と申しておったぞ。どうやったのじゃ?」

心配したような将来に期待をしたようなはたまた面白がっているような複数の表情が融合していた。どの気持ちが本物か、と聞いたら恐らく全部であろう、と俺は予想しようかな。そんな事より───

「あのー、ルッツァスコってどなたですか?あの神父さんの名前ですか?」

「そうじゃ、あやつ名前を言い忘れていたのじゃな。昔はもっと厳しかったのじゃが、最近はめっきり丸くなって好好爺になってのぅ…。やはり愛娘が孫娘を産んだのが大きいのかのぅ…。まぁ、こんな事を話しておったらきりがないのじゃ。じゃからワシが聞きたい事をさっさと聞くぞ?」

何か急いでるヴィットリオ陛下。

まぁ、陛下となれば公務も色々忙しいだろうし、しょうがないよな、うん。

「はい、私や初瀬が答えられる事ならばどうぞお気軽にお聞きください。」

「おぉ、ありがたいのぅ。じゃあな、そもそも千歳は如何にして初級魔術を変形させたのじゃ?」

早速出ました、この質問!

あんな事言った手前きちんと答えなきゃ。

「それはですね、ウォーターボールのイメージ…手のひらのウォーターボールをウォーターナイフやウォーターソードに形を変える姿を想像したら、変わりました。」

「成る程じゃ。こうかの?……………………千歳に初瀬は中々難しい事をしておるのぅ。」

陛下のウォーターボールは球状から変形したが、陛下が慣れない為に上手くウォーターナイフにならない。今はウォーター十手って感じだ。

「俺の場合は、最初にウォーターボールの球状が安定しなかったので、それにつけこむ形で自由自在に変形できる様になりました。けど、初瀬は最初から球状が安定していた上に、口頭の説明だけであっさり変形させてみせたので、俺個人としましては、こいつの方が怖いですよ。」

「じゃがな、ワシらは思い付きもしなかったのじゃからそれだけで凄い事じゃぞ?何か不満げな表情をしとるのぅ。何かこれに問題でもあるのかの?」

「はい。こんな感じでウォータージェットを放てたんですけど…………。」

言葉をつい濁してしまったよ。とほほ…。

「何じゃ?」

「放ったウォータージェットの威力がバケ…桶でぶっかけた水と全く変わらなかったんです。………鞭状にした方が威力が高いという結果になりました。」

残念そうなんだか嬉しいのか良くわからない表情をしながら俺の発言の後を継ぐ初瀬。


そんなに鞭が高威力(ウォータージェットと比べ)で嬉しいですかそうですか。

その顔を見て少し引いた陛下は、この空気を変えようとばかりに少し焦り気味で口を開く。

「す、すまんのぅ。ワシにも何故かわからんのぅ。……ん?のぅ千歳、威力出ぬと初瀬が申しておったが、あの自爆は何じゃ?明らかに桶の水をかけたとは段違いじゃぞ?」

うぅ、それを言われると立つ瀬がないですよ⁉陛下ぁ~。でも言うしかないしねぇ。仕方ない。

「お恥ずかしながら、あれは不慮の事故です。な、初瀬?」

「自業自得なのに良くしゃあしゃあとぬかせるわね。」

相も変わらず初瀬の台詞は辛辣だ。

「のぅ、それ説明になってないぞ?」

陛下を困惑させちゃった。詳しく説明せねば。

「あれはウォーターボールと炎剣がぶつかった事で起こった水蒸気爆発です。」

よし、これで良かろう……って更に困惑させちゃったわ、どうしてだろう?

「のぅ、すまぬが水蒸気爆発とは何じゃ?」

「こういうのの説明は初瀬の方が丁寧なので、………初瀬宜しく‼」

しぶしぶながらも丁寧に説明する初瀬第5話にて説明済みの為、割愛。本当にありがとう。

「ほうほう、これならば千歳の自業自得じゃな。巻き込まれた初瀬が少々憐れじゃが、夜間の訓練を言い出したのは初瀬じゃと聞いておるしのぅ…お互い様じゃな。」

おぉ、なんと寛大なのでしょう!これぞ大岡裁き‼

1人テンションを上げてたら、初瀬が呆れた目線をこちらに向けていた。……別にテンション上げたって良いじゃないか。

「最も、今後もこのような事態を起こされても敵わんのじゃからのぅ、気をつけるのじゃぞ。」

やや怒り気味の陛下。相当心配させたっぽい。そりゃそうだけど!……すみません。


俺が心中で謝罪しているのを見て、陛下は再び口を開いた。

「本来ならば、テミストレオに伝えさせる予定じゃったのじゃが、あやつの進言で少しばかり予定が変わってのぅ。魔王を倒す前に自滅されたらどうにもならんから………目附を付けさせてもらうぞ?過保護じゃが異論は認めぬ。良いな?」

国王らしい威厳をたたえて告げる所を初めて見たね、うん。ちょっと怖い。

「は、はいっ。」

「はは、ワシとてそこまで怒っておらんのじゃ。心配なだけでのぅ。では、目附の者を紹介するぞ。エミリアよ、入れ。」

しずしずと入って来たのは、キンキラキンな金髪を後ろで1つのお団子にした、少女だった。この娘、背が高くて、ミレーナさん程ではないにせよ、中々の爆乳で、ミレーナさん程ではないけど、所謂BKBボンキュッボン。うん、JK平均より二回り位大きい初瀬でさえ軽々越してるよ。心なしか初瀬に睨まれた気がするけど、気にしない。容姿は客観的に見たら滅茶苦茶可愛い部類なんだけど────

「このエミリアが今日から2人と行動を共にする。良いな?エミリア。」

「………はい。初耳ですが、承りました。初めまして、エミリアと申します。これから勇者であるとお伺いしました御二人と御一緒させて頂きますので、お願い致します。早速ですみませんが、勇者様方のお名前をそれぞれお聞きしても宜しいでしょうか?」

表情が眉一つ動かないんだよね。King of the 無表情って感じ。

だけど、物凄く物腰が丁寧。どっかの誰かさんとは大違…いてっ。いきなり脇腹がつねられた。初瀬犯人は素知らぬ顔してるし。


とりあえず、自己紹介しないと。

「お初に御目にかかります。私は鬼怒川千歳と申します。こちらが大淀初瀬です。お気軽に千歳、初瀬、と呼び捨てで構いません。宜しくお願い申し上げます。初対面でありながら、このように布団から起き上がった状態でご挨拶申し上げる事をお許しください。」

対抗心からか、普段なら絶対に使わない様な言葉使いで返事をする俺。事後承諾で初瀬の分も済ませたぞ、という意味も込めてアイコンタクトをとる。

「…ははっ、この2人の姿を見てると飽きんのぅ。のぅ、エミリア。面白いじゃろ?」

「………はい。とても仲が良さそうで、羨ましいです、お父様。」

………………ん?今聞き捨てならない事聞いたぞ。お・と・う・さ・ま?やて?

「どうしたのじゃ?千歳に初瀬よ。2人揃って目を大きく見開いて。」

「………お父様、私との血縁関係を伝えていなかったのですね。」

「おぉ、そうじゃったそうじゃった。伝え忘れておった。済まぬのぅ。因みにじゃが、エミリアの歳はだいたい同じでの、今年で15歳じゃ。歳が近い分、何かと都合が良いと思ってのぅ。」

そんな事より、顔が全然似てないんだよね。

ヴィットリオ陛下は赤っぽい茶髪で四角い顔なんだけど、対するエミリア様は金髪に綺麗な卵形な顔型だ。少し似てるとかそういう枠は遠い遥か彼方で対極に位置するといっても過言ではない。

驚きのあまり、素直過ぎる質問が口から飛び出た。

「……あの……御二人様…失礼ですが……本当に親子なんですか?」

俺と初瀬がとても間抜けな表情をしているのだろう、陛下は朗らかに笑い飛ばした。

「はははは、それも良く言われとるのぅ。後日紹介するとは思うがエミリアと少し歳が離れた第一王子もそうなのじゃが、ワシの子供は2人共ワシではなく王妃に似ておってのぅ。ワシに似ておる要素は、第一王子の筋肉位じゃ。のぅ、エミリアよ。」

「………はい。お父様と似ている要素がないですね。御兄様も。」

へぇ~。そうなんだ。安心した。

「お教えして下さり、ありがとうございます。それをお聞きして安心しました。」

「はは、ワシとしても千歳と初瀬を安心させれた様で何よりじゃ。ではエミリア、後は頑張るのじゃぞ。済まぬがワシはそろそろ政務に戻る故のぅ。お、忘れておったが、千歳に初瀬よ。朝食がまだならエミリアと共に摂るが良い。エミリアもまだであるからのぅ。ではの。」

そう言って去って行く陛下。


「…」

「…」

「……」

途端に沈黙が場を支配する。ちょっと居づらい。てか、身分が上のエミリア様を立たせてたら不味い。とっても不味い気がする。

「あっ、あの……エミリア様。たっ、只今椅子を用意致しますので、少々お待ち下さい。」

喋りながら慌ててベッドから降りて立とうとする。

「いてっ、いてててて。」

慌てたせいで思わず背中に痛みがはしり、反射的に痛みがある所をさすってしまう。

今迄自分自身の状態を確認しなかったから、わからなかったけど、上半身は包帯でぐるぐる巻きだ。

それより、早く椅子を用意しなきゃ。

俺が痛みを堪えつつ、震えながら立ち上がったところで、

「………そんなに痛みがあるなら、立ち上がらず、ベッドで寝ていて下さい。椅子の用意位なら私も出来ますから。お気遣いありがとうございます。」

「エミリア様こそ、私ごときにお気遣い下さり、誠にありがとうございます。申し訳ございませんが、ベッドに座らせて頂きます。」

エミリア様の御厚意に甘え、座らせて貰おう。

「…」

「…」

「……」

再び場を沈黙が支配する。うん、気不味い。

さて、どうしたものか。


俺&初瀬はいつもの掛け合いをすると、エミリア様がハブられるから出来ないし、かといってそう気軽に話し掛けたら不敬な感じがするから正直打つ手がない。

一方のエミリア様はこれが平生の様で、向こうから話し掛ける様子は見られない。

行き詰まったこの空気を破ったのは───


「御屋形様方ですおはようございます。早速無茶をなさったそうですね、特に千歳様。こちらとしましては、今回の様に心配をかけない様にしてくださいね。て、あら?エミリア様ではありませんか⁉御挨拶が遅れました。も、申し訳ございません‼どうか、お許し下さいっ!」

───ミレーナさんだった。

「………ミレーナ。この勇者様方に対して、『御屋形様方』とはどういう訳かしら?」

「は、はいっ、私にとって、第二の主人であるという事でございます!エミリア様のお気に召さないならば、すぐに変えます‼」

「………………良いのよ、ミレーナ。貴女の好きにして。」

「は、はいっ!ありがとうございます‼ 」

ミレーナさんめっちゃ怯えてる。やっぱり表情が変わらない人って内面が分かる迄は本当に怖いよね。…とか言いつつ、俺自身エミリア様の内面はわかってないんだけども。

「………勇者様方、では朝食に参りましょうか。いえ、満足に歩けないのでしたね。では、従者に命じて持ってこさせましょう。」

「ち、ちょっとお待ちくださいエミリア様!この御屋形様方には、今ここで治癒術の追加講義を受けて戴こうと考えております。ですので、少しばかりお待ちくださいませんでしょうか?」

「………良いわよ。何か手伝う事はある?」

「もし宜しければ、初瀬様に治癒術を施して下さいませんでしょうか?その際には、かなり効果を抑えて」

「………わかったわ。」

「では御屋形様方、前回はあまりきちんとお分かりになられなかったと思われますので、あえてすぐに治療せず、再び治癒術を使わせて頂きます。宜しいでしょうか?」

包帯ぐるぐる巻きはそういう事らしい。

「では、行います。」

治癒術がかけられ始めた。感覚は、前回第4話参照に加え、失っていた何かが寄り集まって再び体内へと戻って来る感じだ。

うん、病みつきになりそうな程気持ちいいや。



「お分かりになられましたか?わざとゆっくりと時間をかけて行ってみましたが、御屋形様方の治癒術は効きが昨日は弱かったので、患者の立場に立つとどのようなものかなのをお考えになられて欲しかったので、わざと治療を遅らせて戴きました。御屋形様方にとって痛みを長引かせた事をお許し下さい。」

「いえ、私達の世界では治癒術がないから、今回の様な負傷だと全治数ヶ月とか普通なのよ。だから大丈夫だわ、ミレーナさん。そしてエミリア様、私に治癒術をかけて下さり、誠にありがとうございました。」

「………大丈夫です。気にしないで下さい。」

「では朝食の方を済ませましょうか、御屋形様方。」

「そうね。行きましょう、千歳?」

いきなり話が振られたよ。

「そうだな。」

そして立ち上がって、

ミレーナさん、エミリア様の順で治療院を出て行く。次は俺が出ようとした時、首周りの包帯を引っ張られた。

「うぐっ。いてててて………。」

「ちょっと静かに聞きなさい、良いわね?」

「わ、わかったけど…。どうしたいきなり。」

「今後、魔術をどうするか、についてよ。意見はある?私としては威力が出ない以上普通に詠唱して練習していこうかと思うんだけど。」

「うーん。俺はすぐに思い付かないから、それで良いけど…。何で?」

「これから無詠唱とかについて質問されても説明が面倒だからよ。」

「わかった。後そういえばお前って時たま面倒くさがるよな。」

「良・い・わ・ね?」

「あ、はい。」

怖いよ⁉初瀬さんや⁉そんなに圧力かけるもんなの?まぁ確かにそれをホイホイと教えて悪用されたら面倒だけども!


「………どうしました?」

「いえ、初瀬に脅されていただけですはいてっ!」

今度は背中をどやされた。脇腹つねられるよりはるかに痛い。

「………見てて微笑ましい程仲が良いですね。ちょっと羨ましいです。」

「私だって幼なじみでなければ、こんな奴見捨ててますよ、エミリア様。」

こんな奴、のとこでめっちゃ嫌そうな顔された。ひどくない?

「………そういう所が、ですよ。」


負傷治療後の朝食は、2度目のパリャニーリだった。あまりにおもたい食事は体に響くかも、というありがたい配慮らしい。

「御屋形様方、本日の予定をお伝えさせて戴きます。本来ならば、剣術は昨日と同じようにする予定でしたが、陛下の判断により、体術を行います。宜しいでしょうか?」

「俺は大丈夫だけど、初瀬は…?」

「大丈夫よ。それよりも…」

「そうだな、エミリア様は体術で構いませんでしょうか?」

「………えぇ。大丈夫よ。」

「わかりました。では御ゆっくりとお召し上がり下さい。」


御ゆっくりと言ってももう半分近く食べてたんだよね。

程無くして皆食べ終わった。


「では、道場の方に行きましょうか、エミリア様。それに初瀬。」

「………わかりました。参りましょう。」

「私がおまけみたいな言い方は私に喧嘩でも大安売りしてるのかしら?」

「はいはい。済みませんでした。」

「全く謝る気無いわね。」


5分以上歩いてたどり着いた道場の入り口を開けると、


そこは──────────




















「何じゃこりゃ⁉」

「………派手にやらかしましたね。」

「あはははは……。ってこれって千歳のせいよね。」

「直接的には俺かもしれんが根本的、には初瀬、お前だよな⁉」






─────一面が炎上した後の灰で黒ずんでいた。



「おぉ、エミリア様、千歳様に初瀬様。おはようございます。それにしてもド派手な事をしましたね。あの爆発は一体全体なんだったのですかな?」

陛下と同じような質問してくるね。答えるの面倒いし、聞き捨てならない事聞いたから話逸らそ。

「えっ、見てたんですか?」

「陛下と一緒に偶然ちょっとね。最も、チラチラとしか見てないから、一部始終全部は知らないよ。」

「お恥ずかしい……。」

「はは、こちらとしては見てて楽しかったけどね。」

爽やかなイケメンボイスで笑うテミストレオ騎士団長。爽やかに笑うイケメンなのが少しイラつくわ。

「………始めませんか?騎士団長。」

「そうですね。では、今日は体術を行います。」

そう言って解説を始めてくれる騎士団長。


概要からいうと、体術といっても2種類あって、柔道みたいな護身用のと、空手みたいな攻撃的なのがあるそうな。


どっちも使えるに越したことはないけど、とりあえず護身用の方を教えてくれるそうな。


─10分後─

「痛い痛い痛い痛い‼」

「千歳様は最も体を柔らかくする必要がありますね。」

体が固い訳ではないけど、怪我を治したばかりで力んでしまっている俺が騎士団長に組みしかれていた。


「ホモホモしいとそれはそれであれね…………。」

「………不潔な感じがします。」

それよりも、自分達も訓練をしながらこちらを冷静かつ客観的に向こうの女子2人が評価を下す事の方がダメージが大きいよ………トホホ。


「さぁ、では更にいきますよ‼なんだか興奮しますね‼」

自分は一方的に攻撃しているだけなのに何か息を荒げている騎士団がいる。

「はっ、初瀬ぇ~助けてぇ~‼」

「嫌よ‼何か怖いもの!」

「………関わらないが吉ですね。」

どうも援軍はいないようだ。

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

「もっと力を抜いて下さい‼そしてこれから抜け出して下さい‼ハァハァハァ‼」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」







「シクシク………。もうお嫁に言えない‼」

「あれは悪夢よ、忘れなさい。よしよし。」

初瀬に頭を撫でられる。

「………千歳様は女性だったのですね。胸が薄いのでてっきり男性かと思ってました。済みません。」

「くはっ‼シクシク………。」

「エミリア様⁉こいつはれっきとした男ですよ‼ただ女顔なだけで。」

「シクシク………。初瀬よ、トドメを刺すな……!シクシク……………。」

「何か器用ね。」

「………やはり最初の印象であってましたか。済みません。」

「後、エミリア様。胸が薄い=男性って…。」

「………何か間違った事言いましたか?私。」

「イエ、ナンデモナイデスヨ。」

片言になる初瀬。端から見ててもエミリア様が珍しく表情をお変えになられたと思ったら、心の底から疑問であるという顔していた。

どうもそれで説得を諦めたっぽい初瀬。


「………ルッツァスコが来ましたね。」

「では、始めましょうか。……初瀬様?どうなされました?」

「今日も基礎からきちんと教えて下さい。」

「わかりましたが…それまた何故ですか?」

「理由の1つに、あの状態の千歳が挙げられます。あれは普通に厳しくやらないと、…何にも出来ません。」

「千歳様⁉どうなされましたか?」

「……シクシク………。あ、あはははははは………。」

「治療院に今すぐお運びしましょうか⁉」

「いえ、ルッツァスコさん、それには及びません。……………多分。テミストレオ騎士団長に激しく体術を仕込まれてました。」

「あ、あれですか。テミストレオも変わりませんねぇ。あれでも奥様がいらっしゃるんですが、男色気味なのは変わりませんねぇ…。まぁ、良いでしょう。始めましょうか。良いですね?千歳様?」

「……………シクシク。…はい……。………シクシク……………。」

後日聞く所によると、この後一日中俺は言われていた通りに訓練していたそうだ。


但し、俺の記憶には一切ない。



次の記憶は夕食だ。

気がつくと、ヴィットリオ陛下と朝食と同じくパリャニーリを食べていた。

「はっ‼」

「お、やっと正気に戻ったかの?千歳よ。」

「………どうやらそのようですね。お父様。」

「…今何時ですか?」

「そうじゃな、午後8時位じゃ。」

「今までの記憶が無いです。済みません。」

「よいよい、気にするでない。テミストレオの男色好みは知らぬと強烈過ぎるからのぅ。」

「………忘れてる事が肝心ですよ。」

「はい。ありがとうございます。でも、数日引きこもっちゃいそうです。………シクシク………………。」

「う、正気に戻ってもまだ重症じゃな、これは。」

「陛下、このポンコツの為にも何か妙案はございませんか?」

「有ると言えば有るぞ。聞きたいかの?」

「はい。お願いします。」

「………お父様。私にも教えて下さい。」

「わかったのじゃ。それはな、──────────────────。」


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