第4話 振りだそう、圧倒的に斬れぬ木剣で

大抵同じ始まり方なお決まりになりつつあるこの日この頃、皆様におかれましては如何お過ごしの事でしょうか?


あ、私ですか?

私こと、鬼怒川千歳は今日もこうしてちっとも楽しくなくこの暴虐姫初瀬のお守りの超大役を果たしております。


全く姫におかれましては、人のマウントをありとあらゆる手段を用いて強奪しておきながら、厚かましく人の上で寝、さらに自分自身が起きる迄は絶対マウントを奪回させないというボクシング選手も真っ青な驚異的記録を毎日叩き出すので、私としましては非常に困った事です。


ある意味、私がこうして早起きが出来るようになったのは、この初瀬姫(笑)ジャ○アンのおかげ…と、大変誠に遺憾ながら認めざる得ません。

いつも5時丁度に起きるような習慣がついてしまいました。

この姫自身は6時半位にしか起きないので、それまで暇ですね。


いつもなら英単語でも覚える為に、手元に単語帳を用意しているのですが、

学校が休みになってから異世界に来てからというもの、あっという間に腑抜けてしまいまして、先程も申しました通り大変暇でございます。


なんかないもんですかね?

…なんて考えたら、大抵はラノベとかの世界内では本当に事が起こるんですがねぇ…ま、ないですよね。


とか私が言っている先から何か落ちて来てますね。


あ、これ羊皮紙ですね。はい。

えーと、なになに?


『君、さっきから愚痴ばかり言ってるけど、

幼なじみ萌えの人達オタクどもから見れば垂涎の的だし、それ以外の人から見ても微笑ましい情景にしか見えないよ? 主神ユーピテル より』

「何だとおらああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ‼」

てか何で俺は、さっき迄丁寧語だったんだ⁉

……うん、頭が麻痺してたんだな、うん。きっと。


そんな事より!だよ‼


「何で神様が見てるんだよ、てかプライバシー侵害すんなよ。」

すると、羊皮紙の文字が変化した。

『あはは。良いじゃないか。こっち神様にも娯楽は必要なんだよ⁉』

「それが私生活の盗聴盗撮盗視に対する言い訳か⁉」

厨二病患者人間はやたらと小難しい単語を使いたがるねぇ…。僕なんか六法全書なんて読んでたら気が狂いそうになるよ?(笑)』

「お前、今までに存在する、もしくはした全世界の法律の学者や専門家、政治家、法学部の学生さん達に今すぐ土下座して謝れよ⁉ここが地球と違うからって良いって訳じゃないからな‼⁉」

『そんなことよりね、千歳君。君、さっき独り言で暇って言ってたよねぇ?』

こいつ俺の話まるっきりスルーしおった。

野郎ユーピテルは構わず話を続ける。

『だったらさ、僕の話し相手になってよ‼』

「嫌だよ。」

『全くつれないなあ…。』

「それまんまブーメランだということに気付け。」

『でね、聞いてよ!この前、Amaz○nでチキンヌ○ドルの期間限定のブタホ○テドリを注文したらさ、ノーマルな醤油味が届いたんだよ‼酷くない⁉』

「で、そんなしょうもないことの為だけに俺と連絡とってんの?」

そもそも神様の世界にAm○zonって…。

もしかして地球上にあったりするのかね?神様の住む場所が。

『いやいや、そんな訳ないじゃないか。きちんと君にもお得な話だよ?』

「そんな甘い誘い掛けで得した奴は過去から現在迄において誰もいない。」

『全くつれないなあ…。』

「また同じ事ブーメランを…。言っとくけど、俺が一番唾棄するのは責任感のかけらもない軽薄な輩お前みたいな奴だからな。」

『はいはい。本題に入れば良いんでしょ?ねぇ、千歳君。君、きちんと魔術を仕える様になってから一度もステータスを見ようとしてないでしょ?最初はあんだけ見ようとしてたのに。』

言われて見ればそうだった。指摘された相手的に認めたくないけど。

『だからさ、ステータスを開いてよ。僕が教えてあげるからさぁ‼』

「てか見られるの嫌なんだけど…。」

『僕忘れられてる感じするけど、神様だよ?この世界の生物のステータスは全部見れるよ?自分自身で見るのが嫌なら、僕が教えてあげようか?』

「わかったよ。開けば良いんでしょ、開けば。ステータスオープン。」

そこには、こう書かれていた。

────────────────────

Name: 鬼怒川 千歳

Age: 16歳

Job: 勇者

Level: 1

HP: 90/90

MP: 45/45


AC: 30

MS: 30

AG: 30

OP: 50

DP: 60

CP: 30

称号

「駆け出し勇者」

能力の数値を常人の3倍以上にする。

「下剋上を望みし者」

HPを1.5倍にする。

「主神の娯楽おもちゃ

DPを1.2倍にする。


スキル

無し

────────────────────


「何か色々わからないことあるけど、まず一言。」

『ん?何かな?』

「何だこのふざけた称号はよぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおゆぅぅぅぅぅぅぅぅぴぃてぇぇぇぇぇぇぇるぅぅぅぅぅぅ‼」

『あ、ステータス開いた?じゃ、説明入るね~。』

「説明するなら人の質問をスルーすんなぁぁぁぁぁぁ‼」

『はいはい。それも含めて説明するから待ってね。じゃ、まずNameとAgeとJobはわかるね?まんまだし。』

だな。

『次に、LevelとHPとMPも何かは説明しなくてもわかってるでしょ?』

「ちょっと待って、何なのかはわかってるけど、Levelって上限あんの?」

『無いよ。これで幾らでも強くなれるね‼君らの願望妄想通り。』

「喧しい。さっさと話を進めて。」

こいつに言われると、なんだか腹立つなぁ。

『はいはい。んじゃ、次。各項目のACとMSとAGとOPとDPとCPは何か分かる?』

「さっぱり見当もつかん。」

『ACは正確さAccuracy。主に魔法とか剣技とかの攻撃の命中率補正だね。』

ふむふむ。言われて、あぁ、成る程と思う位だ。

『MSは筋力Muscle Strength。これの数値に全くよって持てる物の重さの上限が変わってくるね。』

これもまんまだな。

『AGは素早さAgility。まぁ、数値が高ければ高いほど、速く走れたり、速く素振りが出来るよ。』

これもまんま。

『OPはさ、攻撃力Offensive Power。相手のダメージ判定がこちらにとって有利に働くね。』

ゲームみたいなステータス出た。

『同じように、DPは防御力Defensive Power。まぁ、OPの防御版。』

要はダメージ軽減な訳だ。

『CPは魔力練度Charm Proficiency。これが高ければ高いほど、MPの消費が抑えられたり、同じMPでも高威力になったり、応用が効いたりするよ。要は知力Integrateと同じ。』

「なぁ、何で同じ魔力関連なのに、MagicだったりCharmだったりするの?」

『…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………』

いきなり羊皮紙の文字が点の連なりになった。

かと思ってしばらく見てると、右下から次々と日本語が現れ、左下へ移動していった。

どうも文字がスクロールしているのを表現したいらしい。

『………────神は言っている。ここで聞く定めではないそういうのは作者に聞け、と。────』

「あ、はい。」

てかここで普通ElShadd○i出すか?

『じ、じゃ、称号に移るよ~。』

何か噛んでるし。

『ま、まぁだいたい想像してると思うけど、称号は人生の足跡だから、善行をすればプラスになる補正、悪行をすればマイナスの補正がかかるよ。で、人生の足跡だからその称号も変化したりするよ。例えば、この[駆け出し勇者]が、成長したら[勇者]になって、補正も上がったりね。』

「おぅ、想像通りだな。で、この[駆け出し勇者]は良しとしよう。Level1の人の平均が気になるけど。」

『この世界では、魔物もしくは人を殺さない限り、Levelが上がる事はないから。そうだね、この大陸の魔王と敵対する国の6割はLevelが1だよ。』

「へぇ、案外いるな。」

『これでも比率が下がったものだよ?魔王が侵攻する前は9割越えてたもの。魔王侵攻の際に、防衛上の問題で国が冒険者を推奨したから劇的に増えたの。今こうして生き長らえてる国は全部早い段階で冒険者育成を促進したからだよ。』

防衛上の問題でかぁ。成る程ね。

『で、この大陸の6割の人達のステータス平均がこちら。』

何かご丁寧にも空間に投影してくれた。

なになに…。

────────────────────

Name: 一般人平均

Age: ─

Job: 一般人

Level: 1


HP: 20

MP: 15


AC: 10

MS: 10

AG: 10

OP: 10

DP: 10

CP: 10

称号

無し


スキル

微々たる個人差あり

────────────────────


成る程ね。

「で、OPとDPが3倍以上なのは何で?」

『それは、こちらの判断だね。そう簡単に勇者に死んで欲しくないから、最低限の戦力の底上げを図ったんだよ。説明を書くのが面倒だから、[駆け出し勇者]を3にしてるけど。』

「おい、手を抜くな。」

『神様は忙しいんだよ?』

信憑性が全くないな。

『で、他に質問は?』

うーん。どうせ今朝の初瀬への愚痴この話冒頭参照が[下剋上を望みし者]の原因だろうなぁ……。何も言うまい。

「けど、この[主神の娯楽おもちゃ]は何だオラ。」

こいつばかりは赦せん。

『…あははは~。此処だけの話、称号ってさ、自身の意思の強さとか神様僕達の言動であっさりと加えられちゃうんだよね…。後、主神の僕とかですら自由に出来ない称号の裏補正なんかもあったりするの。』

ん?聞き逃せない話聞いたぞ。さっきからずっとそんな感じだけど。そして話を反らされたけど。

「何だそれ?」

『なんかねぇ、僕達神様の潜在意識に左右されてるみたいなんだよ。しかも、それの詳細を知る事が出来るのも称号が付与されてからだし。いまいち良くわかってないんだ。例えば、君らの[駆け出し勇者]だと、ステータスの数値を減らす様な称号は付かない、って感じかな。』

そいつは感謝しないと。

『んじゃ、称号の説明はもう良いかな?次、スキルに移るよ?』

「どうぞどうぞ。」

『スキルって言うのは、要は技術skillなわけ。だから剣技の師範とかだと、○○流剣術、コックさんだと△△流料理って感じで入ってたりするよ。』

「成る程、個人の努力の賜物なわけだ。」

『お、良い表現だね。けど、ただ単に詠唱して使えるってだけだったりする魔術も含まれるよ。』

つまり、きちんと決まりはないと。

こまめに見てチェック、と。

「なぁ、魔術って言葉で思い出したけどさ、一体どんだけあんの?」

『うーん。人間の考えることだからねぇ…。きちんとこちらが把握してる訳じゃないから、わからないよ。ごめんね。だけど、属性は昨日君らが説明を受けた通り、6種類だよ。』

「じゃ、この今お前と会話してるのとかはなんなんだ?」

『えっとね、昨日の神父の話だけだと、ステータスを見るのだけが属性無しみたいな言い方だったけど、本当はいくつかあるよ。今君と僕が会話してるのもそれに入るの。双方向に声を聞き取って、反対側で文字として表示してるだけだし。人間が俗に言う治癒術とか強化魔術なんかもそう。厳密には、全ての属性を合体させた感じ……かな?ちょっと違うけど、属性はないの。治癒術は魔力の出方が違うだけで、各属性の治癒魔術と変わらないんだよね。この世界の人間は気付いてないけど。』

「おいおい。そんなことペラペラしゃべって良いのか?」

『現時点では、君の口から出任せ過ぎないってこの世界の人には受け止められるから大丈夫。これも勇者である君らの生存率を上げる為に教えているんだから。』

ありがたい限りだ。最初の一言要らんがな。

『またなんかあったらこの羊皮紙に文字を表示させるから。肌身離さず持っといて。そっちからなんかあったら、この羊皮紙に話かけるといい。』

厚意に甘えるとしようじゃないか。ここは。

『後、最後に。僕はステータスを見れるって言ったけど、実は名前と年齢だけなんだ。テヘッ。』

この羊皮紙燃やしてやろうか。

野郎の口車にのせられるとか……。


俺が悔しがっていたところ、初瀬が目を覚ましたようだ。

ようやく、血流が良くなるぞ。

「ん、んー。」

俺の上で大きく伸びをして一言。

「あら、いつもより目覚めが良いのね。」

「諸事情あってな。後で話すよ。」

「御屋形様方、おはようございます。昨日で、この世界の説明が終わってしまいましたので、今日から剣術を午前、午後の前半を魔術、後半を日替わりの講義でよろしいでしょうか?」

「因みに、日替わりの講義って今日は何の予定ですか?」

日替わりって、なんか食堂の定食みたいだ。

「治癒術です。」

「わかりました。」

「朝食は出来ておりますので、お着替えがお済みになられましたらお越しください。」

朝食はフランスパンみたいに固いパンだった(注・焼きたてです)。

パーニクレンゼとか言って、古語で「固いパン」の意味だそうだ。まんまだな。


現代人の俺にとって、そんなにエラは必要ない為に食べるのに苦労した。

いや、美味しいんだよ⁉ホント。


食事が終わってミレーナさんに連れて行かれたのは、東京ドームも真っ青なサイズの道場だった。

そこに立って居たのは────


一昨日の第2話の騎士さん!」

「お久しぶりですね。再びお会いできて光栄です。」

こちらの歯が浮く様な台詞を爽やかボイスと爽やかスマイルでしれっとこなす騎士だった。

「お二人のお名前は陛下よりお聞きしております。こちらの男性が初瀬様で、こちらの女性が千歳様ですね。」

「いえ、違います。」

「あなた方の性別がですか?」

「顔と名前がですよ‼」

「えぇ、存じておりますとも。不謹慎ではございますが、最初からボケを入れさせていただきました。こちらの髪が長い女性が千歳様で、こちらの髪が短いオカマが初瀬様ですね?」

勿論ロングヘアーは初瀬だ。

「おい、わかってねえじゃねえか。」

「テミストレオ騎士団長、ご冗談も程々になさって下さい。訓練の時間が減りますので。」

ミレーナさんが助け船を出してくれた。

てか教えてくれるのは騎士団長直々かぁ。恐縮だな。

「わかりました。いい加減真面目に始めましょうか。男性が千歳様で、女性が初瀬様ですね。こちらは、先程ミレーナが申した通り、騎士団長のテミストレオ・ポントグリオです。お二人の剣術師範を担当致します。お二人には最初にお聞きしたいのですが、ありますか?」

「私はありません。ただ、千歳が…」

「はい。向こうで一応免許皆伝してます。」

「それはまた…。どんな感じの教えですか?」

「えっと…二天一流っていう流派で、左手に小太刀…小剣、右手に片手剣を持ってするんですけど…」

二天一流はかの有名な剣豪、宮本武蔵が開祖である流派だ。

その理念等は「五輪書」に書かれている。

本来なら、左手に小太刀、右手に大太刀なのだが、俺は───

「俺は無理矢理片手剣を2振り持ってしてました。」

そう、そのそのかっこよさに憧れて厨二病心をくすぐられてわざわざ習いに行った道場の免許皆伝ちょっと前位から、見栄えを優先して小太刀から大太刀に変えた。

師範には滅茶苦茶怒られたけど、暫くしてどちらでも同じ事が出来る様になったら、何も言われなくなった。

最も、稽古後に俺も復習を兼ねて行った鍛練以外でしてなかったという理由もあるが。

「では、それでいいですけど、きちんと訓練は受けて貰いますよ。」

「わかりました。お願いします。」


┣━スキルに「二天一流」が追加されました━┫

そういう事らしい。

わざわざ脳内に通知してくれるのは便利だな。

「どうなさいました?」

「私のスキルに、二天一流が追加されたみたいで…ステータスで確認しても良いですか?」

「えぇ、どうぞ。」


────────────────────

「二天一流」 熟練度95

かの剣豪・宮本武蔵が開いた流派。

基本的には、左手に小太刀、右手に大太刀を用いる。

────────────────────

「この熟練度って上限はいくつですか?」

「基本100です。で、免許皆伝は大体90位です。」

「因みに、テミストレオさんはいくつですか?」

「99です。千歳様はおいくつでしょうか?」

「95です。」

「おぉ、後少しですね。90を越えるとそう簡単に上がりませんが、直に100にいかれますよ。」

成る程、結構高かった。


「では、初瀬様は我が国に伝わる、ユーピテル様から賜りし流派、ラティニウム流をお教えします。しばらく訓練していると、スキルとなりますので、ご安心下さい。熟練度し

度合いが高くなるにつれ、ユーピテル様の恩恵により、剣速も自然に速くなります。筋力も重要ながら、それ以上に熟練度をいかに素早く上げるかが大切です。熟練度の上昇が遅いと、例え同じ熟練度でも打ち負けます。なので、この事をお忘れなきよう、いつも頭の片隅に置いておいて下さい。」

「わかりました。」

「何か質問……どうしましたか?千歳様?」

「奥義の中に、光を帯びるとかそういう魔術を併用したみたいなのってあったりします?」

「いえ、そういうのはありません。純粋な力のみです。また、同時に魔術を使うのは出来なくもないんですが、それは冒険者でもベテランクラスですね。最も、本当にする人は更にグッと減りますよ。」

どうもこの世界にはSA○の様な剣技はない。だけど、出来ない訳ではない、という事のようだ。剣から魔術が出来る様に頑張ろう。

「では、今日は素振りから始めます。木剣を使ってください。」

渡されたのは、木刀みたいに形を似せられていない、直方体に鍔がつけられたようだ木剣だった。

しばらく剣技のお供はこれのようだ。

「では千歳様も一緒にいきますよ‼1、2、1、2!」

──────────

───────

────

「これにて時間となりましたので、本日は以上です。木剣はそのままお貸し致しますので、暇があれば素振りをして下さい。特に初瀬様。貴女は経験が足りないので。」

「わかりました。ありがとうございます。」

俺も初瀬の礼に倣って頭を下げた。


昼食後、行った魔術の授業では───


「じゃあ、早速火属性の初歩・ファイアボールと、水属性の初歩・ウォーターボールをしましょう。」

本格的な魔術がようやくお出ましだね。

「ではまずお手本をお見せします。」

と神父さん。

「訓練を重ねると、詠唱をある程度省ける短縮詠唱も出来るのですが、今回は初回ですので、全部言いますね。」

一文字も聞き逃さない様にせねば。

「母なる大地よ その含みし恵みを この手から 降らせたまえ ウォーターボール。」

直径5㎝位の水の玉が現れた。とても澄んでいて、飲んだら美味しそうだ。


これをすぐ消して、

「短縮詠唱を用いると、こうなります。

恵みをこの手に ウォーターボール。」

さっきより短くなったけど同じ様にスマイル水の玉が現れた。


「お二人には、後々短縮詠唱を覚えていただくとして、今は魔法を使える様になる事に専念して下さい。では、ウォーターボールを使って下さい。」

初瀬と見事にハモり、全く同時にウォーターボールが出てきた。



「うぉぉ!」

生まれて初めて魔術を使ったから、思わず興奮してしまった。後悔はしていない。


だが、なんか球状が不安定だ。何故だろうか。

初瀬はきちんと球状で安定しているのに。

「千歳様はそうなってますか。ウォーターボールですから、球状になる事を念じれば安定しますよ。」

「わかりました。ありがとうございます。」

一旦ウォーターボールを消して、ステータスを確認する。

えぇっと、魔術を使ったから、MPを確認…


MP: 44/45


だった。これなら大丈夫そうだね。

もう一度する前に、神父さんの言葉を頭の中で反芻する。


─「球状になる事を念じれば、安定しますよ。」─


つまり、形を整えるのに意思の介在がある訳だ。

そこから導き出される答えは………………


━━━ウォーターボールの完成時のイメージを変えれば、好きに出来る━━━


と推測出来る。

逆に、同じウォーターボールでも、ボール以外の外見にする事ができるのではないだろうか。

試しにボールをナイフ状に整えてみる。



………おぉ、出来た‼

こいつは早速初瀬に言おう。

「なぁ、初瀬──────」

「そのウォーターナイフはどうなさいましたのですか⁉私はまだ教えてませんよ!」

それより早く反応を返す神父さん。彼の驚きも最もだ。

「えっと、俺は形が安定しなかったじゃないですか、だから想像する形を変えたんですよ。」

「因みに消費したMPはいくらですか?」

それもそうだ。

「えっと……、ちょっと待って下さい。MPMPと…あ、はい。消費したのは1です。」

「はぁ⁉何ですと⁉本当ですね?」

「は、はい。」

思わず神父さんの勢いにのまれた。

それ程神父さんの驚き様が凄かった。

「あのですね、千歳様。あのウォーターナイフは、水属性の魔術の中級、大きくしてウォーターソードにすれば上級に相当する魔法ですよ。勿論それなりにMPは使うのですが、まさか1とは…。本当だったら、15は使いますよ。」

なんか神父さんにとっては衝撃的だったらしい。

てか、無自覚とはいえ、否、無自覚だからこそ

異世界転移あるあるの一つ、〔転移させられた人が今まで誰もしたことがない、若しくはする事が難しい事をあっさりこなす〕をしてしまうとはな…。俺の才能(棒)が恐ろしいわ。内実はただの偶然だが。

「千歳。それ後で教えて。」

「わかった。でもその前に、神父さん。今俺がしたことみたいなのって今までにありますか?」

「そうですね……。この国における魔術の権威としてこの城に勤めて15年、魔術師として45年は経ちますが、これ程の衝撃がはしったのは、それこそ25年前に魔王軍侵攻に触発されて開発された短縮詠唱位ですね。」

俺はどうも余程の事をしたらしい。あんまり実感はない。

「では、ウォーターソードをやってみてくれませんか?勿論先にお手本は示しますから。」

初級のウォーターボールより断然長い詠唱の後、出てきたのは刃渡り1.2mの両刃の片手剣(多分)。俺はそれをイメージでウォーターボールを変形させて作る。

…………出来た!

「おぉ‼素晴らしいですよ!千歳様‼」

神父さんが滅茶苦茶興奮している。

「では、これはどうですか⁉」

再び長い詠唱の後に出てきたのは、ウォータージェットとか言う魔術。

なんかポ○モンのハイドロポンプみたいだ。

辺り一面が水浸しになる。


さっきと同じようにこれもイメージで真似する。……………………出来た‼


だが、マーライオンの頭部の代わりに水色のパックマンがいる感じだったから、自分でしておきながら笑った。初瀬も同様だ。

何故かわからない神父さんは、────


────そんな状況に気付かず、ひたすら感心して、興奮していた。


ファイアボールに関してもおんなじ感じで、神父さんがファイアボールを教えた後、

ファイアソードだとか炎の放射ファイアレディエーションという要は火炎放射の魔術とかを乱発し、ひたすら俺がファイアボールを変形してそれに答える、というサイクルを繰り返していた。その間初瀬が手持ち無沙汰で暇そうにしていたのが可哀想だった。


そんなこんなで魔術の時間が終わり、やって来たのは治癒術の時間。

治癒術は初瀬も習うので、今も一緒だ。


担当はミレーナさんらしい。

「では御屋形様方、治癒術について始めさせていただきます。」


曰く、治癒術とは──────


患部に神の御手をかざして治癒する神の奇跡を人間が代行するイメージで、周りに集まって来る暖かい神の恵みを患者へ優しく染み込ませるものらしい。


「では試しに行う為に、御屋形様方。患者側の感覚を覚えてください。」

そう言って、ミレーナさんが手を腕に当てて来る。


──『厳密には、全ての属性を合体させた感じ……かな?ちょっと違うけど、属性はないの。治癒術は魔力の出方が違うだけで、各属性の治癒術と変わらないんだよね』──


そういえば、神様かまちょがいってたな。

等と考えていたら、ミレーナさんが治癒術を発動させようと詠唱を唱えていた。

結構長く(20段落位)、覚えれそうになかったから、ちょっと諦めた。いきなり全部覚えようとしても無理だわこれ。

終わった途端、ミレーナさんが触れているところが温かく感じだした。いや、それだけじゃない。なんか腕の芯から大きくなっていっている感じや、血流が更に良くなった感じ、不健康の元となる様なものがなくなっていく様な感じもする。


「こんな感じです。御屋形様方はいずれ戦場へと赴かれるので、詠唱が長くても覚えてください。実践は最良の教師、とも言います。国が運営している治療院がありますので、そこで練習していただきます。」

と言って、同じ城内の治療院へ連れて行かれ、そこで夕食になる迄みっちりと練習をした。

終わった頃には、空腹が抑えられなかった。


夕食は、甘辛く味付けした馬肉を焼いたものだった。ヴドゥルチネーゾという料理名らしい。

空腹と相まって、合計2回おかわりしたわ。



夕食後は、昨日第3話と違ってすぐ眠気が襲って来る事はなかった。


じゃ、風呂に入る前に、今日の復習でもしようかな。

寝室を汚す訳にもいかないし、まず魔術の変形の練習からだね。


原型のボールから、小太刀、大太刀、果てはマシンガンだとか色々変形させた。

勿論、イメージを変化させるだけだから最初以外は無詠唱だ。


そこではたと気付いた。

「初級魔術をイメージで中級上級魔術に変形できるなら、そもそも詠唱でさえ要らなくね?」


そう、イメージで魔術をグレードアップ出来るなら、同じくイメージで魔術を発現させられるのではないか、と。

「思い立ったが吉日だしね~。やってみなくちゃわからない、この大科○実験で。」

そもそも○学じゃなくて魔術だけども。


……………はい、言ってみたかっただけです。ごめんなさい。


とりあえず、やってみよう。

掌に直径5㎝位の水の玉をイメージする。


…………………出来た‼

変形より難しかったけど、出来はした。ここら辺は、無から生じさせたせいじゃないかな?多分。


同じように、今度はファイアボールをイメージで発現させてみた。


……………さっきより簡単に出来た。

なんかちょっと拍子抜けだね。


あ、更に余計な事いいことを思い付いた‼

そんな時に、


「千歳、ねえ。そろそろ教えてもらっても──────良いかしらぁ⁉」




初瀬という名の、般若が目の前に立っていた。


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