第2話 非日常の濫觴

部屋に戻ると、俺達とミレーナさんは早速明日以降の予定について相談を始めた。

「とりあえず、明日は終日この世界について教えてください。」

「わかりました。明後日以降はどうなさりますか?」

「そうですね。どうする?初瀬」

「どうするって…あんたは大口叩いて全ての技術って宣言したんだから、それを均等に習得しなさいよ。」

おおぅ、そう言えばそうだった。

……そうだな。

「じゃあ、初瀬。午前は共通の戦闘技術に関して学んで、午後は各自個別でってことでどうだ?」

「良いわよ。ミレーナさん、これでお願いします。」

おぉ、許可を貰えた。

「わかりました。では明日から宜しくお願いしますね。」

「こちらこそ宜しくお願いします。」

そう言うと、すぐに部屋からミレーナさんは出ていった。



















…………………と、思ったのだが。

「…………………………………………先程の様にお二人で夜の営みはなさるのですか?」

あぁん?だとか、テメエェェェだとかを反射的に叫ぶ前に視界が激しく揺れた。

言い訳じみてるが、俺だってミレーナさんを逃がさない為に取っ捕まえるつもりだった。けれどこの視界のブレは能動的なものではない。

なら、何故か?




初瀬が俺以上の条件反射(モドキ)でミレーナさんの下へ突進したからだ






……………………俺ごと。

「なんだとっ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」


初瀬の火事場のバカ力半端なさすぎでしょ…。俺引き摺られて無いよ?宙に浮いてるよ?


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

などと刹那的に考えている間に、初瀬がミレーナさんを捕縛した。


「あんたは自身のズボンを押さえときなさい。」

「縄なんて無いのに縛れてんのは何でだ?」

「済まないけど、あんたのベルトを使ったわ。」

「おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

全くなんて運動神経してやがるんだ。良い迷惑だ。

まぁ、こいつのおかげで罪人ミレーナさんを取り逃がさなくて済んだから、今回は相殺してやろう。


「………………ねぇ、ミレーナさん。貴女、何て言った?」

初瀬が死んだ魚の目でガンをとばしている。

何かシュール過ぎてこれはこれで怖い。

「ひいぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ねぇ。きちんと答えなさい?悲鳴をあげる才能しか無いの?貴女。ねぇ…。」

「おぉぉゆぅぅるぅしぃぃぃをぉぉぉぉぉ!!」

「止めとけ、初瀬。こうなったこいつミレーナは15分は落ち着かない。」

「そういえばそうだったわね。」

そう、俺達は学んだのだ。



………………………あ、こいつ人の話聞かないから何度も同じ事を繰り返す奴だ、と。



3分も経たないうちに、1人の騎士がやって来た。

「こんにちは、勇者の方々。」

至極丁寧な物腰につられて、俺達も挨拶を返す。

「国王陛下からの伝言です。」

ん?何々?

「『前々からこうなるだろうと予想はしていたが、もしミレーナの言動が気になるなら、そなたらで調教してくれ。大方、恐怖のドン底に突き落とすか、酸欠状態迄追い込めば良いじゃろう。これでも、何でもそつなくこなす万能な侍女なのじゃ。許してくれのぅ。』だそうです。」

え?どゆこと?



調教?

今聞き逃し難いこと聞いたけど、冗談?



「今調って聞こえたんですけど…。」

「あ、はい。そうです。当たってます。調教しちゃって下さい。」

騎士さん、愉快そうな顔してる…。何か怖いよ⁉

「冗談ですよね?」

「いえ、勇者の方々がお一人ずつ調教することで、ミレーナの扱いが楽になるという、陛下の配慮です。詳しい理由は、調教なさった後に陛下からお聞き下さい。」

マジすか…。

そう言うなり去って言った騎士さんだが、完全に去る前に、振り返った。

「あ、すみません。忘れてましたが、調教の際はこれをお付け下さい。」

騎士さんが投げて寄越したのは、2組の耳栓だった。どんだけうるさいのだか…。


と、その時。手に軽い衝撃が走った。言わずともがな犯人は初瀬だ。喜色満面な顔している。

こいつがこの表情をする時って、ろくな事ないんだけど、現時点でそうだしもういっか。


右手にスポーツタオルを持ち、ミレーナさんに向かって構えている。

こうしている間も、ミレーナさんの絶叫は結構うるさいから、素直に耳栓着けよ。


ってこれすげぇ!ミレーナさんの大音声がほぼ聞こえねえ!!

SO○Yのデジタルノイズキャンセリングも真っ青だな。


って、良く考えたら俺も調教しないといけないんだよな…。

こんな時に人生初の調教プレイができるとは思わなかったぜ!!

っていかんいかん。欲望に思い切り流されてたわ。

でも、調教って何すれば良いんだ?典型例言葉責めと鞭はもう初瀬が取ってったし…。

…………………………

………………………

……………………

…………………

………………

俺が8分以上悩んでいてもまだ初瀬は止まらない。


あいつ昔からタオルを鞭の代わりとして扱うの滅茶苦茶上手いんだよなぁ。

小1の頃、当てられて痣出来たし…あれはめっちゃ痛かった、うん。


って、気づいたら二人とも恍惚とした表情してるし。怖っ!


更に6分立って、初瀬が満足した様だ。

あいつは、大雑把にカテゴリすると、黒髪ロングの毒舌弩S女っていうテンプレの塊のような奴だから、何か様になってる。俺だったら嫌だけど。


「千歳、あんたの番よ。私は私怨も晴らせて満足したわ。」

なんという女王様気質。

ちょっとチキンなスキンになったね。


さて、ミレーナさんはピクピク痙攣を起こしてるし、しばらくは動かんだろうから考える時間は十分あるね。

え?痙攣が危ない?

普通はそうだけども、今回はアレ絶対弩Mの道を切り開かれた時の感動からきてるからね。無視無視。


で、国王陛下は、確か………………



『大方、恐怖のドン底に突き落とすか、酸欠状態迄追い込めば良いじゃろう。』

とのことだから……。

うーん。ん?酸欠状態?


そんなことできる何かってあったっけ……………………………………………?






いや、あった。

とってもすることは簡単じゃないか。

擽るだけなのだから。


そうと決まれば話は早い。

かつて「こしょこしょ星人」とまで呼ばれたこの俺、鬼怒川千歳の本領発揮だな。


ミレーナさんは痙攣からは回復した様だけど、起き上がる気配はない。

当然だ。彼女はまだ捕縛されたままなのだから。



初瀬には仰向けのまま捕縛・調教されていたので、寝返りをうつつもりはない様だ。


俺はそんなミレーナさんに覆い被さる様な体勢をとった。後は手始めに脇腹から擽り倒すだけだ。


「てりゃっ!」

「あははははははははははは!」

ミレーナさんが笑いながら悶絶する。

と同時に、彼女の服を北斗○拳の様に破り兼ねない程巨大な胸が引きちぎれんばかりに揺れる、否、振り回される。


…………………………眼福だ。


耳栓をしているとはいえ、やはり近くだとミレーナさんの声は大きくてうるさい。

騎士さんありがとう。これ耳栓 がなかったら今頃難聴か聴力を失っていたかも。


ちょっと馴れてきたのかな?少しずつ手を上に移動させよう。勿論最終目的地は腋だ。










かれこれ15分経ったろうか。

「いつまで、ガン見しているのよ‼」

俺は相当ヤバい見方をしていたらしい。

初瀬が俺をミレーナさんから引き離した。

ミレーナさんは呼吸困難みたいだ。でも表情は恍惚としたままだ。



5分程過ぎて、漸くミレーナさんが起き上がった。さっきの恍惚とした表情は何処に消えたんだか、非常にキリっとした顔だ。

「大変失礼いたしました。これからは、お二人を第2の主人として、誠心誠意お仕えさせていただきます‼」

「……………えぇっと、第1の主人は誰?」

「国王陛下にございます。」

「あ、はい。」

「では、主様方はお疲れのご様子ですので、今日はごゆるりとお休みなさいませ。」

「えっと、国王様に話は聞かなくて良いのかなぁ?なぁ、初瀬」

「それもそうね。どうなの?」

「はっ、それに関してはご安心を。先程の騎士の置き手紙に、陛下からの詳しい話は明日の夕食時に行うとこの通り書かれております。」

あの人いつの間に?

そんなことしたのを悟らせないってなかなかだね。

「わかったわ。もう休みましょう。」

「OK」

「では、私ははす向かいの部屋に詰めておりますので、何かあったら遠慮なくお申し付けください。これから明日以降どのように調教して頂けるのか、と想像いたしますと…ハァハァハァハァハァハァハァハァ…ッ!」

気持ち悪っ!

こんな恐怖から遠ざかる為にも、俺達は部屋に籠ろうとした。


「って、ベッドは一つしか無いよ。」

「そうね。」

「だから俺は床に敷いて寝るわ。おやすみ~」

そそくさと俺は布団を敷こうとする。

「待ちなさい。あんた私の寝相は知ってるでしょう?」

はいそれはもう骨の髄にしっかりと刻まれておりますとも。

「だからあんたもこっちのベッドで寝なさい。」

「チィィッ!」

これが嫌なんだよ‼毎回俺が下だから、手とか痺れるんだよ‼

「………………千歳はあの変態ミレーナさんと同じ末路を辿りたいの?」

初瀬が百獣の王ですら虐げそうな顔をしている。怖い。

「じゃ、あんたはここね。お休み。」

そう言うなり、初瀬は俺を下敷きにしてベッドで寝始めた。


普段凄まじく寝相と寝つきが悪い初瀬だが、俺の上だと1秒以下だ。

「○○衛門~」な、人物某氏も真っ(以下略)。


それでも俺にも疲れが溜まってたのだろう。すぐに睡魔に襲われ、寝た。

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