Succession of Unknown
第1話 目には目を 歯には歯を テンプレにはテンプレを
「……知らない天井だ。」
おっと、思わずエヴ○の台詞を発してしまった。
これ一度言いたかったんだよなぁ…
って、俺何で天井のある所で寝転がってんの⁉
驚きのあまり起き上がろうとしたが、全身が金縛りにあっているかのように動かない。感覚も麻痺しているようで、何にも感じない。
喋ることしか出来ないようだけど、ずっと独り言を呟き続けるのは危ない人と判断されるから、しばらくは
………えっと、確か俺は初瀬と一緒に
でも撃たれたってことは相当な重症を負ったに違いないから、奇跡的に一命をとりとめて、意識だけ回復したってことだよなぁ…
下手すると一生この状態かもしれないから、それを考えると、怖い。
あっ、そういえば初瀬はどうなったんだ?俺と一緒に雷に撃たれたから、下手すると……死んじゃってるのか……。あいつにはなんだかんだで色々助けてもらってたから、いざ死なれてしまうと、悲しすぎて何を言えば良いのかわかんねぇよ……うぅ。悲しいのに、体が熱くて仕方ないや…。特に右手なんか熱くなりすぎて手汗をかいてるし……………
……………………………………………………ん?手汗?右手に?何でだ?
つか右手の感覚を研ぎ澄ませたら、俺何か柔らかくて温かい物触ってんだけど⁉何これ⁉
…え?何か柔らかくて温かい物がぴったり俺の手と絡まっているんだけど⁉え、え、何?これ?
驚きのあまりこの謎物体を握ってしまったら、なんと握り返された………………しかもしっかりと。
…これ、もしかしたら手?人の手?って誰の⁉つか知らない
ヤバいヤバい!悪魔の証明が出来ない限り、男の人生を狂わせるあの恐ろしい罪に問われるなんて俺は嫌だああぁぁぁぁぁぁぁ!
心の中で悲鳴をあげつつ飛び起きると、隣で俺の右手をしっかりと握り締めていたのは…
「って
ま、ですよねぇ~
「相変わらずうるさいわねぇ…むにゃむにゃ」
「…………こいつは夢の中でも俺を怒ってんのかよ…。つか寝返りうつなぁぁぁぁ!」
俺の上に初瀬が乗ろうとしてくる。
こいつの寝相の悪さは治らんなぁ…昔から。
「何度も…むにゃむにゃ…言わせないでよ…むにゃうる……っさいむにゃ…」
「うおっ‼」
はつせ の うらけん !
みぞおちに あたった!
こうかは ばつぐんだ!!
ちとせ に 150 のだめーじ!!
ちとせ は たおれた!
はつせ の
ちとせ に 360000の だめーじ!!
ちとせ は もんぜつした!
「ギブギブギブギブギブっっっっっ!!せめて右腕は外させてぇ~」
俺は渾身の力を振り絞って初瀬の下敷き(俺の体の上でもある)となった右腕を引っこ抜いた。
「にしてもこの癖も変わらんなぁ」
ようやく一息ついた俺は、この体勢について感想を抱く。
寝相が悪い初瀬なのだが、不思議と俺の上にのっかると、それまでとはうって変わって恐ろしい迄に寝相が良くなるのだ。しかもこの体勢になると3時間は絶対に起きない。保育園の時、毎日これをやられていて、心の中では勘弁勘弁してくれ、という感じだった。
だが、体の方は順応しきっていて、恐ろしいことに、何年もしていないのにも関わらず、今も抵抗がない…。
…………………………仕方ない。しばらくこのままでいよう。
その時、扉の開く音がした。
え?扉?あったの?つか今見られたら俺とてもマズイ状況に置かれてんだけど⁉やば!!
と、焦っている間にも時間は当然過ぎていくわけで…
「あ、ごめんなさい。お取り込み中でございましたか……。た、大変っ、ご、ご迷惑おかけしましたっ!」
扉を閉められた。
「ちょっとまてぇぇぇぇぇぇぇええええええい!」
俺は反射的に初瀬をはね飛ばし、大急ぎで扉の元に向かい、扉を開けた。
「はぁ、はぁ、まさか先程召喚した勇者様方が意識を取り戻してすぐに夜の営を始めようとするとは…」
「なぁ、ちょっと待とうか。さっき扉を開けてくれたメイドさんよ。」
「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃゃゃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!」
ってメイドさん?え?マジ?あの夢にまで見た?
「貴女、メイドさん?正真正銘の?」
「さっきのことは誰にも申しませんのでお許しくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
「ねぇ、メイドさん?メイドさんなの?そうなの?」
「私の命をもってでも、罪を償わせてくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
「メイドさん?だよね⁉だよねえ??!!」
こんな話の全く通じていない
俺らは、ようやくお互いのおかしさに気づいた。
「はぁ、はぁ、すみません。つい気が動転してしまいました。えぇっと、先程のことは言いませんので、お許しください。そして、何か御用でしょうか?」
「いえ、こちらこそすみません。ついテンションがあがってしまい、はしゃいでしまいました。でも、言う言わない以前の問題で、そもそもしてませんから。えぇ。お間違えの無いように‼で、後、メイドさんですか⁉」
「いえ、普通の侍女ですけど…」
「あら残念」
「お気に添えず、すみません。」
「あ、いえ。気になさらないでください。俺の戯言ですから。ところで、ここはどこでしょう?」
「ここはユリウス王国首都のラウィニウム城です。詳しいことは、国王様から直々にご説明がございますので、そちらでお聞きください。」
「わかりました。すぐに国王様の下へ向かった方がよろしいですか?あいつ多分後3時間は起きないんですよ。」
「…………………………誰かさんがぶっ飛ばしてくれたおかげで起きてるわ………よ…」
「ひぃぃっ!」
俺の左斜め後ろから氷点下の冷たさを持った声が聞こえてきた。
「お前、起きてるならもっとはやく
「状況が掴めなかったからしょうがないじゃない。おかげでわかったから、すぐ挨拶に行きましょ。」
「あぁ、わかった。ではお願いします。」
「かしこまりました。」
「あ、ちょっと待って。侍女さん、少しこいつと話したいことがあるので、時間をいただけますか?」
「えぇ、わかりました。では、私はここでお待ちしておりますので、先程のお部屋でお話ください。」
「と、いうわけだ。良いよな?」
「全く私の意志を考慮してないわね。まぁ、良いわ」
部屋に入ると、すぐに初瀬は俺を問い詰めた。
「んで、言いたいことは何かしら?」
「これってあれだよな!だよな‼」
「いきなり興奮しないで、気持ち悪い。まぁ、異世界転移と言いたいなら、それ以外考えられないわね。」
やっぱそうだよな、
「さすが俺の幼なじみ!!俺の言わんとすることがわかってる。あの
「その点に関しては同意するわ。」
「で、どうする?」
「?どうって…何?」
「俺の予想では、勇者としてお前達は召喚されたの説明からの世界は魔王の脅威に曝されているから助けて、の典型的テンプレコンボだと思うんだよな!さっき、侍女さんが独り言の中で『勇者様方』って言ってたし。だ…」
「から、私達が勇者としての仕事を受けるか否か、ってことね。」
「さすが、お…」
「そのくだりはもう良いわ。勇者の案件だけど、千歳がやる気なら仕方ないわ。受けましょう。千歳の
もう、異世界に良くある念話って要らんよな…。俺が考えていたこと全部わかってるし。
「じゃあ、行きましょ」
「あぁ」
扉を開けると、さっきと全く同じ場所に侍女さんは立っていた。
「あ、侍女さん。お待たせしました。案内お願いしますね。」
「かしこまりました。では、参りましょう。」
こうして、長い通路を歩き、階段を登ってついた先には、
これまたテンプレのような謁見の間の扉があった。
…こっちの期待を全く裏切らんなあ。
これからもテンプレに継ぐテンプレの攻勢だろうしなぁ…。
やっぱ、テンプレ返しにはテンプレ返し返しだよな‼
と、俺も一人ワクテカしてると、その間に侍女さんは大きな扉を開け、さっさと謁見の間へと入っていった。俺や初瀬も慌ててそれに続く。
扉の先は、学校の体育館の倍はある程広く、その最奥にとても豪華な玉座があった。
そして、そこに威風堂々と座っていたのは
「陛下、お連れしました。」
「おぉ、大儀であった。」
ダンディーな声の長い髭を生やした王様だった。見た目40代後半だろうか。
「ミレーナ、こちらが先程の気絶勇者達であったな」
き、気絶勇者⁉もうこんな
それにしても、侍女さんの名前、ミレーナっていうのな。
「はい、仰られる通りでございます。」
「わかった。下がっておれ。」
「かしこまりました。」
「では、早速本題に入るとするかのう…。見ての通り、ワシはこのユリウス王国の国王である、ヴィットリオ=ユリウスじゃ。お主らの名前を教えてくれんかね。」
「はい、俺が鬼怒川千歳と言います。で、こちらが大淀初瀬です。」
「こんにちは、大淀初瀬と申します。」
「おぉ、そうかそうか。千歳殿に初瀬殿じゃな。のぅ、お二人はここがどこかわかるかの?」
「ユリウス王国のラウィニウム城だとは先程ミレーナさんからお聞きしました。」
「では、この世界は何かわかっとるか?」
言われてみれば、全くわからない。よし、この機会にきちんと聞いておこう。
「いえ、雷に撃たれてそのまま気を失い、気づいたら先程の部屋で寝ていたので…」
「そうじゃったそうじゃった。では、ワシからそれを説明しよう。この世界は、世間一般ではラティヌスと呼ばれておる。そして、世界中に沢山の国があるわけじゃが、目下の所、その中で最大なのが我が国、ユリウス王国じゃ。なのじゃが、30年程前じゃったか、この陸地の外から悪の勢力が攻め入って来てのぅ、こやつらが我が国や隣国の民に極悪非道な仕打ちをし続けておってのぅ、………本当に極悪非道なんじゃ、奴隷なぞマシな方じゃと、放った密偵が報告しとったのぅ。そしてさっさと排除したいのは山々なのじゃが、こやつらの軍が滅法強くてのぅ、敵わんのじゃ。無論こちらも負けてばかりではないぞ。じゃが、ズルズルと押され続けて、我が国もここ含む7城と、それらを守る支城位なのじゃ。」
矢鱈と感情的に語る国王だった。言い訳がましくてならない。けど相手は国王だから、簡潔に言え、とは言えない。
そこで、俺はこう言う事とした。
「ヴィットリオ陛下の懇切丁寧なご説明のおかげで、この国が置かれた状況について良くわかりました。では、私達がこうしてここにいるのは何故でしょうか?」
要は簡潔に話せ、さっさと話を進めろ、だ。自画自賛となるが、日本人らしく本音と建前の使い分けができている。
「おぉ、そうじゃ。で、窮地に立たされている我らは、主神ユーピテル様にお伺いを立てた所、勇者召喚の秘術を授かったのじゃ。」
うん、次の台詞は絶対
「つまり、お主らに頼みがある。」
と、ここでヴィットリオ陛下は改めて佇まいを正す。元々佇まいは良かったけどね。そんなことより、早くあれ言ってくれないかな。WAKWAK。
「勇者達よ、どうかこの世界を守ってくれ」
さっきとは比べものにならない程の威厳を讃えた声でそう告げてくる。
やっぱこういうのって一種の儀式なのかな?
そんなことも考えつつ、俺は返事を返そうとする。
流行り位しか追ってない俺ではあるけど、
答えなんて、何年も前から決めてある。
勿論、それは─────────
「鍛冶と錬金術と造船技術も同時に教えてくれればねっ!俺は旧帝国海軍の再現をしてこの世界を救ってやるうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
周囲の空気が凍った。
さっきの初瀬の声程低くないのが唯一の救いだ。
「………………………………………は?」
周りから、異口同音にそう告げられた。
……俺らがこの間へ入る前からずっと同じ姿勢をとり、しゃべらず、微動だにしなかったであろう、陛下の護衛の騎士達にさえそう言われた。正直、心外だ。ここまでひどい空気になることもないだろうに。
「ぅっ!」
初瀬にボディーブローを浴びせられた。倒れはしなかったものの、痛みで喋れない俺に替わり、初瀬が口を開く。
「申し訳ございません。こいつのこのような戯れ言は今に始まった訳ではないのですが、ここまでするとは思いませんでした。こちらの教育不足でした。すみません。」
初瀬が俺の頭をわしづかみにし、彼女と同時に頭を下げさせる。テンプレ返しに対するテンプレ返し返しを忘れて、
「そういう問題じゃないわよ!」
初瀬が小声で俺にそう告げる。同時に、初瀬が右足で俺の左足を蹴飛ばしてくる。ちょっと痛い。
「鍛治は、まぁ予定には入っていないが良いじゃろう。錬金術は術師が今仕事を受けているせいで半年は帰って来ないから、すぐには無理じゃな。で、お主らに聞きたいのじゃが…」
おぉ、案外結構簡単に通ったぞ!俺の希望!!
で、続きはなんだ?
「その、のぅ。さっき千歳が言っておった、カイグンじゃとか、ゾウセンじゃとかはなんじゃ?」
…………………………………………………………………………………………………え?
何だって?……………
俺の中で時間が止まった。
初瀬は俺の驚き様が半端ないのか、俺から目を離さない。
「ちょっとしっかりなさいよ!」
「あ、あぁ。」
「ちょっと!!魂が抜けかけてるじゃない!」
初瀬が往復ビンタを浴びせくるが、正直痛く感じない。
へぇ~、俺驚きすぎると感覚が無くなるんだな。初体験だぜ。
「え、千歳⁉まだ戻らないの?良い加減ビンタも疲れたわよ!」
そういうや否や、初瀬は俺に蹴りを入れてくる。
……しかも股間に。
「いてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
はっ、何してたんだ、俺は。
でもそんなことを考える余裕もなく、痛い!!
痛みのあまり、俺は床に倒れ、転げ回った。
「千歳が正気に戻ったわ。良かった…。」
……………10分位経過したろうか。
ようやく俺は悶絶から立ち直った。それとショックからも。
「お見苦しい姿をお見せしました。では、質問を変えます。この世界では、陸路以外に交通手段はありますか?」
「うむ、そこから見える、大きな水溜まりの先にも国がいくつもあるらしいのじゃが、そこから、半年に1度商人が大きな桶に乗ってやってくるぞ。そやつらは結構珍しい物を持って来る故、結構儲けてるらしいのじゃが、これ以上頻繁には来れぬらしい。何故かはワシも知らんのじゃ。すまないのお。」
「そ、そうですか………。ありがとうございます…。」
なんと、この世界には、海上交通の文化がないのか…。何でか知らないけど、かなりショックだ。後、陛下が言ってた『大きな水溜まり』はどうみても海だ。
「んでは、千歳。お主はどうしたいかの?」
「造船が出来ない以上、セカンドプランに移行します。この国の技術全て教えて下さい。剣術体術等の戦闘に関する技術から、鍛治等の生産職の技術に至る迄。お願いします。」
仕方ないもん。やりたかっただけだし!……1番は旧帝国海軍の再現だけど。
「わかった。初瀬、お主はどうするかの?」
「私は戦闘に関する技術と、医療に関する技術だけ教えて下さい。」
「では、今日はゆっくり休んで、明日から訓練を行うこととする。良いな、二人とも。」
「あ、明日からしばらくは、この世界の常識とかを教えて下さる時間を下さいませんか?そちらの方がお互いやりやすいと思います。」
初瀬が追加でお願いをする。
俺はショックから立ち直れない。
「それもそうじゃな。わかった。そうしよう。では、これでしまいにしよう。お主らの世話は先程のミレーナがするので、何かあったら申し付けると良い。部屋も先程と同じじゃ。ミレーナ、この二人を案内せい。」
「はい。」
こうして、ヴィットリオ陛下との初対面は終わり、謁見の間から俺らは退出した。
─────俺は失意のまま、勇者生活を始めることとなった。─────
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