Ep:4「この子が僕の妹です。…変人で天才の妹だよ!」

「では、聞かせて貰いましょうか。先の経緯について」


そう言って僕らに説明を促す妹、優。

僕らは家の居間にあるソファーに座っていた。

僕と愛紗さん。そして正面に優である。


「ん~僕からはうまく説明できないんだよねぇ。正直困惑したようなものだし。だから、愛紗さん、御願いできますか?」

「うん。任せてよ!」


僕がそう言うと、愛紗さんが優に説明を始めた。

優は、愛紗さんの説明を「フムフム」と考え事をしながら聞いていた。


「と、言うわけで、直を治す際に女性として直しちゃった。まあ、そんな感じですね」

「……そうですか。俄かには信じ難い話ですが、現実にこうして起きている。…なら信じるのが道理ですね。…でも」


そう優は言うと、ソファーから立ち上がると、優は僕の前に来るとしゃがみこんだ。

何をするんだろうと、嫌な予感が頭に浮かんだ。この妹は突然、突拍子のない事を平然としてくるからだ。

そんな風な僕を気にすることなく妹は僕のスカートの端を掴んだ。

「えっ!?」と「まさか!?」と普通ならしないであろうという考えが頭に過ぎった瞬間、妹は躊躇いもなくそのスカートを勢い良く捲り上げた。


「きゃーー!!?」

「フム。やっぱりですか…こちらは、フム…胸の感触もパットでもない…女性特有のものですね」

「ちょっ、なにを、僕の、胸を、揉んでるのさぁ、んゥ…」

「わあ!直はやっぱり可愛い声ですねぇ。うん、このままでいいんじゃない、もう」


僕が突然の事態に羞恥から女の子のように悲鳴を上げ…いや、女の子になったのだから間違いはないのだろうけど。

いきなりスカートを捲られた。しかもそのあとに胸を揉まれたのだ。僕は真っ赤になっていた。

そんな僕を尻目に妹はどうやら納得に至った様だ。ついでにこの馬鹿天使はふざけた事を言った。

取り敢えず、混乱していた僕は妹の手を払うと、涙目になりながら「何をいきなりするの!」を妹に文句を言った。

僕に文句を言われた妹は特に気にしていないようで、先程座っていたソファーに戻った。


「だって気になるじゃないですか。本当か確認するなら今のが一番手っ取り早い方法ですし。それに、私も考えを改める必要も出ますしね」

「うぅ、どう言う事?」

「愛紗さんにも再確認ですが、まずは姉さん。姉さんが兄さんに戻るには最低でも1年はかかる。という事ですね?」

「うん。【奇跡】は天使にとって特別のモノなの。1年に1度、行使できる特別な神秘なのです。…まあ、他の天使達はもう少し短い範囲で使えるんですけど…私、落ちこぼれですから…フフフ」


何だか愛紗さん、どんよりとした雰囲気を纏ってるなあ。しかし、そうなんだ。他の天使さんかぁ。やっぱり、愛紗さんみたいに綺麗な人?なのかなぁ。


「では、姉さんは今後1年、女の子として過ごす事になります。その場合、今までの様に生活するのも難しくなります。と言うよりも周囲の理解を得られるか難しい所ですしね。いくら姉さんが元々女性の様な顔をされていたとは言え、知る人は知っているのです。特に、学園なんかはそうですね。このまま、通い続けるのは難しいと判断します」


確かにそう言われるとそうだよね。

てっ、女性顔は余計だよ!


「なので、姉さんには私と同じ学院に編入して頂く様にします。幸い、私の在籍している学院は女学校です。姉さんを知る者もほとんどいない筈です」

「ええ!?い、いくらなんでも、女学院は、そのぉ、困るかなぁ。女性化しても僕は僕のままなんだよ。それに、いずれは戻れるはずなんだし、いくらなんでも女学校は。せめて共学は駄目なの?」


女の子になっても、僕は僕。つまり心は男のままなのだ。そんな状態で、女学院に行くのは流石に困るよ!


「共学なんて駄目です。姉さんは、異性を惹きつける才があるんです。なので、駄目です。絶対駄目です。断固拒否します。どうしてもと言うのでしたら、御自分で学費を出してもらう事になりますよ」


そんなぁ。でも、どうしよ。僕の経済的なものは基本、妹に頼っているのが現状なのだ。学園に通うだけのお金を稼ぐのにはいくらバイトをしても足りない。と言うより、バイトなんてやったことないし、この体になって間もない。慣れてない状態では失敗の方が多くなるのは必然。

どうしようと考えてると、愛紗さんが妹に話し掛けた。


「ねぇ、どうして、同性のいる学び舎じゃないと駄目なの?と言うより、異性を引き寄せる才ってどういう事なの?」

「姉さん、いえ、兄さんは異性を引き付ける魅力を持っているのです。兄さんは女の子を自然と自分の周囲に引き寄せる何かを持っているんです。実際、小学、中学では共学校でしたが、お友達は女性の方が多かったではありませんか!私がどれだけ気を病んだ事か!」

「あらら、随分なお兄ちゃんっ子ですねぇ」

「それは、そうかもしれないけど。…って、清王を薦めて来たのってもしかして?」

「勿論、その意図で男子校である清王を薦めたんです。あと、愛紗さん。私のこの想いはそんな陳腐なものではありません」

「?どう言う事?」

「私は、兄さんを愛しています。それは異性としてです」


えっ!?マジですか!

そんな気、全然気づかなかったんだけど。


「と言っても、私はあくまでも兄妹です。そこは理解しています。ですが、この想いは、兄さんに対する気持ちは押さえが効かないのです。なので私の趣味を利用して兄さんを少しでも異性ではないと思い込もうとしていたんです。ですが、今や兄さんは、女性、姉さんになっています。なら、私のこの気持ちも薄まるはずなのです。ですが、今度は別の問題が出てくるのです。それは…」

「それは?」


別の問題って…


「それは、姉さんの貞操が、所謂処女がピンチとなるからです!」

「ぶふぅー!…な、何を、言ってるんだよぉ!しょ、処女とか…」

「わあ!真っ赤になった直、可愛い!」


煩いよ!


「私には、姉さんの貞操を守る義務があるんです。何故なら、姉さんイコール兄さんの初めては私が貰うからです!!」


何をドヤァとした顔で言ってるんだこの妹は!


「どう言う事?2人は兄妹なんだから、愛の営みを行うのは駄目だよ。触れ合いの範疇なら良いと思うけど」

「いや、そういう問題じゃないと思うけど…」


確か、愛紗さんは愛の天使でしたっけ?

なんとなく、愛紗さんなら「いいよ!愛ある行為なら良い!私は応援するわ!」とか言いそうな気がしたんだけど。少しはまともな思考があるんだね。

と、ちょっと失礼な事を思っていると。


「だって、行為の先には子供がいるんだよ。そんなの愛ある子供が可哀そうじゃない」

「なるほど…」


僕が愛紗さんの言葉に確かにと思った。

近親相姦がいけない理由は子供にある。

近親同士で出来た子供は何かしらのハンデを持って生まれるケースが多い。免疫力が低かったり、体に後遺症を持っている場合があるのだ。

だから、なのだが。天才少女である妹がその事に気付いていない訳がないと思うんだけど。


「無論、その事は私の懸念事項の1つです。なので、この1年でそれを克服する研究を完成させるつもりです。そこさえ克服すれば問題はないはずなのです!」

「そうですねぇ、問題なければ私はとやかく言う事はないですねぇ。寧ろ愛ある行為、大いに結構。やれやれって感じですね!」


何言ってんだ、この馬鹿!

少しでも見直した僕が馬鹿だったよ。

と言うか、妹よ、そんな研究をしていたのか!


「とまあ、そんな感じで、姉さんには私が監視をしやすいように、私が籍を置いているフォルトゥーナ学園に編入して頂きます。勿論異論はありませんね」

「うぅ、それしか方法がないんだろ?ならしょうがないよ、うぅ」


どうしてこうなるんだろ。

僕が何をしたって言うんだろうか!


そんな風に自分の不幸を呪っていると妹が更に続きを話し始めた。

それにしても、今日の妹はよく喋るな。いつもはそんなに饒舌ってわけでもないのに…


「編入はまあ、今はまだ5月の頭ですので問題はないでしょう。試験も姉さんの学力でも通じるはずですし問題なし。なので、姉さんにはこれから女性としての作法や振る舞いについて知っていただきます。戸籍などの調整は私がやっておきます。取り敢えず、同名だと不自然ですので、うぅん、どうしましょうか」

「いや、名前まで変える必要は…」

「そうよ!ナオって読み、私は好きだし。変えるのはもったいないわよ」


えっ!そ、そうなんだ。

なんだろ、僕、うれしいのかな。


「……分かりました。では、漢字を変える様にしましょう。そうですね、ではこれからは、数字の七に、一緒の後半部分の緒で“七緒”としましょう。…では、姉さんはこれから1年間、榊原七緒と名乗って下さい」

「わ、分った…」


仕方ないかな。取り敢えず、漢字の記入を間違えない様にしないと駄目かな。


そんなこんなで、僕は女性になったばかりか、女学園に通う事となった。しかも、妹の大変困った気持ちを知ってしまった。

これからどうなるんだろ。

トホホである。


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