Ep:3「この日僕は、女の子になっていた!?」
「こんにちは、可愛いお嬢さん。私は愛の天使、愛紗よ」
そんな風に目の前の少女に声を掛けられた僕はいまだに何が起きたのか分からず困惑していた。
確か僕は、妹の買い物をして…そうだ、この目の前の銀の長い髪に真紅の瞳をした女の子を助けようしたんだ。そして……僕は確か、車に引かれた。そうだ、この少女の代わりに。
なのに…どう見ても引かれたような跡はなかった。と言うより、
(ここはどこ?)
いつの間にか知らない場所に僕は横になっていたのだ。
不思議な展開の連続に思考が追い付かず、僕の頭は「?」が浮かび続けていた。
「ねえ~君ィ、私の言葉聞こえてるぅ?聞こえてたら返事してほしいなあ~」
「えっ?…あっ、ごめん。何だか混乱していて。そうだ、君は大丈夫だった?怪我とかない?僕、どうしてこんなとこにいるのか分かる?」
親に構ってもらえず膨れているような表情をした少女に、僕は慌てて答えを返す。
何だかいつもより、僕の声が高いような気がしたけど、取り敢えず今の状況を把握するのが先かなと思った。
「あ、やっと答えてくれたわね。はあ~綺麗な声だわぁ。取り敢えず、もう一度自己紹介するからちゃんと聞いてね?…私は愛を司る天使。その名も愛紗・ユースティア・インヴィディアよ。よろしくね、可愛いお嬢さん」
僕は何だか耳がおかしくなったのかな。何だか聞き捨てならない言葉を聞いた様な気がする。
「は?天使?…いやそれより、誰が、お嬢さんだよ、僕は男だ!」
「ええ~!?」
何だか僕が男と言った後、愛紗さんは物凄く驚いた声を上げた。そりゃ、こんなヒラヒラの女性服を男が着ているのが悪いのだけど。勘違いされても仕方ない。
これが僕の妹の変な趣味の1つなのだ。
僕に女装をさせて楽しむ。
なんでも、僕の女装姿は妹のインスピレーションに反応するのだそうだ。実際、芸術関連で僕を題材にした事が多いのだ。
客観的に僕は中性的と言うより女性的な顔をしている。それに余り低くない声、身長も165cmと低めと相成って、僕が男だと初対面で気付く人はそうはいない。悲しいけど……
言っとくけど、僕は嫌なのである。
正直嫌なのだ。でも妹にお金を出して持っている立場なので面と向かって嫌と言えない。
取り敢えずたとえ僕が女装していても、僕を女性扱いした人(主にナンパしてきた男)にはこうして訂正していた。たまに男でもいいとか言い寄ってきた馬鹿の変態もいた。あれは怖かったな…
「ねえ?…本当に?…冗談とかじゃ?……」
「うん。こんな格好してるけど、僕はれっきとした男なんだ」
何だか、困ったような表情をしてるなぁ。
小さく、「どうしよう」とか呟いてる。
それにしても何だか胸がいつもより重い感じがする。それに股間にも違和感が……
自分の体に違和感を持ち始めた時、愛紗さんは物凄く頭を下げると謝罪の言葉を告げてきた。
「ごめぇんなさああいィ!ホントにゴメンナサイ!私、知らずにィ!」
「えっ!?なに、なんなの?いきなり!?」
唐突に謝られた僕はただ困惑した。何に対し謝られているのか分からなかったからだ。
頭を上げた愛紗さんは、
「実は…アナタを助ける際に、私は『奇跡』を使ったの。ああ、『奇跡』って言うのは私達天使が使える神秘の御業なの。正直言って、車に引かれたアナタの体は損傷が激しかったの。だから、『奇跡』を使って直したんだけど――」
えっ、何、その嫌な間の開け方。いや、なんとなく僕も薄々気が付いてるんだ。……だって、無いのが分かるんだから、僕の大切なモノが…
「…女の子として直しちゃった。ゴメンね、てへ」
「やっぱりィー!」
嫌な予感が当たるってこうなのか…いやそれより、
「ね、ねえ、それ、もう一度使って戻せないの?その『奇跡』とかでさぁ?」
僕は愛紗さんに切実に尋ねた。だけど愛紗さんからの答えは“無理”だった。
何でも天使とやらの『奇跡』は自由に使えるものではないとの事だった。
愛紗さんが『奇跡』を再び使うには1年はかかるそうだ。
つまり最低でも僕は1年の間は女の子として過ごさないといけなくなった、と言う事だった。
「そんなぁ~」
「い、良いじゃない。可愛いわよ…えっとそう言えば、あなたの名前は?」
「グス…良くないよぉ~他人事と思ってぇ~あと僕の名前は直だよ」
「しょ、しょうがないじゃないのよぉ!そんな紛らわしい姿をしてた直が悪いんじゃないのよぉ!私は悪くないもん!」
「開きなったぁ!この馬鹿ぁ!」
「バ、馬鹿ぁ!?馬鹿っていう方が馬鹿なんだからねぇ!」
「むー!」
「むむむ!」
そんな風に御互い子供の様に言い合った。
なんでこうなるんだろうか。
僕は程々運がないようだ。
そんな事よりこの後だ。
これからどうしようか。そんな風な流れになったので僕は取り敢えず家に戻ってから相談しようと思った。あまり気が進まないけど、妹に相談するのが一番だと思ったからだ。
アレな妹だが一番信頼できるのも妹の優だから。
愛紗さんも一緒に付いて来てくれる。
と言うより説明してくれる人がいないと僕が困る。僕1人では上手く説明なんてできないから。
そんな風に家に向かって歩きながらそう言えばと愛紗さんに聞いた。
「今更だけど、愛紗さんって天使って言ってたけど、ほんと?」
「えぇ!?今頃聞いてくる?」
僕にとっては女の子になっていた方が大きく衝撃的な出来事だったのだ。
そりゃあ、こんな不思議な事が起きたのだから信じられるんだけど、一応聞いておいた。
「まあ、それはそうよねぇ。ゴメンね。ほんと。………オホン!うん、私は天使よ。人間とは違う存在なのよ」
愛紗さんは天使がどういう存在か教えてくれた。
天使は天界と呼ばれる場所に住んでいるそうだ。
こうして下界である僕らの住む世界にも下りて来られるらしい。そして、天使は人間達から認識されない様なのだ。だがら、誰も愛紗さんを気にする人もいなかったのだ。
でも…
「どうして、僕は君の事が見えたんだろう?」
僕の質問に、愛紗さんも不思議そうに分からないと言った。
そんな感じに愛紗さんの事を聞いた後、僕の事も話していたらどうやら家に着いた。
僕は家のドアを開けた。開けた先の玄関には待っていたかのように妹が、優がそこに立っていた。
「お帰りなさい、
…どうやら、妹は何でも知っているようだ。…また盗聴器でも仕込んでたのかなあ。困った妹だなぁ。まあ、説明が簡単になるしいいかな。
僕はそう思いながら、取り敢えず、妹に驚いてる愛紗さんを促し家の中に入った。
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