第十一話 『二つの願い』

 二人はお互いの絆を確かめた後、暗くなり始めた鮮血都市を疾走しどうにか城に滑り込むことに成功した。


 「あっぶな。ギリギリだったな」

 「アンタに引っ張られて城に滑り込んだのはいいけど、城門に挟まれそうで正直生きた心地がしなかったわ」


 ほんの数センチ遅れていれば今頃エイラの足は短くなっていただろう。それ程までに間一髪だったのだ。エイラの顔が青いのも当然だろう。


 「何せ、鮮血都市は吸血鬼の街。治安は良いが万が一がある。俺でも真夜中の野外で吸血鬼と戦闘なんて御免だ」


 夜の鮮血都市では命の保証は出来ない。

 この街を商いの拠点とする吸血鬼ではない商人達も、日が落ちれば決して外へは出歩かないらしい。

 治安がいい、と言っても不死身という万能性に取り憑かれた吸血鬼は少なからず何処にでもいるのだ。

 それを聞いてエイラの顔色はますます悪くなった。


 「うわ……。私だって御免よ。それで、今日はもう部屋に戻って休む?」

 「いや、俺は少し用事があるから。先に帰って休んでてくれ」

 「そう。分かったわ。今日はありがとね。じゃ、また明日」

 「ああ。おやすみ」


 城を進みながら会話し、凶夜とエイラはそれぞれ分かれ道で別れた。

 エイラと別れ一人になった凶夜は、そのままシャルロッテが籠もっている執務室へ足を運んだ。


 コンコンッ


 「シャル。居るか?」

 「おお、凶夜か。すまんが手を離せない。扉は開いてるから勝手に入ってて貰えるかの」

 「それじゃ、お邪魔しまーす。………うおお」


 部屋に入った凶夜の目に飛び込んで来たのは、書類の山。

 文字通りにこんもりと、天井に届きそうな程に積み上がった書類の山が部屋の至るところに出来上がっていた。

 視線を移せば、シャルロッテの姿が机にあった。

 その傍らには他よりは少し小さめの書類の山が。どうやら凶夜達が出る時していた政務が未だに続いているらしかった。


 「だ、大丈夫か?」


 流石の量に、凶夜はシャルを心配する。だが、彼女は顔を上げるとこう言った。


 「何、これ程のこと、どうってことは無いわ。鮮血都市は我の子供のようなもの。なればこの書類の山は我の子供の成長過程と同じようなもの。母として子供の成長を目に見える形で確かめているのだ、そこに喜びこそあれ辛いことなど無いわ」

 「すまん。良い事言っているのは分かるんだが………そんな顔で言われても説得力皆無だ」


 顔を上げたシャルロッテの顔、それは実に酷いものだった。

 頬はこけ、髪は輝きを失いやつれ、眼は充血しきり、顔は吸血鬼の肌のしろさを差し引いても死にそうだ。

 凶夜でも一日でこれほどまでに疲弊出来るものなのかと目を疑う程の変わりよう。これで先程の言葉を信じるのは少し、否、多分に無理があった。


 「何を言うか。……あっ」

 「ほら、言わんこっちゃない」


 立ち上がり此方に向かおうとした瞬間、態勢を崩し倒れそうになるシャルロッテ。

 そのことに既に凶夜は素早く彼女を抱き抱え椅子に座らせた。


 「くくっ。まるで昔に戻ったようじゃな。あの頃もよく無理をしては、凶夜に抱えられていたの」

 「執務室に遠慮なく入るのは俺ぐらいだしな。そりゃあ無茶すると分かってれば様子も気になるさ」

 「全く、変わらない。何だか安心したの」

 「どうしたんだ? そうそう人なんて変われるもんじゃないだろうに」


 急にしおらしくなったシャルロッテに、凶夜は疑問を覚える。


 「いいや。確かに凶夜、お主は変わっておったよ。いや、見かけ上は変わらないが。何というか、纏う雰囲気が異質な感じがしての」


 その曖昧な答えに、凶夜は一つ、まだ話していないことを思い出した。


 「そういえば話して無かったな。俺、一回死んだんだ」

 「し、死んだ!? いやいやいや、じゃあ今目の前にいるお主は一体何なんじゃと言うんじゃ」

 「まあ待てって。人の話は最後まで聞いとくもんだぞシャル。ともかく、俺はシャル達があの会議で捕まった後、逃亡生活の末に死んだ」

 「その、それは、確かなことなのかの?」


 吸血鬼ならともかく、純粋な人種であった凶夜の死んだ、という言葉がシャルロッテには信じられず聞き返す。

 何せ本人が目の前で喋っているのだから。


 「ああ。それは間違いない。何せ俺の腹にはどでかい穴が空いていて、その上身体半分は緑毒竜バジリスクの猛毒で壊死寸前。そんな状態だ、生き延びられた可能性は皆無だろう」

 「それは、そうじゃな。吸血鬼の不死力でさえも全身に降り掛かれば死は免れない猛毒。それは半身とはいえ純粋な人種が浴びたんじゃ。死は確実だったじゃろう」


 緑毒竜バジリスクの猛毒。

 それは竜種という強力な魔物の中でも特に異質な、毒に特化した竜、緑毒竜バジリスクのみが精製する猛毒。

 浴びた箇所は強烈な痺れから始まり、次第に腫れていく。時間が経つにつれ燃えるような熱を持ち、最終的には皮膚が紫色になり常人なら容易く狂う程の痛みとともに壊死するという強力無比な猛毒。

 なまじ緑毒竜バジリスクの猛毒を知っているが故にその死に様を想像出来るシャルロッテの表情は悲痛そのものだった。


 「で、俺は死んで不思議な夢を見た。そして気づいてみれば生き返っていて、種族も魔王になっていたって訳だ」

 「………は?」


 凶夜の簡潔な説明を咀嚼し、意味を理解していくと同時にシャルロッテの口からは理解不能の声が漏れ出る。


 「だから、生き返ったら魔王だったんだよ」

 「え、いやいやいや。魔王って………え? そ、そんな訳―――」

 「察しが悪いババアだな! そんなに信じられないなら俺のステータス視ればいいだろうが」

 「わ、分かったのじゃ。分析アナライズ………はあ!?」


 分析アナライズは他者のステータスを覗き見る魔法、掛ける本人に了承を得て掛けたとしても、それは正直あまり誉められた行為ではない。ましてやシャルロッテは吸血鬼の中の吸血鬼。凶夜に促されるまでそのような行為はしておらず、凶夜の言葉通りの記述を見つけた時の驚きようは思わず叫んでしまう程だった。


 「どどど、どういうことじゃ!? まま魔王で、ああでも横に元人種と書いてあるし………どっちなんじゃ!?」

 「どうどう。落ち着け落ち着け」

 「あ、ああ。すまん」


 驚愕の事実にパニクっていたシャルロッテをどうにか宥めることに成功した凶夜。


 「というか、千年も生きてんだろ? そんなお前が驚くほど珍しいことなのか。人間が生き返って魔王になるのは」

 「確かに、人種が生き返ること自体はそうそう珍しいことでは無いの。まあ大抵はアンデットになるのじゃから、生き返ってるのかは疑問ではあるが。だがしかし、千年生きた我でも人種が魔王になるなぞ聞いたことが無い」

 「まあ、確かに。魔族がなるから魔王であって、それだと人種も魔族ってことになっちまうもんな」

 「然り。何故そのようになったのか、我には皆目見当すらつかんよ」


 シャルロッテは両手をひらひら振っている。お手上げのようだった。


 「ま、分からないことを考えてもしゃーない。ここに来たのは別の目的もあったからだしな」

 「別の目的じゃと? ………ま、まさか夜這い」

 「んなワケあるかボケッ!!」

 「あいたっ!」


 凶夜は阿呆なことを言っているシャルロッテを手近なところにあったハリセンではたいた。

 叩かれた方のシャルロッテといえば、案外衝撃が強かったのか涙目だ。だがこの頬には隠しようもない微笑が浮かんでいた。


 「くくくっ。そのやり取りも、懐かしいのう」

 「何笑ってんだ。ああ、そうかMか。遂に叩かれて感じるようなド変態に成り下がったんだな」

 「返せっ! 我の懐かしみを返せっ!!」


 しみじみと昔を思い出しての感動シーンを凶夜に台無しにされたシャルロッテは怒った。

 怒らせた原因てある凶夜は、その反応こそ昔のようだと思いながら思わず笑った。


 「はははっ。……何だか安心したな。またお前とこんな風にやり取りが出来て」

 「なんじゃ。お主、いつの間に怒られて嬉しがるようなドMになったんじゃ? 正直、引くの」


 先程の意趣返しか、同じように雰囲気をぶち壊されドM呼ばわりされた凶夜のこめかみに青筋が浮かぶ。


 「よし分かった戦争だな? 表に出やがれクソババア!!」

 「ふっ、粋がるしか脳のない小童が。今一度、格の違いというものを教えてやるわ」


 戦争勃発。

 凶夜は部屋に飾ってあった剣を、シャルロッテは影で武具を創造し、戦闘が始まろうとしたその時。


 「失礼します。お茶をお持ちにしました………ってお二人とも何やってるんですか!? やめて下さい!」

 「オレイラ。悪いがこれは戦争、誰にも止められないぞ」

 「そうじゃ。これは長年の戦いに終止符を打つ良い機会、何者でもあろうと邪魔は出来ぬ」


 扉からオレイラがティーセットを載せたワゴンと共に現れ、戦闘一歩手前の二人に驚き止めようとする。

 だがそんな忠告を、バチバチと目線で火花を散らす二人が聞き入れる筈も無く、すぐにでも戦闘が始まりそうだった。

 そんな二人の様子に、オレイラは溜め息一つ。


 「はぁ。毎度毎度会うたびに、よく飽きませんよね。(ポチッ)」


 ガシャンッ! ガゴゴゴゴゴッ!! 


 ワゴンを置き部屋から出たオレイラは、ドアの近くの壁に隠されていたスイッチを押した。その瞬間何かが作動するような音が響き、直後執務室の天井が―――落ちた。


 「んごっ!!」

 「ひぐぅっ!!」


 その真下で戦闘を行おうとし、周りに注意など払っていなかった二人は当然逃げ出せる筈も無く、辛うじて落ちてきた天井という巨大な質量の凶器を受け止め押し潰されずに済んでいるというギリギリな状況だった。


 「お、重い、っ!!」

 「むりむりむりっ!! 我は物理的にはそんなに強くないのじゃあぁぁぁっ!!」


 方やかつての戦いで大幅に能力制限されている身、方や吸血鬼といえど長い間ろくに血も吸っていない身。

 共に弱体化している彼らの力ではどうにか押し潰されずに済んでいる、というのが限界だった。

 その様子を、部屋の外からオレイラが冷たい眼で見つめて言う。


 「大人しくします?」

 「ギブッ! もうギブギブッ!!」

 「煩くしませんか?」

 「分かった! 分かったのじゃ!! だから早く退けぐうぅっ!!」

 「まあ、それなら良いでしょう。(ポチッ)」


 ガシャンッ! ガゴゴゴゴゴッ!!


 再びオレイラが壁のスイッチを押すと大きな音が響き、今度は逆に天井は上がっていった。


 「ふ、ふぅ」

 「はぁ、はぁ、死ぬかと思った、のじゃ」


 二人共強烈な負荷から解放され、思わず床にへたり込んだ。


 「ティーセットはここに置いておきますから、あまり煩くしないて下さいね。深夜ですし、重要書類もありますので。では」


 ガチャン


 最後に二人へ釘を刺すとオレイラは早足で扉から出ていった。

 まあ、出ていきたい気持ちは分からないでも無いだろう。何せ執務室は物凄く埃がたっていたのだから。


 「ああ、もう、駄目じゃ……」

 「あ、おい。シャルロッテ、大丈夫か?」


 シャルロッテは天井を支えるのに身体性能を魔力で増幅させていた。その消費は思ったより大きかったよう政務による疲労と相まって彼女は目を回し倒れてしまった。

 凶夜がそれを抱きかかえるが、はっきり言って意識も朦朧としていた。


 「ったく。もうちょっとソフトな対応してほしかったな。まあ、俺がこの場にいたからこそ手荒い対応なんだろうが」


 凶夜は片手でシャルロッテの小さな身体を抱きかかえながら、もう片方の親指を噛み切った。

 親指から、鮮血が滴り落ちる。


 「ほら、飲め」


 凶夜は血に濡れる親指をシャルロッテの口内へと突っ込んだ。


 「ん、んっ……んちゅ、ん……」


 吸血鬼としての本能なのか、無意識に血が湧き出る凶夜の親指をシャルロッテは舐め始める。


 「んふっ、ちゅぷ……んちゅ、んっ」

 「………」


 部屋は変な雰囲気に包まれる。そう、たとえば一家団欒の夕食中にテレビをつけると濃厚なベットシーンが映ってしまった時のような。

 確かに血を飲むにつれシャルロッテのやつれていた顔色など劇的に良くなってきているのたが、如何せん艶めかしい音をたてながら親指を幼女にしゃぶらせているという異常極まりない状況は凶夜にとって気まずい以外の何物でも無かった。

 誰にも見られていないのは幸いなのだけれと、しかし部屋に二人しかいない分響く生々しい音が余計に凶夜を気まずい気分にさせていた。


 「これ、客観的に見たら相当ヤバイ奴じゃね? 倒れて動けない幼女に指しゃぶらせる相当な鬼畜野郎じゃん。いやいやいや、幼女っつうかババアだし、実際には人命救助なのだけどね。うん、そこは間違いない。………間違いないよな?」


 油断すれば変な気分になってしまいそうな程の空気。それを耐えるためには独り言を喋る痛い奴と見られても虚空に弁解、もとい目的を示さなければ凶夜の心の平穏は保てなかった。

 もっとも、弁明の最後に疑問を付けてしまう辺り手遅れかも知れないが。


 そんな誤魔化しも限界に近づいてきた頃、ついにシャルロッテに変化が訪れた。


 「ちゅ、んれろ………ん? きょうひゃ? あれ? われ、なんれたおれてるのら?」

 「お、やっと目覚めたか。じゃ抜くからな」


 ぬちゅ、と艶かしく唾液が糸を引きながらシャルロッテの口内にあった親指が引き抜かれた。

 そして何故自分が倒れているか分からないらしいシャルロッテに凶夜は倒れたに至る経緯を説明する。


 「じゃあ確認だ。倒れる前は何処まで覚えてる?」

 「た、確か天井が落ちてきて、それを必死で受け止めていたところまでは覚えておるのじゃが………」

 「そうか。まあ、その後オレイラに許してもらって天井は上げてもらったんだよ。んで身体強化に魔力使いすぎたシャルはぶっ倒れたって訳だ」

 「ふむふむ。なる程の。……だんだんと思い出してきたわ」


 凶夜による倒れるまでの一通りの説明を受けたシャルロッテは一応納得した様子。だがしかし、完全に納得しきった訳では無いようだった。


 「じゃが、それだと一つ疑問が残るの。我が何故、その……お主の指を加えておったか、じゃ」

 「そんなのシャルが一番実感あるだろ。体調、少しは良くなったか?」

 「まさかお主。ちょっと手を見せるのじゃ! ………はあ、やっぱり。我の為にわざわざ身体を傷つけるのは止めろといつも言っておるのに」


 半ば強引に凶夜の手を取り、噛み切られた親指の傷を見つけるシャルロッテ。

 その顔は申し訳なさそうに歪んでいた。


 「別にシャルが気にすることじゃない。これは俺が好きでやってることだからな。勇者時代は毎度のことだったろ」

 「だからこそなのじゃ! ……だからこそ、申し訳無いのじゃよ」


 どうやら助けてもらった恩義を碌に返せてもおらず、それでいて以前のように助けてもらっていることがシャルロッテの心を罪悪感が蝕んでいるようだった。

 その何処か危うい様子には、得体の知れない不安を凶夜は覚えた。


 「俺は別に恩を返して欲しいなんて思っちゃいない。だが、それがシャルを苦しめているんだったら、そうだな………これから言う二つのことに協力してくれればそれでいいさ。種族の話云々が執務室に来た目的じゃないしな」

 「そういえば別の目的があるとも言っていたの。よし、我に出来ることであれば何でも協力しよう!」


 だからこそ何か恩返しをさせてガス抜きをさせようと凶夜は提案をした。

 早速凶夜の役に立てると知ってやる気が半端ないシャルロッテ。その様子に凶夜は若干の申し訳無さを覚えた。


 「やる気になってるとこ申し訳ないが、そんな大層なことじゃないぞ? まずはさっき見てもらった俺のステータスを紙に書き写して欲しい」

 「なんじゃ、そんな簡単なことなのか……いやまあ、頼まれたからにはやるんじゃが。……ほれ、これで良いかの」

 「ああ、サンキュ」


 拍子抜けした感じのシャルロッテが書いた自らのステータスが記された紙を凶夜のお礼を言いながら受け取り、早速中身を見てみる。


――――――――――――――――――――――――

      禍津凶夜:魔王(元人種)


     《基礎能力値》

      力:C-

      持久力:A-

      敏捷:A-

      技量:S


      魔力適正:S

      魔力保有量:S


     《保有特殊能力》

     『統合者』『霊子武装』『神々の枷』


     《称号》

     『勇者』『蘇生者』『魔神の寵愛』        『魔王』

――――――――――――――――――――――――


 このように、以前凶夜が自己表示ステータスを使った時とは比べ物にならない程の情報が記載されていた。

 魔法には熟練度ともいうべき隠しパラメータが存在し、自己表示ステータスの場合は一定使用回数ごとに記される情報が増えるというもの。

 その解放は三段階まであり、一段階目で魔力関連が、二段階目で保有特殊能力が、最終の三段階目で称号が記載されるようになる。

 それは同系統の魔法、分析アナライズでも同じことがいえ、故に一日に一回しか魔法が使えず熟練度が全く皆無だった凶夜は分析アナライズの魔法の熟練度がカンストのシャルロッテに頼んだのだ。

 可能性だけで言えば魔王になり凶夜も魔法が使えるようになっているかも知れない。だが、下手に試せば命に関わる。

 魔力が使えない時に無理矢理魔法を使えば、それは生命力を消耗することになるのだから。

 そして魔王になり初めて詳細に書かれた自らのステータスを見た凶夜はといえば。


 「いよっシャアァァァッッッ!!!」


 両手で見事なガッツポーズを決め、勝利の雄叫び。

 突然の行動だったが、それを見つめるシャルロッテの視線は理解の色があった。


 「やはりそんな反応するじゃろうとは思っていたが見事に当たったの。何せお主、出会った当初から自らに魔力適正が無いことを嘆いておったからのー」


 この場には居ない者、オレイラが歓喜する凶夜の姿を見れば今のシャルロッテと同じように突発的な雄叫びも理解をするだろう。

 勇者時代の凶夜とある程度関わっていた者ならば皆、同じ反応だ。それほどまでに凶夜は自身に魔力適正が無いことを嘆いていたのだから。


 凶夜が落ち着いてきた頃合いを見て、シャルロッテが切り出した。


 「それで、もう一つの目的とは何じゃ?」

 「ん? ああ。余りに嬉しすぎて頭から抜け落ちてた」

 「お主………どれだけ嬉しいんじゃよ……」


 まさかの目的ど忘れにはシャルロッテも呆れた様子だ。

 それでもそれに対して呆れはしても怒らないだけ、シャルロッテが凶夜を理解しているという証でもあった。


 「もう一つの目的。それはシャルロッテ。俺の―――俺の血を吸って吸血鬼にして欲しい」


 そして告げられる二つ目の目的。


 「なん、じゃと………?」


 それを聞いたシャルロッテの顔が、盛大に引き攣る。


 それはシャルロッテの想像の遥か上を行く、ある種悪夢のような願いだった。

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