第66話






「あれ、くーちゃんの勘違い? 直接会うのは初めてだっけ?」



 とぼけているのか、それとも本当に勘違いをしているのか、荘子には判断出来なかった。


 しかし、どちらにしろこいつは犯罪者だ。


 ここで消しておいた方が安全だろう。


 荘子は郡上燻を殺す決意をした。



 しかし、ここでは人目がつくし、監視カメラもある。


 放棄されている廃墟区間に誘い出し、そこで殺そう。生憎エボルヴァーは持っていないが、いくらでも方法はある。



「えぇ、わたしはあなたを写真で見ただけ。あの時は、病室の監視カメラの映像でさえ、あなたの姿を見ることは許されなかった」


「まぁ、心命愛の連中はくーちゃんのことむっちゃビビってたからね、あはは」



 郡上燻は少し顔を傾けて微笑んだ。



「あなたを逮捕します」


「嫌だよーん。出来るものならしてみなよぉ、JK刑事」



 そう言うと、燻は微笑みながら走り出した。まるで、同級生とふざけて鬼ごっこをする女子生徒みたいに。



 よし、かかった——このまま廃墟区間に追い詰めてやる。



「待ちなさい!」



 荘子は燻の跡を追って走り出した。必ず、殺す。









 八宝菜は、普段よりも更に背中を丸めて歩いていた。納屋橋からくらった一撃が、かなりのダメージを与えていた。おそらく、肋骨も何本か折れている。



「八宝菜!」



 八宝菜は、その声で顔を上げた。そこには、マキナが立ちはだかっていた。


 八宝菜の背後には、志庵となづきが構えている。



「きさらぎの掟により、お前を殺す」


「お嬢ちゃん達か。なぁ、もう短い命だ。見逃してくれや」


「そうはいかない」



 マキナはダガーを出現させた。志庵はアサルターを構え、なづきはウィップを床に打ち付けた。



殺し合うやるのかい?」


「仕方ないべ」



 八宝菜は垂直に飛んだ。そして、天井の壊れた電灯にぶら下がった。


 すかさず志庵がアサルターを撃つが、八宝菜は横に飛んで避ける。八宝菜の代わりに電灯が弾け飛ぶ。


 床に着地しようとしたところで、マキナとなづきが同時に攻撃する。マキナのダガーを片手に持ったカタナで受け、上半身を逸らしてなづきのウィップをかわす。


 すると脚を蹴り上げ、くるっと回転すると、マキナの背中の上をするりと乗り越えた。


「くそっ!」


「まだまだ青いな、お嬢ちゃん。もう少し大人のボデェにならんと食えんよ」


「うるせぇエロジジイ! くたばれ!」



 マキナは連続で斬りつけるが、八宝菜は全てカタナで弾き返した。マキナは、一旦後ろに下がった。



「本気で殺る」



 八宝菜は、細い目をうっすらと開けて、笑った。



「来いよ。お前らじゃ、俺に勝てんよ」



 3人同時に飛んだ。










 荘子は、燻を上手く誘導し、廃墟区間に導いた。


 しかし、罠かもしれないとも、荘子は考えていた。


 燻は、立ち入り禁止の柵を越え、錆びれた扉を開けて廃地下道に入った。荘子も、その跡を追う。




 廃道は、真っ暗だった。かろうじて、緊急避難通路の表示板の薄暗いグリーンの灯りだけが転々と闇に浮かんでいる。


 通路の先に、幽霊のように燻の姿が浮かんでいる。



「荘子ちゃん、なぁぜくーちゃんを捕まえようとするの」



 燻はカーディガンの袖を伸ばして手を引っ込め、袖をぶらぶらと左右に揺らしている。



「確かに、あなたは一度無罪判決を受けているから、それはもう覆らない。しかし、心命愛の病棟を破壊し逃亡した。器物破損が適用されるわ」


「あれ壊したのはくーちゃんじゃないし!」


「それなら誰なの?」



 本当は知っている。ミミックという人物だ。



「言えなぁい。言ったらくーちゃんが殺されるちゃう」



 燻は、くるりとその場でバレエのように一回転した。



「荘子ちゃん、忠告しとくけどぉ、これ以上首突っ込むと悲惨な事になるよ? 今ならまだ普通のJKに戻れるからさ、そうしなよ。あの真面目そうな子と癒し系の子と思いっきり青春しなよ」



 やはり、あの時点で気づかれていたか。



「大丈夫、スカムズはほかっておいてもすぐに潰れるから。今から全て忘れて、警察なんかやめちゃって、普通のJKに戻るの。いい? くーちゃんはちゃんと忠告したからね?」


「わたしは、捜査をやめません。スカムズも、あなたも、かならず捕まえる」


「もぉ〜、この分からずや! 真面目か! クソ真面目JKめ! 奈落に落ちろ! やーい、お前の父ちゃん刑事部長〜!!!」



 そう叫ぶと、まるで闇の中に溶けるように姿を消した。



「待ちなさい!」



 荘子は力の限り走ったが、燻の姿はどこにもなかった。




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