第50話




 特殊閉鎖病棟に続く地下連絡通路。


 そこに、志庵によってキツいお仕置きを受けた変態ドM医師が姿を現した。



「先生、どうされました?」



 連絡通路を警備している警官が聞いた。



「緊急の用で呼ばれまして、通してくれますか?」


「分かりました、気をつけてください。郡上燻がいる40階とその上下39、41階は立ち入り禁止になっておりますので」


「あぁ、分かっているよ」



 変態医師はそう言うと、急ぎ足で奥へ向かった。








 特殊閉鎖病棟の46階、最上階。


 そこは、教会のような施設になっており、半円形のホールに長椅子が左右に並び、その奥の中央には横に長い祭壇がある。祭壇の後ろの壁には決してセンスが良いとは言えない心愛命の集いのシンボルマークが掲げてある。


 そこに、黒装束に身を包んだマキナ、志庵、なづきがいた。



 マキナが祭壇の隠し蓋を開けると、そこには人形のように眠る郡上燻がいた。


 病衣を身に纏い、拘束具を取り付けられている。





 その時、突然、後ろにあるホールの扉が開いた。



 マキナ達は振り向く。



 そこには、白衣に身を包んだ変態ドM医師が立っていた。



 




『ごめん、遅れて』



 そう言うと、変態医師は白衣を脱ぎ、自らの顔の皮を剥いだ。すると、黒装束に包まれた救世主の顔が現れた。


 変態医師の正体は、変装した荘子だった。




『よく抜け出せたな』


『うん、なんとか』



 額の傷が、痛んだ。



『上手くいきましたね』


『まさか、予告を出す前から郡上燻が人形に入れ替わってるなんて、流石に思わなかったみたいだにゃ』



 マキナ達は、殺害予告を出す前から入念な準備をしていた。IDを偽造し、看護師に扮してまぎれ込み、郡上燻を精巧な人形と入れ替え病室から運び出すと、ここのホールに隠した。強力な睡眠剤を投与したので、起きる心配もなかった。万が一起きたとしても、拘束してあるから動く事は出来ない。ホールは1ヶ月に1回の集会にしか使われない為、人が出入りすることもなかった。



『あぁ、大病院である事や心愛命側の異常な隔離状態、郡上燻の人形のような顔が幸いした。警察は郡上燻の病室には入れないし、医師や看護師も極力近づこうとはしない。治療とは名ばかりで、郡上燻は薬づけにされ、投獄されていたに近い。誰も人形だとは気がつかない。必要なところでは監視カメラの映像は差し替えてあるしな』


『後は、目標を殺したら変態医師と看護師に化けて連絡通路を抜ければ、外に脱出出来る』



 変態医師に化けて看護師に変装したマキナ達と連絡通路を通り抜けるのが荘子の役割だった。


 本物の変態医師は今頃、自宅のマンションで日中続いた万引きお仕置きプレイに疲れ果て、深い眠りに落ちている。



『やっぱ事前の準備って大事だべな! じゃ、ちゃっちゃと殺って帰るか』



 マキナがそう言うと、郡上燻の長いまつ毛が翼を羽ばたかせるように舞い、オレンジ色の瞳が姿を現した。


 マキナは何も言わず、エボルヴァーのハインで黄金色の刃を出現させた。



「まさか、スカムズ?」



 燻が、幼さの残る可愛らしい声で言った。マキナは返事をせず、ハインの刃を突き立てた。


 燻は、その美しい表情を崩して不敵に笑った。




「まさか、スカムズが女だったとはねぇ」






 なっ……




 マキナの手が止まった。

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