第43話




 文章を書き推敲するように、幾通りも計画を考え、ミスはないか入念に確認する。1つのミスが命取りになる。決して負けることの許されない、トーナメント戦のようなものだ。その理想を実現させる為には、勝ち続けなければならない。


 大枠の計画を考え、スカムズ対策室の出方を見て、臨機応変に対応する。こちらには、スカムズ対策室の内情を知る荘子がいる。それは、大き過ぎるほどの強みとなった。



「しかし荘子すげぇな。ずっと前からスカムズに居たみたいだ」


「計画の立て方が、みぃ達にそっくりにゃ」


「うむ、まるで、目の前に余がもう1人いるようだ」


「それは……」



 荘子は、スカムズを追っていた時の記憶を思い出した。華麗に犯罪者を処分する、憧れの存在。



「ずっと見ていましたから」


「と……突然の告白!? きゃー!」



 マキナと志庵は荘子に抱きついた。荘子は戯れてくる2匹の大型犬に囲まれるような格好となった。



「そういう意味じゃありませんよ」


「恥ずかしがるなってー!」



 マキナと志庵は荘子に頬ずりをした。なづきはゆっくりとどくだみ茶をすすると、ほぅと一息ついた。


 陽は落ち、外は暗くなっていた。






 マキナ達は、電気街の途中まで送ってくれた。その時、荘子は赤いドレスの女性を思い出した。



「いつも、電気街ですれ違う赤いドレスの女性がいるんですが」


「あぁ、あれは幽霊だべ」



 マキナは手を垂らして幽霊のマネをした。



「本当の事を教えてください」



 荘子は冷たく言い放つ。合理主義の荘子は、幽霊や超常現象を全く信じてはいなかった。マキナはちょっとしょぼんとした。



「あの人は封羅ふうらさんにゃ。ここの住人だけど、多分やり手の殺し屋」


「謎が多い。まぁ、むやみに関わらない方がいいな」



 あの独特な雰囲気は、殺し屋のそれだったのか。思い出すと、少し寒気がした。



「それと、きさらぎ街には他にも未成年がいるんですか?」


「未成年?」


「はい、銀色の瞳を持った、私たちと歳が近そうな少年なのですが」


「あぁ、縷々るるだべ。あいつもよくわかんねーからなぁ」


「根暗で無愛想な男にゃ」


「彼も殺し屋なのですか?」


「それは分からない。だが、ここに住んでいるという事は、何かしら裏の仕事をしているのだろう」



 底の知れない世界だな、と思った。しかし、荘子ももう既にそちら側の住人なのだ。






 大都会羅刹区栄の中心に位置するオアシス69。


 空を見上げると、様々な色で光る、定まった色を持たない大きな楕円形の物体が上空に浮かび、その楕円形の飛行物体の底から、そのはるか真下の地上にまで光の柱が6本伸びている。楕円形の飛行物体の真下に位置する地上はクレーターのように窪んでおり、その半円形に窪んだ壁面全体にLEDが埋め込まれ、アーティストのMVや企業の広告が派手な音楽と共に映し出されている。



 そのすぐそばのベンチに、志庵は1人で座っていた。


 しかし、普段と様子が全く違っていた。ストレートの黒髪に、見慣れない学校の制服を着ている。スカートは普段よりも更に短く、もう少しでワカメちゃん状態だ。メイクも普段と違い、大人しい感じに仕上げてある。その為、誰がみても志庵だとは気がつかない。



 志庵はスマホの画面に視線を落とす。『もうすぐ着くよ。真っ赤なフェラーリで』というメッセージが表示されている。



「キモ」



 汚いものを払うように、メッセージアプリを閉じた。すると、大きな排気音と共に、目の前の道路に赤いフェラーリが停車した。左ハンドルの運転席から、スーツを着た30代後半くらいの男が顔を出し、手を振った。



 来た。



 志庵はすぐさま笑顔を作り、フェラーリに駆け寄った。



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