第42話
「おー荘子! 来たか!」
マキナ達は、いつものようにコタツを囲んでミカンやお菓子を食べていた。
「遅くなってごめん。新しい依頼?」
「うん、今回もなかなか刺激的だにゃ」
荘子もコタツに入り、上に置いてあるモニターを見た。
そこには、ミントグリーンの長い髪、前髪を眉の上で揃え、オレンジ色の不思議な瞳を持ち、人形のような綺麗な顔をした少女の写真が映し出されている。
名門の私立中学校に通っていた。部活中に、部室にいた同中学の生徒男女6人を殺害、直後に逮捕されたが、心神喪失が認められ。無罪となる。現在、精神科専門の病院である心愛命記念病院の特殊閉鎖病棟にて治療を受けながら入院生活を送っている。
荘子もよく知る人物であった。未成年の残虐な犯行という事で、連日報道された。荘子は、父の捜査資料を盗み見てよく思ったものだった。
即刻死刑にすべきだ。
「今回の依頼は、このクリミを殺すことだべ! カンタンカンタン!」
「殺すだけにゃらね」
「難しいですね、特殊閉鎖病棟となると」
「そう、そこが問題なんだ。厳戒態勢で守られているからな」
「犯罪者を厳戒態勢で守る意味なんてわかんにゃ〜い」
荘子は、心愛命記念病院の内部構造を頭の中で思い浮かべていた。謎の多い、特殊な設備がある病院だから、以前、興味本位で調べた事があった。
「殺害予告、出すんですか?」
「もちろん。決まりだからな」
マキナはミカンの皮を使って猫の形を作っていた。
「殺害予告を出すと、作戦は困難になります。ただでさえセキュリティーが整った施設で、更に警察が警護に着くとなると、隙が全くなくなります」
マキナはニヤリと笑った。
「それを華麗にクリアーするのが〜……」
『スカムズ!』
マキナと志庵が声を揃えて言った。
「その作戦を考えるのは余だがな」
荘子は肩の力を抜き、微笑んだ。
「予告状を出すのは、模倣犯や、冤罪を防ぐ為ですか?」
「あったりー! さすが荘子」
「我々は極力、分からないように殺すからな。それで関係ない人物が疑われたりしたら、それは我々の本意ではない」
もしかして、彼女達は警察にも気を使っているのではないか、と荘子は思った。
予告状を出して、完了後に×印をつけるのは、警察としても分かりやすい。
それに、逃亡犯や、犯人が確定していない段階で警察より先に犯人を割り出して殺害した場合は、その犯人が間違いなく犯行を行なったという確実な証拠をわざわざ現場に残していく。それを見れば、警察もそこで被疑者死亡で捜査を終了出来る。もちろん、スカムズへの捜査は終わらないが。
逆に、警察はスカムズを雇った方が早いのでは、と思うほどだ。
「心愛命記念病院の見取り図だ」
コタツの上のモニターに病院の見取り図が表示される。心愛命記念病院は37階建の建物で、上から見ると大きなひし形になっており、中央は吹き抜けのようにまた同じひし形の広い中庭がある。その中庭の真ん中に46階建の塔がある。
その塔の40階に、目標はいる。
「中央の塔——特殊閉鎖病棟は、地上からは入れない構造になっている。厳重なセキュリティーがかけられた地下の連絡通路を使わないといけないようだ」
「みぃのアサルターで狙えない?」
「塔は、入り口や窓は1つもないコンクリートの塊になっている。しかも、特殊な電磁波でスコープなどを使った透視も出来ない」
「精神科の病院にしては厳重だにゃあ」
「本当に病院なのか怪しいもんだべな。もしかして、とんでもない化けもんが捕まってる収監所なのかも。ガオガオ〜」
確かに異常だな、と荘子は思った。それに、この病院の経営母体は『心命愛の集い』だ。荘子が最も嫌悪している、過剰な人権保護団体だ。死刑制度が廃止されたのも、この団体の救いようのないほど愚かで稚拙な主張が元凶になっている。荘子が、いつかは潰してやろうと考えていた団体だ。
「塔に侵入して、直接殺害するしかなさそうですね」
「あぁ。だが、病院自体はバカデカイ故に、忍び込むのは簡単だ」
なづきがそう言うと、志庵がコタツの中から何かを引っ張り出した。
「じゃーん!」
それは、真っ白な白衣とナース服だった。
「いいだろう、白衣やナース服。そそられるにゃあ」
そう言うと、志庵は荘子のセーラー服を脱がし始めた。
「なにしてるんですか?」
「試着にゃ、試着♡」
「今試着する必要はないじゃないですか?」
「いいからいいから」
志庵は荘子のセーラー服を剥ぎ取り、荘子はスカートと白いキャミソール姿になった。志庵はさらにキャミソールを脱がそうとする。
「それは脱がさなくてもいいのでは?」
「いいからいいから。その方がセクシーにゃ……はっ!」
キャミソールをめくり、綺麗なくびれといちご大福のような白く滑らかな腹部が現れたところで、上から凍りつくような視線を感じた。志庵はキャミソールをそのまま下げ、諦めるようにナース服を着せた。荘子はナース服姿になった。
「おぉ、似合ってるべ! これで侵入はバッチリだべな!」
「うぅ、ナースプレイしたかったにゃあ」
志庵は残念そうに体温計を口に加えている。
「でも、わたしは捜査員達に顔が割れていますよ?」
「ダイジョーブ!」
そう言って、志庵はウィッグとメイクセットを取り出した。
「特殊メイク張りの変装が可能にゃ。荘子はセクシー看護師さんにしてあげる♡」
「後は、職員のIDを手に入れ、警備システムをハッキングすれば侵入は容易い。問題になってくるのは、警察の警備だ」
「そろそろ、荘子のパパさん本気出してくるんでねぇか?」
「恐らく、今回は最大規模でくるでしょう。ですが、わたしがみんなに情報を流し、誘導すれば問題ないでしょう」
「助かる。作戦当日は荘子にもある程度動けるようにしてもらいたい。可能か?」
「はい、病院内に本部が設置されると思いますが、わたしは参加しないようにします。本部に入ると自由に動けないですし、不審な行動を取ると怪しまれます。前日までに警備の配置などを把握しておき、当日は図書館で勉強している風に装います」
「うむ。作戦に一番重要なのは、事前の準備だ。それで全てが決まると言ってもいい」
「んだんだ、スポーツする時も準備運動が大切だかんな!」
「メイクするにも下地が大事にゃ」
「また話しが脱線しようとしている。作戦会議に入るぞ」
「はーい」
4人はコタツを囲み、お菓子をつまみながら作戦会議を始めた。その様子は、普通の女子高生と変わらないものだった。
ただ、話している内容が違うだけだ。
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