第39話
「はは。ははは、まさか、まさかな」
磨瀬木は頭の後ろを撫でた。
「驚いたよ」
地面に手をつき、ゆっくりと立ち上がる。
「まさか、こんなことってあるんだな」
もう、立っている事もつらいのだろう、腰を曲げ、両手を膝の上に乗せている。
「まさか、しょこたんがスカムズだったなんてな。警察を子供相手のように翻弄して鮮やかに犯罪者を始末するから頭のいい奴らなんだろうなとは思ってたけど、しょこたんなら納得だ。昔から、正義感は強かったしな」
「磨瀬木お兄さん、わたしは、磨瀬木お兄さんを、殺さなくてはならない」
磨瀬木は肩の力を抜いて、微笑んだ。
「あぁ、分かってるよ。覚悟は出来てる。俺は、取り返しのつかない事をしてしまったんだから。しょこたんは、正しい」
そう言うと、カタナのエボルヴァーを起動させ、黒い刃を出現させた。
「見てくれよ、俺のオーラ。こんなに真っ黒になっちまった。一筋の光りすら存在しない、完全な闇の色だ。どうして、こんなことになっちまったんだろう」
磨瀬木の瞳から、涙が溢れ落ちた。
やるんだ、犯罪者を殺すんだ。
荘子は、刃を磨瀬木の方に向けてナギナタを構えた。
しかし、手が震えて、切っ先が左右に揺れ、うまく狙いを定める事が出来ない。
「だが、分かってる。もう、後戻りは出来ない。さぁ、しょこたん、やってくれ」
磨瀬木はカタナを捨て、両手を広げた。
その姿に、荘子は見覚えがあった。
まだ幼い自分を、抱きかかえてくれようとするポーズだ。もちろん、もう小学生だった荘子は断固として拒否していたが。
その姿を見て、荘子は理解した。
磨瀬木お兄さんは、最後まで、わたしを許し、わたしの全てを受け入れてくれようとしている。それは、本当の兄のような、家族のような姿だった。
ならば、わたしはその想いに全力で答えなければならない。
ここで出来なければ、世界を変えることなんて出来ない。
「拓にぃ。ありがとう」
「あぁ。俺なんかを殺して捕まっちゃいけないから、証拠はしっかり消してけよ」
磨瀬木は、笑顔だった。
荘子は、ナギナタを全身全霊を込めて、磨瀬木の胸に突き刺した。マキナに教えてもらった通りに、心臓を、確実に狙って、刺す。
磨瀬木の口から、血が流れ出す
磨瀬木は、微笑んでいた。
「しょこたん、ありがとう」
こんなに嬉しいことって、あるかい?
神様ってのは、ホント、甘ちゃんだな。
神様は、俺みたいなクズにも、最後に救いを与えてくれたのだから。
だけど、やっぱ、残酷だ。
磨瀬木は、両手を広げたまま、背中から倒れた。
荘子が放った寸分の狂いもない精確な1撃で、磨瀬木は眠りについた。
荘子の瞳から、一粒の涙が溢れ出し、頬を伝い、大理石の床に一滴、静かに溢れ落ちた。
闘いを見届けたマキナ達が、ゆっくりと荘子のそばに寄ってきた。
「磨瀬木の顔に、×印を描いてください」
磨瀬木の安らかな顔を見つめながら、荘子が言った。
「今日くらいは、いらないべ」
「いや、ダメです。描いてください。磨瀬木だけ例外だと、怪しまれます。そこから、父が何か、勘付いてしまうかもしれない」
「……分かった」
マキナは腰のポシェットから筆を取り出すと、磨瀬木の顔に豪快に×印を描いた。
お前も違う——別人でよかった。
マキナは、磨瀬木が持っていたカタナ型のエボルヴァーを拾い、それを荘子に差し出した。
「持っておきな」
磨瀬木が握っていた、刀の柄の形をしたエボルヴァー。磨瀬木の血だろうか、まだらに赤く染まっている。
荘子は首を横に振った。
「所持品を持ち帰るなど、不必要な事をするとそこから綻びが出る可能性があります。危険です」
「そんなのいいって! 荘子の、覚悟の証だ。取って置きな」
荘子は、マキナの手に握られている磨瀬木のエボルヴァーを見つめた。
「はい」
荘子は、そっと磨瀬木のカタナを受け取った。磨瀬木の温もりが、残っている気がした。
「頑張ったにゃ、荘子。みぃが抱きしめてあげる」
そう言って、志庵は荘子の背中に抱きついた。
「もう、くすぐったいですよ」
なづきは、荘子の正面に立ち、まっすぐに荘子の瞳を見つめた。
「よくやった。大仕事だったが、その分儲けた。ラーメンを奢ってつかわそう」
「ありがとうございます。それで、わたしはスカムズに入れてもらえるのでしょうか?」
マキナと志庵となづきは顔を見合わせ、その後両手を大きく広げて言った。
「スカムズへ、ようこそ!」
Dive into the SCUM!
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