第15話





 ファンを停止させるだけなら、10秒とかからない。



 設備の故障が、手こずらせていた。


 物理的に、操作が困難になっている。



 しかし、なづきは汗一滴垂らさない。



 冷静に操作盤の下部にあるパネルを外し、中からコードを引っ張り出す。



 それを、なづきが持っていたポータブルゲーム機に繋げる。



 そして、リズムゲームをプレイするようにタッチパネルを叩く。




 ――きた。





 通気ダクト内のファンが停止する。



 残り3分。


 なづきは素早くポータブルゲーム機からコードを引っこ抜き、パネルをもとに戻し、ネジを締めた。


 そして、何事もなかったかのように、コントロールルームを出る。





 コントロールルームを出ると、なづきは翼のギアを全開にして、建物の中に迷いこんだ燕のように、天井近くを飛んでコントロールルームを離れた。


 遠くから、こちらへ向かってくる足音が聞こえた。




 なづきが飛び立ってすぐ、通路の角から荘子が姿を現した。



 剛たち捜査員はコントロールルームに入るなり、絶句した。



 原型を留めないほどに損壊した遺体。



 しかし、荘子だけは遺体に目もくれず、コントロールルームを注意深く観察していた。



 沢山あるモニターには、ビル内部の監視カメラの映像が写っているが、肝心の1階と37階の映像はないことに気が付いた。



 様々な操作用のスイッチやレバーが並ぶ操作盤は、被疑者が放ったエボルヴァーによってだろうか、無残に破壊されていた。



 剛のもとに、無線で連絡が入る。



「被疑者の死亡を確認。スカムズの姿は確認できません」


「くっ、またしても逃げられたか」




 捜査員達の間に諦めの空気が漂い始めた中、荘子はまだモニターを見つめていた。



 そして、頭の中に記憶してあるビルの見取り図と、モニターを見比べる。




 唯一、通気ダクトからなら脱出できる可能性がある……だが、そんな事は可能なのだろうか。


 スパイ映画ではあるまいし。



 しかし、彼らが好むのはそういう場所——





次に、荘子は操作盤の下部にあるパネルに注目した。


 操作盤を修理する時などのメンテナンス時にこのパネルを外し、中の機械をいじるのだろうか。


 パネルはしっかりとネジが締めてあり、特に不自然な様子はない。


 しかし荘子には、なにかが引っかかった。



 これは、完全に才能というものだろう。


 熟年の刑事が幾多の経験によって身に付ける直観を、荘子は生まれながらにして身に付けていた。



 荘子はパネルの前にしゃがむと、鞄の中からドライバーを取り出し、ネジを回す。思った通りに、ネジは軽く回った。


 事前にネジを外した証拠だ。



 パネルを外し、中を伺うと、配線をいじった形跡がある。今度は鞄の中からタブレット型PCを取り出すと、配線を繋いだ。



 タブレットで操作履歴を確認すと、通気ダクトのファンを一時停止させた形跡が残っていた。




 やはり、間違いない。



 彼らは、人が通る事が不可能と思われる通気ダクトを選んだ。


 

 それでこそ、スカムズ。




 荘子は、特殊なプログラムを使い、自身のタブレットでファンの操作を行えるようにした。そして、立ち上がった。



「いえ、まだです。スカムズはまだこのビルの中にいます」



 そう言うと、荘子はコントロールルームを飛び出した。



「待て、荘子! 危険だ!」





 剛が止める声も聞かず、兎のように素早く通路を駆け、姿を消してしまった。





 剛の部下が後を追ったが、すでにその姿は闇の中だった。







 荘子は走った。





 まだ追いつける。




 すぐそこに、もう手が届くところに、スカムズはいる。

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