第14話
荘子は、すぐにでも突入したかった。
ビルのセキュリティーを解除したのはスカムズだ。
おそらく、彼らはもうビルの内部に侵入している。
もう1秒だって躊躇することは出来ない。
すぐにでも走ってビルに入りたかった。
しかし、荘子は踏みとどまった。
こんな事態を引き起こしてしまったのは、わたしが勝手に動いたからだ。
スタンドプレーは、組織の連携を乱す。
そして、これ以上父に迷惑はかけられない。
荘子は拳を握り、ぐっと堪えた。
納屋橋は無線で何度かやり取りをし、そして指示した。
「突入だ!」
その掛け声と同時に、屋上からロープで吊られ、38階の窓ガラスに張り付いていた特殊部隊は37階の窓ガラスを突き破り会議室に進入した。
同時に、納屋橋、剛と荘子もビルに向かって走り出した。
「お父さん、コントロールルームに行こう」
「コントロールルーム?」
そこに行けば、このビルの全てが把握出来る。
セキュリティーが解除されてから、もう3分以上経過している。
恐らく、被疑者はすでに殺害されているだろう。
そして、スカムズは今まさに脱出しようとしている。
わたしがすべき事は、ビルの全容を把握し、スカムズの退路を、断つ。
「うん、コントロールルームに行けば、スカムズの手がかりを掴めるかもしれない」
「あ、あぁ、わかった」
剛は、スカムズ対策室の部下に指示する。
「総員、コントロールルームへ向かえ!」
まるで城攻めのように、無数の捜査員がビルに向かって突入する。
マキナは、タイミング良く志庵の身体から飛び降り、扉の内側に張り付くと、再びギアを使って扉をこじ開けた。
そこは、茶色の木目調の壁にシルバーで37の文字が記されたエレベーターホールだった。
すぐに志庵もエレベーターの竪穴から飛び降りてきた。
2人は、すぐ目の前にあった会議室の大きな扉に張り付き、耳を澄ます。
中から、男の喚き散らす声が聞こえる。
マキナは志庵を見て頷き、志庵も頷く。
マキナは、会議室の扉を蹴破る。と同時に、志庵が煙幕を中に放り込む。
「な、なんだぁ!?」
被疑者の叫ぶ声。
会議室は煙に包まれ、視界がゼロになる。
その瞬間、マキナは被疑者の背後を捕えていた。
マキナの持つナイフ形のエボルヴァーの刃が明るい黄金色の光を放ち、今まさに被疑者の心臓を捕えようとした時、
「うわわわわぁぁ、くそがぁぁぁぁぁ!」
被疑者は叫び、右手に取り付けられている銃器型のエボルヴァーを会議室の隅にかたまっている人質の方に向けた。
銃口の先には、スーツを着た若い女性の怯える姿や、薄くなった頭を大事そうに両手で庇う年配の男性の姿があった。
そして、銃口から、エネルギーの塊が今まさに放たれようとしたその時、被疑者の右腕が吹っ飛んだ。
「あがっ――」
被疑者の腕と共に、銃器型のエボルヴァーが地面に落ちる。
志庵の銃火器型のエボルヴァー『アサルター』が、被疑者の腕を捕えたのだ。
それと同時に、音もなく、マキナの持つナイフが被疑者の心臓を仕留めた。
その刃は寸分の狂いもなく心臓を貫き、鼓動を停止させる。
マキナは、倒れようとする被疑者の顔を覗き込んだ。
そして、暗く沈んだ瞳で、汚い物を見るように、被疑者を睨んだ。
お前も、違う。
マキナは被疑者の顔に、腰のポケットから取り出した赤い筆で大きくバツ印を書いた。
そして、被疑者が地面に倒れ込むより先に会議室を飛び出した。
その数秒後、特殊部隊がガラスを突き破り、会議室に突入した。
マキナ達はすぐに管理用通路に入り、壁のパネルを外し、下に続く底の見えない通気ダクトを落下していった。
『ひゅー、なかなか迫力あるアトラクションだべな』
『えー、こんなもんじゃみぃは物足りにゃい! きゃはは』
『終わった終わった、あとはなづきが上手くファンを止めてくれれば、ラーメン食べてお風呂入って寝るだけ』
『にゃあ、お腹すいたー。もう早く帰るにゃ。みぃ達の暖かい家に』
マキナと志庵は、先の見えない深い闇の中に落ちていく。
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