第13話





 なづきがエンターキーを押した直後、マキナは蹴破るように扉を開け、3人はそれぞれ背中に備え付けられている翼の形をしたギアを起動させ、大地を吹き抜ける風のようにビルの通路を抜け、目的地に向かった。





 マキナと志庵はエレベーターホールに向かうと、レンチのような形をしたギアを使って扉をこじ開けた。



 目の前には、真っ暗な立坑がずっと上に伸びている。




 志庵は、腰にセットしてあるギアを起動させ、先端にアンカーがついたワイヤーを上に向けて放った。




 暫くして、ワイヤーはどこかに引っかかった。



それを確認すると、マキナは志庵に抱きついた。



ヒソヒソ……


『うーん、柔らかいおっぱい』


『みぃの胸は1タッチ300万円だにゃ』


『ボッタクリ!』




志庵の腰のギアが、激しい金属音と共にワイヤーを巻き取り始めた。それと同時に、志庵とマキナは高速で上昇する。





 2、3、4、5、6、7――




 エレベーターの立坑を物凄い速さで上昇しながら、マキナは恐るべき動体視力で確実に階数を数えて行く。






37階、そこに奴はいる。




救いようのない犯罪者よ、お前は絶対警察になんか渡さない。




私の手で、その息の根を止めてやる。





確実に、そして永遠に。




あるべきところに還してやるから。





さぁ、速く、速く。





マキナのエメラルドグリーンの瞳が、闇の中で鋭く輝く。













 なづきは素早く移動し、1階にあるコントロールルームを目指す。




 コントロールルームはビルの奥に位置している為、辿り着くまでに少し時間がかかる。




 ビルは比較的新しく、清潔感がある。


 白い大理石の床に、左右の壁は黒い木目調のシックなデザインになっている。




 人影は見当たらない。



 監視カメラは所々についているが、セキュリティーを解除する時にウイルスを送り込み破壊した。




 しかし、更になづきは警戒する。




 特殊部隊が、クリミが立てこもっている37階の会議室に突入してくるまでには、人質がいる事などを踏まえ、ある程度時間が掛かると考えられる。




しかし、ここ1階部分には、地上に控えている捜査員がすぐに踏み込んでくるかもしれない。





 今、現場を仕切っているのは叩き上げでやり手の納屋橋だ。




 余裕はない。




迅速かつ冷静に任務を遂行しなければならない。






 なづきは、コントロールルームの前に辿り着いた。



真っ白な扉がある。



扉のすぐ横には、パスコードを入力する為の小型の装置が備え付けられている。


なづきは銃火器型のギアを取り出し、構える。


そして、パスコードを入力する。


ロック解除を知らせる効果音と共に、扉が横にズレて開く。



なづきは素早く壁際に身を隠し、中の様子を探る。





人の動きはない。




それどころか、




これは……






閉まろうとする扉に身体を滑らせて、コントロールルームに侵入した。








 これは、酷い……







 そこには、コントロールルームに詰める監視員、警備員達が、血の海に伏していた。




 被疑者は、ここでエボルヴァーを使ったのだろう。




辺りに飛び散る血液、肉片。





警備員達の遺体は、原型を留めていなかった。





 コントロールルームの設備や、メインコンピューターも所々破損している。







 ゴミ野郎が。






 これでは、コンピューターもまともに動いてくれるのかどうか――  







 なづきはすぐに操作盤に手をかけた。










ビルのセキュリティーを解除してからここまで、なづきは表情を一切変えていない。





ただ、その脳みそと指先だけは、激しく活動していた。







大丈夫、必ず目的は遂げる。








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