第12話 荘子、臨場




「お父さん」



 聞きなれた、しかし今剛が直面している状況には場違いな可愛らしい声に、剛は驚きながら振り向く。



 そこには、痛々しく頭に包帯を巻いた荘子の姿があった。



「なっ……。荘子、何故ここいる!?」



 荘子は剛のもとに駆け寄り、訴える。



「こうなったのは、わたしの無責任な行動のせいだから。最後まで捜査に関わって、責任を取りたいの」


「何を言ってるんだ。お前のせいではない。それに、怪我もしているのだろう。ここは我々に任せて、病院に戻りなさい」


「いえ、戻りません」



 荘子は、まっすぐに父親の顔を見つめている。


 剛は、まるでメドゥーサに睨まれてしまったみたいに、その場に固まっている。


 それを見て、納屋橋はクスッと笑った。



 さて、どうしますかお父さん。




 剛は、暫く沈黙していた。そして、開かずの扉を恐る恐る、ゆっくりと慎重にあけるように、口を開いた。



「どうしても戻らないのか?」


「はい」



 剛も、荘子の顔を見つめた。


 そこにあるのは、愛しい娘の顔であり、また、ひとりの覚悟を決めた人間の顔でもあった。




 私は、どうして、この子をこのように育ててしまったのか。




 剛は、この時、荘子の才能に憧れてしまった自分を悔いた。


 娘には、普通の女性として生活して欲しい。


 しかし、今となってはもう遅いのだ。


 もう、後戻りは出来ない。




「わかった」


「ありがとうございます」



 荘子は、深く頭を下げた。



「ただし、危険な行為は禁止だ。私の命令には絶対に従ってもらう」


「はい、分かりました」



 荘子は、スカートの横に下ろした右手で拳を作り、強く握った。




 その時だった。捜査車両の中にいた捜査員から無線が入った。




「納屋橋捜査一課長!」


「どうした」


「セキュリティーが解除されました!」


「なに?」



 納屋橋は、エクセレントタワーの方を振り向いた。

  



 ビルの外壁を覆っていた防御壁が、次々とビルの内側に引っ込んでいき、四角く光るガラスの窓が姿を現した。

 



 ガラスの窓に、月が怪しくその姿を映していた。

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