第16話 対決
なづきは、地下の管理用通路の階段を下り、壁のパネルを器用に何枚か取り外し、通気ダクトに出た。
「おわわ!」
ちょうどそこに、マキナと志庵が出くわした。
「あれ、なづきちょっと遅れた?」
「ごめん。少し手こずった」
「まぁ結果オーライにゃ」
そう言って、3人は翼のギアを全開にして停止しているファンに向かって走り出した。
もう少しで、あの大きなプロペラの間を通過出来る。
そして、このミッションは終わりだ。
「え……」
しかし、無情にも2メートルほどあるファンの羽根はグルグルと鈍い音を立てて動き出した。
「何故だ。まだ3分経っていない」
3人は、プロペラの前で厚い風を受けながら立ち止まった。
「仕方ねぇ、エボルヴァーで壊しちゃおう」
「まぁ、そういう時もあるにゃ! 今日は相手が少し上手だった。突入も早かったし」
マキナがエボルヴァーにエネルギーを集中させ、黄金色に輝く刃を出現させたその時、爆音と共に、背後から噴煙が巻き起こった。
3人は驚き、振り返る。
そして、次の瞬間、動きを失う。
煙から姿を現したのは、セーラー服姿の、白川荘子だった。
何故、彼女がここにいる?
荘子は、その一瞬の隙を突いた。
荘子が持つ特殊な銃火器のようなものから放たれた粘着性の球が3人のマスクの上に命中し、ベタっと引っ付いた。
「なんだこれ!? い、息が……うがががが」
粘着性の物体はピッタリとマスクを覆い、それによって3人は呼吸が困難になり苦しんでいる。
「マスクを取らないと窒息しますよ」
「ふがぁぁぁぁ!」
マキナは、マスクを外し、床に投げ捨てた。
「まったく! なんなんだよおめぇさんは」
「え……?」
マスクの裏から現れたのは、美しい金髪と、小さな白い顔、エメラルドグリーンの瞳。
志庵となづきも、諦めたようにマスクを取り、その素顔を露わにする。
「ぷはー、苦しかったにゃあ」
「……お見事」
マキナの次に現れたのは、赤髪を猫耳風に結んでいるつり目の美人と、小柄で幼い印象を受ける青髪の女の子。
荘子は、3人とも、知っている。
しかし、何故、ここにいる?
それが示す答えは、彼女達が、スカムズだということ……
荘子は、突然金縛りにあったみたいに動けなくなった。
「はぁ、さすが優等生ちゃんだべなぁ」
そう言ってマキナは爽やかな笑顔を見せた。
「ま、おっさん刑事に捕まるよりか可愛い娘に捕まった方が気分いいにゃ」
志庵は丸めた右手の甲で頬をさすって見せた。
「完敗」
なづきは両手を上げて手の平を広げた。観念した、というポーズだ。
しかし、荘子はなお、動かない。
「どした? 早く捕まえるべ」
マキナは少しはにかんだ笑顔で両手を差し出した。表情は柔らかいが、マキナは全てを受け入れる覚悟が出来ていた。
荘子はそっと、マキナの両手に右手を被せるように乗せる。
普段冷静な荘子だが、この時、自分の思考をうまく整理出来なかった。
ずっと捕まえたかったスカムズ。
どんな姿をし、どんな思想を持っているのだろう?
会ってみたかった。
話してみたかった。
そして、わたしの手で捕まえて、彼らの悪意にナイフを突き刺して、言ってやりたかった。
あなた達は間違っている。
彼らを否定する事で、自分の中にあるこの間違った感情を葬り去れる事が出来ると思った。
それで、全てが終わると思った。
救われると思った。
強く焦がれたその感情は、恋に似ていたかもしれない。
しかし、そんな夢にまで見て捕まえたいと強く願ったスカムズの正体は、自分と同じ高校生の女の子だった。
「行って」
「え?」
荘子は、タブレット端末を操作して、大きなファンの動きを停止させた。
「行って」
マキナは、差し出していた両腕をゆっくりと下げた。
「でも……、いいのか?」
荘子は、何も言わずに頷いた。
スカムズの3人も、何も言わずに去った。
3人がプロペラの向こうに姿を消すと、荘子はタブレットを操作し、再びファンを起動させた。
ファンが回り始めると強い風が起こり、髪が揺れ、制服のスカートが脚にくっついて、裾がパタパタと靡く。
後には、ファンが回る低く厚い音だけが、ダクトの中に響いていた。
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