第9話
夜空に浮かぶ星の光を奪い、禍々しく輝く首都、奈護屋。
その中心部に位置する超高層ビル、エクセレントタワー。
いつもなら、仕事を終えたサラリーマンや学生が行きかう街路や、自動車で埋め尽くされる道路が、今夜は装備を固めた捜査員や、物々しい警察の捜査車両や装甲車で囲まれ、殺伐とした雰囲気に包まれていた。
赤色灯の赤い光と捜査員達の怒号が飛び交う中、スカムズ対策室室長の白川剛が黒塗りのセダンに乗って臨場した。
「状況はどうなっている」
剛が現場の捜査員に訊ねる。
「被疑者は37階の会議室に数十名の人質をとって立て籠もっています。被疑者は、エボルヴァーを所持しています」
「エボルヴァー……」
自分の娘を、マンションごと吹き飛ばした凶悪な兵器だ。
「何故エボルヴァーを?」
「被疑者を匿っていた女性が所持していたようです。出所はまだ分かっていません」
剛は、夜空の中に青白い光を放ってぼんやりと浮かぶビルを眺めた。
「白川刑事部長」
剛よりも一回り若い男性が近づいてきた。
金のメッシュが2本入った黒いオールバックの髪に、真っ黒なスーツに真っ白のシャツ、黒地に金のラインが入ったネクタイをきちっと占めている。鋭い奥二重の目の上にキリッとした細い眉毛が相手を威嚇するように伸びている。
「あぁ、納屋橋捜査一課長」
納屋橋十夜――若くして捜査一課長を務めるやり手だ。通り魔事件は管理官が担当していたが、今回事件が拡大してしまった為に納屋橋自ら指揮をとる事になった。
「スカムズが、ここにやって来ると?」
納屋橋は右手をポケットに突っ込んだまま、左手を上げてビルを指した。
「あぁ、そうだ。彼らは予告状を出したらそれは必ず遂行する」
「このスーパーセキュリティーをかけられた状態で? 本当に出来たら大したものですよ」
そう言って、納屋橋は大きなアンテナが取り付けられた中継基地のような大型捜査車両の方を見た。
その捜査車両の内部では、数名の技術者達がエクセレントタワーにかけられた緊急事態用のスーパーセキュリティーを解除しようと必死に脳みそと指先を働かせていた。
被疑者は、エボルヴァーを持ったままエクセレントタワーに進入し、ビルのセキュリティー担当者を脅して最高レベルのセキュリティーをかけさせ、外から人が入れないようにしてしまった。その後、担当者を全員殺害してしまった為、中からでも解除出来ない状態になってしまった。
納屋橋は、防護壁に囲まれた異様な外観を晒しているエクセレントタワーを見上げた。
「ミサイルを一発二発ぶち込んだってあの壁はびくともしない」
かけられたスーパーセキュリティーは、有事を想定して作られた最高レベルのものであった。
「我々対策室の目的はスカムズの確保だが、目指すところは同じだ。協力を頼む」
「はい、被疑者は必ず我々警察の手で確保します。もちろん、生きたままでね」
そう言って、納屋橋は口元を緩めニヤリと笑って見せた。それは、彼なりの覚悟の現れだった。
ビルを見つめる2人の頭上を、けたたましい音を立ててヘリコプターが旋回している。
剛は、星の見えない夜空の中に、娘の荘子の姿を想い浮かべた。
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