第10話





 不意に、目の前が明るくなる。


 霧の中にいるような、ぼんやりとした空間の中で、遠く光の中からわたしを呼ぶ声が聞こえる。




 荘子……荘子……




「荘子……、荘子! 大丈夫!?」




 母の声だ。


 次第に、目に映るものたちの輪郭がはっきりしてきて、わたしを覗き込む母の顔が見えた。


 母は、涙を流しながらわたしを見ている。



「おかあさん……」


「よかった、目が覚めて……」



 母は、荘子の手をぎゅっと握った。


 暖かい手だ。


 身体を動かそうとしたが、全身に走る痛みで動くのをやめる。どうやら、わたしはベッドの上にいて、ここはどこかの病院の病室のようだ。



「ごめんなさい、心配かけちゃったみたいね」


「ううん、生きててくれてよかったわ」





 被疑者がマンションでエボルヴァーを放った時、被疑者はその凄まじい衝撃に耐えられずに、銃口を上に向けてしまった。


 結果、エネルギーの塊は天井に直撃し、マンションの一部を破壊しただけで、荘子と警察官は一命を取りとめた。


 その後、被疑者はエボルヴァーを持ったままエクセレントタワーに進入し、立てこもった。



 荘子はエボルヴァーの衝撃波に吹き飛ばされ、身体を強打し、頭に包帯を巻いていたが、とくに命に別状はなかった。






「犯人は?」


「今にお父さんが捕まえてくれるから、心配しなくてもいいのよ」


「うん」





 これ以上、事件について質問するのをやめた。母に、これ以上心配をかけたくない。



 本当に、何をやっているんだろう、わたしは。


 きっと、今現場は大変な事になっている。


 全て、わたしが出過ぎた真似をした結果だ。


 父や捜査員の方に迷惑をかけ、母をこんなに心配させてしまった。


 あのマンションの住人や、駆けつけてくれた警察官は無事なのだろうか…


 考えていると、頭に鋭い痛みが走った。



「ちょっと寝ようかな」


「そうしなさい。お母さんも今夜はここにいるから、欲しいものがあったら言ってね」


「うん、ありがとう」



 母は、意識を取り戻した荘子を見て幾分か安心したようだった。肩の力を抜き少しだけ微笑んで、立ち上がった。



「お母さん家から着替えを持ってくるから、ゆっくり休んでなさい」


「うん」



 母が出て行くのを確認すると、荘子は枕元に置いてあるスマホでニュースを確認する。



 ニュースのトップに、通り魔の犯人がエクセレントタワーに立てこもり、と書いてある。



 荘子はそれを見ると、上半身を起こし、腕に付けられている点滴を外した。



 まだ捕まっていないどころか、立て篭もりとは。


 なんとかしなくては。



 ガウンを脱ぎ、下着姿になると、傍に畳んで置いてあった学校のセーラー服をするりと身に纏った。




 それに、必ず来る。



 彼らは。




「お母さん、ごめんなさい。もう1回だけ心配かけちゃうね」



 荘子は、スマートフォンと鞄を持って病室を飛び出した。

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