第7話




 鞄の中のスマートフォンが、振動で着信を告げる。


 母からだった。



「どうしたの?」


「荘子、大丈夫? まだ帰って来ないの?」



 母の、心配そうな声が聞こえる。



「……ごめん、ちょっと集中し過ぎちゃった。今から帰るよ」


「それならいいけど、気を付けてね」


「うん」



 通話が終わったスマホの画面を見つめる。



 何をやっているんだろう、わたしは。



 母からの電話で、火照っていた感情が落ち着いた。冷静さを取り戻した。



 これは、遊びじゃないんだ。



 わたしの独断で動くのは、危険過ぎる。父や捜査員の方達にも迷惑がかかる。



 荘子は、通話履歴から父の電話番号を探して、電話をかけた。



「お父さん、今大丈夫?」


「あぁ、どうした?」



 父の声だ。捜査本部にいるのだろうか、父の声の後ろで様々な話し声が飛び交っているのが聞こえる。



「通り魔事件の被疑者の居場所だけど、1つ当たって欲しいところがあるんだ」


「なに、本当か! それはどこなんだ?」


「栄の――」



 突然、頭上から、ガラスが割れる音と女性の悲鳴。


 ガラスの破片が、氷の結晶のように輝きながら、目の前に降り注いだ。



「荘子、どうした!?」


「被疑者が潜んでいると思われる部屋から、女性の悲鳴!」



 荘子はマンションの入り口に向かって走り出した。



「荘子! 危険だ、とりあえずそこから離れなさい」


「でも、女性の悲鳴が」


「ダメだ、すぐに捜査員を向かわせるから待ってろ」


「それじゃ手遅れになるかもしれない」


「荘子!」



 荘子は父との会話を振り切るように通話を終了させ、マンションの入り口に駆け込んだ。

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