第6話 やっとスカムズ登場




「なんであの優等生ちゃんがここにいるんだべ」



 ビルの屋上から、白川荘子の後ろ姿を監視する3つの視線があった。


 美しい金髪を風になびかせるエメラルドグリーンの瞳を持つ飛騨マキナ、赤髪を猫耳風ヘアーにしている蛭ヶ野志庵ひるがのしあん、無口で小柄な青髪の高山なづき、の3人だった。



「不思議な子だにゃあとは思ってたけど、まさかこんなところで会うなんてねぇ」



 志庵はそう言って舌なめずりをした。



「白川荘子。16歳。奈護屋高校に通う1年生。全国模試1位の秀才。父・白川剛は、奈護屋大出の警察官僚。警視監。警視庁の刑事部長であり、スカムズ対策室室長」



 なづきはポータブルゲーム機の画面を見ながら言った。どうやら、ただのゲーム機ではないようだ。マキナは一息、口笛を吹いた。



「おもすろくなってきたべなぁ」


「いや、警戒した方がいい。あの娘、普通じゃない。確実に、通り魔クリミの居場所を探してる」


「あるいは、スカムズ?」


「かもしれない」


「面倒なことににゃる前に、ささっとクリミを始末するにゃ」



 志庵はブランドのロゴが入った紙バックの中から、片目用のゴーグルと、引き金の付いたL字型の拳銃のようなものを取り出した。さらに、紙バックから黒く細長いパイプのようなものを2本取り出すと、拳銃の銃口とその反対側に1本ずつ取り付けた。それが終わると、ブレザーの袖を捲り、拳銃に取り付けてあったリング状のものを取り外し、右腕にセットした。右目にゴーグルをセットし、右手でグリップを握り、左手で銃口の先に取り付けたパイプを握る。そして、その態勢のまま、長いパイプの先を、調度、荘子が立っている先のマンションの3階の窓に向ける。


 志庵のその姿は、標的に狙いを定める狙撃手のそれだった。


 

 志庵は、グリップを握ったまま親指で銃の側面に付いているボタンを押した。すると、ボタンがピンク色に光り、それに反応するように腕に付けたリングも光った。そして、右目に取り付けたゴーグルに、窓の内側にいる人間の姿が映し出された。


 志庵の、ぴょこんと頭の上に乗っかる猫耳が風に揺れる。


 呼吸を整え、標的の後頭部に狙いを定め、引き金に指をかける——



「待て」と言ってなづきが志庵を制した。



「我々は、完璧に作戦を遂行しなければならない。塵ほどの証拠も残してはならない。彼女があそこにいるうちに実行するのは、危険だ」


「でもよ、さすがにあっこからじゃマキナたちを目視出来ないし、いくら足が速くても追いつくのは無理だべ?」


「もし、彼女に仲間がいたらどうする? 他の場所で、別の者が見張っている可能性もある。彼女が特殊捜査官なら、エボルヴァーを隠し持っている可能性だってある」


「みぃのアサルターみたいに遠距離攻撃可能なヤツだったらヤバいね」


「うー、むむむ」



 唸り声を上げながら、マキナは胸の前で両手の拳を握った。



「それに、彼女はもう捜査本部に連絡を入れているかもしれない」



 マキナは両手を放り出してそのまま地面に仰向けになって寝転んだ。背中にコンクリートの冷たい感触が使わってくる。



「じゃあ、暫くは動けねぇべな。休憩たーいむ」



 そう言って、マキナは瞳を閉じた。



「焦ることはない。彼女は絵に描いたような優等生。彼女が今、捜査本部と関係なく単独行動でここにいるのだとしたら、そろそろ家に帰る時間」



 なづきは、液晶画面から目を離さずに言った。



「えー、いくら優等生でも、はっちゃけたくなる時くらいあるんじゃにゃい?」


「ない。余には分かる」


「みぃにはわかんなぁい」



 そう言って、志庵はゴーグルを外してネイルの手入れを始めた。鮮やかな、赤いマニキュアが塗ってある。なづきは、ポータブルゲーム機に表示されている時刻を確認した。



「そろそろ、電話がかかってくる」


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