第3話地獄の始まりだった


「出ろ!」


 翌朝、昨日よりは少し寝ることができたけど、やっぱり寝不足のまま俺は再び騎士の人に独房から連れ出された。ノエルの方に目を向ければ『頑張って』と目線だけ送られる。俺は、俺はどうなるんだろう……。


「来たかね?」

「ハッ、連れてきました。…入れ!」

「うっ!」


 騎士の人は俺の肩をつかんで無理やり部屋に入れた。なんだここは、研究室みたい、だな?


「おいおい検体に乱暴はしないでくれ。正確なデータが取れなくなってしまうよ」

「ハッ、申し訳ありません」

「……さて、おはようA41。気分はどうかな?」

「………最低です。あと三時間は寝かせて欲しいですね」

「そうかい、それは残念だ。だがこちらも時間が有限でね、悪いがこのまま続行させてもらうよ」


 俺に話しかけているのは白衣姿の研究者みたいな人だ。白髪で、頭のてっぺんがツルンと剥げてるのが妙に笑える。


「さて……。ああ、前回のデータが残っているのか。ではそこからだな。ふむ、とりあえず強度は前回よりも低そうだ。少し出力を抑えた方がいいな」

「あ、あの、なんの話………」

「では始めようか。キミ、頼むよ」

「ハッ!」


 白衣のおっさんは俺と話をしようとしない。資料を見て、ブツブツと何かをつぶやいたと思ったら急に後ろに控えていたもう一人の研究者っぽいやつと位置を入れ替える。


「『雷よ集え、雷鳴よ轟け、収束しろ、押し包め!』サンダー・フィールド!」

「え? ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!?」


 唐突だった、何が起こっているのかを判断する暇もなかった。俺は全身を襲う激しい痛みと、痙攣する体を制御できずに床に這いつくばる。しかし痛みと痙攣は尚も続いた。


「ガギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!?」

「キミ、少し出力を抑えてくれ。前回よりも体が出来上がっていない、これではデータを取る前に壊れてしまう」

「ハッ!」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!?」


 視界が暗転し、再び明転し、再び暗転、明転、暗転、明転。それを何度も繰り返して、ようやくそれは収まった。


「ガ……ア……………ア」

「キミィ、少しやりすぎだよ? これではデータもとれない」

「も、申し訳ありません。前回と同じ要領でやったのですが」

「慣れない者にはアレではダメと言うことさ、勉強になったね。それじゃ、被験体を起こそうか」

「ハッ!」


 何か冷たいものをかけられて、俺の意識は強制的に覚醒させられた。


「あ………う?」

「ふむ、外傷は火傷のみか。電撃をくらったにしては頑丈だね、やはり『世見眼』は魔法への耐性があるのか。興味深いな」

「い……なにを?」

「よし、続けよう。次はもう少し出力を下げたまえ。イメージを少し弱くマナに伝えるようにすればいい」

「ハッ! 『雷よ集え、雷鳴よ轟け、収束しろ、押し包め!』サンダー・フィールド!」

「なんっ、グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!?」

「よぉっしいいぞ! さっきよりも痙攣と意識の混濁は少ない! このまま続けるんだ!!」

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

「ふむ、これだけ続けてもやはりダメか。うむ、次は違うプロセスを試してみよう。キミ、土系で試してみてくれ。加圧してみたい」

「ハッ!」

「ガ……ハッ………」


 ようやく痛みと痙攣から解放された。さっきは何をされているか分からなかったけど、おそらく雷系の魔法で俺は感電させられていたらしい。こんなに長時間、いったい何のために……


「『地よ唸れ、脈動しろ、隆起せよ、圧し潰せ!』ガイア・バースト!」

「へ? グウウウウウウウウウウウウウウウウ!?」


 床に伏したまま身動きが取れない俺を、今度は左右の床から出現した土の塊に圧迫してきた。


「ウアアアアアアアアアアアアアアアアア!!?」

「加圧は雷よりも耐えるか。少し圧を上げてくれ、経過をみたい」

「ハッ!」

「アアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!?」

「う~む、ここまで痛めつけても未だに『暴走』しないとはね。肉体への過剰な攻撃ではやはり望み薄なのか?」


 呼吸ができない! 骨が砕ける! 血が行き届いていない!! まずい、まずい! まずい!!


「グオオオオオオオオオオ!!!」

「おお! 『世見眼』を出したぞ! そうだ、いいぞ! そのまま『暴走』しろ!!」


 世界が違って見える。何をされているのか、何をすればいいのか、それはわかる。しかし手錠が、この手錠がマナの流れを邪魔しているので魔法が使えない。俺の周囲のマナを一定量吸収してしまうこの手錠、これさえなければこんな状況は脱せるのに!!


「て、て、て、手錠を外せえええええええええええええええええええええええ!!!」

「ふむふむ、やはり手錠が『暴走』を阻害しているのかもしれないか。いや待てよ、もしかして周囲のマナが一定周期を起こし、それが『暴走』のトリガーに……。いや仮説で物を考えてはダメだ、まずは構築を………」

「ウ………ア……ア…ア!!!」

「おっといかん、泡を吹いている。もう止めたまえ、私は今思い浮かんだ仮説を煮詰めてみる。今日はここまでだ」

「ハッ!」


 体や頭を強くどこかに打ち付けたが、体にかかっていた圧は消えた。そして誰かに抱えられているような感覚を最後に、俺は意識を失った。





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