第8話 魔法適正度試験

「えー。それでは本日は、『魔法』を使った実技を行う。名を呼ばれたものからこっちに来てくれ」

 

シノメがグラウンドで言った。

 一年生専用の校舎だけでも、かなり広いのに、更には一年生用の体育館や、グランドまで持っているのだから、凄いことだ。優秀な人材を育てる為ならば、金に糸目はつけないのが『六道高等学校』の方針なのかも知れない……。

 なら、もっと俺に投資しろ。

 俺は「ふふっ」と一人笑うが、思い上がるなと言わんばかりに体が悲鳴を上げた。


「……あのやろう」


 俺はあのクールぶった天才の顔を思い出す。なにが明日の試験には影響残らないと思うだ。全然痛みが消えないじゃないか。

 とことん、人の心を逆なでしてくる天才である。


「まず、それぞれには各属性の『魔法』を扱ってもらう」


 痛みに顔を歪める俺の耳に、淡々と話すシノメの声が聞こえてくる。


「……ったく」

 

『魔法』は『魔力』を変換する行為だと、これまでに教わっている。外にある『魔力』を、体を通すことで、別のものに変化させるのだと。

身体を通すからか、個人によって得意な属性は個人差がある。

 そんな当たり前の説明をシノメが説明していた。

 まあ、一年生の一番最初の試験だ。

 改まっての連絡だろう。

 説明するシノメ先生も若干面倒臭そうだしな。決まりだから仕方なくやっている感が反小穴買った。


「使ってもらう順番は、『火』『水』『雷』『風』『土』『木』の順番で使用すること。いいな?」


はい!

と、他の生徒たちは元気よく返事をする。

俺からすれば順番などこだわらなくてもいいだろうにと思うが、まあ、それも決まりだった。

 やれろ言われればやるだけのことだ。


「では、始める!」


 そんな合図とともに、クラスメイトの一人が呼ばれた。グラウンドの中心で、シノメと二人で試験を行うらしい。

 一人生徒が適正度を測っている間、他の生徒たちは各自、精神を集中させたりする人もいれば、リラックスして、世間話をしている生徒もいた。

 俺はそのどちらでもなく、ただ、無言で自分の順番が来ないことを祈っていた。試験なので確実にくるのだけれど、分かっていても、尚、祈りたくなる。

 目を瞑り、天に祈る俺に向かって、


「ライル君はどの属性に適正度があるの?」


 と、チョコンと誰かが座った。

 誰かだなんていっても、現状、このクラスで進んで話しかけている人間など、一人しかおらず、


「……チハナか」


 案の定、チハナだった。


「私、『雷』とか『土』の適正度が低いんだよね……」

 

 普段は三つ編みおさげだが、今日は実技のためにか、三つ編みを後ろで一つに縛っている髪型になっていた。

 髪型を変えることで印象は変わるが、残念なことに適正度は変わらない。

 動きやすいからかなんだか知らないが、無駄なことをする……。

 グラウンドの中心では『魔法』を使うクラスメイトの姿が目に入る。今は『水』の属性を扱っているのか、流れるようにして身体の周りを水が螺旋を作っていた。


「適正度はどうしようもないだろ……。諦めろ」


 適正度は生まれ持った体質が大きくかかわるため、余程のことが無い限り、変化は起きない。

 それでも、努力次第で、ランクが上がることはあるので、こうして努力の証を審査したりもしているのだが……。

 それに、この試験で、自分はどの属性が、どの程度、適正があるのかを知ることが、それぞれの将来を決めるための、大きな判断材料になることは間違いないしな。

 チハナが低いと言う適正度『雷』と『土』は、今の時代、最も役に立つとされている属性だ。

 『雷』は世界の大半のエネルギーとして。

 本来は『魔力』そのものをエネルギーにしようとする試みもあったが、何年たっても結果が出ていない。

 『魔力』は、人の体を介さないと意味がないものだと、学者たちの間では結論付けられているらしい。

 故に、昔から扱われていた『雷』に白羽の矢が立ったわけだ、電力としてだ。そして、その試みは成功してるとか。

詳しくは知らん。

 そして『土』。

 『土』の属性はあまり貴重なものだと、認識されていない場合もあるが、しかし、適正度が高ければこの属性の貴重さは大幅に変わって来る。

『土』の『魔法』において、適正度が高い人間が使用すれば、『鉱石』を作り出すことが可能だからだ。

適正度の低い人間は土しか作れない無意味なものだが、自在に作れる『鉱石』があれば、社会では優遇される。

それに、『雷』『土』の適正度が高い人間は、他の属性に比べて少ないのだ。


「私、なんで『木』の適正だけ高いんだろう……」


 自分には『木』しか扱えないとチハナは嘆く。


「だから、それはしょうがないって。気にすんなよ」


「『木』だけにですか……」


「……」


 笑えない。

 てか、普通に面白くない。

 だか、言った本人であるチハナは、「木、気にしない……う、うう」と、腹を押さえて笑っていた。本当にこのクラスメイト大丈夫か?

 一人目が終わったようで次の生徒が呼ばれる。


「ま、深く考えんなって。こんなもん運試しなんだから適当にやろうぜ」


「ライル君は凄いなー。私、そんな風に考えられないもん」

「ま、不真面目だからな、俺。入学式もサボっちゃうし」


「でも、いい人だよね」


「……?」


 いい人?

 俺が?

 自分では全然感じないし、今までもそんな事を言われたことはない。

 俺がいい人だと言うならば、このクラスに居る全員が良い人だ。


「それはどうだかな……」


「また、そんなこと言っちゃって……」


 チハナは俺を見て嬉しそうに笑う。

 なんか変な感じがする。

 クラスメイトとこんな風に話すなんて初めてかも知れない。

 中学でも一人だったし。


「次、チハナ!」


 グランドの中心から、隅に居る生徒達に聞こえるほどに、大きくよく通る声でシノメ先生が叫ぶ。


「あ、次、私の番みたいだから行ってくるね!」

 

ピョン。

 と、その場で立ち上がる。

 体操着だからか、心なしかチハナの胸が、制服より大きく感じるのは気のせいだろうか。

 ふるんと揺れたし。


「あ、ああ」


 俺は空を流れる雲に目をやる。

 あー、こっちのほうが柔らかそうだな。

 うん。

 雲の方が絶対に柔らかい。


「行ったか……」

 

危なかった。

 他の生徒達も普段はチハナに見向きもしていないのに、走って中心に向かう姿を目で追っていた。なんて現金な奴らなんだ。

 俺はクラスメイトに呆れる。

 胸の大きさで人を見る目を変えるなんて……。

 心底がっかりするぜ。

 人の価値ってそういうもんじゃないだろ?

 全く、何ていうか……。


「さてと……」


 グラウンドの中心で『魔法』を披露しているチハナを見る。

 『火』の『魔法』は小さな火の玉を何個か浮かばせて、クルクルと自身の周囲を回転させる。

 威力は低いがコントロールが精密だ。

 適正度は6といったところだろう。

『魔法』の適正度は10段階で評価されるのが一般的だ。

1~3は弱く、動かすこともままならない。

5~7は威力があるか、コントロール出来ているか。

8~9が威力、コントロール共に十分。

大体の人は威力が高くてコントロールが苦手か、チハナのようにコントロールが良くて威力が低いかに分けられる。


「なんだ。以外に使えてるじゃん」


 俺は少し羨ましく思った。

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