第5話 庭掃除
「疲れたね! ライル君!」
「そう言うわりには、お前は元気そうだけどな?」
「え……? そんなことないよー。疲れてるよー」
いい汗はかいたけどねー。
と、笑顔を見せるチハナ。
俺は話すのも怠いくらいに疲労していた。ずっとしゃがんでいたからか、腰が固まって痛い。
「ふぅ」
固まった体をほぐす。
チハナも元気は在るものの、身体はやはり痛いのだろう。横で俺と同じようにして身体を伸ばしていた。
「うんっ!」
と、可愛らしい声と共に胸を反らすチハナ。
「……おお」
反らされた胸についている二つの半球が強調される。思わず声を洩らしてしまうほどに、チハナに付いている半球は大きかった。
制服を普通に来ていると分からなかったのだが……。
着やせするタイプなのかも知れない。
自分の選球眼が甘い事を痛感する。
「ん、どうしたのかな?」
腕を後ろに組んで、俺に聞いてきた。
まさか、胸に見惚れていました。
あわよくば触らせてくださいと、本能むき出しで伝えるわけにはいかないから、
「えっと……、今日はありがとな」
と、チハナから逃げるようにして、礼を述べる。
「別にいいよー。私も本来はやる予定だったんだし」
上手く誤魔化せたようではあるが、少しだけ、本当に少しだけ、チハナの言葉に心が痛んだ。
「じゃあ、帰ろうか」
「ああ」
チハナと俺は『六道高等学校』の敷地内にある寮へと戻るべく足を動かす。
『六道高等学校』の敷地は異様なほどに広い。
それは校舎だけでなく、体育館、寮などの施設が存在しているからで、敷地内だけで十分に生活できるほどに施設は充実している。
まるで、一つの街のような校内も、『六道高等学校』の人気が高い一つだった。
「ああ、お腹減っちゃたね」
「確かに」
俺も空腹は感じていた。
ずっと、身体を動かしていたからか、いつもよりも空腹感が強い。今すぐにでも、なにか口に入れたい気分だった。
ちょっと、疲れてるからさっぱりしたなにかを食べるとしよう。
俺は、そんな風に今晩の食事を考える。
「もしよかったら、一緒に食堂でも行きませんか?」
「……」
チハナの提案に俺は、どうしようかと悩んでしまう。
正直俺は、このあと購買にでも行って簡単な食事を購入しようかと考えていた。
食堂だと、しっかりとした料理は出されるが、料理が出来るまでの待ち時間と、人で賑わう場所で食事をしなければならない。
だが、購買ならば、俺は今日の昼にもお世話になったし、寮で一人、食事が出来る。
うん。
考えるまでもなかったぜ。
「俺は遠慮するわ。疲れたし、明日もあるし、早く休みたいからな」
「……それもそうだね」
明日に備えて疲れを取らないとねと、チハナが同意する。少し、寂しそうな表情にも見えたが、きっと、疲れているのだ。
無理して明るく振舞っているのだろう。
「明日はサボるなよ」
今日はまだ、どの授業もガイダンスのようなものであった。
明日から、本格的に授業が始まるのだ。
いきなり出遅れるわけにもいかない。
入学式には出なくても、勉強の成績は変わらないが、授業は受けなければな。
落ちこぼれると分かっていても、まあ、授業位は受けとかないとな。
「もう。ライル君には言われたくないよ。じゃ、また明日ね、ライル君!」
笑顔で手を振るチハナ。
「ああ。また明日」
俺は手を振らずにチハナに答えた。
一人裏庭に残された俺。
「あいつ、変わってるな」
改めてチハナについて思う。
まだ同じクラスになって二日目。
クラスもどこか、まだ、余所余所しい雰囲気はあるが、それでも、明確に避けられている人間はいるようである。
ようであるも、それは俺なのだけれど。
俺のは、『天才にボコされた問題児』として、関わるのを避けられていた。
ふむ。
天才にボコされたは余計な気がするが、それはいつか、この手で解消してみせよう。
そんな俺に構ってくれるチハナは、クラスの皆に避けられていることは、ないのだが、いつも一人で本を読んでいるからか、上手く馴染めていなかった。
俺と二人でいると、溌剌としているのだから、クラスでもそうしていればいいのにと思うのだけれど、教室内で話している姿を、今日は一度も見ていない。。
「ま、きっと人見知りなんだろ」
そう結論付けた。
一日でそこまで仲良くなれる人間がいたら、そいつは信用できないからな。俺と話してくれるのは、たまたま、式をサボったから関わる機会が多かっただけだろう。
チハナの後ろ姿が見えなくなった。
「さてと、俺もいくかな……」
俺は購買で買い物を済ませて、寮へと戻るのであった。
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