カーネーション






僕の声が 君の元まで届いたみたいだ

返事はいつだろう もう待ちきれないよ

そうやって身悶える 無益な時間の一端を

僕には必要な蜜なのだと 言い聞かせたら楽になったよ







傘を重ねた 雨の降りしきる土曜日の

石畳の歩道が いやに堅苦しかった

靴音の響きが ピアスの裏をくすぐって

染みた涙は裾を引き摺る そこだけ海の底みたいに


新しい日常は 等速で訪れるけれど

欲しい機会だけは いつまでもドアを叩かないよ


僕の声は 君の元まで届いただろうか

きっとそうなんだと 僕は信じてみたよ

もう久しく聴いていない その甘酸っぱい声を

僕には必要な蜜なのだと 君に早く教えてあげたいよ







足を揃えた 雨の降りしきる日曜日

汚れたパンプスの横は 悲しんでいるようだった

買ったばかりの黒が 泥でマーブルを浮かべる

飛んだ飛沫は暗がりを誘う 地平を覆うように


くだらない喧騒は 毎日でも聞けるけど

欲しい言葉だけは いつまでも耳に入らないよ


僕の声は 壁打ちに過ぎないのだろうか

きっとそうなんだと 僕は気づいてみたよ

君にとっては何気ない 日々たちの一コマを

僕だけ大事そうに 切り取って抱いていたのかな






明日が憂鬱だな 君がいても いなくても

ありふれすぎて 苦笑いさえ浮かびやしないや

そうだろう まだはじまってすらない直通の思慕の丈を

あはは勘違いだったなって 捨てられたらどんなに楽だ


なあ僕 キミは一度だって キミの想い人に声をかけたのか






横断歩道脇に 花束を飾ったよ

黒煙はもう君を穢さないよ 怪我だってさせないよ

だって蜜蜂色のテープがさ この一帯に静寂を齎したから


足を揃えた 雨の降りしきる月曜日

煤けた紙袋の中は 静かにかしこまっていた

車が跳ねる天の血が 俗世の色を少し薄めた

飛んだ飛沫は暗がりを誘う 世界を覆うように


くだらない嘲笑は 日々ここで流れてるけど

貴方の笑みだけは もういつまでも見えないよ


僕の声は 君の元まで届いただろうか

きっとそうなんだと 僕は信じてみたよ

そうやって苦しんだ 閉じた時間の両端を

僕には必要な咎なのだと 言い聞かせたら君に会えたよ


僕の声が 君の元まで届いたかどうか

わからなくても 僕は前に進めるよ


だからもしそこにいるならずっと 星になって僕を見守っていて






羽ばたいて 散った それでも消えないなにかに 縋って生きる今日も

とめどなく 唄って そこで初めて掴んだ 花弁の香りに目を瞑った









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