どうも等身大にはまだなれないようでさ。



暗がりのなか一人うずくまった

跳ねた布団 絡まる毛布 曲げた膝から入る初冬の

冷たい風は開けた窓から するりすらと吹き込んで

閉め切ったままじゃ淀んだ空気で風邪を引くよ 教えてくれたあなたの言葉を

ちっちゃな頭蓋骨の中で反芻しながら 孤独をこらえ

拗らせた若さの代償に こじらせた生気の綻びを

薬も食事もない四畳半の端で治るように念じて

飛ばない意識を飛ばそうと 必死に努力してみたりするんだよ


誰もいないわけじゃない 本当の孤独ではない

隣には人の住む部屋があり 十歩も室外を歩けば知人に当たろうか

なら何が一人だ どこが独りだ 頼らないのに何をほざくか

そうやって堂々巡りの思考は ただでさえ動かない身体からだを縛り 沈ませ

寝返りさえ打てない 痛んだ節々の端々まで

お前はこのまま一人でさ──

なんて脅かしたりしてさ


光らない筐体 聞こえない扉の打音 物静かな廊下 差し込まない陽の

光 そうやっていつまでもさ 億劫さに輪をかけたままで

籠りきった今日がお迎えするのは 同じような明日じゃないのか

なんて無理くりに発破をかけてみたって 少しも元気になりやしないや


暗がりのなか一人うずくまった

ああ辛いな なんて呟いてみてさ 誰にも聞こえやしないのに

冷たい風は開けた窓から するりすらと吹き込んで

閉め切ったままじゃ淀んだ空気で風邪を引くよ 教えてくれたあなたの言葉を

ちっちゃな頭蓋骨の中で反芻しながら 落涙をこらえ

無鉄砲な若さの代償に 無抵抗な免疫の綻びを

灯りも彩りもない四畳半の端で治るように祈って

襲わない睡魔を誘おうと 必死に努力してみたりするんだよ


シャワーとか浴びたいな せめて着替えたいな 喉が乾いてきたな

でも空腹は 不思議とからっきし感じはしないのだな

重く降り重なった 織り重なった 折り重なった長方形の大布たちは

僕の体温を外へ逃がさない代わりに 地面に降り立つ気概を逃しきって

呼吸さえままならない 逃げ場のないひずみの真中で

誰の声も聞かぬ朝は

あと何度来るのだろう──

なんて僕を塞ぎ込ませたりしてさ


暗がりのなか一人うずくまった


暗がりのなか一人うずくまった

ああ辛いな なんて呟いてみてさ 誰にも聞こえやしないのに

落ちた布団 かたまる毛布 痺れた膝に滲みる初冬の

冷たい風は開けた窓から するりすらと吹き込んで

閉め切ったままじゃ淀んだ空気で風邪を引くよ

教えてくれた あなたの あなたの あの言葉をね

割れそうな頭蓋骨の中で反芻しながら 孤独をこらえ

鎮まらない頭蓋骨の中で反芻しながら 落涙をこらえ

無鉄砲な若さの代償に こじらせた生気の綻びを

薬も食事もない 灯りも彩りもない 狭い部屋の淵で

元気になるよう念じて 祈って

眠れぬ夜を越えようと 必死にもがいてみたりするんだよ




ああそんなとき ただ「だいじょうぶ?」って

君のあの 赤い靴を並べた 丸い吹き出しが喋ったなら

僕はどんな苦境だって乗り越えて 翼を生やしてみせるのにさ


ああこんなとき ただ「なにかあった...?」って

君のあの ゆるり揺れるワンピの裾が心配そうにしてくれたなら

それだけで僕はどんな不調だって薙ぎ払って

木枯らしも置き去りにする速度で外に繰り出してみせるのにさ

そうやって一目散に君のところへ飛んで 思いきり抱きしめてみたりするのにさ


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る