06/19/10:30――ギィール・心の底にある望み

 やることが残っていたわけではない。

 実際に目的があるのは大抵の場合、サクヤとハクナの二人だ。今回はハクナの帰郷という位置づけでもあったが、用事そのものはすぐに済んだ。けれど、もっとこの場で過ごしていても面白かっただろう、という気持ちがギィールにはある。何しろ、見たこともない街だったのだ。何もかもが新鮮で、いろいろなものを学びたいとも思っていた。

 それでも、早めに街を出たのは、懸念があったからだ。

 あるいは、予言というべきなのか。

「――で、魔女か」

「ええ」

 何があるのかもわからないのならば、街から離れるべきだ。そして、対策がありそうならば、探っておくべきだと思い、いくつかの情報を得た結果、七番目の大陸にいるという魔女に逢ってみることにした。事情は一応、四人で話し合っている。

「本当にいると思うか?」

「さすがに、わかりませんよ」

「だよな。ハクは知ってんのか?」

「伝承? みたいな感じで、だいたいみんな知ってる。魔女の森には近寄るな、入ってみれば夕方に出てくる。迷って終わり。何もできない」

「迷いの森……か。つーことは、場所まで特定できてんのか?」

「ある程度は絞り込めました。実際に噂を聞いて、探そうとする人も少ないですからね。自分たちは物好きの部類でしょう」

「絞り込めたってことは、実在はするのか……」

「一応、古い文献には、魔女がアルケミ工匠街を作った、なんて話も残っていましたね。ふらりとやって来て食材を買い、ふらりと消える。普通の人と変わりがない姿で、それが誰かもわからない。けれど、姿だけは老いることもなく変わらない――と」

「姿が変わらないなら、もう人じゃないだろ、それ」

「ははは、事実ならば、そうですね」

「……姿はどうか知らないけど、魔女はたぶんいるよ。知ってる」

「そうなんだ」

「おい待て。ハクも納得すんな。サラサ、知ってんなら言えよ!」

「思い出したの、今なんだってば……私が迷子になった最初の時だし、かなーり前のことだから覚えてなかったの。でもここ七番目だし、たぶん、あの人だとは思うんだけど」

 街道をぽてぽてと四人で歩きながら、思い出す。今にして思えば随分と小柄な、それこそ少女のような姿で、目つきが悪くて、態度もちょっと悪い――けれど、親切な人だった。


 だから。

 ――それを、その時の感情を、サラサは表現することができない。


 高速貨物車が走ってくるのは視界に捉えていた。それが四人を通り過ぎた直後、道を外れて横転し、平原へと向かって勢いを殺す音が、大きく響く。何があったのかと足を止めるのは自然、そして。


 反応が二つに別れた。


 その二つを別けたものは、何なのだろうか。戦闘系である二人は、目の前のことに意識をまず向けることを第一としていたことも確かであるし、残り二人が魔術師だったというのも理由なのだろう。

 結果として二人は横転した貨物者へと意識を向け、残った二人は空を見上げた。

「なん――だ――?」

 遅く、ギィールとサラサも、貨物者から二人へと視線を向け、それから。

 先ほどまで晴天だったはずの空が、黒く澱んでいく光景に気付く。

「おえ……」

 ハクナが片手を口に当てて、軽く餌付く。気持ちが悪い、躰の中にある自分の魔力が、意識から外れてぐるぐると回っている。

 その回転に周期したかのよう、空が渦巻く。

 黒に、朱色が混ざったよう、やがて空は、アカく、アカく、――アカく、アカく。

 目が痛いほどの紅色になって、ようやくギィールは周囲の空気すらも、渦巻いていた空と同じく、濃度の高いものになっているのに気づいた。


 そう。


 ――もう、対応手段がないほど、遅かったのだ。


 濃度の高い空気に、誰かの〝意図〟が混ざったのにサラサは気付いた。けれど、気付いてどうすると、判断を迫られ、一瞬の硬直があって――けれど。

 何かが起こる前に、老人が目の前に立っていて、杖で地面を叩くようにして、意図を防ぐ。いや、攻撃を防いだのか。

「ルゼじ……」

「馬鹿者! いつまで儂一人に任せるつもりじゃ小娘! とっとと増援を呼ばんか!」

「あ、ごめん!」

 勝手に出てきてなんて言いぐさだ、と思う余裕すら喪失している。慌てて刀印を目の前で作った瞬間、ぞわりと鳥肌が立った。


 理解したのだ。

 何がどう、ではない。ただサラサが最も、この状況を理解した。

 ――どれだけ危険な状況なのかを、理解できた。


 だって。


 刀印を作っただけなのに、知っている龍たちを含めた全員がこう言っている。


 呼べと。


 無茶だろうが何だろうが呼べと、言っている。そうしなくては、この場を切り抜けることはできない、と。

「ギィール!」

「はい」

 だったらサラサも、覚悟を決める。腰から小太刀を引き抜き、真横に突き出して。

「折って」

「――、わかりました」

 どうしてと、問わない。それが必要なのだという意志は伝わって来た。

「ありがと、卯衣うい

 掌が触れる際に、小さく、サラサの呟きが聞こえた。

「ごめんガーネ」

 小太刀が、折れた。

 塞き止めていた堤防が決壊したかのよう、小太刀に溜まっていた呪力が一気に開放される。それを逃さぬよう、素早くサラサは印を組んだ。

 狐の印――両手を交互に合わせ、右手の親指と小指を折る。

 水の印――掌を合わせ、右だけを九十度横へ。

 雷の印――右薬指、左人差し指を合わせ、他を閉じる。

 吸血の印――薬指を絡め、手は軽く握る。

 天の印――手の甲を合わせて掌を上下に、親指と小指をお互いに交差。

 風の印――親指の付け根同士を合わせて立体を作る。

 地の印――親指同士を合わせ、右手は拳。左手は開く。

 次次に呼び出された彼らが、サラサの呪力で具現していく。吸血、狐に関しては軽い補助を、つまり力をこちらに流してくれてはいるが、それでも維持するのは難しい。

 難しいけれど、やらなくてはならない。


 ――ぼとりと、何かが落ちてきた。


 奥歯を噛みしめたまま、ぎょっとしてそちらを見れば、それは、少女の躰だった。見覚え――いや、記憶が古すぎてわからないが、直感的に彼女のものだと思う。けれどそれ以上の判断はできなくて。


 何故ならば。


 その屍体に、頭がなかったからだ。


「見られています……」

 ギィールは、その屍体に視線を向ける余裕すらない。

「一人じゃない……? 八つ? いや、それ以上の〝目〟が、こちらを認識しました」


 だからといって、どうすべきかはわからない――。


「あ、いい感覚してる」


 そこへ、第三者の声が割って入った。


 サラサが呼んで作ってもらった結界の外、ひょろりとした長身の女性が、どこか眠たそうな目のまま、こちらを認識する。一人ずつ、目を見るようにして顔を合わせて、最後にサラサを見て。

「うん、がんばれ」

「え、あ、うん……」

 サラサの返答など気にした様子もなく、彼女は、屍体の前にしゃがみ込んだ。

「あはは、ばーか、ばーか。ざまーみろー」

 とても、とても、嬉しそうに、彼女は屍体に言って。

「ん」

 一つ頷いて、こちらに背を向けた。

 そのまま姿が消えるよう、移動する。その先にある――森のような場所へ向かって。

 何が何やら、さっぱりわからない。わからないが、ぎりぎりの境界線、その上に彼らはいて。


 手に負えない、理解も及ばない〝何か〟が起きている。


 どれほどの時間が経過したのかも、わからない。ただ、四人がその異質な状況下で、耐えるだけの時間を過ごした先には、終わりがあった。

 まず、空が元の色を取り戻していた。いつ戻ったのかはわからないし、ギィールは未だに見られているような感覚が消えないでいる。ハクナは気持ち悪さを隠すこともできないし、サクヤは魔力を受け過ぎたためか、頭痛が治まらない。

 次次と呼んだ龍たちが消えていく中、緊張が緩もうかというタイミングで、ぼとりと、何かが落ちてきた。


 ――先ほどの女性だった。


「あふ……終わったー」

 その女性の両手と両足がないのを認識した時点で、サラサは意識を失って倒れた。

「サラサ殿!」

「さすがに厳しいか。ギィール」

玉藻たまも殿……」

「サラサは預かろう。なあに、心配はいらん、回復すれば戻るとも」

「……はい。お任せします」


 大きな狐を最後にして、全てが消えて。

 ギィールは、深呼吸をして、近づく。


「――何か、できることはありますか」

「んー、ないよー、もう終わったから。あとはぎっちゃんが何とかする……あー、もう駄目。死ぬ。にひひひ……あんがと」

 ありがとうと。

 そんな言葉を、素直に受け取ることができず、ギィールは悔しさに俯き、首を振ってから距離を取った。

「サクヤさん」

「ん……おう、大丈夫だ、動ける」

「私も、なんとか」

「ここからですと、クインティという街が近かったですね。そちらへ向かっていただけますか?」

「そりゃいいが……お前はどうするんだ」

「すみません、いくつか確認したいことがあります。それに、彼女たちを、このままにはしたくないので」

「……手伝う、と言っても、まだ危険な可能性もあるなら、それが最良か。おいギィール、ちゃんと戻るんだろうな?」

「もちろんです。今日中……か、あるいは明日までには、必ず」

「その言葉を受け取っておく。ハク、歩けるか?」

「ん」

 二人が歩き出した背中を見送り、ギィールはもう一度彼女たちに視線を向けるが、二人は並ぶようにして事切れている。

 一体、何があったというのか。

 何かがあったとしても、女性が一人来ただけで、命を賭けることにはなったが、解決してしまった。まだ危険性はあるものの、先ほどと比較すれば、安全圏内だ。

 深呼吸を一つして、拳を握って開く。いつの間にかサクヤたちの姿も視界の中からは消えたが――そこで。


 背後、足音を耳にした。


 わかる。


 わかるというか、察していた。こういう状況ならば、きっと――。


「サギシロさん」


 ――彼女が、来るはずだと。


「お疲れ。わかってて待っていたの?」

「自分くらいは、残っておいた方が良いかと」

「返答にはなっていないけれど、まあいいわ」

 振り向かず、外套を肩に引っ掛けたサギシロが隣に来た時にようやく、その姿を視認した。


 苦笑がある。


 悲しみと、嬉しさが同居しているような、苦笑だ。


「……お疲れさま、セツ、ウィル」

 その言葉に込められた想いは、わからない。わからないが、強い想いであることは窺えて、すぐに強い炎と共に、遺体が焼かれ始めた。サギシロの視線は、炎が向かう先、空の方へ向けられている。


 鎮魂を、見届けるように。


「……お知り合いですか?」

「そうよ。古い――いえ、長い、……長い付き合いの、友人よ」

「サギシロさん」

「なに?」

「……、――誤魔化せる、ものなのですか」

 即答はなかった。珍しいことだとは思うが、それは迷いでも、問いの意味合いがわからないのでもなく、ただ、咀嚼の時間である。

「ある程度は、ね。いつしか抱いた、死にたいという想いすら擦り切れて、摩耗して、見えなくなってしまう。私たちは油断がない。常に気を張っていて、それが当たり前になっている――けれど」

 それでも。

「いつか願った終わりへの渇望は、どこかに隙間として存在してしまう。一瞬を交換する戦闘の中、ある特定の条件下で訪れた時、かつてなら抗ったそれを」


 それを。


「――もういいか、と」


 そんなふうに、諦めてしまう。


「セツにとっては――ベルにとっては、今がそうだった。そして、ベルがいなくなったのなら、命を賭けるのはマーデ。この二人はそれだけ近かったし、そうでなくちゃ解決はしなかった」

 雷神トゥールと、天神ケイオス

 五神の一角が、崩れたのだ。

「五神と呼ばれる連中も、これで形骸化する。……いいことよ」

「何があったのですか」

「そうね、知っておいても損はないか」

 軽く、コートの裾を撫でるような感覚で手を振れば、炎が消え、そこにはもう何も残ってはいなかった。

「おいで。――初代〝炎神レッドファイア〟の魂だから、きちんと向こうに行けたでしょうし」

「……はい」

 やや、のんびりという歩調で草原を進めば、すぐに森が見えてきた。

「迷いの森……ですね」

「そう言われているわね、ベルの棲家よ。ああ、そうだ、ギィールに渡しておくわ」

 歩きながら、サギシロは右手を軽く振って、二振りのナイフを出現させる。

「もう、いいよね、じーさん……」

 その言葉の意味もわからない。ただ、大振りのナイフを、こつんと、その投擲専用のナイフにぶつけた後、大きいナイフの表面を手で撫で、その二本をギィールへ渡した。

「どうするかは、任せる。魔術品じゃなく、ただのナイフだけど……ま、品質そのものは最上級よ」

「自分は……」

「だからそこは好きにしていいわ。とりあえず持ってなさい、ほらこれが鞘」

「はい」

「……ああ、やっぱり自動にはしてなかったか。もうこの森に入っても迷うことはないけれど」

 燃やすべきなんでしょうねと、ちょっと寂しそうに笑った。ギィールは二つのナイフを、邪魔にならない腰の裏に入れておく。

「ベルはね、荷物を沢山持っていた。そのナイフもそう」

「これが?」

「もう効力そのものは消したから、二度と使えないけれど、小さい方は無限複製が可能なナイフで、大きい方は限定的ではあるけれど〝法則〟すら切断可能なナイフ。二番目と四番目、なんて呼ばれていたわ。私にとってはなじみ深いものでもある。まあそんなものは、ベルにとってあ本当の意味での荷物で、今はもう使わないでいられたんだけれど」

 それだけで、ベルと呼ばれていた存在の恐ろしさは、わかるような気がした。

「頭を喰われたということは、極赤色宝玉クロゥディアね。これは九人分の目を凝縮した魔術品で、とてもじゃないけれど常人が耐えられる度合いは越えている。詳しくは説明しないわ、マーデがもう壊したから。けれど、その誰かはベルの命を奪った時に、ベルが所持していたその魔術品も喰ってしまって、暴走したのね」

「では、その暴走が、先ほどのあれだと……?」

「そうなるわね。そして、――きっと私は、この結末を望んでいて、そうなるんだろうと予想していた。サラサと旅に出ると、そう言われた時にね」

「きっと、その理由については、今の自分には理解できないのでしょうね」

「成長したわね、いいことよ。だから、誰がベルを殺して、なんて話もしないわ。ただ――終わることができた。その一端にギィールは関わったのだから、私としては、ありがとうと、そう言っておくわ」

「自分は何もしていません。きっとこれは、サラサ殿の功績でしょう」

「そうでもないわ。そんなことはないのよギィール、覚えておいて。どんな結果も、成果も、旅をしている全員のものよ。誰一人とて、役立たずではないの。――今日までの積み重ねは、あったのだから」

「はい」

 森の中に入ってからも、サギシロの先導に従うように進む。足元に草があるわけでもなし、歩きやすい森だ。陽光が届かないので雑草も生えにくいのだろう――。

「ギィール、覚えておいて。これから、世界は動いていく。変わっていく。けれどそれは、きっと悪いものじゃない。親の手から子供が離れていくよう――」


「――、え?」


 言葉が途切れた。


 見えていた背中が、――消えている。


 慌てて周囲を見渡すが、気配がない。術式? いや、そういう感覚は一切なかった。むしろ、それは。


 存在ごと、消えたような。


 この世界からいなくなったような。


 そんな空白に似た何かが、胸の内に飛来する。


「サギシロ、さん……?」


 いなくなって、しまった――?


 不安よりも寂しさが訪れる。自分が立ち止まっていることに気付いて、寂しさに気付いて、ギィールは小さく笑った。


 親の手から、子供が離れていくように。


 ――そうか。


 もうギィールは、一人で生きられないような子供ではなくなっている。

 だったらと、足を前へ進めた。森が開け、ぽっかりと空いた場所に、ログハウスが存在している。ぐるりと周囲を回ろうとしたところ、おそらくは表の庭に当たる場所に。

 三つの、人形が座っていることに気付いた。

 いわゆる侍女服なのだろう。それぞれ胸元につけた宝玉と、背丈が違う。

 いや。

 これは、人形だけれど、たぶん。

「――失礼、起きておられますか」

 そうしてギィールが声をかければ、中央にいる青色の宝玉をつけた女性が、ゆっくりと、力を入れるようにして、片目を半分ほど開いた。

「あら……」

「お休みのところ、いえ」

 そうではない。

 たぶん、この人たちは。

「お休みになられる前の、最後の来訪者が自分になってしまった――のでしょうか」

「わかりますか」

「今まさに、そんな〝終わり〟に立ち会ってきました。であれば、自分は名乗らない方が良いかもしれません」

「そうですね……けれど、こちらは名乗っておきます。左にいる小柄な子は、三女のシディ。右にいるのは次女のガーネ、そして私が長女の、アクアと申します」

「はい」

「もしも旅先で、私どもの名を耳にしたのならば、――眠りについたとお伝えください。役目を終えた私どもは、誤魔化しも終わらせ、彼らの元へ戻るのです」

「彼ら、ですか」

「はい。私どもの主の元へ」

 とても、とても嬉しそうにアクアは微笑む。面識は一切ないが、こういう終わり方を、ギィールはとても好ましく思えた。だが、残される側はどうなのだと、そんな疑問も浮かんだが、振り払う。

 今はまだ、考える時間ではない。

「ここはベル――さんの、棲家だったのでしょう?」

「はい、そうですが……どうやら、あの方はもういないようですね」

「そうです。先ほど、マーデさんと共に、初代エイジェイの炎で送られました」

「では、鷺花様がご一緒だったのですね」

「――しかし、いなくなってしまいました。まるで消えるように」

「それは……おそらくですが、喜ばしいことです。想像しかできませんが、きっと鷺花様にとって、終わりへの道ができたはずですから」

 終わり、か。

「やはり、望まれていたのですね」

「はい。心が擦り切れぬよう配慮し、長い、長い時間を生きてきた私どもは、いつしかこうして終わることを望んでおりました」

「……自分からは、どう声をかけて良いのかも、わかりません」

「それでいいのです、旅人様。さあ、いつまでも終わりの場に留まるのは、よろしくありません。この一帯は炎を散らし、彼らの元へ行けるようにします。それをもし、見送るのでしたら、その後にどうか、一歩を踏み出してください。そうして生きて行かれることを、私どもは、望んでもいたのですから」

「――はい」

 そうだ、これはギィールの終わりではない。彼らの終わりだ。

 だから、いつまでも留まって、彼らの領域を荒らす必要もないだろう。

「それでは失礼します、アクアさん」

「はい。良き旅路であるよう、お祈りします」

「ありがとうございます」

 ギィールは振り返らず、これ以上探ろうとせず、森へ向かって足を踏み出す。森の中では、いろいろ考えようとするものの、やはり考えはまとまらなくて、いつの間にか森を抜けていた。


 火の音がする。


 燃える音色がする。


 振り返れば、先ほどとは違って、炎の色が空を染めていた。


 終わりの色だ。


 そして、鎮魂の炎でもある。


「……逃げたままでは、いけないのでしょうね」


 サギシロに拾われた頃から、未だに逃げていると思い続けてきたギィールは、その炎を見上げながら、思う。

 いつまでも、そんな子供ではいられない、と。

 だったら何をすべきか、なんてことは思いつかない。何をしたらいいのかも手探りだ。

 けれど。

 何かをしよう、そう思った。


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