04/24/11:30――コノミ・仕事後の一杯
キリエ・ノドカとの付き合いは、それなりに長く、出会いがどんなものだったかと問われれば、結局のところ、両親とキリエの先代とが知り合いであり、ウェパード王国へ立ち寄る際に顔を見せたのが最初で、当然ながらその頃のキリエは見習いでしかなく、去年に生活範囲をここに決めた際に顔を出したら、キリエが継いで店を構えていた。
仕事での付き合いよりもむしろ、コノミとキリエはプライベイトの付き合いの方が多い。今回のように調達の仕事を投げられることもあるが、そもそもコノミは大けがをするような下手を今のところ打ってはいないため、一度ですら患者になったことがないのだ。キリエの持つ医療技術は魔術に限りなく近いが、それでも技術を教わることも、まあ、たまにはあるくらいか。
四日かけて各地を巡り、材料を集め終えたコノミが足を向けた先は、城下町にあるキリエの治療院である。王国お抱えとはいえ、あくまでも出向する形を取っているキリエは、そのほとんどを治療院兼自宅で過ごしており、仮にいなくても置いておけば問題ないのは、これまでの仕事と同じであったのだが――しかし、顔を出してみれば、早早に受け取って清算を済ませたキリエが、どういうわけか偉そうに胸を張って、さあ飲みに行こうと、休診日の看板まで出しての催促をしたので、仕事終わりはそのつもりだと苦笑して応えたコノミは、連れ合って賭場にまで足を運んだ。
ウェパード王国城下町にある賭場は、一つしかない。繁華街の隅にありながらも敷地面積は広く、あらゆるギャンブルが内部で行われている。いくつかの規制はあるものの、出入りに関しては年齢制限なし。のめり込む人間もいるにはいるが少なく、どうして少ないかと問われれば、ギャンブル狂いにならないよう、腕の良いディーラーがいるからだと、コノミは答えるだろう。
たしなむ程度、というのがコノミとキリエのギャンブルとの付き合いだ。望んではやらないが、誘われれば遊ぶ程度。勝ち負けなど二の次、というスタンスであるため、ディーラー側もそういう扱いをしてくれる。だから大抵はとんとんで帰れるのだが、どちらかといえば内部に備え付けられた酒場が目当てで、余所の酒場よりも、どういうわけか賭場内部の方が、落ち着いて飲めるのである。
キリエは背丈がそこそこ高い。といっても、コノミの方が少し小さいくらいなもので、お互いに女性としては背の高い部類だ。さすがに年齢差もあるし、これから成長することを、そこはかとなく期待したのならば、将来的に似たような体形になるだろうけれど、しかし、胸部のふくらみだけは追い付かないだろうことも、コノミは予測できている。
白衣を脱いだキリエはノースリーブの上着にタイトスカートといった、いささか露出の多い格好だ。スタイルが良いので隠さない、とは冗談交じりの本人談だが、実際には治療に際した〝修羅場〟に陥った際、身動きがしやすいように日頃からしているだけだ。逆に言えば体力勝負なところもある仕事であるせいか、躰もそれなりに締まっている。仕事以外では身に着けている眼鏡も、赤いフレームとおしゃれだ。女としての色気があると、同性のコノミでも思うが、だからどうしたと、そんな感想である。
コノミが注文したのは赤いカクテル。対してキリエは度数高めのウイスキーをボトルで。四人掛けのテーブルに腰を落ち着け、乾杯をしたかと思えば、キリエは一杯目を一気に飲み干した。こいつ、ストレス溜まってんのかと、かつてはよく言ったものだが、毎度のことだ。前後不覚になるまで酔わないよう飲むので、そのあたりも気に入っている。ちなみにコノミは、一杯をゆっくりと飲むタイプだ。特に、好みのカクテルは高価で度数も高いので、のんびりと飲みたいのである。
「ふいー」
だらしなく。
胸をテーブルに乗せるよう前かがみになったかと思えば、キリエは頬杖をついた。完全にオフの姿だ。
「お前……飲みたいがために仕事を回したんじゃないだろうな」
「え、まっさかあ。飲みたかったのは本当だけど」
「一応は自営業だろ、好きに飲めばいいじゃねえか」
「……なにそれ。とっとと男を作って誘えっていう遠まわしな拒絶?」
「そう聞こえたんなら、耳の掃除はちゃんとできてるみたいで何よりだ。といっても、私自身、キリエと飲むのが嫌ってわけじゃない」
「うるさいなあ。男ができてたら、そもそも誘わないっての」
「そのでけえ乳を放り出して、旅には向かない生脚を組んで見せれば、野郎を引っかけるには十分だろ」
「そんなんで集まってきた親父どもを相手にどーしろと。視線誘導くらいには使うけどさ。だいたい、そういうコノミはどうなのよ」
「一人前の女として扱うって点に関しては感謝するが、私みたいなクソガキが色気づいたところで、五年後の想像すらできねえのがオチだろ。今の私は、子供は女の子ができるまで作る、くらいの想定が関の山だ」
「……え、なにその拘り」
「お袋の孫への対応は想像できるが、親父は想像できないからな。女の子の孫を産んで対応を見て、げらげら笑ってやろうって算段だ」
「性格が悪すぎる!」
「そうか? うちなんて、だいたいこんなもんだけどな。つーか、私を男避けに使うんじゃねえって文句を言ってんのね?」
「だあって、コノミの対応って上手いし」
そんなことはない。ただ、言いたいことを言っているだけだ。お蔭で、賭場内部で声をかけてくるのは新参者しかいなくなりつつあるのだが、そこはそれ、結果は結果でしかない。キリエも〝医者〟としては厳しい対応もできるが、プライベイトだとなかなか弱いのである。そういうギャップも、コノミから見れば〝女らしい〟とは思うのだけれど。
「医者を敵に回すほど怖いもんはねえだろうに……」
「だからコノミみたいなのは好き。どっちでもないから」
「愛の告白なら野郎にしろって言ってるだろ。酒が入ってなけりゃもっと良い。いいかキリエ、よく考えろ。ずるずるとそのまま十年後、三十路を迎えたお前が独り身で、仮に私が子供を腹ン中に入れた二十歳過ぎだとして、楽しく一緒に飲めると思ってんのか?」
言えば、キリエは百面相をして、最後には泣きそうになった。
「泣くな」
「うっさい。うっさい!」
「えり好みするくらいなら、休みの日にてめえで探せって言ってんだよ……」
耳を両手で塞いだかと思えば、飲み始めて早早にキリエが突っ伏した。小刻みに揺れる肩はきっと、涙を堪えているのだろう。ちょっと言い過ぎたかと、舐めるようにカクテルを飲みながらも、いや、事実は事実で、現実になる前に教えてやるだけ優しさだろうと、コノミは勝手に自己正当化を済ませた。
しばらく動かないキリエを横目に見ながら一杯目が終わった。やや離れたカウンターにいるバーテンに片手を挙げ、ベースは同じで違う味を頼み、それをウエイターが運んでくる頃、ようやく顔を上げたキリエは、眼鏡を外してこちらを睨む――と思ったら、袖で残った涙を拭いて、また眼鏡をかけた。
「そういえば、カイドウくんは相変わらず?」
「話を変えやがったな、この女……。相変わらずだろ、同居人だからっていつも一緒なわけじゃねえ。――ああ、一人、居候が増えたが」
「へ? そなの?」
「同い年くらいの、元軍人の槍使いだ。情報、いってねえか」
ああと、頷きが一つ。さすがに王国へ出入りしているため、その手の情報は耳にすることが多いようだ。
「ファル副団長が、面白そうに話してたっけか。シャヴァの元軍人で、槍使い。実直で良い子だって。――コノミとは大違い」
「私はまだ、王城に足を踏み入れたことはないんだけどな」
「あれ、そうだっけ?」
「〝正式〟には一度もない」
「あんたはまた、そういう言い回し……事実だから余計に問題だと思うんだけど」
「問題にはしてないね。ワイズさんと団長は知ってるから。当時の手引きはお袋とレグホンだったけど――それ以降は何も」
「あんまり興味ない?」
「どちらかと言えば理由がない、だ。この国の在り方に関しては興味もあるが、私に直接影響はないと見てる。過ごしやすい場所であることは確かだ」
「……自分には合わないって、付け加えるつもりある?」
「断言はしねえよ」
過ごしやすく、ともすれば居場所すら簡単に見つかるようなところだと思う。しかしコノミは、それ以上に、そういった場を整えるために、裏方の人間がどれほどの努力と労力を割いているのかを、それなりに知っている。得があれば損があるように、表があれば裏を覗き込みたくなるのがコノミの性格だ。何よりも、裏方作業というやつが、自分に合っていることも自覚している。
だからこそ、この国は上手くできていると、そう思うのだけれど、そこまで説明するのは面倒だったので視線を逸らせば、カウンターに立つバーテンが、内部にて少年と何かを話している様子が目に入った。
「……弟子でもとったのか」
「ん? ――ああ、たぶんあの子は職業学校の生徒だと思うよ。うちにもたまに来るから」
「へえ」
国の教育機関の一つで、王城の近くにある職業学校は、この国の子供たちのほとんどが通っている。就職するために学ぶ文字通りの教育機関であることは知っていたが、それ以上の詳しいことは知らない。今まではあまり興味もなかったのだけれど、話題の一つとしては丁度良い。
「お前のとこに来て、何を学ぶんだ? まさか、甘っちょろいガキに技術を教えようってわけじゃないだろう」
「まあね。規定日数はだいたい一ヶ月くらいなんだけど、うちに来る子は一週間続けばいい方かな。で、医者に必要なのは〝体力〟だって、文字通り躰に覚えさせられるわけ」
「はは、そりゃそうだ。医者の第一は〝患者〟だから、医者の不養生なんて言葉も生まれる。現場での経験を積むって志は悪くはない」
「コノミは学校とか、どうなの?」
「通った覚えはねえよ、文字通りの根無し草だ。今であっても、必要だと感じたことはない」
「……ねえ、コノミみたいな、生き方というか職業というか、そういうのに就きたかったら、どうすればいいの?」
「簡単だ。一つを目指さなけりゃいい。知識は広く、目的は遠く、意識は常に周囲へと向ければこうなる」
「どうだかなあ。浅く広くで、コノミみたいになるわけないと思うけど?」
「誰が浅くって言った?」
「え、なに、深くなの、そこ」
「究極的には、そうだ。最初の頃は、一定ラインを決めてたな」
「どの程度のラインになるわけ?」
「私の場合は、その専門が必ず当たると言われる〝壁〟が見えた時をラインにしてた。もちろん、そこで終わりにしちゃいねえよ。ぐるっと一周くらいしたら、また戻ればいい。だからたまに、キリエにだって技術関係の質問をしてるだろ」
「わかった。理屈はわかってもできないってことが、よーっくわかった」
「私をそこらの化け物と一緒にすんな。だいたいな、私はお前の代わりになんてなれねえだろ」
「そりゃまあ、そうだろうけど……」
結局は、そういうことだ。コノミが診察室で椅子に座り、患者を診ることなど、できはしない。
――お前は〝朝霧〟になれない。
そう父親に言われた時は、ショックだった。けれど。
――だから〝朝霧〟を越えることは、あるいはできる。
続くその言葉を聞いて、何か事情があるのだと気付けた。真っ白になってしまった思考が、一気に濁流へと呑み込まれて元通りになる、オンオフの素早い切り替えの中、その可能性のために、教えられる部分は教えようと、父親の訓練を受けることになったのは、随分と前だ。広く知識を蓄えるのもその一環だった。
――狭い思考、少ない知識、こいつらは手段を失くす。
いちいち、ごもっとも。父親の言う〝格言〟は、誰かに教わった何かでありながらも、経験に裏打ちされたものだ。聞かされた当時はわからず、今でもわかっていないものもあるが、確実にそれを実感する時がやってくる。
結局のところ、コノミが目指しているところは、そこだ。両親の背中を今でも追っている。いつか必ず追い付いてやると――それだけなのだ。
「雨だ」
「……え? 降ってる?」
「厳密には降ってきた、だ。ここんところ、ちょっと多いな。強くはなさそうだが」
「よくわかるね?」
「風向きと、雲の流れ、あとは雰囲気だ」
それもまた経験だと、カクテルを舐めて視線を逸らせば、ちょうど雨を払って入店した少年が見えた。保護者の付き添いはないのかと、思わず言いたくなるような幼い風貌であり、黒色の帽子とケープのような外套を羽織っており、水滴を軽く払いながら入ってくると、見ていたコノミと視線が合い、嬉しそうに笑って片手を挙げた。
子供なら、大げさに手を振ればいいのだろうに、軽い挨拶として留めている。見れば、キリエも小さく手のひらを振って挨拶を返していたので、コノミは手招きをしてやった。
少年――リクイス・ウェパードは、帽子の位置を正しながら、決して走らずにこちらへ来る。堂堂とした様子で、あれこれかけられる声には軽く対応をしていた。よく賭場へは足を運ぶのだろう、帽子をかぶっているリクイスが〝プライベイト〟であることを、みなが知っているのだ。
「こんにちは、キリエさん」
「こんにちはリクイス。遊びにきたの?」
「ええ、昼食ついでに。お小遣いが決まっているので、大金は使えませんけど。コノミ姉さんは、お久しぶりです」
「ああ」
「え、なにコノミ、知り合い?」
「プライベイトでは、知り合いだ」
「そうです。仕事では、お互いに知りません」
「また微妙な……」
呆れた、とばかりにキリエはグラスをあおる。
「というか、なんで姉さん?」
「敬意の念を込めて、でしょうか――」
ちらりと一瞥があったので、コノミは素知らぬ振りで好きにしろと言外に伝える。べつに隠しているわけでもないし、コノミとしても対応に不備があったとも思っていない。
「初めてお会いした時に、私のことを知っていながらも、対応を一切変えず、今でも一貫されているのは、コノミ姉さんくらいですよ。当時、今にして思えば皮肉の一つだったのでしょうけれど、二言、三言を交わしてから、コノミ姉さんが質問を一つしたのです」
「あー、コノミらしいね、それは。相手の真意を推しはかろうとするっていうか」
「探りを入れることに近いと思います。質問はこうでした。――鉱山を掘っていたら巨大な岩が邪魔をしている。お前のすべきことは何だ……と。その言葉で私は、最初から姉さんが私の立場を知っているのだと気付き、その対処法をいくつか挙げました。たとえば発破の手配、可能ならば増員して周囲から砕いていく――けれど、姉さんは、違うと一蹴されまして」
「違わないのに」
「そうですね、間違いではなかったのでしょう。けれど、順序が違いました。それは致命的なまでに――核心を外した返答だった。これも後になってから気付いたことで、違うと否定された際は、この人は政治を知らないのかとも思ったのですが……」
「コノミはなんて言ったの?」
答えるつもりはないと吐息が一つ。そんな態度にリクイスは小さく苦笑してから、それを言った。
「――お前のやるべきことは、対処できる人間に頭を下げることだ」
間違いなく、当時のコノミはそう言った。
「その言葉は今も忘れず、ずっとしまってあります。以来、ここでたまに逢うのですが、コノミ姉さんにはどうも、頭が上がらなくて」
「私なんかに気遣う必要はねえと、言ってるんだけどな。私は気にしてねえから、好きにさせてる」
「と、いうわけです」
「ははあ、私なんかは仕事中のリクイスを知ってるからあれだけど、まあなんていうか、良かったね。コノミってこれで、合わない人の方が多いから」
「うるせえよ」
「コノミ姉さんは、相手に合わせようとしないだけじゃないのかなと、思ってますけど」
「面倒なんだよ。リクイス、注文はどうした。来店したなら金を落とせ」
「おっと、そうでした。私はジンジャエールと、軽食を」
「ちなみに、私の酒はキリエのおごりだ」
「ちょっと、初耳なんだけど」
「お前が誘ったんだろう、お前の持ちだ」
「その理屈は相手が男だった場合に限るって知らないの?」
「なんだキリエ、男の相手の話をまだ続けたいって催促か」
「――、うん、そうね、奢る」
「最初からそう言えよ」
逡巡したキリエだったが、やはりコノミには勝てないと踏んだのか、強引に終わらせた話題をリクイスの前で持ち出され、また涙が滲むような状況は回避した。戦略的撤退だと当人は思い込んだらしく、頷きが三度ほどあった。
「というか、リクイスはコノミとどんな話してんの?」
「主に相談です。コノミ姉さんは一つの案件に対して、多くの見解を出していただけるので、勉強にもなるんですよ」
「実行するのは私じゃないから、無責任なことを適当に言ってるだけだ――と、これも前から言ってる」
それよりもと、少し迷っていたが、コノミはグラスの表面を撫でながら話を替えた。
「リクイス、仕事の話をしてもいいか」
「――初めてですね。なんでしょう」
「マルセル鉄鋼街、あるだろ」
「ええ、ここからだと馬車で二日ほど、北西の方角でしたか」
「そうだ。ちょうど、キリエの仕事で調達の際に、最後に立ち寄った。あそこに廃鉱があったろ」
「はい。そのまま、マルセル廃鉱と呼ばれています。もう二十五年前に採掘を終え、かつては定期的な〝掃除〟が入っていましたが、以上の資源が手に入らないと決定的になった十三年前からは、基本的に立ち入りが禁止された廃鉱ですね。私は現地を見ていませんので、あくまでも資料上の情報ですが」
「ああいう場所は地下水も見つけやすい。リリーの宝水を入手するために立ち寄って、実際には正解を踏んだんだが――っと、立ち入り禁止だっけか?」
「基本的には、と前置していたので問題ないかと」
「問題になりそうなら忘れてくれ。いや、問題はここからか。中に〝誰か〟がいた」
「誰か……ですか。詳しく教えていただけますか?」
「遭遇はしちゃいないし、姿は確認してない。私はあくまでも、素材集めが目的で、調査の名目があったわけじゃないからな。人数は最低十二人、つまり十二人の違う痕跡は発見した。踏み固められた箇所もいくつか、真新しい足跡を五つ見つけたがどれも〝重い〟ようだったな。内部の運搬用レールや昇降台が使われた痕跡はなし」
「……盗賊の拠点になっている可能性は?」
「可能性なら、ありうるだろ。ただし現時点で聞き込みした結果、マルセル鉄鋼街の内部にて窃盗などの被害はなし。業務そのものに大きな問題もなさそうだ。ここでようやく質問だリクイス、王国業務にらしいものはあったか?」
食べ物が運ばれてきたので、リクイスはお礼を言って受け取る。その間にしばらく考えを巡らしていたようだが、首を横に振った。
「戻って調べないと正確なところはわかりませんが、現状で私の記憶にはありません」
「だろうな。〝そういう〟感じじゃあなかった。対応には気をつけろリクイス、軍の派遣は些か拙速だ」
「はい、熟慮します。ご配慮ありがとうございます、コノミ姉さん」
「っていうか、そこまで考えてるならさ、もうちょっとコノミが詳しく調べてきたら良かったんじゃないの?」
「おいクソ女、脳の退化が始まるには早い年齢のお前みたいなヤツは、間抜けと言うんだ。私に仕事を渡したのはどこのどいつか、鏡で見ないと確認できねえか?」
「う、ぬ……そうだった」
「優先順位は素材の調達だ。だからといって、調査のために赴くのなら、せめて労力に釣り合う報酬でも欲しいところだな。旅人、冒険者への依頼なら人を選べよリクイス。ともすれば、目的を聞き出す前に逃げられる」
「わかりました」
とはいえ、だ。
「近い内に、たぶんそっちに顔を出す」
「……? 姉さんが、王城にですか?」
「ああ。たぶん、だけどな」
そのことを考えれば、面倒なことだが、たぶん拒否はできない。
「状況によりけり。わからなけりゃ、私に合わせてくれ」
「はい」
「ん。――さてと、おい間抜けのキリエ」
「なによう」
「真面目な話をしちまったと思ってな。どうせ飯の時間だ、飲みを再開させるぞ。それが当初の目的だろ」
グラスを傾ければ、苦笑交じりにキリエは自分のグラスを軽くぶつける。まったく、コノミという少女はこういう気遣いもできるから、可愛くないのだ。
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