02/19/00:35――転寝夢見・テレパスの中で
夢見 〈聞こえるか。繋げ〉
あやめ〈――
夢見 〈テレパスを
あやめ〈相変わらず強引な……鬼灯?〉
鬼灯 〈どうしたあやめ、テレパスなどして〉
夢見 〈よし、姫は傍にいるのか?〉
鬼灯 〈夢見さん……? 何がどうなっている〉
夢見 〈俺を中心にしてテレパスのネットワークを擬似構築中だ。ノイズが混じるのは諦めろ。傍にいるならテレパスを繋げろ。俺から強制的に繋げても受信しかできない〉
鬼灯 〈わかった。
旗姫 〈鬼灯様? あの――〉
夢見 〈優先順位を構築しろ。こっちはつれづれ寮内部、ひとまずは安全が確保されてはいるが、時間制限つきだ。いつかは動く。そっちはどこだ?〉
鬼灯 〈野雨市内を移動中だ。先ほど、野雨西を経由したが隠れ場所など、どこにもない。県境から少し来たが、今は隠れている最中だ〉
夢見 〈隠れられるのか?〉
あやめ〈うん。感知範囲を広くとって視界に入らないようにすれば、行動制限はかかるけど、それほど数もいないし何とかなってる〉
夢見 〈攻撃手段は? 圧縮か四散させればどうにかなるか?〉
鬼灯 〈効果的な手法はその二つだ。現状が理解できない以上、余力を常に残して行動している。だが俺は、安全な場所などない――逃げ場などない、そう結論に至ったところだ〉
旗姫 〈あの、ですがどうやらわたくしが狙われているようです〉
夢見 〈わかっている。だが、お前以外も連中の捕食対象者だ……が、逃げ場はあると俺は考えている〉
鬼灯 〈どういうことだ?〉
夢見 〈まず訊くが、どうして野雨西を経由したんだ?〉
あやめ〈避難場所として思い当たったから。でも、そうはなってなかった〉
鬼灯 〈広い場所は発見されやすく、狭い場所は囲まれれば道を切り開くしか方法はない。それこそ裏路地などの方がよっぽど動きやすいからな〉
夢見 〈……そうだ。そこまでは正しい。だが先ほどこちら側の周囲を視たところ、少なくとも隠れられる場所はない。妖魔の数が違うのかもしれねえな。やっぱり情報が足りないか〉
鬼灯 〈午睡(まどろみ)さんは?〉
夢見 〈いいか、現場に立っているのは俺たちの世代だ。他の連中は、舞台から外されていると考えろ。力を借りれるような状況ではないと、鬼灯もわかっているはずだ。自分たちの周囲を守ることで精一杯。違うか?〉
あやめ〈違わないね〉
夢見 〈ただし逆は、おそらく順当なものになるだろうが……持ちつ持たれつならともかくも、頼ることは避けろ。命を短くすることになる。だが、そうだな、他に心当たりとなると田宮だったか?〉
鬼灯 〈……駄目だ、繋がらない。受け取りを拒絶しているような状況だ〉
あやめ〈生きてはいるの?〉
鬼灯 〈ああ、生きてはいるようだが……俺もあまり長距離テレパスは得意ではない。あやめはどうだ?〉
あやめ〈田宮とは繋がりが薄いから、難しいと思う〉
旗姫 〈どなた様も、同じような状況なのですね。何か指針のようなものがあれば、目的も定まるかと思うのですが……〉
鬼灯 〈やはり足がついていないようで不安か?〉
旗姫 〈はい。目の前の敵を排除するだけでは、進展は致しません。夢見様のお言葉ではないのですが、情報が足りないのが現状です。何か情報を得るための何かがあれば良いのですが〉
鬼灯 〈目先の問題を無視できない状況だが……ん、夢見さん? どうした?〉
夢見 〈……今、お前たちの繋がりに乗って田宮の視覚を一時的に捉えた。どうやら俺の予想も当たっていたらしい〉
旗姫 〈そんなことが可能なのですね〉
あやめ〈私たちの兄弟子ですから〉
鬼灯 〈それは後回しだ。どうなっている〉
夢見 〈田宮はVV-iP学園だ。そして妖魔は今、学園に集まりつつある。幾人かが防戦を展開しているようだが、――死地だ。だからこそ、学園は逃げ場になりうる〉
鬼灯 〈……避難場所にしては厄介だが、つまりそこに何かきっかけがあれば安全地帯になると? 結界のような……そう、鍵があれば〉
夢見 〈加勢はするな。まだ早い。だが……そうだ。鍵だ。心当たりはあるか?〉
鬼灯 〈あやめ、VV-iP学園の情報を〉
あやめ〈創立は二○一二年、創立者は五木
鬼灯 〈二○一二年の何月だ?〉
あやめ〈一月……の、十八日だけど。それが?〉
鬼灯 〈夢見さん、もしかしてこの状況は東京事変のソレと酷似していないか?〉
夢見 〈鋭いな、その通りだ。ちなみに日本中じゃねえ、世界中で似たような状況に陥ってる。地震は大規模な地殻変動の予兆だと聞いた〉
鬼灯 〈東京事変は二○一一年の十一月だ。あの大規模な学園を建造するのに一年とかからなかった――俺はかつてそう聴いた覚えがある。それに野雨市にとってあの場所は象徴だ。そうなってしまった、あるいはそうなるべく創られたと考えるのは早計かもしれないが、何か俺の知らない事情があるとは以前から思っていた〉
夢見 〈現実として誰かがあの場所を守っている。人がいなければ妖魔が埋め尽くしていただろうし、俺が視た光景はノイズ交じりだったが、建物は無事だ。見事なまでにな。何かしらの作用があるからだ、と思う。建物の内部にも妖魔はいたはずなのにだ〉
鬼灯 〈だからこその安全地帯――ただし現状ではなく、鍵が合ってからか。となれば……時間や時期というのは考えにくい。そもそも安定しないものだろうからな。認証システムと鍵は同一のものだ。何に対してかはともかく、何が行うのかと考えるのならば、人だ。前者は身分証明であり、後者は何かを開けるために行う〉
あやめ〈――だったら、理事長だと思う〉
鬼灯 〈同感だ。五木忍理事長だろうな。二○三九年まで、創立者が亡くなってからもずっと理事長席は空白のまま、校長が主導権を握っていた時期があっただろう?〉
あやめ〈うん、そうだよ。十五年くらいだったはずだけど〉
鬼灯 〈五木以外は理事長になれない――それが古臭い風習などではなく、何かしらの理由があったのならば、今回の件で合致するはずだ。夢見さんの見解では、学園に近づけば近づくほどに妖魔の数が増えているんだな?〉
夢見 〈あるいは中心点と呼んでもいい〉
鬼灯 〈わかった。旗姫、あやめ。状況を打開するために動くぞ〉
旗姫 〈はい。わたくしが妖魔をひきつけることも視野に入れて下さいませ〉
あやめ〈五木家の場所は記憶にある。近くになら瞬間移動で行けるから〉
鬼灯 〈長期戦を視野に入れよう。戦場では、周囲が見えなくなった者から死んでいく。理事長がまだ五木ならば、それだけで戦力にはなるだろうが、俺たちのフォローが道を作れるならそれでいい〉
夢見 〈ならそっちは任せる。緊急時以外、俺にテレパスは送るなよ。現状は俺がそっちに繋げてるから問題ないが、長距離テレパスは疲労するからな〉
鬼灯 〈情報提供、感謝する〉
夢見 〈それは俺の台詞だ。――少し休んだら俺が学園に行く。妖魔の桁が違うから意識しておけよ〉
あやめ〈それは百単位ってこと?〉
夢見 〈百も十回も重なれば千にもなるってことだ。こっちは気にするな、理事長の案内は頼んだぜ。まだ家で呆けてる状況じゃねえことを祈る〉
旗姫 〈ご武運を〉
あやめ〈夢見さんも無理しないで〉
鬼灯 〈生き残った後で逢おう〉
夢見 〈ああ――できることを、やるぞ〉
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