10/18/23:00――小波翔花・翔ぶ花

 陽が沈み、陽光が完全に消えて訪れる夜の闇は順次消されていく街頭の数が少なくなると共に濃くなり、やがて本当の意味での暗闇が発生する。

 けれどそれも束の間、半月とはいえ月光の明りが夜を照らす。薄く、遠い月光であっても光がそこにあるのならば、見ることで視界は開けた。

 明るかった光景を想像するのではなく、夜の景色が見える。ただし日中とは違い見なければ見えない――ただ目に飛び込んでくる光景を受け止めるのとは違う。

 そこまでは昨日と同じ。

 今日は。

 月よりも遠くの位置に見える、かすかに黄色と混じった紅色の明りがそこに在った。

 空に。

 小さくだが確実に、もう一つ紅色の月があった。

 紅月、そして。

「真月」

 少女は一人、決して届くはずがない右手を紅月へと伸ばす。

 ――責任は誰にある?

 ――押し付ける責任は生者にしか向けられない。

 ――本当の責任は死者にも背負わせることができる。

 ――実行したのは誰だ?

 ――結果を見ることのできなかった死者はそもそも撃鉄を落とせない。

 ――結果を想定できたのならば死者が実行犯でも構わない。

 ――死人に口はない。

 ――他者は察することができても事実を知ることはない。

 ――死者は背負えない。

 ――背負うのは生者が勝手にすることだ。

 ――死者は望まない。

 ――そこにもう居ないのだから。

「それでも」

 生き残った、生き残された少女はそれを苦にすることはなくとも、責任を感じた。

 ない、などとは断じて口にしない。

 それが大局的に見て被害者であっても、だ。

「――始まったのなら、一歩を踏み出して終わりを見届けないと」

 昨日とは違う今日が発生したのならば、今日は始まりの日だ。始まりがあるのならば、いつか終わりが訪れる。

「さようなら」

 ――もう居ない人間には届かない。

 ――だから後は忘れるだけでいい。

「私は覚えたまま、前に行く。そう言って往く人を知ってるから」

 だから物語の幕をここで落とそう。

 ここまでと、ここからは、まったく別の物語だ。

 けれど世界が同じである以上、何かしらの繋がりはあって。

「ありがとう」

 終幕が訪れる。

 たった一人の少女を生かすための事件が、終わりを告げた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る