10/18/06:40――梅沢和幸・なんだろう、この日常
目覚まし代わりのアラームが鳴る直前で目覚めた梅沢和幸はゆっくりと躰を起こし、携帯端末をテーブルから拾ってアラームを消した。
「……」
ソファで寝転がっていたのに遅く気付き、音楽を聴きながらまた寝入ってしまったのかと視線を投げると、しかしステレオ機器には電源が入っていなかった。
おかしいなと思いソファから身を起こすと毛布が落ちるが、深く考えずにいつも通り朝の音楽を楽しもうと流れ作業で電源をいれ、ディスクをトレイに入れてから定位置に戻り、それから。
「……あ?」
朝の空腹を刺激する香りと、物音に気付いて背後にあるキッチンを振り返った。
「おー、おはようかずやん。台所使わせてもらってるべや。ちゃんと使ってあげんと機嫌も悪くなるさかい、自炊もした方がええがー」
「……ああ、久我山か。おはようさん」
ようやく、昨夜からの流れを思い出した。
「寝れたか?」
「かずやんの匂いで興奮して寝つけへんかった」
興奮するな。
「もうちょい待っとってや。朝食、上がるきに。したっけ起きるの早いんなあ」
「いつもこんなもんだ。つーかお前、家事好きなのか?」
「嫌いやないんよ、こっちもいつもじゃきに。けどかずやんは大好きよ?」
「あーはいはい」
「ほんまなんに……」
――べつに、疑ってるわけじゃねぇけどな。
それが冗談ではなく本心であることくらい、和幸にもわかっている。ただ、素直に受け取れるほどに付き合いが長くないだけだ。
他人からの行為は嬉しいと素直に思う。それが紫月のような、口調はともかくも可愛い女の子ならなお更だ。
「お前さあ」
ボリュームを絞って音楽を流しながら、口を開く。
「帰る場所があるかどうかも聞いてねぇけど、帰るつもりはねぇだろ」
「んー、うちの事情とか気になるん?」
「それなりにな。――ただ、事情はどうあれ、いいぞ」
「……へ?」
「この先どうなるかは知らんが、しばらくはここに帰ってきていいって話だ」
「え、ええのん?」
「――昨夜、遅くまで話をしてただろ」
「うん」
「親元を離れて久しいってのもあるが――他愛ない話でも、できて嬉しかったぞ。普段から寂しいと思ってたわけじゃねぇけどな、まあ、ほっとした。だからあまり気を遣うなよ久我山」
「紫月でええがー」
「それはまた今度な。お互いに生活は違うだろうが、嫌になるまでは付き合うぞ」
「好きやって言うとるじゃん」
「そういやそうだったか……」
けれど、和幸はどうなのだろうか。
少なくとも、好きだと言えるほどの付き合いはない。
それはこれから考えていこう。
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